※2/22修正
20万ポンド→30万ポンドに修正
書いてる内に20万ポンドやすいかな?と思って変更したが
アーウィンのセリフの修正漏れ、さすがに懐には入れません
実家を出て、車で十数分。北海道という単位でみれば近所と言える場所にウィッチファームはあった。
入口で誰何され、子爵夫人から送られた手紙を見せ、代表に取次ぎを頼んだどころ、出てきたのが父から見せられた名刺と同じ、アルウェン・エバンスと名乗る若い男であった。
『どうも突然お邪魔してしまい申し訳ない』
『いえいえ、ガイア連合の方を拒む扉はござませんよ』
事務所に案内された後、お決まりの挨拶をかわし、アルウェンが茶菓子を持ってまいりますと席を外す。
元々営まれていた牧場を買い取ったその場所は、元の持ち主の臭いを色濃く残してはいたが、案内されたその事務所は、なんというか和洋折衷な香りがあった。
敷かれたカーペット、がっしりとした机と椅子、壁に飾られた
日本人とは異なったセンスで揃えられたそれらは、故国とは異なる場所でもなんとか自分たちを表現しようとした叫びとも悲鳴とも見えた
しばし後、『お待たせしました』の言葉ともにティーセットを持ってくる。
紅茶を出され、ホストが毒見とばかりに一口。
その後阿里川とデュランダルが手を付ける。
『ほう、この
阿里川が感嘆の声を上げる。
過去英国遠征の際、子爵夫人に馳走されたお茶と同じものだと感じていた。(厳密には水の硬度が異なる為、完璧な同一性では無かったが)
『ただの
『叔母…ですか』
『ええ、私の母と子爵夫人は姉妹でしてね』
『なるほど……』
『私も一応、英国貴族の端くれではありますが……ご存じの通り英国貴族は二度の大戦で没落しております。
ファインズ子爵家のようにビジネスに舵を切り、アッパークラスに留まっている方々は多くは無い』
貴族位などもっているだけで私はワーキングクラスですがね、と肩を竦める。
『母も言っておりましたが、伯母上は魔女としての腕前だけではなく、表の学力も才媛に相応しい物をお持ちだったようです。
大学卒業後、伯父上と知り合い結婚されたそうです』
『そうなのですね……御母上や子爵夫人は貴族籍だったので?』
『ええ、一応男爵ですよ……まあ、三代前に叙爵された新興だったようですがね』
日本人の阿里川から見れば見事な貴族仕草だと思った子爵夫人ももしかしたら成り上がりものと言われていたのかもしれない。
貴族など、世界大戦で滅んでから意識に上らない日本人からすればそんなものかもしれない。
『私の様に貴族とは名ばかりのワーキングクラスは、牧場を経営して糊口をしのいでおりました。
ですが、その御蔭で日本に逃れこのように仕事をできるとは、人生は何が起こるかわかりませんね』
そのおかげでガイア連合の知己を得られるのなら人間万事塞翁が馬と言ったところだ。
『さて……日本の方へは
我々を助けてくださいませんか』
いや人によるんじゃないかなと思いながら阿里川は考える。
助けるのは簡単だ、だが、彼らを助けたことによって生じる利益と不利益をソロバンをはじいて試算する。
また助けるにも段階がある。
ガッツリと抱え込むか、はたまた足長おじさんのようにちょっとした援助で止めるか。
思案の沈黙を否定的にとらえたのかアルウェンは言葉を重ねる。
『確かにあなた方に比べて我々は非力です。
逃れてきた人間はすべてが
『そうなのですか』
『ええ、日本は……英語の国ではございませんから』
苦り切った顔で答える。
確かにこの場でも二人は英語で会話している。阿里川は日本人には珍しく英会話も堪能だ。
だが普通の日本人はどうだ?
