なんか読みづらい部分とか、地の文削ったほうが良さげな部分もありますが、終わらないので投稿します。
PC画面に映るカウントダウン。
そこに添えられた『XX月YY日ガイアレーシング定例配信』の文字。
所謂インターネットを通した配信、その待機画面である。
ガイア連合
だがこの世界、この時代においてはテレビを通さない映像配信スタイルはまだまだ目新しい物である。
画面端に写る待機人数は4桁まではいかない3桁であるが、競馬の1クラブの配信としては多い方である。
カウントダウン終了後、数秒後画面が切り替わる。
画面に映る白い壁と事務机、奥側に座っている阿里川とその手前に置かれたノートPC。
多分どこかのオフィスに居るのか無味乾燥で殺風景な部屋である。
画面に映る阿里川が言葉を発する。
「お、始まったかな?どうも初めましての方は初めまして、ガイアレーシング契約騎手にして、美浦トレセン所属フリー、阿里川勇樹です。今回はガイアレーシングさんからのお話で、このような配信をすることになりました」
うお、本物だー
ここに書きこめばいいのか?
マジで阿里川騎手でるのかよ
はじめまして~
ARGWァァ、有馬スっちまったぞ、ARGWァァ
なんで牝馬強いんだよARGWァァ
ユーザー側から見る画面は、まず画面上部に配信タイトル。画面左側に配信画面で右側にチャット欄、下部には配信側からの通知欄がある。
「そうそう、そのチャット欄に書いていただければこっちでも見れますよ。
あと馬券は自己責任ですのでよろしくお願いいたしますね。でも皆さんのスったお金が、回りまわって我々騎手へのお賃金とか、うちの実家を含む恵まれない生産牧場への補助金になるんで、あざーっす!」
阿里川はカメラ目線と手元にあるノートPCを行ったり来たりしながら答える。
それはチャット欄に反応することでこれがテレビと異なり、双方向の通信であることを強調するものだ。
草
言う事が騎手じゃねえぞw
了解です('◇')ゞ
これは何をするんですか?
テレビには出ないですかー阿里川さーん
先輩はテレビにでたり雑誌にでるんだから阿里川さんもでてくれよ~
時代背景的にはまだまだテレビが強い時代。それにもかかわらず配信を行うのは偏にガイア連合の人間が(時代的に)未来の人間だからである。
2020年代ともなればありとあらゆる業種で配信が一般化し、さらには顔を出さないVチューバーまで出現している。
それを踏まえれば、この時代では大分先進的な配信という行為も阿里川にとって忌避するものでは無かった。彼にとっての問題はこれが丸投げだったということだ。
「ちょっとあれですね、やっぱこのノートPCじゃなくてカメラの横にディスプレイを置くか、プロジェクターで画面出してもらわないと皆さんの方を向けなくて良くないですね……まあ、今日はいいか。
で、今日はこの配信で、適当に一問一答でもしようかと思ってます。
いや酷いんですよ。ガイアレーシングさんから配信するよって言われてきてみたら、後はお願いしますって丸投げなんですよ。普通台本とか、それがなくても流れとか説明あると思うじゃないですか。
こんなことが、こんなことが許されていいのか!、って顔になりましたね」
ひでえwww
ガイアレーシング、そういうとこだぞ
どんな顔だよwww
質問はここでしてええんか?、ええんすか??
ハイハイ、質問したいでーす
配信みたいな事、どこもやってないからしゃーなし
「あーちょいとまってくださいね。えーと、お題箱システム……画面下部分にURLだしたので、そこからこのパスワードで入ってもらうと、この配信用になりますのでそこから質問なげてくださいね」
阿里川が手書きのパスワードを画面に映す。アナログにすることによってBOT対策としているが、考え過ぎである。まだまだAIなどのプログラムが発展途上な現在、そこまで考える必要は無かった。
「あーそうそう、NGな事は結構あるから今から説明しますね……」
阿里川が上げたNGは下記のような形だ。
①個人情報の強要
②予想行為の強要
③配信への問題行動
言わなくても分かる…と思うのはまともな人間か、未来の人間である。このような
「回答出来ない事はスルーしますのでご理解お願いしますね」
はーい
言い方が硬いwww
結構多いな注意事項
騎手は予想行為しちゃうとペナルティ貰うしね、NGは当然
過去話はいいんかな?
(馬の)個人情報ほしいでーす
騎乗の時の話とか投げるかね
馬の話も現役馬はまずいんじゃね?
聞いてみて話してくれればいいからやってみれば?
