才能に恵まれすぎたドMが魔法界で百合逆ハーレムを目指す話 作:ひさなぽぴー
まあそんなこと言いつつ、ベッドに入って10分以内に爆睡できるわたしは眠りの才能にも満ち満ちてるわけですけどもね。さすがにコンマで眠れるのび太くんには負けると思うけど。
ともかく新学期最初の授業。もらった時間割によると、今日最初の授業は魔法史らしい。こりゃ熟睡者が出まくりですね間違いない。昼一にやるのとどっちがマシかな……。
なんて思いながら朝ご飯を食べてたけど、ダフネの姿が見当たらない。まだ体調が快復してないんだろうか。
「ちょっとアンタ。ダフネの様子見てきなさいよ」
「かしこまりました、ただちに」
おんなじことを思ったんだろう。パンジーが命令をしてくれたので、これ幸いと大広間を出る。半分以上食事を残すことになるけど、これは仕方ない。
そんなわたしを見て、クラッブとゴイルが世界一かわいそうな人を見るような目で見送ってくれた。君らはそうだろうね……そのままの君たちでいておくれ。
「待ってリン、私も行くわ」
「え、でも朝ご飯食べ損ねちゃうよ?」
「大丈夫よ、私今日は一番乗りだったから。それより、リンこそちゃんと食べなさいよね。大きくなれないわよ」
なんとそこに、ハーミーが仲間に加わった。どうやらろくに食べないまま出たわたしを心配してくれたらしい。優しいね。すき。
でもわたし、別に大きくなる気はないしどのみちなれないから、そこはちっとも気にしてないんだ。言っても証明する手段がないから、ありがとうって言うしかないんだけど。
「それに、乗り掛かった船だしね」
「ふふ、優しいんだ」
その言葉に嬉しくなって、思わずハーミーの腕に腕を絡めるわたしだよ。
朝食の時間、みんな大広間に集まってるからそれ以外の場所に人目はほぼない。これくらいいいだろう。
そのまま軽くキスをする。うっすらと朝食のポリッジの味がした。こういうのもいいね。
「あら? お二人とも朝からどうなさったの?」
医務室。出迎えてくれた校癒のマダム・ポンフリーに「15分だけですからね!」と念押しされて中に案内されたところ、優雅に朝食を摂っているダフネがいた。メニューはどうやら大広間と一緒かな。
容体を聞けば、もう大丈夫らしい。ポンフリー先生もそう言ってる。
腕のいいヒーラーの彼女がそう言うなら、そうなんだろう。わたしたちはほっとして胸をなでおろした。
「念のため、一時間目は休んだほうがいいとも言われておりますけれどね」
「それでも大丈夫そうで何よりだわ」
「……ゼンポウジはともかく、グレンジャーはそこまでせずとも良かったでしょうに。大体、スリザリンのわたくしにこんなことをして、自意識過剰な獅子たちに何を言われても知りませんわよ?」
文字にすると呆れたような感じだけど、実際には驚いてる感じだ。どうしてそこまでするのか、純粋に分かってない感じのリアクション。
まあね、朝の時間は貴重だもんね。それを削ってまで、大して面識のない人間のお見舞いに来るのは確かに変わってるかも。
「リンにも言ったけど、乗りかかった船よ。成り行きだったとはいえ、看病した子が悪くしてたら寝覚めが悪いじゃない。それを揶揄するような人は、たとえグリフィンドールの人だろうとこっちから願い下げよ。病人は等しく治療されるべきだわ」
ハーミーのこの発言に、ポンフリー先生が後方癒者面でうんうん頷いてた。職業的に思うところとかあるのかしら。
「……一応、感謝はしておきますわ。……ハウスエルフ、彼女たちに手軽につまめるものを何か渡して差し上げて」
ふいと顔を背けたダフネが空中に声をかける。すると、わたしたちの前にポンと音を立てて小さめのサンドイッチが現れた。
ハーミーが目を輝かせてる。食べ物に向けてじゃなくて、現象そのものに。相変わらずだなぁ。
ちなみに、この世界のハーミーは日本食を求めてわたしと一緒に厨房へ結構頻繁に出入りしてるので、ハウスエルフの実態をもう知っている。彼らと言葉をかわす機会がかなり多いこともあってか、誤解はない。
だから原作みたく、ハウスエルフの権利向上のために先鋭的な活動をすることはたぶんないんじゃないかな。代わりに、ハウスエルフの魔法にすごい興味津々だけど。
「パーキンソン様がとても心配されておられましたよ。……ああそれと、こちらスリザリンの時間割です。お使いください」