英語教育は行われているが、公用語として採用されている(=行政言語として使える)訳でも無く、会話という意味でもそこまで通じるわけでは無い。
そういう意味では英語圏、というかヨーロッパから来て定住するには難しい国だ。
『お恥ずかしながら、
それぞれコモンウェルス国家であり、英語が通じる国家たちである
生き残る為に分散するのは別に悪い事でもない。
言葉が通じにくい国家で生きていくのはそれだけ困難を感じるという事だ。
『ですが、ここが、この国が
『
『ええ、我らはダンケルク後みたいなものです。
このままではあの忌々しい天使と
せめてステンガン程度が欲しくはありますよ』
『現代でノルマンディー公がごとき
『アイルランド人も同意しそうですね』
現代で侵略を受け圧政を受けたい人間はいないだろう。
特に天使を名乗る悪魔からには。
『ガイア連合さんも
我々に援助を与えてくださればお役に立てると思いますよ』
あんたらがあの演説の通り決して
『いいでしょう、あなた方が
『おお、助けてくださいますか』
『ですが、我々はアメリカ人ほど正義の人間ではない。そのことだけはご理解いただきたい』
英国奪還のため、ガイア連合は兵力を派遣しないぞと暗にほのめかす。
『致し方ありません、
肩を竦める。
『貴方方が自らを
と実家を含む地域の防衛に関係しろよと暗に迫りながら援助の算段をする。
相手側も阿里川実家へ挨拶したということは、地域コミニティとやっていくのは折り込み済みであろう。
『ええそうですね、
交渉は、お互いに利益を得る。
アルウェンはウェールズらしい名前を持つ人間といえど、英国流の交渉術を持つ人間であったようだ。
阿里川は残りの紅茶を飲み干し立ち上がる
『さて、こちらは競走馬を生産されているでしょう?せっかくだから見せていただけませんか?』
『それは?……いえ、そうですね。見て頂きお眼鏡にあう馬がいればよろしいのですが』
何のことを言っているのか一瞬理解できなかったアルフィンだったが、阿里川が言わんとするところをすぐ理解し案内のため立ち上がった。
冬の太陽だとしてもそれなりに高い位置まで上がり、雪もなく風もない快晴の元、3人は歩く。
阿里川勇樹とデュランダル、アルウェンが事務所を出、雪で覆われた馬の居ない放牧場の間を通り抜け奥へ進む。
『人数としてはどの程度戦力に数えられますかね』
歩きながら戦力の確認と言う実務的な会話が続く。
『
0で無いだけましかと、思いながら歩く。
覚醒者であるなら装備を与えれば最低限戦える……自衛程度には。
どうにもこの世界の霊能力者達は、ガイア連合黒札たちの知識にあるゲームのキャラクターほど強くない。
そのことを、遅まきながら理解し始めていた。
組織の幹部ともなれば下手すればLvにして50に届くような存在。
そんなゲーム内の存在という、現実に居るはずも無い者を前提とした交渉はもちろん上手くいかなかった。
不味い事に、お互いに情報を与えまいと分かりづらく抽象的な交渉は、結果として悲劇と喜劇を引き起こしていた。
君たち戦えるでしょ?……戦えませんでした。
と言った喜劇な悲劇が世界各地で繰り返され、生き残りが避難してくるにあたってようやく理解したのであった。
実はオレタチしかまともに戦えないのでは?と。
一部の黒札が生産に力を入れ始めたのも、自分の趣味的な部分以外にも、(ガイア的には低級な)装備をばらまき、メシアに対しての
阿里川としても相手組織への装備の供給をコントロールし、恩を売りながら最低限戦える戦力を確保したい。
アルウェンとしても縁なき地で生き残る為のコネと装備を手に入れる。
お互いWin-Winの取引である。
『話を通しておきますので、覚醒者の方々は地元のガイア連合支部に登録しておいてください。
そうすれば
『わかりました』
『いくらかの初期装備は後ほど送付しますが、大っぴらには見せびらかさないでくださいね』
『我々は
そこらの森でぶっぱなすような連中と一緒にしないでくれと言わんばかりだ。
『一応この国では法律がまだ生きていますからね』
『それはそれは……平和ですね』
東京は根願寺が、地方はガイア連合が結界を張ることで霊的な安全が確保されている。
天使を筆頭に悪魔が続々人間の生存圏に出現する他国とは異なり、まだ平和が保たれている状態であった。
とはいえ結界もすべての土地を覆っているわけではない。
ガイア連合と結託した地方は、武装に対する規制緩和を行い覚醒者達が仕事をしやすくすると同時に、自衛を進めていた。