「馬の個人情報ってなんですかね……グガランナの今とか?」
めっちゃ知りたい>グガランナ
阿里川騎手のお手馬のその後とか知りたいっすよ
雑誌なんかでも情報不確かなんですから、そりゃもちろん知りたいっすよ
ガイアレーシングの馬の出せる情報ならなんでも~
「あいつやっぱ人気ですね」
1990年代最強として名高いグガランナ号の情報を求める声は大きかった。ちらりと見ればお題箱のほうにも似た様な質問が並んでいた。
あんだけ爪痕を残した馬、忘れられないわ
凱旋門賞勝った馬なんて、忘れることなんできませんぜ
レース後楽しかったですよ
今年付けたのが来年生まれるんですから、状況知りたいっす
種牡馬になったせいで情報全然ないんですけどー
「遠くから見てるだけならいいんですけどね……」
思わず遠くを見る目になる阿里川。彼にとってグガランナという馬は、クッソ手がかかる暴れん坊であった。
確かに強かった。だがそれ以上に手がかかる馬でもあった。
本人の意見としては、俺は厩務員じゃねーんだぞ、と言った物であった。
過去に阿里川は言った、まるでダイヤモンドジュビリーだと。あの馬も厩務員を騎手として英国三冠を取った。まさに言霊効果とでもいったものである。
「まずそうですね……春先の種付けシーズンに呼ばれましてね、『何かあったときに止められるのは君だけだからちょっと来てくれ』って言われて北海道行ったんですよ」
雑誌での話まじだったんかよwww
本当に行ってたんですね
乗った馬の種付け見るのどんな気分なんすか
騎手に要求する事ではないんじゃないか
お、実家を継ぐのかな?
「種付け自体……特に最初は
実際種牡馬の種付けの事始めは、能力の確認も含めて、大人しく産駒が居る
「ただ次に会った時……私が夏競馬を北海道でやってる時期でしたが、隙間時間でまた会いに行ったんですよ。その時には種付けにウンザリしてました。数が増えると流石に疲れるんでしょうね」
実際阿里川が付いていないという事は彼の回復能力の恩恵にあずかれないという事。
種付けは回数が増えれば増えるほどその馬の負担となる。特殊な
数百回種付けするような大種牡馬は寿命すら削り、種付けのせいで早死にする馬もいる。
まじかよwww
あんなやつでも種付け辛いんだね
150程度でもだめか
他の大種牡馬は200超えてるんだからがんばれ♡がんばれ♡
未来のG1馬出すまで頑張るんだよ
「もう種付けとかいいだろ?競争に復帰しようぜって背中に乗せてくれる素振りでしたが、お前はもう復帰できないんだ、あきらめろって言ったらふて寝しましたね」
正確には、
【悲報】グガランナ種付け疲れ【おまえもか】
【朗報?】グガランナ号復帰に前向きな気持ち【悲報?】
糞スレ立てんなwww
引退一年ならまだ走れるはず、走ってないレース出れる出れる
種付け嫌がる子もいるからね、種付けおじさんは大変だ
「種付け数に関しては私の管轄外ですので何とも言えませんが、結果が出なければ自然と減ってくんじゃないですかね」
初年度産駒すら生まれていないのに、結果が出るも出ないも無いが、過去の事例を鑑みれば結果が出なければ種付けの要求数は減る。とは言え最初の産駒が走る数年後までは期待値はそのままであろう。
「それよりグガランナの産駒が親と同じような気性なら、生産牧場の人大変だろうなぁって気持ちの方が強いですね」
まるで結果がでないほうが良いみたいに言いますね
ほんそれ
さすが牧場出身者、目の付け所が違う
気性難でも強ければセーフだから!
母親の気性の方が影響強いんじゃないですかね
気性難でも乗れる人いるからセーフ
誰やろなぁ>気性難ジョッキー
「まあ、あいつの事はそんな感じで。時間も経ってお題も集まって来てますので、そっちやりますね」
グガランナの事だけで配信時間を使い切るくらいにはネタがあるが、流石にそれだけで終わらせるには勿体ない。これはガイアレーシングの宣伝枠なのだし、お題を募集した手前それをせずに終わらせられなかった。
はーい
俺のお題、目に止まってくれーー
何がくるんだろね
「最初はランダム気味に選んで……っと」
グガランナとイチヒメザクラはどっちが強いですか
質問者:地裂空裂 |
最初から質問がトップスピードだぜwww
一回も戦わなかった両者、鞍上から見るとどうなんすか
まずは鞍上を分裂させるところから?
知りたいけど初手に来る質問じゃないぞw
有馬で対戦してほしかった、今でもそう思ってます!!!