「相変わらず気が利きますわね……確かに受け取りましたわ。ご苦労様」
「もったいないお言葉です」
「さ、そろそろ時間です。それに、このままだと授業に遅れますよ!」
とりとめのないことを話しながらサンドイッチを平らげたところで、ポンフリー先生が声をかけてきた。たぶん15分きっかり。これ以上はアカンぞ、って顔してる。
この人はわりとナイチンゲール精神の持ち主というか、患者のためにならないことはすべて排除したがるタイプのバーサーカーだからなぁ。
この状態の彼女に何を言っても無駄。それこそダンブルドア先生クラスの権力や立場がないとどうにもならないし、授業に遅れるのもアレだしってんで、わたしたちは素直に引き下がることにした。
「グリフィンドールの一時間目はなに?」
「薬草学よ。スリザリンは?」
「魔法史。睡眠導入タイムアタックになると思うよ……」
しかもその次は空きゴマ。きっと時間きっかりに退室したビンズ先生に気づかないまま、寝こけてる生徒が一体何人いるんだろうね。
「まったくもう、みんな少しは真面目に受けてほしいわ!」
「そうは言うけどさ、ビンズ先生のあれはさすがにひどいよ。あんな授業を100年以上やってるから、魔法界は歴史学が未発達なんじゃないかな」
わたしは思わずため息をついた。これはあくまでわたしの仮説でしかないけど、わりと信ぴょう性あると思うよ。
そもそもの話、ハリポタ世界におけるゴーストってのはさ、あくまで死んだ瞬間の人間の魂が焼き付いた痕跡でしかないんだよね。
だから彼らは基本的に成長しない。持ってる知識も、考え方も、死んだときからほとんど変わらない。この点に限って言えば、フェイトのサーヴァントみたいなものだ。
だからビンズ先生の授業では、彼が死んで以降の歴史を扱わない。扱えない。彼の中の情報が更新されないからだ。学校の先生でそれは、いくらなんでもダメでしょ。
おまけにただ本を読み上げるだけの授業。しかも声は単調で淡々と続くだけと来れば、子供が寝るのも無理はない。
誤解を恐れずに言うなら、ビンズ先生の授業は歴史学に対する冒とくだとすら思ってるよわたし。あんな教育を受けた人たちから、歴史を尊重しようって気概が生まれるはずがないでしょ。だから薄っぺらい純血主義を掲げてる半純血なんかにいいように振り回されるんだよ。
実際、魔法史学のフクロウ試験突破率、バカみたいに低いって聞いてる。つまり、ほとんどの生徒が歴史を扱える水準に達してないわけでさ。それも100年以上、ずーっと。発達どころか、衰退してるんじゃないの?
まあ、都合の悪い歴史を抹消したがる権力者は多い。魔法があればそれは容易なわけで。
たとえばマグルとの交流を多くしていたマルフォイ家辺りが、歴史学に無能な教師を据えたって可能性もあるんじゃないかなって気もするけどね……。
「……ホグワーツはイギリス唯一の魔法学校だものね。そこの授業の質がずっと悪かったら……ってことね」
わたしが言わんとしてることを理解して、ハーミーは渋い顔をした。素直に同意したくはないけど、一理あるとは思ったんだと思う。
ちなみにそれが実際に起きてる教科がもう一つあって、今年の担当教諭はロックハートだ。要するにそういうことだね。
こっちについては純粋に例のアバダマンのせいだから、マジでふざけんなハゲって言いたい。学校を何だと思ってんだ。
「でもちょっと意外だわ。リンがそこまで悪く言うって、珍しいじゃない?」
「わたしだって人間だもん、好き嫌いはあるよ。元々歴史が好きだから余計、ってのはあると思うけどね」
前世でも、ビンズ先生は嫌いな先生ベスト5に入るくらいには嫌いだった。
ちなみにその上には高い順にアンブリッジとカロー兄妹、そしてロックハートが入る。つまり事実上のワーストだ。
今世でその感情を表に出さないでいられるのは、ひとえに神様にもらった才能のおかげなんだよね。こんなことに才能使いたくなかったよ。
そんなわたしの心境を感じられるのか、わたしはビンズ先生に避けられてる。物理的に。一定以上の範囲内に近寄ってこようとしないんだよね。
なんならわたしが近づこうとするとめちゃくちゃ距離取られるし、もちろん目も合わない。仮にも教師として、それってどうなの? って思うわけ。
まあこの件についてはビンズ先生だけじゃなくって、ゴースト全般やポルターガイストのピーブズからも避けられてる気配があるけど……ん?