だが大っぴらに武装していればいまだ警察の介入を呼ぶであろうし、外国人ともあれば見る目が厳しくなる。
ガイア連合の黒札として阿里川が介入すればなんとかなるかもしれないが、そこまで面倒を見たくはなかった。
アルウェンとしては、メシア教に対抗する為この国をガイア連合が支配し、そのリソースをすべて回すべきだと思っていた。
だがそれを口にはしない程度の慎みあった。
『混乱は望みませんよ、我々としてもね』
『……』
民間人を巻き込まず強大なメシア教に対抗する自信があるのか。
どこまで隠し玉を持っているのか。アルウェンは、そんな勘違いをしていた。
実際のガイア連合の人々は、表に出たくない出不精な連中であり、心のどこかで野生の主人公がなんとかしてくれないかなー、と思っているだけだった。
雑談をしながら歩いていれば何頭か馬が放牧されているエリアが見えてくる。
『情けない話ですが、メシア教の攻勢で祖国で種付などをしている時間が無く、こちらに持ってこれた
しょうがない部分もある。平和な日本とは違い自らの世界が終わるのに馬の生産など悠長にできはしない。
『ですので此処に持ってこれたのは牝馬ばかり6頭程度です、買われるのであれば若い牝馬がよろしいかと』
阿里川としても生産側に近い立場の為、少ない牝馬を買うのはためらわれた。
表向き生産牧場としてしばらくは(もしくはずっと)経営してもらわねばならないのだ。
どうするかと周りを見てみれば離れたところに一頭の鹿毛馬が目についた。
馬の雌雄は人から見れば分かりづらいが、若そうな牡馬に見える。
『あの馬は?』
『ああ、あれは……中東のさる方から託された馬ですよ』
『ほお、中東のね』
中東は今どうなっているのか。
天使たちと戦っているのか、戦い終わった後か。
アメリカ、ヨーロッパはともかくそれ以外の地域の情報はガイア連合としてもひどく少ない。
すくなくとも競馬をやっている場合では無い事だけは確かだ。
『ええ、去年デビュー予定で馴致が行われていましたが、英国はもとより中東も
『見てみても?』
『もう3歳馬になっておりますよ?』
日英の競馬感の違いがでる。
2から3歳ですべてが決まり、4歳以降の古馬戦線はおまけのヨーロッパ競馬。
古馬でも活躍すれば評価される日本競馬。
今から購入して走らせるにしても遅くないか?そんな意味が声色に込められていた。
『なに、種牡馬にするのであれば走って評価されたほうがなお良いでしょう?』
『日本で走れるとお考えで?』
『それをこれから確認するのですよ』
そう言うと阿里川は馬に近寄っていく。
毛色は一般的な鹿毛。頭に流星も無い顔だが、どこか精悍さを感じる。
調教など出来てはいないだろうに、体つきはがっしりしていた。
『名前についてはもうついておりますか?それとも幼名みたいなものが?』
『元のオーナーはヤゼールと呼んでいましたので、我々もそれにならっております。登録前でしたので、馬名登録は未だ決まっておりません』
『わかりました』
名前について確認し、阿里川は馬に近づく。
「よお、ヤゼール君。君は走る気があるかい?」
《
雪下に生えた草を食べようと、うろうろしていた馬が阿里川のほうを向く。
「珍しいだろう、
《たしかに……それで何か用か?》
「いっぱいの馬と一緒に走って、誰が一番早いか決めようってお誘いかな」
《ふむ……走るために
人の考えることはわからん。
走る誘いならもっと早くからできたろうに》
「まあ人にはいろいろあるんだ」
《他の
異存は無い……私の世話をする男か、そちらの男が私に乗るのか?》
「いんや、俺がメインだが、他の人も乗るかもな」
《……まあいいだろう、上手く乗るのだぞ》
日本語と、ヒンヒンという馬語?の会話が終わる。
デュランダルは慣れたものだったが、アルウェンは驚愕の表情をだしまいと苦闘していた。
馬と会話を行っているようで、その言葉が理解できる。
だが唇の動きを見れば、英語の動きではない。
馬との会話が終わり、阿里川はアルウェンのほうに振り返る。
『走る気があるみたいで良いですね』
『まさか馬と会話をしたのですか?』
『さて……私の中ではバベルの塔はいまだ健在なのかもしれませんね』
アルウェンは畏敬の念を抱く。これもガイア連合の隠し玉の一つかと。そして私にこれを見せるという事は、他にどれほど隠し玉を抱えているのか。
『さて……、いわゆる庭先取引なわけですが……5000万くらいでどうです。
ああ、確認しておりませんでしたが、血統はどうなってますか。後、書類のは揃っていますね?』
『ええ、まあ書類はちゃんとございます。5000万円ですと……』
