【カオ転三次】騎手やってるってよ   作:FakePusai

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大分時間かかったので途中ですが投稿となります

時系列的には巻き戻って99年初頭
有馬三連覇→配信→帰省(ここの話)の順番となります


活動報告で00世代馬のお名前募集をさせていただいております
活躍するかはダイス神次第ですが、それでも良いぜと名前を考えていただければ助かります


帰省するってよ

 ここは国道235号線。北海道の顎にあたる部分、その海沿いを先端付近まで走る道路である。

 苫小牧から西幌別までを繋がるこの道路を、新年の通行量の少ない道を排気量を感じるエンジン音を響かせながら走る一台のセダン。

 

 乗っているのは二人の男女。

 この二人お揃いの指輪を薬指に嵌めている事から夫婦と思われた。

 

 この二人の名前は阿里川勇樹と阿里川デュランダル。

 

 この聖剣の名を持つ妻とその夫は、騎手とその妻と言う関係だがそれは表向きの事。

 実態はガイア連合というオカルト秘密組織の構成員とそのシキガミという名の使い魔である。

 

 ガイア連合外のオカルト関係者がガイア連合のシキガミを見れば驚愕するであろう。まるで人間だ、と。

 

 一般的にシキガミと呼ばれる存在は、主の簡易的な命令を遂行する程度の事しか出来ない。

 よしんば、複雑な動きをするとしても、それはリンクするなどの手段で遠隔操作し、操り人形として操っているだけに過ぎない。

 

 だがガイア連合のシキガミ達はどうだ。意思を持ち、高度な自己判断を行う。

 

 阿里川の隣に座るシキガミは、ガイア連合にてシキガミが作られ始めてから時が経ち、より高度な技術が確立後に作られた存在だ。

 そして、阿里川もたっぷりと()()を支払った為、デュランダルと名付けられたこのシキガミは、最初から確立した意思とそれなりな判断能力を有していた。

 

 もちろん、作られた後のレベリングによってさらなる能力向上があったのは言うべくもない。

 

 その高度な判断が可能となったシキガミが今何をしているか。

 

 阿里川が運転する車の助手席に座り、前に突き出した手の平、その薬指にはまった指を見てニコニコ……いやニヤニヤに片足突っ込んだ笑顔をしていた。

 

 それを見た阿里川は不安から口を開く。

 

「なあデュラ、指輪が嬉しいのはわかるけど大丈夫だよね?」

 

 呼びかけられたデュランダルは自信満々に、自らの胸を叩きながら答える。

 

「ええ、おまかせください。我が君の妻としての役割、立派に果たして見せます!」

 

 そうだけど、そうじゃない。そう阿里川は心の中で突っ込んだ。

 

「いや、うん、デュラが俺の奥さんを上手くやってるのは分かっているよ。君がシキガミであることを考えればね、花丸二重丸を上げたいくらい」

 

 だけどさ、と続け。

 

「実家で『我が君』は止めてくれよ。うちの両親に変な風に勘違いされるからね」

 

「もちろんです!、ご安心ください我が君!」

 

 全然大丈夫じゃない、問題だ。そう阿里川は思った。

 運転手としてハンドルを握っていなければ頭を抱えていただろう。

 

 はぁと一息つき、なんとか実家に着くまでの数十分でなんとかしなければと気合を入れる。

 

「なあデュラ、『我が君』じゃなくて、『ゆーきさん』って言ってくれるかい?」

 

「えっ、その、ゆ、ゆーきさん?」

 

 言いよどむから50点、そう心の帳面を付けながら、それはそれとして阿里川は自分のシキガミを褒める。

 

「そう、それでいいんだ……頼むよデュラ、両親の前で我が君なんて言われたら、外国人……の見た目をした君を騙してると思われるからね」

 

「騙す……? 私は騙されておりません。むしろ望んで仕えておりますが」

 

 (あるじ)(しもべ)、確かに黒札とシキガミの関係はそういうものである。だが、黒札、それも対外的にそれなりな立場を持つ人間は面子がある。

 夫婦は社会的には同等な立場である(実態についてはいろいろあるが)。だが(あるじ)(しもべ)という言葉が飛び出てしまえばそこに退廃的な匂いが漂い始める。

 

