才能に恵まれすぎたドMが魔法界で百合逆ハーレムを目指す話 作:ひさなぽぴー
深夜の秘め事が暴露されたわたしは、無事にダンブルドア先生にお説教を喰らう羽目になった。校長室でマンツーマンって形だったからなんとかなったけど、みんなの前でされたらと思うとゾクゾクする。
懲りてねぇなこいつと思われるかもしれないけど、相手が誰なのかまではバレてないからいいんだ。ダフネに累が及ばなきゃ、わたしはそれでいいの。
「愛し合うことは素晴らしいことじゃが、ほどほどにするんじゃぞ」
「はい……すいませんでした……」
のべ一時間に渡ったお説教はそう締めくくられて、わたしはようやく解放された。
ちなみに事件後からイースター休暇が終わるくらいまでの間、ハリーが何か聞きたそうな顔でこっちをちらちら見てたけど、わたしは気づかないふりで強引に乗り切った。お前にはまだ早い。
……一応自己弁護をしておくと、バジリスク前えっちについてだけじゃなくて、分霊箱と正気じゃなかったバジリスク、双方相手に無茶したことも含まれてる。大体半々くらい。
バジリスクについては言うまでもないだろう。
分霊箱については、アレ相手のアクシオが超綱渡りというか、効かなかった可能性が高いから。実際原作だと、アクシオされたことのある分霊箱には全部効いてないし。
だからアクシオが効くかどうかは、わたしとしてもマジで綱渡りだった。効かないかもしれないって疑念が効果を弱めてもマズいってんで、ハーミーには何も言わなかったけどさ。
行けるとは思ってたけど、行けなかったらどうなってたか。そういう状況だったからこそ、お説教されたんだよね。
じゃあなんで効いたのかって言うと、リドルの日記がほぼ抜け殻だったから。
そう、リドルの魂は日記から抜けてジニーの中にあった。魔力の流れからして、繋がり自体は切れてなかったけどそれだけ。魂そのものはさすがにまだわからなかったけど、魔眼は確かにリドルの日記が普通の冊子に限りなく近いものとして捉えてたの。
つまりあの瞬間、リドルの日記は分霊箱としての機能をほぼ失った状態にあった。たぶんだけど、アンカーとしての機能くらいしか残ってなかったんじゃないかな。
それに、魔法的な護りが施されてなかったってことも大きいかもしれない。
他の分霊箱は大体の場合、何かしら強力な魔法で保護されてる描写があった。ちょっとわかんないのもあるから、あとで調べたいところだけどそれはともかく。
日記はそうじゃなかった。魔眼でもそういう護りは何も視えなかった。だからこそ、行けるって踏んだわけ。
つまりリドルの日記は、他の分霊箱にはない「魂を外に出して自由に動けるようになる」って性質がゆえに、身を滅ぼすことになったのだ。
「そういうのを、東洋では『怪我の功名』と言うのではないかのう」
まあ、自己弁護はあまり意味なくて、結局そんな感じで怒られたわけですけどね。はい。
まあわたしのことはさておき、事件後にどうなったかを話しましょう。お説教は話し合うべきことが全部終わったあと、最後の最後に実施されたんでね。
色々すったもんだあったけど、事件直後当時、わたしへのお説教を切り上げたバジリスクちゃん(メスだった。今まで野郎扱いしててごめん)はこちらを襲うつもりはないと言ってくれてて、そこについては穏便に片付いてる。
言動は穏やかで、敵意も一切見せないどころか申し訳なさそうにしてたことから、対話は可能って判断されたわけ。
念のため目隠しだけはしてもらったけど、ともかく彼女の口から今回の事件について語られることになった。
彼女によれば、今回の事件の主犯はトム・リドルの記憶。ついでに言えば、50年前の事件もトム・リドルがやらかしてると彼女は暴露してくれた。要するにお辞儀が悪い。
この辺の経緯としては、おおむね原作通りだからカット。