『30万ポンドくらいですかね』
『……それであれば。
ああ、血統は父Through for Siliver、母父Buck passです』
アルウェンにとって馬に着いた値札よりガイア連合とのコネが重要だ。
この費用は目の前のガイア連合幹部(勘違い)からの当座の生活資金と判断した。
『やはり見込んだ通り、血統としても素晴らしいですね。
……ただ、残念な事に、この国では騎手は馬主になれない、すなわち私がこの馬を購入とはいきません。
故に資金を出し購入を正式に行うのは私が契約しているチーム、ガイアレーシング、つまりその代表の四木谷という男になると思います』
『それはそれは……』
そちらとのコネも作れる。なかなか良い結果といえる。
『とはいえ、口頭だけでは不安でしょう?これを手付金にしておきます』
そう言うと阿里川は懐から一丁の拳銃を取り出した。
イギリス人におなじみ?の
『これは……』
アルウェンは驚愕する。見る者が見ればわかる濃厚な死の臭いを放っていた。
前世では起きた911テロが未だ起こっていない(もっとひどい事は起こっている)この時期、国際線はともかく国内線はザルである。
堂々としていれば案外バレないものである。
『手付金替わりの現物、ですかね。
私のお古で悪いですが、こいつには呪殺が込められた弾丸が入っています。
天使の襲撃時用の
拳銃本体にも呪術的な刻印が追加され、一般的な弾丸でも悪魔にダメージを与えられる代物に仕上がっている。
だが本質は装填されている弾丸。
阿里川がアルウェンに渡したそれには、ムドオンが込められた弾丸が5発入っていた。*1
現金よりよほど大きな援助である。このレベルの
それを一人の裁量でポンと渡せるガイア連合に畏敬を通り越しての畏怖の感情が沸き上がる。
『……手付金としては十分でしょう』
『では決まりですな』
手が差し出され握手が交わされる。
『老婆心ながら……
『いや、これは失礼』
アルウェンは苦笑で誤魔化す。
後は、商売上のお話になりますが。と阿里川が前置きし。
『近日中に四木谷から連絡するよう手配いたします。
後は……所有馬への種付け相手でしたら、日本の公共団体の軽種牡馬協会も使えますし、
四木谷に話してくだされば、他の牧場も紹介できると思います』
どれもお金はそれなりにかかりますが、と付け加える。
『有り難い事です。私も
日本語は会話であればそこまで難しい言語でも無い。てにをはや語順が狂っておいても大意は通る。
だが文字はそうもいかない。
ひらがな、カタカナ、そして漢字。
6年間(小学校)かけて漢字1000文字程度を覚えるのだ、その難易度たるや外人が仕事をこなしながら学習するのはなかなか難しい。
『さて、契約も成った事ですし、ここらでお暇致します』
『まだ明るいですし、もう一杯(お茶を)如何ですか?』
『いえ、結構です。本日中にガイアファームも訪ねなければなりませんので』
『それは残念』
社交辞令を交わし、少しも残念ではなさそうな会話。
二人とも表向きのやり取りをできるくらいには大人であった。
『これにて失礼します。他の皆様にもよろしくお願いいたしますね』
と阿里川はアルウェンに言い残し車に乗り込む。
ずっと傍に就いていたデュランダルは一言も言葉を発しなかったが、彼女は自分が護衛であり、言葉を発するべきでないと弁えていた。
阿里川を見送ったアーウィンは事務所に戻る。
何人かの仲間が遠巻きに見ていたが、声はかけてこない。
「はー……」
部屋に入り、ソファーに体を投げ出す。大股開きのその様は疲れ果てたサラリーマンのごときであった。
ティーポットに残った冷めたお茶をティーカップに注ぎ、シュガーポットから大量の砂糖をぶち込む。
飽和水溶液になったそれに、ミルクポットをひっくり返すよう残った全てを注ぎ込む。
一息で飲み干し、再度のため息。
「なんだよアーウィン、交渉は上手くいかなかったのか?」
扉の向こうから声がかけられる。
「ああん?、なんだダヴィッドか」
先ほど阿里川と会話していた時に被っていた紳士のマスクを脱ぎ捨て、粗野にも思える姿がそこにあった。
「ダヴィッド、お前はな、狼、いやヘルハウンドかな?自分を一噛みで殺せそうな存在の隣でにこやかな顔を維持するのがどんだけ辛いかわかるか?ええ?」
とげとげしい言い方にダヴィッドは肩をすくめる。
「お前は物事を深刻にとらえすぎなんだよ。ガイアの連中が俺達を疎ましく思っててみろ。もうこの世にいねーよ。
まったく、イングランドの学校に行って魂までイングランドに染まったのか?ウェールズ男ならもっと楽しく生きろよ」