競馬ファン、いや人間と言う生物は複数の個体のどっちが強いかで延々と語れる生き物である。
競馬でも、時代が異なり直接対決が不可能な競走馬達のどっちが強いかで、延々と不毛な言い争いをしている人達いる。
そういう意味では同じ時代の直接対決が可能であったのにも関わらず、鞍上阿里川固定のせいで戦えなかった2頭である。ネットの片隅では日々、燃え尽きぬ灰のような議論が続いていた。
両者に跨った騎手が誤魔化さずに答えるなら、終わる事のない業火の一旦の鎮静化は可能だろう。
視聴者は期待した。いったいどのような答えがでるのだと。
阿里川はなんてことないように語りだす。
「強いというワードが生物的な話で無く、レースでどちらが早いかだと思うので、その線で話しますね。
まず国内の競馬場であれば、1600以下ならイチヒメザクラ、2400以上ならグガランナだと思います。
間の1800から2200あたりは枠番や他馬次第だと思いますよ」
うおおおお府中2000で勝負や!!!
天皇賞秋って言えよwww
中山2000でいいぞ
京都2000で!レコードだしたイチヒメザクラならいける!
国内って事は海外だと別ってことです?
ここはグランプリの宝塚だろ、常識的に考えて
ソンデカルメも入れて府中1800で勝負しよーぜ!
一定の結論と新たな火種が生まれた瞬間である。
阿里川は誤魔化さず素直に答えていた。本人的には2000前後なら分からんなと思い素直に答えていたが、鞍上ですら分からないということは一生答えの出ない話と言う事である。
SNSや掲示板で行われていた終わらぬ論争に、追加の燃料が注がれた瞬間である。
「一応騎手によっても状況は変わると言い添えますが、私の想定では私若しくは私と同程度の騎手が乗る前提ですからね。じゃ、答えたところで次行きますね」
チャット欄が何処でレースするのが適切かという、これもまた結論が出ない話で無駄に盛り上がっていたが、阿里川はそれをスルーし続ける。
来年の抱負などはありますか?
質問者:万馬券あてたい |
「抱負ですか……騎手ですので全部勝つ!勝率上げる!っていうのは前提なんですが……。あっそうですね、障害競走始めますので、良ければ見てくださいね」
普通なら新聞雑誌などで大き目の記事になりそうな話をサラッと告げる。
阿里川は障害競走の練習を開始していた。これはガイアレーシングの馬で障害競走への適正(当然他の適正もあったりする)がある馬がおり、戦績が良くなかった場合、障害行きも視野に入ってきたためである。
えっ、障害???
なんで平地で勝ってるのに障害やるんです?
体重管理きついんです?
まじかー
障害騎手に任せればいいのでは?
もしかして全ラウンド騎乗でも目指してます?
割と否定的なコメント飛ぶ。
障害競技に関する一般競馬ファンの見方が分かる。
「いやいや皆さん、障害は平地で結果が出なかった騎手が行くとか悪口がありますが、そんなことはありませんよ。障害は障害で各種技術が必要ですから、楽勝だろ?って軽く考えると勝てませんよ。特に障害は飛ぶ関係で落馬での重傷率が高いですからね、技術習得を疎かにはできません。でも、やってみると楽しいですよ障害競走。
……とは言え、技術があっても体重管理がきつくて障害専門な方がいるのは否定できませんが」
阿里川が持っているスキル【騎乗】は騎乗時戦闘にも効果を発揮するようで、障害の飛越にも効いている。
機会が無いが騎射三物(笠懸、流鏑馬、犬追物)をやらせれば忽ち達人級の腕前を披露するであろう。
逆に馬を操るのは上手くとも近接戦闘に適性が無い為、馬上戦闘で近接戦をした場合は目を覆わんばかりの結果になってしまう。
阿里川が騎乗戦闘するなら弓か銃を持つしかない。
障害は平地より数キロ斤量乗せられるからね、そりゃね
障害で負傷してほしくないですけど、マジでやるんですか、やめましょーよ
せっかくだから目指せ全ラウンド騎乗!
ARGW鉄人だから大丈夫だろ>負傷
クマ先輩みたいに平地障害二刀流
目指せJG1!
「先輩の障害騎手の方々も注目度上がってほしいって言ってましたからね。さて次ですが……」
グガランナの全妹には騎乗するのですか
質問者:最強は俺だ |
「今の所お話はないですね。ですがデビューは来年ですし*1、お話があれば騎乗することはあると思います。私はグガランナの輸送で関わりあったので、母子共に知っておりますけれども、あの子かわいらしいですよね。兄とは言え見知らぬ馬にも果敢に頭突きしに行ってて、微笑ましかったですよ」
阿里川は騎手であるのにも関わらず、グガランナの面倒を見て且つ輸送の協力までしていた。その為生産牧場に居る母馬やその産駒も知っていた。
人には厳しいが、馬、それも家族には優しいグガランナも一緒に走ったり、グルーミングをしていた。
え……まじっすか
か、かわいい…のか?