 さらに悪い事に、マスコミに免疫に無い実家の人間は聞かれたことをペラペラしゃべるだろう。そこに記事にできそうな話がでてくればどうか、面白おかしく加工さればらまかれるだろう。

 

 最高の護身は危険に近寄らない事である。この場合、面白おかしく記事を作られる様な事をしない事であろう。

 シキガミたるデュランダルの態度と言葉遣いを、妻としておかしくないモノに直さなければ(外国人として割り引けるだろうが)、確実に後の爆弾となる。

 

 阿里川としてはなんとか実家に帰る、この残り1時間もない時間でなんとかしようと試みるほかなかった。

 

「まあ、うん、望んで仕えてもらっているのは光栄だね。でもね、こっちに来る前に言ったよね、ガイア連合外の人と合うときは君は()

 俺と君はガイアファームで出会い結婚した。これは覚えてるよね?」

 

「はい、わが『ゆーき』……、私はゆーきさんとガイアファームで知り合い、後に馬を操る能力を見込まれガイアレーシングに移籍、そこで調教のお手伝いをし、そこであ、愛を育み結婚に至ったと……そういう事になっています」

 

「そのとおり、そして君の両親はフランスに居て、今は連絡できないから結婚式はあげていない…と」

 

「はい、私の両親はフランス在住。聞かれればそう答えると」

 

 私に両親は居ないですがね、とそれに言い沿え、あえて言うならと。

 

「両親ならある意味神主様(ショタおじ)とゆーきさんですかね」

 

 黒札達用のシキガミは、黒札が持ち込んだあれこれを使ってショタおじが芯を作り、そこに開発班がガワを作るという工程を経て完成している。

 そういう意味ではシキガミ用のアイテムを用意する黒札、そしてそれを使用するショタおじが両親とも言えるかもしれない。

 

「確かにね……ショタおじは親といえば親か……」

 

 両親への言い訳にどこかで式を上げる時、ショタおじを招待しようか考え、さすがに忙しすぎて無理だろうとなと思う。

 俺みたいな一構成員にそこまでしてもらうのは悪いなと、彼は思った。*1

 

「まっさすがに式上げるときに招待しても無理だろうけど一応だしてみようかね」

 

「そうですとも、あの方は我々シキガミ達すべての親と言えます。私と我が『ゆーき』、ゆーきさんの結婚式に招待できるとあればシキガミ掲示板でとても自慢できます!」

 

「えっ、なにそれ知らない」

 

 阿里川は驚く。シキガミが掲示板使って情報交換をしていることを彼は知らなかった。

 しかし、それもまあいいかとも思う。

 

 普通の夫婦でも、妻が夫が知らない人間関係を持つ事は普通だ。

 もちろん浮気はもってのほかであるが、シキガミであればその心配は無用。

 

「ええと、ゆーきさん、これはまずかったですか?」

 

「いやいや、()()の事をなんでもコントロールするわけじゃない。いいことじゃないか、同じシキガミと交流する、うん、いいことだよ」

 

 シキガミのある種の自立に阿里川も嬉しくなる。

 

「そこでどんな会話しているんだい?俺に言っていいことあるなら話してほしいな」

 

「ええとですね……」

 

 そこから阿里川実家にたどり着くまでの間、自らのシキガミからシキガミだけのコミュニティの話を聞いて過ごした。

 もちろん言葉遣いをいちいち訂正することも忘れなかったが。

 


 

 空港から車を借り1時間強、国道235号線を途中で曲がりたどり着いたのは阿里川実家。

 その名を『阿里川牧場』という、なんとも有り体な名前をした零細な競走馬生産牧場だ。時期にもよるが6~10頭程度の繁殖牝馬を所有し、競走馬生産を行っている。*2

 

 生産される競走馬の血統としては主に地方向けであり、中央馬主が買うような馬は少ない。高額種牡馬を使えるわけでもなく、良血な繁殖牝馬を抱えられるわけでもない。そんな環境で高く売れる馬を生産できる訳も無く、潰れることなくなんとかここまでやって来ていた。

 