待てよ。これってもしかして、ルーナが感じてたのと似たようなことが起きてたりする……?
……うん、この件については今は置いとこう。歩きながらハーミーと雑談をしてたけど、そろそろお互いの授業に向かわないとだ。
「じゃあ次はお昼かしら。またね」
「うん、また。お互いがんばろうね」
そうしてわたしたちは手を振りあって、反対のほうに足を向けた。
「遅い! 見てくるだけでどんだけかかってんのよ! トロールでももうちょっとマシよ!?」
「申し訳ありません!」
なお、ダフネの容体を気にしてずっとやきもきしてたらしいパンジーの見下ろす冷たい視線と罵倒は、相変わらず素晴らしかった。ごちそうさまです。
「……で、どうだったのよ」
「お元気そうでした。ただ、マダム・ポンフリーが念のため一時間目は休んでおきなさいと仰っておりまして。一時間目にいらっしゃるかどうかはわかりません」
「そう……ポンフリーは大げさなところがあるし、大丈夫よね。よかった、お茶の用意しておかなくちゃ」
それとダフネの容体を報告したあと、明らかにほっとして表情をやわらげたパンジーはかわいかったですね。たまーに見せるデレた顔、正直な話ヘキです。
どう転んでもわたしはおいしく頂けるので、そろそろマジでパンジーをご主人様にしたいなぁって昨夜から思ってる。
……とまあ、わたしの痴態はともかく、魔法史の授業なわけだけど。朝一ってことも手伝って、わたしの想像以上にみんながノックダウンされるのは早かった。開始15分と経たずに、起きてる生徒はわたしだけ。ビンズ先生はその状況に一切見向きもしない。
去年も相当だったけど、今年はもう本当にダメそうだな……。
はあ、と思わずため息が漏れたけど……これは見方を変えれば、チャンスかもしれない。魔法史の授業は一回90分の枠だから、まだ一時間以上も時間がある。それだけあれば、ちょっと授業を抜けて戻ってくるくらいはできそうなんだよね。
何をするだァって? 決まってるでしょ。去年一年間、お辞儀がいたから棚上げてたことだよ。
そう、地図の間に行ってみるのさ。地図の間に繋がる階段があるのは3階にあるこの魔法史学教室からはちょっとあるけど、授業中なら人目につく可能性は低いだろう。
そうと決まれば、わたしは荷物をまとめて席を立った。周りの生徒たちを起こさないように音を消して、教室を出る。
周囲の確認……ヨシ!
「……さて行きますか」
日本語でそうつぶやいたわたしは、肖像画対策に目くらまし呪文を使って姿を隠すと、地下に足を向けた。
途中、ミセス・ノリス(フィルチの飼い猫)に見つかるという小さいガバはあったけど、彼女は単独行動してたからなんとかなった。
ふっ、彼女対策にマタタビはバッチリなのさ。これがスリザリン流の準備ってやつですよ。
ということで、天文学棟の地下の地下。マグル学の教室がある場所から先に進んで、さらに鍵のかかった鉄格子を越えた先の階段を下りたところまでわたしはやってきた。
一見すると何もない、ただの行き止まり。だけどわたしの目には、ここにただよう古代魔法の痕跡が見える。床の一部……この行き止まりのちょうど真ん中に当たる場所が、まるで水面のように揺らめいている。
「えーと……ゲームだと確か、こんな感じで杖を……お」
その真上に立って、杖を大きく一振りすれば……揺らめきは一気に大きくなって、激しく吹き上がる。とっても濃い魔法の力を感じる。
やがてその現象が落ち着いた瞬間。今立っている床を囲む位置の床ががくんと下がって、下り階段がらせん状に現れた。この階段、間違いない。ホグレガでもあった地図の間に繋がる階段だ。
……あのゲームから、約100年後が今だよね。この時代だと何があるんだろう。純粋に楽しみだ。
珍しく真面目なこと言うドM。
まあこの意見、ボクの考えをキャラに代弁させてる形なので、作者としてはあまりよろしくないことかなとも思うんですが。
それはそれとして、1章の頃からゴーストやピーブズとの接触が一切なかったのは、単に端折ってたわけではないんですよという表明もちらりと。
本文中にリンが想像したのがそのものずばりです。