(見た目は)可愛い
(雑誌の特集を思い出し)嘘でしょ
阿里川騎手にとってはあの程度普通って事でしょう…まじかよ
「そんなに気性難でしたっけ?元気な牝馬っていうイメージでしたけど」
阿里川の記憶の中の全妹は普通な競走馬であった。
ただ……気性難と付き合い過ぎて少々基準がおかしくなっているきらいはある。
雑誌の特集見てくださいよ
※※※※の10月号にありましたけど、育成牧場でなかなか元気(隠語)みたいですよ
兄と負けず劣らずってニュースみましたー
プライド高いっぽいっすよ
「牝馬でプライド高いくらいそう珍しくないですよ。とは言え視聴者の皆さまは、生産や育成牧場の現場を知らないでしょうから、しょうがない部分だと思いますね。そういう馬でも人を乗せられるようにするのが馴致なので、デビューできれば大丈夫だったということになりますし……。どうしようもならなかったらまた私に話がくるんじゃないですかね、ははは」
阿里川は軽く言うが、実際に妹馬は極めてプライドが高い馬に成っていた。兄妹共に頭が良いのが悪かった。自分が強く、レースで活躍したことを理解している
そこから 強い=活躍する=我儘OK という意識に成ってしまい、人間が手を焼いている状況だ。
競り落としたのはガイアレーシングでは無い為、阿里川にヘルプも頼みづらい状態で打つ手がない状態だった。
「来年ガイアレーシングに入る馬が7、8頭みたいなので、主戦をお願いされても乗れるか分からないところがありますけどね」
でも結局阿里川さんに話あるんじゃないかな
情報無いから知らないだけなのかなぁ
そんなに入るんだ
牝馬だし牝限レースならいけますよ!
そこから未来のG1馬でるといいですね!
どうにもならなくなったらガイアさんが買えばええんや
↑それだ!
「売ってくれずに繁殖行きのような気がしますけどね。さてお次は……」
戦績を残した競走馬の兄弟、仮に結果を残していなくとも繁殖に行ける確率は高い。
牝馬であれば強い産駒を残す可能性があるし、牡馬であれば強い兄弟の血を安く買える可能性がでてくる。
トリプルジェットのローテ、どうして菊花→マイルCS→有馬記念だったのですか? エリザベス女王杯やスプリンターズSは検討されなかったのですか
質問者:牝馬は牡馬に負けねえ |
「これはですねぇ……、まずは桜花賞、オークスの大敗がありましたけど、原因が分からなかったんですよね。一部の方はご存じだと思いますが、追い切りなどの数値は悪くありませんでした。でもレースではだめ。精神的な問題かと思ったので夏の放牧後、せっかくだから王道から外れようと言う話になりましてね。
トリプルジェットの乗り口として長距離行けるのは分かっていたので、菊花賞目指してみようとガイアさんとの話でなりました。牝馬で3000は王道とは言えませんからね。前哨戦のセントライト記念が良い感じでしたので、いけそうだなと思いつつ菊花賞を迎え勝ちました」
実際には同期馬と相性が悪く足が止まってしまい大敗した、敗因をそう予想されたためだった。
G2以下を走るという選択肢もあったが、せっかくのクラシック期、クラシック競走は走っておきたい気持ちもあったし、エリザベス女王杯もジャパンカップも同期が出走の可能性があった為回避した。
結果として三連勝した為それが正解だったのだろうが、それを表ざたには出来ない。まだトリプルジェットには現役期間が残っている。
勝ちましたじゃないですよ、何偉業をさらっと流すんですか
数十年ぶりの牝馬菊花賞馬は確かに王道では無い……王道とは?
牝馬クラシック三冠が桜花賞・オークス・菊花賞だから逆に王道なのでは
いけそうでクラシック勝つこの騎手はいったい
牝馬で天皇賞春勝つこの騎手を基準にしてはいけない(戒め
「結果として菊花賞、マイルCS、有馬記念勝てたので切り替えて良かったとは思ってます。海外がこんな調子なので国内で頑張らないとですしね。さてお次は……」
調教師になる事は検討されていないのですか
質問者:馬券は単勝! |
「割と関係各所から言われるんですが……まあ今の所無いですね。というか私はまだ23歳ですよ。普通40前くらいから考える事だと思うんですけど。
さて、皆さま調教師をどのような職業と捉えていますか?馬に乗って調教したり、調教プランを考えたりする事だと思っていませんか?