 風向きが少し変わったのは、この家の次男である阿里川勇樹が中央のジョッキーになった事。そして中央で知らぬものがないほど活躍したことだ。

 

 騎手としての阿里川勇樹に注目が集まれば、その実家にも目が向けられる。残念なことに中央の馬主になるような人間のお眼鏡にかなう馬が居なかった為、知られたとしても売り上げには繋がらなかった。

 だが無名より名が知られたほうがよほど良い。それが悪名でもなければなおさらである。

 

 変わった風向きが良い意味で強くなったのは、生産馬が中央で活躍した事だ。

 

 ガイアノサキガケと名付けられた馬は、ガイアレーシングに購入され中央でデビューした。

 阿里川牧場産駒が中央デビューするのはひさかたぶりであり、できれば1勝くらいしてほしいなぁというのが牧場現社長であり阿里川勇樹の父茂樹の偽わらざる気持であった。

 

 それが新馬戦を、条件戦を勝ち抜き、目の前でオープン競争を勝った。目の前で自分の生産馬がゴール板を先頭で通り過ぎた時、阿里川茂樹は気絶しかけた。

 

 ガイアレーシングの方々、自分の牧場生産馬、鞍上の息子、そして放心しかけている自分が口取で集まり写真を一枚。

 そんな写真を掛け合って焼き増ししてもらい、自宅に飾った。

 

 ガイアノサキガケはクラシックを走っていない? クラシック競走を走るのはその世代のエリート中のエリートである。

 零細牧場の馬など、中央デビューしても1勝もできず地方落ちがせいぜいであり、オープン馬になるなど彼にとって望外の喜びである。

 

 それがまあなんともなシンデレラストーリーである。それに自らの息子が関わっているのが嬉しいと同時に、どこか現実感がなかった。

 

 父茂樹は振り込まれた『生産牧場賞』と『繁殖牝馬所有者賞』の額を見てようやく現実感がやってきた。

 

 長くなったが、そんなだいそれた息子が帰ってきたらどうなるか?

 もちろん詰められるのである。

 

 

 広くもない駐車スペースに止められた車から降りてくる息子を、車の音に気づいて出てきた父茂樹が気づき、取って返して家族を呼びに戻り、再び出てくる。

 降りてきた息子勇樹はゆるい雰囲気で新年の挨拶をする。

 

「ただいま~、あけおめ。親父元気してた?」

 

「お、おい、勇樹! お前帰ってくるならいつごろ帰るかハッキリ連絡しろ!」

 

「えー、帰省するって連絡してたじゃん」

 

「そりゃ帰省するって聞いてたけど何日って言ってないだろが……というかお前結婚してたのか?どういうこなんだ?畑中さん(牧場仲間)の所からいきなりおめでとうの電話が……」

 

 そこで父茂樹は気づく、息子ともう一人降りてきていることに。

 身長は息子と同じ……いや靴から考えて少しだけ低い、その頭髪は見事な金髪であり、前髪に一房分白いメッシュが入っており、その眼は見事の碧眼。

 スタイルの良い体に、デニムパンツと温かそうなセーター、そこに冬用コートを纏っていた。そのスタイルといい、見目といい北海道の田舎では見たこと無いようなザ・外国人であり、それを見た茂樹は混乱した。

 

「どうもはじめまして、えーと、阿里川デュランダルです」

 

「な、ないすとーみーちゅー」

 

 どれだけ混乱しているかと言えば、日本語の挨拶にヘッタクソな英語を返すくらいだ。

 

「いや親父、デュラ……妻はフランス系だ(ということになっている)から、英語だと通じないよ」

 

「あ、じゃあ……ぼんじゅーる?」

 

「そもそも日本語喋ってんだから日本語でいいだろ」

 

「あ、あの、お義父さん、私は日本語できますから」

 

 コントじみたやり取りを親子でやっている場、後ろから二人の人影。

 母親の加奈と兄の春樹だ。

 

 兄の方も弟の横にいる女性をみて口をあんぐりと開ける。

 母の方もあらーといった感じで絶句している。

 この北海道の田舎に見事な金髪碧眼の外国人が、それも自分の家に居ることに困惑を隠しきれていない。

 

 微妙な静寂が訪れる。

 