「世の中そんな単純じゃないんだぞ、ダヴィッド」
呆れたようにこの世の理を諭す。
「ちがうね、人間がこの世を深刻にとらえすぎなんだ」
ほれ、お茶のお代わりだと、自分のもっていたポットから茶を注ぐ。
アーウィンはダヴィッドの言い切る姿に何も言えなくなる。
茶に口をつけつつ、反撃の言葉を思案する。
「お前は祖国で戦っている仲間たちに申し訳ないと思わないのか?」
「そりゃ俺としても悔しい部分がある。それは認めるさ。
だがな俺達に課せられた仕事はなんだ?この異国の地で生き残る事だろが。
仕事はちゃんとやんなくちゃなんねえ。そうじゃねえと仕事の後の一杯がまずくなるからな」
「まったくお前は。いつでも酒じゃないか」
「おうよ。酒を飲むために生きているといっても過言じゃねーぜ。
この国の酒はよぉ、悪くないんだがどうにも種類が少なくていけねえ。
ビールをいくつか飲んだがどれも味が変わらねえ。まさか俺がギネスを懐かしがるとは思わなかったぜ」
彼らの故郷ではどちらかといえば上面発酵のエール系が主流であり、下面発酵のラガー中心の日本とは異なっていた。
スタウト系のギネスすら手に入りにくい日本は、彼にとっては生きづらさを感じるのだ。
「そんで、話はもどるがガイアのぼっちゃんとはちゃんと交渉できたのか?」
「ああ……」
「それだったらよかったじゃねーか」
煮えきらない様子のアーウィンにダヴィッドが励ます。
「ヤゼールを……30万ポンドで売ることになったよ」
「いいんじゃねえか?むしろタダで寄越せって言われてもおかしくないだろうさ……で、それだけか?」
実際、ガイア連合と亡命者、立場としては天と地ほどの差がある。
助ける代わりにすべてを巻き上げられてもおかしくない。
少なくともアーウィンは、自分たちの何処に援助に値する価値があるのかわからなかった。
「いいや、ここらの霊的な
「ふーん」
「気にならないのか?」
「何をだ?」
興味なさそうなダヴィッドにアーウィンが持っていたカップを突きつけ、ジト目で聞く。
「あのガイア連合が俺達みたいな亡命、いや実質逃げてきた者に渡すアイテムがどれほどのものかってことをさ」
「どうかな、少なくともババアが出してくるクソ苦い
祖国に居た薬草作りを生業にしていた人間の悪口を言いながら紅茶を口に含み、聞き流す。
だがそれに構わずアーウィンは続ける。
「こいつをみてもそう言えるかな」
そう言って懐から取り出したのはさきほど阿里川から貰った一丁の拳銃。
「まじか……とんでもねえ代物だな、おい」
「ああ、俺達にこれを渡す理由があるか?少なくとも俺は思いつかんね」
アーウィンが無造作に机に乗せたそれを、ダヴィッドはお茶を飲む手を止めてまじまじとのぞき込む。
「……
「これがか?上級天使すら一撃で倒せそうな代物だぞ?」
「そりゃ……俺みたいな
「そうだ、こんなものをポンと渡されて俺達は何をさせられるんだろうなぁ」
何もかも分からなくなったアーウィンは体を投げ出し天を仰ぐ。
餌を貰おうとしたら何倍も餌を盛られたペットのような気分になる。
ダヴィッドはそんな仲間を見ながら考える。
彼にとっては
美人ではあった。英国どころかヨーロッパを見渡してもあまりみない見事な金髪でもあった。
だが……あれは人か?と。
二人が会話している時に口を挟まなかったが、その視線は鋭いものであった。
あたりを睥睨し、害する者が現れれば一太刀の元排除せんとしていたように見えた。
もちろん武器は持っていない、だがダヴィッドからはそう見えた……仮に彼が襲いかかったとしても死ぬ、そう思えた。
あの日本人男の妻、そんな立場とも思えないような姿にひどく違和感を覚えていた。
(むしろ俺達にとってはあんな女のほうが危険かもな)
「……聞いているのか?ダヴィッド」
「ああ、すまん。ちょっと考え事をしていた」
「まったく……一緒に来ていた女性を口説くんじゃないぞ、ガイア連合の、ユーキ・アリガワ氏の妻なんだからな」
「ほう、そういう名前なのか」
「知らなかったのか?」
「そりゃ言われてなかったからな」
肩を竦めるダヴィッドに呆れるアーウィン。
「まあいいさ、そろそろ
「そうだな……」
アーウィンは立ち上がりティーセットを片付けるべくキッチンへ。
ダヴィッドはポットに残ったお茶をすべて自分のカップへ注ぎ、一息に飲み干す。
そして自分もキッチンへ移動した。
彼らが阿里川から送られてきた装備に目を回すまで96時間。
帰省編はこれで終了です。
ようやく掲示板という低コストで制作できる方に移れるぜぇ