もちろんそれも含まれますが、業務に占める割合はそこまで大きくはありません」
阿里川は騎手としてレースの腕前だけでなく、調教騎乗も評価されている人間だ。
馬と会話可能であるだけで有利なのに、さらには魂の存在力(≒Lv)も高い為、その迫力で従わせることもできるし、さらにLvから来る腕力を活かしたコントロールもできる。
調教も各行為の意味を教えながら練習させたほうが効果が高いものだ。
馬だって意味が分からず走るより、行為の意味が分かるほうがまだ耐えらえる。
耐えられれば、強くなれる。耐えきれずに気性が終わってしまうよりずっと良い。それに走れなくなった馬の行先はあまり良い物とは言えない。
阿里川は調教師の業務内容話を続ける。
「調教師のお仕事は、調教助手や厩務員の方々を雇用し配置、オーナーの方々に営業を行い馬を預けていただく。預けていただいた馬を見て調教計画を立て調教し、問題があれば改善する。言ってしまえば零細企業の経営なんですね」
割と身も蓋もない言い方をする阿里川である。
世の零細企業では社長が現場に出てくることもあるが、現場にだけいる社長はそれはそれで問題である。同じように調教師自ら調教を付ける事はままあるが、調教現場にだけ居られてもそれはそれで問題なのである。
「それに調教師の先生達は営業の一環で、馬が欲しい未来のオーナー様と一緒に生産牧場に行って馬を見て意見したり、セリに参加して助言するなんて事もしてます」
馬を買いたい側は金があっても目利きのプロで無く、調教師側も自厩舎に預託されると思えば知恵を出す。
Win=Winの関係がそこに有った。
「そんなわけで調教師の先生方はトレセンに居なくても忙しいですよ。馬関係じゃなくても会食なんかもありますし、付き合いのある調教師の先生同士だと勝ち馬が出たら贈り物だしたり、礼状の送り合いとか……後は各種書類作成かな、お上に出す書類だからちゃんとしないとですし、まあ色々面倒ですよ。
そういう表にでない仕事を私はできそうにないですし、そもそもコネが弱い私では厩舎開業しても誰も預けてくれませんよ」
なるほどねー
なんか実感こもってますね
厩舎所属で雑務やってたんじゃないすかね
普通に営業活動もするんだなぁ
ワイ技術職、会食とか無理
営業職でもやりたくねーよw
さらに会計とかあるとするとほんとにミニ企業ですね
でもガイアから馬委託されればいいんじゃないっすか
「まあ、調教師ってのは調教と調教師コメント欄だけじゃないですよって事で次いきます」
今年一番印象に残ったレースはどれですか?
質問者:西日本在住 |
「そーですねぇ、個人的には札幌日刊スポーツ杯ですかね」
えっ
マイルCSとかじゃないの?
えっ???
あの有馬より印象に残ってる…だと!?
無敵のマイラー倒したアレより……ほんとぉ?
札幌日刊スポーツ杯は普通に勝ちましたよね?なんか印象そんな無いんですけど
名古屋優駿でオーナーらしき人とハイタッチしてたからそっちかと
勝った馬がサキガケだからかぁ
視聴者の予想外のレース名が上りチャット欄がざわつく。
重賞を複数勝つような騎手でもあるのにも関わらず、オープン競争を上げたのだから。
これがG1どころか重賞すら勝てず、いつか勝ちたいと思っているような騎手の口からなら皆も、そういうもんだよねと理解できた。
阿里川はその年重賞11勝、内G1級7勝という一線級騎手である。劇的な勝負でも無く、格が高い訳でもないオープンレースを上げた挙げた理由が分からなかった。
だが一部視聴者は気づいた。その馬の由来に。
「札幌日刊スポーツ杯はガイアレーシングのガイアノサキガケ号が勝利しました。この馬ってうちの実家馬なんですよね」
そう阿里川実家生産馬が勝利したレースであった。
「札幌競馬場って事で父も見に来ていましてね、スーツ似合わねえなぁと思ったのを覚えてます。で、勝ったら勝ったで泣いてましたね。なんせうちから中央オープン馬なんて出た事ないらしいですから。メインは地方だし、昔走ったのも条件戦までだったらしいんですよね」
阿里川祖父の代で中央に行った馬は居たものの条件戦どまりだった。
