才能に恵まれすぎたドMが魔法界で百合逆ハーレムを目指す話   作:ひさなぽぴー

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10.ハリー・ポッターと賢者の石with転生者 下

 結論から言うと、そんなうまい話はなかった。確かに薬は復活するけど、先に進むための薬も元来た道を戻るための薬も一つずつしかないから、三人で入ったわたしたちはどう転んでも誰か一人この炎に囲まれた環境に取り残される羽目になる。

 そして恐らく、薬が復活するのはこの室内に人がいないとき。誰かがいる以上、それは起こらない可能性が高い。スネイプ先生なら絶対そうする。

 

 じゃあ、誰が先に行くべきか。この問題に対して、一番に手を挙げたのはロンだった。

 

「僕が行く。ここにいる間は確かに熱いけど、少なくとも今すぐ命に危ないってことにはならないだろ。でもこの先はそういう危険がある。この状況で女の子を先に行かせるなんてことしたら、ママに怒られるよ」

 

 冗談めかせてロンは後半を付け加えたけど、この先に待ち受ける危険を子供なりに考えて、それでもその危険は自分が負うべきだと判断したんだ。それも即座に。これはグリフィンドールですわ。

 

 そんな彼に、わたしとハーミーは顔を一度見合わせてから了解することにした。ただ、すぐに追いつくからできれば外に出てから一分だけ待っててほしい、とも。

 

「当てがあるのかよ?」

「あるわ」

「うん、大丈夫」

「……わかった。一分だな。待つよ」

 

 そうして、ロンは一人先に進んだ。

 

 彼の背中を見送りながら、ハーミーが軽くため息をつく。どっちかって言うと、感心した色だった。

 

「ロンのこと、見直したんじゃない?」

「まあ……ちょっとはね。それより、もしかしてリンって予見者なの?」

 

 ハーミーの言葉に、わからないと返す。そうだと言うにはまだちょっと早い気がするから。

 

 それでもわたしがハーミーに、この状況にうってつけな魔法を覚えてもらうように事前に伝えたのは、将来的にわたしが予見者だと名乗るかもしれない可能性を否定できないからだ。予見者ムーブができれば、お辞儀撃破RTAのタイムを短縮できるかもしれないからね。

 やるかどうかは、そのときの状況次第ではあるけど……それはともかく。

 

「わからないなら、今考えることじゃないわね。それより……やりましょう、リン」

「うん。……ふふ、なんか初めての共同作業みたいだね」

「なにそれ。日本の慣用句?」

「結婚式でね。新郎新婦がウェディングケーキを切り分けるために、二人で一緒にナイフを入れるって風習があるんだよ」

「け……ッ!? あのねリン!!」

「んふふ、わかってる。そういう話は全部終わってから、でしょ」

「……わかってればいいのよ」

 

 そう言って杖を構えなおしたハーミーの顔が赤いのは、炎のせいだけじゃないだろう。かわいい。

 

「……いつかできるといいわね」

「うん、ホントにね」

 

 言いながら、わたしも杖を構える。数秒の沈黙が横たわる。

 

「「グレイシアス!!」」

 

 そしてわたしたちは、一秒のズレもなく二人同時に魔法を使った。幼馴染で恋人同士の面目躍如だ。

 

 グレイシアス、凍れ。冷気を放出して対象を凍らせる魔法で、火を消すのにも使われる。

 今この部屋に広がっている炎は魔法で作られたものだから、これだけじゃ鎮火しない。ましてや格上が用意した魔法なんだから、二人がかりとはいえ消せるわけがない。

 

 でもだからって、まったく無力ってわけでもない。一瞬だけではあっても、確かに炎は消えた。

 その一瞬のスキをついて、わたしたちは先へと踏み込む。直後、真後ろで炎が吹き上がった。

 

「……セーフ!」

「やったわね!」

「マーリンの髭! まさか本当に乗り越えてくるなんて!」

 

 現れたわたしたちを見て、ロンが大げさに口を開けて驚いた。うまくやれたようで、わたしたちはにんまりと笑って応じる。

 

「あなたこそ、勇気ある人だわ。見直したわよ、()()

 

 そしてハーミーが、自慢げに言った。ロンの目が大きく開かれたけど、すぐに肩をすくめながら両手を挙げて見せた。

 