 実家側の三人はちらちらと目配せをし、お前話せよと押し付け合っている。

 だが静寂を破ったのは帰省してきた、お気楽な調子の息子であった。

 

「兄貴もかーちゃんも元気そうで安心したよ。一応、あけましておめでとう、今年もよろしく……まあ次帰ってこれるのが、何時になるか分からないけどね」

 

 騎手は忙してくてねと言い添える。

 

 それにため息一つつき父親が呆れたように答える。

 

「まあそうだな、あけましておめでとうだな……だが」

 

 だが?と不思議がる息子に肩を回し。

 

「ちょっと付き合えや……かーちゃん、勇樹の奥さんの……デュランダルさんを家のほうに案内たのむわ」

 

「そうだな勇樹、兄は隠し事されて悲しいぜ。まあ騎手に自由な時間はそう無いかもしれんが、話す時間くらいあるだろう?」

 

 いつの間にか兄も弟を拘束するのに参加し、厩舎のほうに引きずっていく。

 

「デュラすまん、ちょっとかーちゃんと一緒に荷物運んどいて」

 

 遠ざかる、というには近いが、建屋の中へ三人の姿が見えなくなる。

 まったく男たちはという顔を隠さない母だったが、さすがに初めて見る息子の嫁をほったらかしに出来ないと、家に案内する。

 

「まったく男共は……えーと、デュランダルさん?うちの夫と息子が悪いわね」

 

「あ、いえ、お義母様、私は大丈夫です」

 

 そう言うとデュランダルは乗ってきた車のトランクからスーツケースを2個それぞれを片手で取り出した。

 

 それを見た母は思った。

 息子の嫁は、少なくとも見目麗しいだけのお姫様ではないと。

 

(いやねぇ、私は母親らしく息子の嫁を確認したくなるなんてねぇ)

 

 そう心の中で自嘲しながら、こっちよと促す母に軽々とスーツケースを持つデュランダルが続き、二人は北海道らしい構をした母屋に向かう。

 


 

 一方厩舎に連れ込まれた阿里川勇樹ことウマ息子ニキは放牧から帰ってきた馬の手入れを手伝わされていた。

 殆どが知っている馬だったが、知らない繁殖牝馬が1頭、そして見知ったのが1頭居なくなっていた。

 

 まあ高齢だったからなと少し寂しい気持ちになりつつも各馬にひさしぶりと挨拶をしていく。

 

 母馬と引き離され1歳を迎えたばかりの馬たちからは、誰だこの人間はと警戒されるなか、Lvを感じさせる圧力をかけながら挨拶(わからせ)していく。

 もちろん作業も行いながらだ。馬達に与える餌を準備し、餌箱に入れていく。

 そんな作業を三人で行いながら会話を行う。

 

「勇樹よぉ、お前あんなべっぴんさんどこで捕まえたんだよ」

 

「そうだぞ、俺は弟に結婚を先をこされて悲しいぜ……まじで牧場の嫁取り問題あるんだぞ、俺に嫁のあてがなくて、中央で活躍する騎手様の弟にはあんな美人さん、涙がとまんねーよ」

 

「あー、ほれガイアファームさんあるだろ、そこで働いてるとこで知り合ったのよ」

 

 二人があーという顔をする。

 ガイアファーム、新進気鋭の大資本による大牧場。この時代に新たに、それも競走馬の生産牧場を始めるなど、業界からはその正気を疑われている。

 

 牧場にはスタッフが必要だが、誰でもいいわけではない。馬の相手をするための能力が必要だが、そういう人材はもう各所で働いており、余っているわけでもない。

 なければどうするのか、外から連れてくるのである。

 連れて来る先が外国とか、すごいなガイアさんはと父は兄は思っていた。

 

 実態としてはそう変わらなかったが、異なる点としてはオカルト関係者からも人材を引っこ抜いて居ることである。

 ガイア連合に恩を売りたい勢力は多い、そういうところからありがたく人材を頂いていた。

 

 彼らはガイア連合の黒札からすれば取るに足らないアイテムで喜んで人を差し出してきた。

 