地方競馬へ馬を供給するのが主になっていた生産牧場、そんな実家から中央オープン馬がでるなら泣くほどの事である。
地方重賞勝つ馬がたまーに出る程度、中央重賞など夢のまた夢な零細生産牧場、それが阿里川実家であった。
親孝行~
オープン馬程度で大げさだなぁ
奨励金も入るからマジで親孝行っすね
オープンいけるの何%だとおもってんねん、世代で3%くらいなんやぞ
年300~400頭くらいですしねオープン馬
「オープン馬が出て泣いたのには、現金な理由もありますよ。新馬未勝利戦で3着以上、1勝クラスから5着以上に生産者賞と言う形で生産牧場に賞金がでます。他にも繁殖牝馬所有者賞、つまり母馬を所有している人にも別の賞金がでるんです。
実家は両方該当しますので両方入って来たと思います。オープン競争ですので合わせて80万くらいですかね、この金額は安くは無いですよ」*2
他にも出走奨励金がオーナー側に出る。
故に条件戦あたりで2から5着をうろうろし、各種賞金だけ貰い条件を上げない方が幸せな事もある。下手に上にいけば箸にも棒にも掛からなくなり、何も得られないような馬もいる。
結構はいるんっすね
賞金からみるとしょっぱいけど、ボーナスとして入ってくるなら美味しいな
阿里川さんのご実家クラスなら大分でかいんじゃないっすかね
1レースでこれだから掲示板連打できるような馬なら大分うまいやろ
生産者にもお金配分するんすねJRAさん
親孝行できるならそりゃ印象に残る……残るのか
「大手さんから見ればはした金かもしれませんが、うちの実家には助かる金額ですね。じゃあ次は……」
阿里川はちらりと時計を見ればそこそこ時間が経っていた。
普段の配信であれば四木谷から設備紹介や方針、馬の状況などの話があったりもするが、今回は阿里川のみである。
今回の配信は丸投げだし雑談配信でいいかと思っていたこともあり、そこまで引っ張るつもりは無かった。
「そろそろ時間ですし最後の質問と一応のお知らせかな、それで終わりにします」
結構時間たってますね
お、俺の質問ががが
もっとやってもらってもいいんですよ
次いつやるんです?明日?
有馬終わった年末は忙しーだろうがよw
そういや初週の乗鞍ないんすね
ARGW割とお正月は休むぞ
「初週だけは各種あいさつなんかがあって休まさせてもらいます。実家に帰省して挨拶とか、ガイアファームに寄ったりとか、ガイアグループさん関係とか諸々ですね」
阿里川はフリーになってからは、年始、つまり初週は休むようにしている。
実家に帰省するのもそうだが、山梨に行ってショタおじと山梨所在の技術班員等への挨拶を行う為だ。
ガイア連合所属であるが、あまり組織への貢献を行えていないと思っている阿里川からすれば、正月くらい挨拶をしないとな、という心持である。
それにそういう時間を作って異界に潜らなければレベルの維持すら難しくなる。彼からすればガイアレーシングと契約したのだから、騎乗依頼が減るのではないかと思っていた。
だが、騎乗依頼システムのお陰か、はたまたガイアから早めに見通しが提示されるせいか、隙間に騎乗依頼が舞い込み、減るどころか増えてしまった。
「さて、最後は……っと」
※※※※※誌で彼女が居るとか真偽不明な話が有りますが、彼女さんとかいらっしゃるんですか
質問者:ふわふわ |
「あー、なんか気にする人多いですよね。騎手なんて芸能人じゃないんだから結婚有無とかどうでもよい事じゃないですかね」
普通の騎手であれば気にされないだろう。だがトップ騎手達は、その人となりを知りたいと言う需要が湧く。ほとんどの人間が家庭の中で育つ。対象の家庭環境というものは、自分と言う物差しから推し量れる分かりやすい話題である。
阿里川は覚醒者としてその得た力とサボる事をよしとしない性格が、騎手と言う職業に役立ち活躍してしまった。
活躍した人間のゴシップは求められるという現実が阿里川を襲っていた。
西のレジェンドも結婚式がおっかけられたんです、あきらめろん
最近は騎手もクリーンさが求められますからね、相手、気になるじゃん
相手が美人だったら羨ましいじゃん?