「……悪かったよ。君はすごい魔女だ、()()()()()()()

 

 彼の返答に、ハーミーはふっと笑う。

 

「でもやっぱり、言い方ってものはあると思うんだよ」

「ええ? それはお互い様じゃない?」

 

 わたしはそのやり取りにやきもきしっぱなしである。

 

 あ、ハーミーが仕返し、って口パクしてきた。ごめんて。そんなつもりなかったんやてさっきは。

 

「……ええと、仲直りできて何より、ってことでいい?」

「仲直りっていうか、まあ、その、改めて友達としてよろしくって感じかな……」

「そんな感じね。……おしゃべりはここまでにしましょう。ここからが正念場よ」

「そうだな。二人とも、僕が先頭になるよ」

 

 彼の言葉に異論を唱える人間は、この場にはいなかった。

 

***

 

「リクタスセンプラ!」

「グレイシアス!」

 

 部屋に入った瞬間わたしたちの目に飛び込んできたのは、今まさにハリーに向けて杖を振るおうとするクィレル先生の姿だった。ハリーは丸腰で、その特徴的な緑色の瞳には怯えの色がありありと浮かんでいる。

 

 けれど、そこには同時に立ち向かう意志もあった。怯えを後ろに隠し、はっきりと正面から敵をにらむ。

 だからってわけじゃないけれど、わたしたちは敵がスネイプ先生じゃなくてクィレル先生だったことの驚きを押し込めて行動することができた。……わたしは、そういう風を装ってなのがちょっと申し訳ないけど。

 

「コンフリンゴ!」

 

 とはいえ、クィレル先生の後頭部にはヴォルデモートがパイルダーオンしている。こっちの動きは筒抜けで、ロンとハーミーが放った魔法をするりとよけながら攻撃に転じてきた。

 

 魔法を放った直後の二人に、これをどうにかするすべはない。ない、けれど。ここには

わたしだっている!

 

「プロテゴ!」

 

 わたしが斜めに展開した青い盾にはじかれた魔法が、明後日の方向に着弾して爆発する。

 

「みんな!」

「ハリー! 助けに来たよ!」

 

 ハリーが声を上げる。ロンが応じ、基礎呪文の連打をクィレル先生めがけて浴びせまくりながら、ハリーのほうへ駆け寄っていった。このまま挟み撃ちの形に持ち込めたらいいなぁ。

 

 さすがに100年近くも前に廃れた魔法のことは、クィレル先生も知らないらしい。未知の魔法、しかも無言で連射されるそれを無暗に警戒して、プロテゴを展開していた。そのスキを突く形でハーミーがグレイシアスを放ち、相手の身体が拘束される。

 

「ええい何をしている! あの程度の呪文など取るに足らぬと見ればわかるだろうが!」

「申し訳ありませんご主人様……申し訳ありません……!」

「役立たずめが……!」

 

 へこへこと謝りながらもグレイシアスの氷をかき消すクィレル先生。

 ……いや違うな、一瞬だけ顔つきがぐりんと変わった。一時的にヴォルデモートが身体の操作を奪って対処してあげたんだ。

 

 ただ、ずっと身体を乗っ取り続けるだけの力はまだないんだろう。あるいは、それをやってしまうとクィレル先生の身体のほうが耐えられないのか。

 

 どっちかはわからないけれど、とにかくヴォルデモートが出ていたのは一瞬だった。それでも直後、クィレル先生が再び杖を振った。

 

「ボンバーダ・マキシマ!!」

「……っ、プロテゴ・マキシマ!!」

 

 わたしが盾の魔法を展開できたのは、わたしとハーミーの周りだけだった。それでも凄まじい衝撃が部屋の中に吹き荒れて、障壁はわたしたちの代わりにはじけ飛ぶ。

 守る手段がなかったハリーとロンに至っては、そのまま吹き飛ばされて壁に身体をたたきつけられていた。

 

「……一年生で、プロテゴ・マキシマをここまで使いこなせるとは。大人の魔法使いでもろくにプロテゴが使えないものもいるというのに……本当に君は優秀な魔女だ」

 