 差し出され働く人材達はある種のスパイでもあるだろう、だがガイア連合からして見られて困るものは無かった。

 裏社会ですらめったに(まだ)手に入らない回復薬等のオカルトアイテムが準備され、東京に匹敵すると思えるほどの悪魔払い結界があってもだ。

 

「というか、なんで実家の俺達より先に他所様がお前の結婚を知ってるんだ?少なくとも新聞には無かったと思うんだが」

 

「そうだぞ、畑中さん(牧場仲間)のとこから電話があってさ、おめでとうって言われて、俺はてっきりクロコ*3……じゃねえやガイアノサキガケ号が摩耶ステークスに勝った事かと思って会話しちゃって恥かいたぞ」

 

 冠婚葬祭を外部の人間が先に知っているというは、特に田舎ではたいへん困ることであったからその追求の目は真剣であった。

 さすがの阿里川勇樹からしても、昨日の今日行った配信をこんな田舎の人間がよう見とるなという感想であった。

 

 親兄弟は時代なりの人間であり、インターネットは仕事柄齧っているがそれを十全に使いこなしているわけでもなかった。

 

「畑中さんとこがうち(ガイアレーシング)の配信を見てたのか……それか見た知り合いから教えてもらったんじゃないのかねぇ」

 

「そもそもだな、その配信ってなんだ、テレビとは違うのか?」

 

 そこからかぁという感想を隠し、説明する。

 

「テレビだと番組はテレビ屋さんが作って見れるようにしているけど、時間が決まってたりするじゃん?

 パソコンからネットワークを通じてさ、テレビ屋さん以外の番組を見れる様な時代になってきてるんだ。そんな番組の中で生中継なのが配信って言われてるやつ。そいつをアーカイブって形で見直したりもできるよ」

 

 説明としてはかなりのいい加減さであるが、知識のない人間に詳しく説明しても徒労になる事を前世から知っている阿里川勇樹は雑な説明で済ませた。

 それを聞いた父兄ははえーといった表情で、よくわかっていなそうである。

 

「じゃあ、畑中さんが見たかもしれない勇樹の配信?ってやつは見れるのか?録画みたいに」

 

 父の当たり前な感想に当然と返す。

 

「そりゃ実家にあるパソコンからも見れるけど……、家族に見られるとかちょっと恥ずかしいんだけど」

 

 恥ずかしがる息子/弟に、何言ってるんだという顔をする二人。

 

 この阿里川勇樹という騎手は、血統的に素質がなさそうな馬でも勝たせる(さすがに重賞までは無理だが)ので有名である。零細な生産牧場からすれば、彼に乗ってもらえればうちの馬でもオープンまでいけるんじゃないか、と期待される人材である。

 

 ガイアレーシング所属馬でトリプルジェット(血統88)やスターインパクト(血統85)という活躍馬は、その活躍を納得するような血統をしている。だが逆にスタートオブガイア(血統13)という零細馬はG1級こそ取れていないが、札幌2歳Sを勝った立派な重賞馬である。

 

 賭けている側からすればG1に注目が集まるが、生産側、馬主側から見れば重賞一つ勝っただけでも有頂天になるほどだ。

 

「勇樹よぉ、お前どんだけ有名だと思ってんだ。たかが番組にでて見られるくらいなんだってんだよ」

 

 父茂樹はあきれ顔だ。

 家族であるから、息子が出る番組の中で北海道で見れるものはチェックしているし、ビデオテープに取っていたりする。

 

「いやぁ、そこまで有名じゃないでしょ?」

 

 だが本人は懐疑的だ。テレビに良く映るのは西のレジェンドだし、一般向けのテレビ番組に出るよりは異界にでも行ったほうが益がある。

 前世のマスコミに対する不信感も手伝ってあまりテレビにでない騎手である。

 

「確かにテレビにはあまりでないけどよ、業界じゃ(美浦)の天才として有名だし、誰だって自分の馬乗ってほしいと思われてんだぞ」

 

 信じられないけどなと父は言う。

 

「そうだぞ、勇樹の騎手としての腕前はよ、()からしても今ひとつ信じられねえけどさ。

 会合とかで会うあんま知らん人ですら、出来れば弟さんにうちの馬に乗ってもらえないかねぇって冗談交じりに言われるくらいなんだぞ」

 