ただ原作と違った点は、ジニーのトムくんへのスタンス。やはりというかなんというか、わたしとハーミーの猛プッシュの影響で原作よりもだいぶ積極的かつ真剣に恋愛について考えてたらしい。それ以外の悩みもほとんど出さなかったんだとか。恋する乙女は無敵なんだなって改めて思ったよね。
おかげでトムくんのほうも、原作みたいに「くだらないガキの悩み」的にはとらえないで、わりとちゃんと恋愛相談として大人の対応してたっぽい。
まあトムくん自身は愛のことをミリもわかってないから、くだらないとは思ってたみたいだけど。それはクソガキを見下す的なものじゃなくって、崇高な自分とは違う世界の話的な見下しから来てたっぽい。
この辺については、トムくんも同級生から色々恋愛相談とかを受けたりしてたのかもね。
だからなのか、当のジニーはやっぱりトムくんが、ひいては自分が秘密の部屋事件に関わってるってことに気づいてなかったようだ。なんかうすぼんやりと、ハリーが倒れた自分を助けてくれたっぽい、って記憶があるくらいなんだってさ。
とはいえ、この事件に関して主犯としての記憶がないのはそんなに悪いことでもないと思う。一年生の女の子が抱えるにはあまりにも重すぎるもん。
そう思ったのはわたしだけじゃないみたいで、結局ジニーに対しては事件の真相は語られなかった。
幸い原作とは違って、大々的に継承者に連れ去られたって話は学校全体に向けて出されてない。この世界でそれを知ってるのは、本当にごくごく限られた人だけになる。
だから、犯人にさらわれたところをハリーに助けられたってだけが教えられることになり、ジニーはますますハリーに入れ込む結果になった。
ジニーを助けた人の中には妹を本気で案じてたロンもいるんだけど、そっちはあんまり気にされてなかった。わたしとハーミーは感謝されたのに。あわれロン。
まあでも、アニメじゃない現実の兄妹なんて大抵はそんなもんだろうね。ロンも感謝されたくてしたわけじゃないし、ジニーが元気になってよかったって爽やかに言ってた辺り仲いいよね。
ともかくそんな調子だったから、ウィーズリー家に対してもジニーがクソヤバ闇グッズに操られてたって話はされずに終わってる。例外は家長のアーサーさんだけだ。
ああでも、ジニーはそんな調子だったものだから、トムくんが消えたことについては普通に凹んでた。リドルの日記については、ジニーの居場所を教えてくれたあと犯人との戦いの中で壊れてしまったって説明されてたから余計かな。
嘘は言ってないよ、うん。
わたしたちに蛇を通じた脅しって形で居場所を教えてくれたし、犯人との戦いの中で元凶だったから壊したっていうだけで。
とりあえず、万が一「トム・リドルとはヴォルデモート卿のことである」って真実をジニーが知っちゃった場合は、ホグワーツ卒業後になんかあったのだって説明するってことで上のほうでは落ち着いてる。
これも嘘は言ってないよ、うん。
あの蛇顔になるのはホグワーツ卒業後だから、うん。嘘は言ってないんだ。
「先生、結局リドルは何がしたかったんでしょうか? バジリスクは、僕と会って確かめたかったんだって言ってますけど……当のリドルは詳しく聞く前に消えちゃったし」
「さて、のう。今となってはもうわからぬが……しかしどう転んだとて、ろくなことではなかったとわしは思うよ」
まあ、明らかにならなかったこともあるけどさ。この辺については、別に掘り下げる必要はないんじゃないかなってわたしも思います。
で、少し時間は戻すんだけど、バジリスクちゃんとの会話中に秘密の部屋にマクゴナガル先生がやってきて、ジニーとロンとハーミーを回収していった。色んな意味であれこれ言いたそうにしてた……っていうか実際にあれこれ言ったけど、さすがに昏睡状態の一年生をこんな寒々しいところに放置するわけにはいかないってんで、飲み込んでくれたみたいだ。