 いまだに爆風の余韻で風が吹く室内で、クィレル先生の低い声が響く。いつもの吃音症はなりをひそめていた。そしてその顔は複雑な感情が入り混じってか、ひどく歪んでいる。

 この一年間、学校で見せていた姿とはまるで違う姿に、ハーミーは絶句しっぱなしだ。

 

「先生がよかったもので。おかげさまで、随分と魔法がうまくなったなぁと我ながら思います。……ああそれと、クリスマスプレゼントもありがとうございます。学校の図書館にはない本だったので、すごく嬉しかったです」

「あれを有意義に使っているというのなら、君にも素質はあるようだ……どうだね? 素晴らしい提案をしよう。君も私のように、ご主人様にお仕えしたまえ。普段から純血に傅いているなら、抵抗はないだろう? この魔法界でもっとも尊きお方のために働くのだ、ミス・ゼンポウジ……」

 

 おーっと。まさかここで勧誘されるとは。なるほど、中途半端にクィレル先生の好感度を稼ぐとこうなるのか?

 

 これが彼の独断なのかどうかはわからないけど、少なくともヴォルデモート的にはわたしの勧誘は問題ないらしい。純血に常に従ってたのはホグワーツ全体に知れ渡ってるし、わきまえてさえいれば穢れた血にも利用価値はあるって考えなんだろうか。それとも単に、使い捨ての鉄砲玉程度の認識か。

 

「り……リン……だ、ダメ……ダメよ……! あんな人の言うことなんて聞いちゃダメ……!」

 

 強力な魔法と邪悪な気配に圧倒されていたハーミーが、ここに来て声を上げた。怖くて震えているのに、前に出るべきときに出ることができる。実に見事なグリフィンドール魂だ。

 

 大丈夫だよ、ハーミー。あっちにどういう思惑があるかはわからないけど、わたしの答えは決まってる。

 

「ふざけないで。なんでたかが半純血ごときに服従しないといけないわけ?」

 

 正面からクィレル先生に対峙したわたしは、杖を構えながらそう言い放った。吐き捨てるように、心底嫌だという態度を前面に出しながらだ。

 

 これには先生も硬直した。

 と同時に、その後頭部からとんでもない殺気がまっすぐわたしに突き刺さる。隣で、ハーミーがヒッとか細い声を上げたのが聞こえた。彼女の前に、かばう形で立つ。

 

 冷や汗は背中に感じるけど、大丈夫。この程度、怖くなんてない。あの世の異能力バトルで、感情を植え付けてくる能力者に恐怖を直接魂に張り付けられたときに比べればうんとマシ。

 

 だからわたしは、ふんと不遜に鼻を鳴らして口を開いた。それが特大の地雷だってことを承知の上で、だ。

 

「どれだけ偉ぶったところで、マグルの血が混ざってることは否定できないし変わらないでしょ。この魔法界の上に立つべきは純血を貫いてきた方々であって、断じてお前じゃない! さっさとこの世から消えちゃえばいいんだ、ハゲ!!」

 

 直後、クィレル先生の瞳が真っ赤に染まった。怒りで我を忘れたヴォルデモートが、その身体を乗っ取ったんだろう。

 

 そう来るだろうと思ってた。だからわたしは、よどみなく杖を振ることができた。

 

「アバダ「エイビス!」ケダブラ!!」

 

 緑色の閃光が迸る。凄まじい速度でわたしを射抜こうとする輝きを遮る形で、わたしの杖先からダチョウが現れた。そして、すぐさま緑の光に貫かれて即死する。

 

 と同時に、魔法の余波が周りに広がって部屋が大きく揺れた。床や天井、壁にいくつかに穴があき、天井からは破片がばらばらとこぼれてくる。

 この魔法(アバダケダブラ)にこんな破壊力なんて付随してないはずなのに……ほんっとにこのハゲはさぁ……! 人として大切なものを何も持ち合わせてないくせに、魔法の才能だけは青天井なんだからよ……!