 こちらは兄春樹。

 大手だろうが零細だろうが、良血だろうが零細だろうが、レースで結果を出せばその弟妹の値は上がる。生産側からすれば活躍してもらい値を上げたいのだ。

 

「そりゃどこの馬でも依頼があれば乗るけど、別に普通じゃない?」

 

 本人としては覚醒者だしある種のチートパワーであるから、そこまですごい事かなぁと思っているが、外から見た場合とんでもない騎手であるがあまり自覚が無かった。

 なにせ競馬以外の交流は覚醒者ばかりであり、あまり自分がすごいと思えないのだ。

 

『はぁ』

 

 奇しくも二人のため息は重なる。何言っているんだこいつはという目をしていた。

 日本人で唯一凱旋門賞に勝ち、最年少クラシック三冠/牝馬三冠を取り、有馬記念三連覇をした騎手が普通なら普通は居ない。

 言ってもどうにもならないなと思った父茂樹は話を変える。

 

「まあいいや。それよりだ……結婚式はしたのか?……というか相手との続柄はどういう状況なんだ?」

「結婚式してんなら親兄弟招待しないとか不忠だぞ、不忠」

 

 実家と絶縁しているわけでもないのに冠婚葬祭に呼ばないなど、いつの時代でもだいぶ不味いことである。

 

「いや役所で籍だけ入れた状態かな。式はねぇ相手のご両親がねぇ……」

 

「揉めてるのか?」

 

「そういうわけじゃなくて……今海外ってなんかめちゃくちゃじゃん?だから連絡つかないみたいでね(嘘)」

 

「えっそうなのか?」

 

 海外はメシアとの戦争状態になっている地域も多く、民間への影響も無視できないレベルになってきているし、付帯的なゲートパワーの上昇から悪魔が出現しはじめ、一般人へ被害を及ぼす世界に変わりつつあった。

 

 海外との取引を行っている企業などは戦々恐々といった状態であるし、海外からの避難という名の移民も流れてきているがその多くは都市部及びその周辺に居ついている。

 だが政府は民間の安心の為情報統制を行っており、海外情報をほぼほぼ遮断している状況だ。

 海外から種牡馬なり繁殖牝馬を導入する大手牧場なら別であろうが、実家のような北海道の田舎牧場では実感が起ころうはずがなかった。

 

「そういう事だからあんまり両親とか故郷の話はね……」

 

「そうか……分かった」

 

 父兄は勝手に(存在しない)嫁両親があやうい状態であると認識し、関連する話を手控えようと認知した。

 一応自分のシキガミとの間で打ち合わせは行っているが、話をされればされるほどボロがでてしまうと思っているウマ息子ニキとしては、勘違いだとしても手控えてくれそうでやれやれと一安心であった。

 

「まあ、お前さんの嫁さん……デュランダル?さんの事は分かった。正直外人さんとどう親戚づきあいをしたもんか思案してたんだわ」

 

「そうだよなぁ、俺英語なんて出来ないぜ?式場で顔合わせてなんて会話すりゃいいんだってな」

 

「いやフランス人だからフランス語だよ?」

 

 余計無理だろうがよと絶望顔を晒す兄と先送りできて一安心な父。

 実際の所両親は存在しないし、数年後に終末を迎えそれどころではなくなるので彼らのは取り越し苦労である。

 

「でよ、話は代わるけど、ガイアノサキガケ号の今年のローテ、どのへん走るのか聞いてるのか?」

 

「んー? まあ一応予定は聞いてるよ」

 

「おー、ガイアさんは騎手にも話してくれるんだな」

 

 ガイアレーシングは所属馬のローテをレーシング側が決めるとして委託しており、実際のローテは代表の四木谷、金を出した黒札、そして騎手の阿里川勇樹で話し合って決める。

 そのため一般的な騎手に比べてローテに対して権限を持っているし、情報も持っていた。

 

「とりあえずクリスタルC目指すけど、叩きでオープンの淀短距離S走る予定。結果が良ければ高松宮と安田かなぁ」

 

 レース名を聞いた二人が目を剥く。出走予定レースが信じれなかったからだ。

 

「た、高松宮って、G1の高松宮記念か?」

「安田記念にうちの馬とか本気ぃ?」

 