ゴシップなさすぎなんですよー
もっと表にでてくれればね
「まあ、彼女は居ないんで『コンコン』」
回答に被さるように響くノック音。
「どうぞ……申し訳ない、ちょっと仕事が来たみたいです」
阿里川が左を向き立ち上がる。
ガチャリと扉が開く音が聞こえ、画面端から一人の女性が現れる。
視聴者たちは画面越しに息をのむ。皆の画面に写っているのは、高くもない解像度ごしにすら分かるほどの美女であった。
光り輝く金髪とちらりと映る碧眼。下半身はタイトパンツに包まれ、長い脚と大きい臀部を強調されており、また上半身はハイネックのセーターの上にジャケットを羽織っていた。
長い金髪は後ろ側の高い位置でリボンで結われている。子供っぽく見えそうな大きなリボンも不思議と似合っていた。
阿里川の所まで来たその女性は持っていたクリップボードを差し出す。
「わがき……ん゛んっ、ゆーきさん、チェックとサインをお願いします」
「ああ、いつもありがとう。みなさんちょっとまってくださいね」
そう言って阿里川はクリップボードを受け取り、椅子に座わりなおし挟まれていた書類のチェックを始めた。
ペン先で項目をチェックする男と静かに待つ女。
それに引き換え高速で流れていくチャット欄があった。
ほんとうに存在したのか
まじで美人すぎなんだけどなにこれなにこれ
わがき?
うっそだろおいwww
雑誌の捏造じゃなかったのかよ!!!
髪の毛綺麗……
書類チェックもいいけどどういうことなのか説明してくれー
女は机の上に置かれたPCを興味深そうに見る。
「えーと、その、ゆーきさん、これは何かやっておられるのですか?」
「ん、ああ、配信って言う……なんて説明がいいのかな?、この場面をインターネット越しの皆んなに見てもらう事かな。
今回は俺が色々話ししてたんだ」
「へー、そうなのですね」
そう言って女はPCに向かって手を降る。
そっちじゃなーい
かわいいwww
人形みたいなきれいさ、もしかしてCG?
ザ外人みたいな顔から繰り出される日本語
奥様聞きました?俺ですってよ
こんなにぬるぬる動くCGとかさすがガイアっすね
Made by ガイアアニメーション
さすがに存在しなかったらこえーよ
日本語うまいっすね、どこ住み?
性欲だすんじゃねーよw
阿里川は書類をチェックし終わり、クリップボードを女に返しながら苦笑する。
「皆んなが見ているのはあっちのカメラだよ、はい終わったよ」
PCでは無く、その向こう側にあるカメラを指差す。
受け取った女はすこし恥ずかしがりながら受け取る。
「あら、お恥ずかしいところをお見せしました。こほん、書類もいただきましたのでこれにて失礼いたします。皆様夫のことよろしくお願いいたしますね」
女はカメラに向かい、見事な一礼を行い部屋を出ていく。
残されたのはあーあという顔をした阿里川とさらに加速したチャット欄であった。
えっ今夫って言った???
結婚してたの???
ちょっとまっていきなりだから心の整理が
いきなり振られたんだけど???
その前段階だろ
嘘だろ……
えっあんな美人とけ、結婚???
どういうことなのか説明してくれー
「えーと話を戻しますけど、彼女はいませんよ。妻がいるだけで」
嘘は言っていない。彼女の先になった人が居るだけである。
さらに言えば口外出来ない事だ。妻を名乗る女性は人間では無いことを。
嘘じゃないけどそういう事かよおお
彼女は居ない(妻はいる)
ちくしょーーー
活躍騎手には美人の奥さん居てもおかしくないけどいきなりかよ!
西のレジェンドにも美人の奥さんいるしな
てっきりどっかの調教師の関係者とかかと
そもそも何処で知り合ったんですか???
凱旋門賞とりにいったあたりで知り合ったの?
チャット欄は加速する。なんだかんだ皆下世話な話も好きなのだろう。
阿里川は逡巡し、口を開く。
「知り合ったのは、ガイアファームさん関係ですかね。ただこれ以上は個人情報なので言うことは出来ません。仮にマスコミさんにあれこれ聞かれてもこれ以上でてこないんで」
言外にこれ以上教える事はないと通達する。
そして更にちょっとした脅しもかける。
「なんか私の事を知りたいのかガイアファーム筑波さん周りをうろちょろしてですね、警察さんにもしもしされてる人もいるので皆様も気をつけてくださいね。馬を取り扱っている関係でここは関係者以外は基本入れませんからね」
ガイア連合が地元政財界を抑えつつ有る為、警察もその圧を受け見回りを強化していた。
結果、不法侵入などで逮捕されるマスコミ関係者がでている状態だ。
殆どは逮捕(執行猶予付きで出てくるが)された後ガイアファーム筑波周りから手を引いていた。
さらには一部の人間は行方不明となることを受け、アンタッチャブルだと認識されつつあった。
えーもっと詳しくしりたーい
相手の人何人なんです?まじの金髪でしたけど
フランス?それともイギリス?
ヨーロッパでもガチ金髪は少ないと思うんですけど羨ましいぞ!