 

 とはいえ、今のお辞儀は全盛期には程遠い。長年霞のような状態で現世にとどまっていたことによる弱体化に加えて、自分ではない身体、自分のものではない杖を使ったことによる不調もある。二撃目は飛んでこず、気配もさっきに比べて薄くなった。先生に身体の制御を返さざるを得なかったんだろうな。

 

「殺せ!!」

「は、はい! ただちに!」

 

 しもべに命令することしかできないあわれな帝王殿がみっともなく叫び、慌てた様子でクィレル先生が一歩前に出た……その瞬間のことだった。

 

 彼の身体が、勢いよく仰向けになった。ギャグ漫画のお手本みたいな「つるんっ」だった。

 

 うん、滑って転んだんだ。そのまま勢いよく後頭部を床にぶつけ、実にいい音が鳴り響いた。こっちも漫画みたいだった。

 

「……僕らのことを忘れてもらっちゃ困るぞ、ヴォルデモート!」

「ハリー!」

 

 ハリーの声が高らかに響いた。力強く立って構えられたロンの杖が、こちらを向いていた。

 

 そう、先生を転倒させたのはハリーだ。彼が第三次スネイプ先生包囲網結成以降に練習していた魔法の一つが、今まさに先生の足元で効果を発揮している滑れ(グリセオ)なんだよね。

 無言呪文はまだできないはずだから、さっきのアバダの余波が吹き荒れる中でこっそり唱えて設置してくれたんだろう。

 

 そしてハリーの足元では、ボロボロのロンが気絶して倒れている。

 彼の周りには、空き瓶が2本。わたしがハリーに渡した、ハナハッカエキスの小瓶だ。2本しかないそれを分け合うんじゃなく、ハリー一人に使わせたみたいだ。

 

 中途半端に二人で戦線復帰するより、ハリーだけが万全になったほうがいいって判断をしたんだろうけど、それにしても思い切ったことをしたなぁ。やっぱり彼も、きちんとグリフィンドールだ。この土壇場で、そんな判断できる人がどれだけいることか!

 

「何をしている起きろ! 小童どもを殺すのだ!!」

「ぁ……、……お……、ぉ、ぅ……」

 

 ヴォルデモートがなんか言ってるけど、クィレル先生はか細い声を上げるだけ。あれだけ強く頭を打ち付けたんだ、しばらくはろくに動けないだろうさ。

 むしろよく気絶せずに済んだよね。場合によっては死ぬのもあり得るレベルの強打だったように見えたけど。魔法族はマグルの病気にかからないし長生きだけど、こういう物理的な面でもマグルより強いんだろうか。

 

 あと、ヴォルデモートがもう一度先生の身体を乗っ取ろうって気配はない。それだけの力がもう残っていないのか、それともろくに身体を動かせない状態だと乗っ取っても意味がないのか……。

 

 そんな益体もないことをふと考えたときだ。

 

「ええい役立たずめ! 毛ほども役に立たんお前などもはやいらぬわ!!」

 

 ヴォルデモートが狂ったように叫び、先生の身体から抜け出した。ゴーストよりもなお頼りない、矮小な存在となった彼は捨て台詞を吐くことすらせずに部屋から抜け出そうとする。

 

「あ……! 逃がさないよ!」

 

 その背後に魔法を連射する……けど、やっぱりこの状態のヴォルデモートには魔法は効かないらしい。効かないっていうか、そもそも魂だけの状態だから当たらないって言ったほうが正しそうだ。

 わたしに続く形でハリーもハーミーも魔法を放ったけど、結果は同じ。うーん、これはどうにもできないね。

 

「おお……どうやらわしの出番はないようじゃな? よもやよもやじゃ」

「ダンブルドア先生!?」

「魔法省に行ってたんじゃ……!?」

 

 とそこに、ダンブルドア先生が現れた。どうやらヴォルデモートが急いで逃げたのは、ダンブルドア先生がすぐそこまで来ていたからみたいだ。

 

「うむ、どうやら行き違いがあったようでの。大急ぎで戻ってきたと、そういうわけじゃ」

 

 どうやら今年の事件は、無事に乗り切れたらしい。彼の姿でようやくそう判断して、わたしは安堵のため息をついた。

 




今回初めて感じましたが、ハリポタ世界の戦闘シーンって他とちょっと毛色が違うから、書くのが結構難しい・・・。
ただその分やや緩やか・・・と思ったけど、無言呪文の応酬が基本になる上級者同士の戦いだと何も言わないから余計に難しくなりそうだ。
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