「そうだよ?」

 

 自分の所の生産馬がG1競走を走る可能性があることを信じられない父兄と、G1なんてなんぼでも走るだろという意識の息子との間の意識差。

 零細牧場生産馬はG1どころか重賞走るだけで大分凄い事なのだが、走りすぎてそういう意識が抜けているのである。

 

「そんなに驚く事?」

 

「そりゃびびるだろ、うちなんてなぁ。じいちゃんがピンピンしてた時代によ。うちの生産馬が東北優駿でるっていうんでめっちゃ喜んでドキドキしたくらいなんだぞ」

 

「はぁ……」

 

 結局7着だったけどなという父と、それに頷きながら東北優駿ってなんだ?と思っている息子。*4

 

「あれの賞金が当時……900万円だったかな?、そこから考えればガイアノサキガケ号がオープンの札幌日刊スポーツ杯勝って2400万円だぜ?オープンでそれなんだから億いく中央G1は格が違うよ格が」*5

 

「そうだぞ、うちの馬がG1出走してよ、掲示板に入ったりなんかしてみろよ、あいつの弟妹に高値がつくんだぜ」

 

 勝てるとは欠片も思っていない兄。仮に勝てたら実家で気絶するだろう。

 

 息子が稼いでくる『生産牧場賞』『繁殖牝馬所有者賞』も嬉しいが、生産した馬に高値がつくのはもっと嬉しいものだ。なにせそれは生産者として認められた証であり、成功の証である。

 

「そこの子が去年の弟でよ、暖かくなったら見たいって話も貰ってるんだぜ。母馬の腹に居る弟妹も、まあ兄貴の活躍次第だが値が付きそうだしな。親父とガイアノサキガケ号の全兄弟作ろうかって話もしてるんだわ」

 

 兄は何故かドヤ顔で説明する。自分の所の馬に庭先の可能性を感じ、高値が付くかもと想像の羽を広げていた。

 確かに生産者からすれば、庭先で高値が付く可能性があればホクホク顔になるし、億は無理だろうが千万単位になれば万々歳だろう。

 

「そんなわけでまじで頑張ってくれよ、うちの経営のためによー」

 

「へいへい」

 

「でさぁ、『あのー、夕ご飯みたいですけど』

 

 そこにデュランダルが現れる。義母から夕食が出来たから呼んできてと送り出されたのだ。

 

『あっ、は、はい』

「分かったよ」

 

 コートを脱いでいる彼女は、そのスタイルの良さが丸わかりであった。コートを着ているときは分かりづらかった、セーターを盛り上げる大きな胸や、日本人からすると信じられない長い脚。整った顔に乗ったぱっちりとした蒼い目ときれいな金髪。

 そんな姿を近距離で見た二人は舞い上がってしまっていた。

 

 そんな二人とは違い、慣れきったウマ息子ニキたる阿里川勇樹は軽い感じで会話する。

 

「うちのかーちゃん大丈夫だった?」

 

「ええ、お義母様とは問題ありませんでしたよゆーきさん。夕食は私も手伝いましたから楽しみにしてくださいね」

 

「それは楽しみだ。やっぱデュラは偉い!旦那の実家に来て手伝うとかなかなかできないぞ」

 

 腰に手をやるでもなく何故か頭を撫でながら母屋に向かう二人を見て、最近の夫婦ってこんなのが普通なのか?と首を傾げながら後を追う父と兄が居た。

*1
実際はそういうのに招待して欲しいタイプな気がする

*2
2000年前後の情報は無いが2024年の農林水産省の資料では10頭以下の牧場が全体の61%を占める、その為阿里川実家は立派な零細牧場である

*3
ガイアノサキガケの幼名、毛色から

*4
NRAの岩手、山形、新潟の三地区所属馬&三歳限定戦

*5
実際この時期の高松宮記念と安田記念は1着賞金9400万円です




敵の潜水艦を発見!(BF6買ってしまったの意

半期での部署移動とBF新作が出てしまった反動でなかなか筆が……
ちんたら書いてると全然終わらないしで投稿してしまいました

ここから飯食って寝てイギリス亡命牧場に行く流れとなります
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