次やるときは質問なげますからね!
ワンちゃん私もあるかと思ってたのにぃぃ
まあ雑誌の話の真偽がわかってすっきりはしました
ガチ恋勢とかいたのかよ(呆
妻を名乗る存在に圧倒されチャット欄は何者なのかを尋ねる質問ばかりでった。
阿里川はそれを無視し、最後のお知らせを述べ今回の配信を終わらせようとする。
「あっ最後なんですが、私の海外遠征の、特に凱旋門賞関係のトロフィーなんかの貸出依頼がJRAさんから来てます。どうも府中の博物館で展示したいらしいんですよね。なんかオーナーさんの方にも優勝レイの貸出依頼がきてるみたいです。いつ展示するかはわかりませんし、正式にはJRAさんから情報が出るとは思いますがよかったらみてくださいね」
最後に爆弾を投げるなって(震
え、あれリアルに見れるんです?
奥さんの名前教えてくれー
イチヒメの方のトロフィーはどうなんです?
凱旋門を模したあのクソデカトロフィーか
優勝レイみてええええ
はよJRAさん情報くれぇ
「では本日の配信を終了します。皆様お疲れ様でした~」
画面に映る『XX月YY日ガイアレーシング定例配信は終了しました』の文字。
有るものは掲示板にスレを建てようと動き始め。
また有るものはSNSに投稿を行う。
阿里川が妻帯者であった情報は本人の想像以上に拡散していった。
「で、良かったの?」
配信が終わり、静まり返った部屋で四木谷が阿里川に問いかける。
今回の配信でシキガミの事を妻として出したことだ。
「やりたくはなかったけど、出しとかないといろいろ面倒になりそうだったんでね」
少々うんざりしたような調子で答える。
「これで君のシキガミは、日本で一番知られたシキガミになるかもね」
「世の中がこんなにも下世話だとは思わなかったよ。あーあ、どっかの
「私もマスコミさんのトクダネに対する真っ黒な熱意を見くびっていたよ」
阿里川は天を仰ぎ、四木谷は肩を竦める。
昔であればあるほどトクダネを得るためなら法律違反上等の動きをするのがマスコミだった。
少しづつマシになってきた前世に影響され、駄目っぷりを少々忘れていたようだ。
「ま、人生覆水盆に帰らず、前世の大ピンチよりはマシかなって。デュラ、今回はよくやってくれたね、ありがとう」
阿里川は自らのシキガミ、デュランダルを褒めその頭を撫でる。
「ふふ、お任せください、私はあなたの剣であり盾ですから!私は何処まででもついていきます、それが火の中水の中!」
頭を撫でられながらドヤ顔を晒すシキガミ。
今回、乱入したのも、妻を名乗ったのも仕込みである。
これは阿里川にパートナーが居ることを周知させる為である。
「美浦で忙しくなりそうだね」
「今から気が重いよ、テキ達からも聞かれそうだしさ」
マスコミはガイアファーム筑波には来ない。だが美浦トレセンに来ない理由ではない。
調教前後に捕まればあれこれ聞かれるのは避けられないだろう。
「民間人ってことで直接取材はさせないし、自宅の取材も拒否、そこは臼位さんに話しておこうと思う」
「それがいいだろうね、こっちにも来るかもしれないから、君のシキガミはガイアファームに仕事しに来たとき知り合ったとでも言っておくよ」
「そこはおなしゃす」
そう言って阿里川は四木谷に頭を下げる。
阿里川の愚痴は止まらない。
「ほんと競馬村は怖いっすよ、うちの娘妹どう?みたいに圧かけてくるしたまらんぜ」
「取り込みたいんだろうねぇ」
「世界が平和なままならまだ考えなくもないけど、結局だめそうでしょ?へんに関係者身内に抱えられないよ」
「ショタおじも身内の範囲を広げるのはいい顔しないだろうね」
「でしょ」
よくある調教師や騎手関係者が自分の身内を紹介し、取り込もうとすることを避ける狙いもあった。
別に彼らに悪気が有るわけでは無い。騎手という職業上理解のある妻でなければ問題が起こりやすいからである。
その点騎手調教師の身内は仕事内容を理解している。
稼ぎが良い事、死につながりやすい職である騎手は、市井の一般人より婚期が早い。
まだ23歳の阿里川に相手を紹介しようとするのはそういった部分もあった。
だが彼にとって有難迷惑でもあった為、パートナーがいればそれ以上紹介しないだろうと今回の芝居を打った形だ。
「あーあ、どうしてこうなったのか」
勝ちすぎた君が悪いのだよ。そう四木谷は思った。
たぶん次はガイア側掲示板回