逆にわたしとハリーは、ダンブルドア先生の依頼で残った。マクゴナガル先生はこれにも抗議してたけど、しょうがないんだ。
何せ、ダンブルドア先生は蛇語のリスニングはできても話せない。バジリスクちゃんは現代英語のリスニングができない。
だからどうしても、通訳できる人間が必要だったんだよね。千年前の古英語ならわかるみたいだったけど、そんなの百歳越えのダンブルドア先生だってわかりっこない。
ということで、ここから先はバジリスクちゃんについてだ。彼女の処遇もここで話し合った。冒頭のお説教はこれのあとでした。
『話を聞く限り、主様の主義主張と現代の純血主義は違うようじゃな』
彼女の語りを聞いた限りでは、スリザリンの「純血主義」は時代的に仕方ないものだったように思う。
当時はまだマグル界と魔法界は分断されておらず、マグルも魔法族も今よりずっと近い場所で生活していた。魔法を秘匿することを定めた国際魔法使い機密保持法が制定されるのはもっとずっとあとで、両者は普通に交流してたんだね。
だけどそれは、必ずしもいいことばかりじゃない。距離が近いってことは、それだけ軋轢が生じる可能性も、頻度も上がるわけで。
時代は10世紀後半、中世のど真ん中だ。治安は現代と比べるまでもなく、安全なところなんてほとんどなかった時代。人の命は軽かった。
ちょっと150年程度遡れば、イングランドは七王国時代であちこち戦乱が絶えなかったし、ヴァイキングの侵攻……いわゆるノルマン・コンクエストは既に始まってる時代だ。
さらにこの狭い島の中にはイングランド以外にも、スコットランドとウェールズっていうまったく別の文化の国があった。いさかいも絶えなかったと思うよ。現代だって色々あるんだもん。
ホグワーツはそこに戦乱真っただ中のアイルランドまで含めた地域……要するにブリテン島とアイルランド島の全域から魔法族の子供を集めて、教育を施そうとした。そりゃあ生徒の間にも不和が起こるってもんですよ。
バジリスクちゃんが言うには、当時は特にマグル生まれの生徒同士のいざこざが絶えず、命に関わるような諍いもたびたび起こってたらしい。そういう子たちはたいていの場合、親同士が戦争をしてるとか、そういう関係にあったとか。
互いに互いの親族が大事な人の仇だったりするような場所で、机を並べて一緒に勉強なんてそりゃあ難しいよなぁ。現代にしたって、スリザリン寮とそれ以外で近い対立があるんだし。
学校全体規模でそれが起きてるってなると、魔法族生まれの魔法族、マグル生まれの魔法族が同じ場所で寄宿舎生活を送るのはものすごく難しいのは想像できる。
スリザリンは、それを嫌ったらしい。余計なマグル界の争いを、思想を、教育の場に持ち込むのがどうしても受け入れられなかった。
『そんなマグル生まれ同士の諍いに巻き込まれた純血の子がケガをするような事態が、主様は何より許せなかったようじゃ』
しかもそれが、自分に縁のある近しい一族の子に起こったことで、スリザリンの考えは決定的に固まってしまったみたいだ。グリフィンドールたちの方針を、理想主義が過ぎるって批判するようになって……それで。
なるほど、身内をことさら愛するスリザリン寮生の気質は、スリザリン本人もばっちり持ってたんだね。理想より目の前の現実を取るのもスリザリンらしい。
ただ、だからって殺してしまえだとか、支配してしまおうとか、根絶やしにしてしまえとか、そんなことまで考えてたことはないらしい。あくまで場所を分けよう、住み分けようってのが彼の主張だったみたいだ。
ホグワーツって場を純血魔法族だけの学びの場にしたかった。それだけのことで、マグル生まれの魔法族が自分たち独自の学校を作るならそれはそれで別に構わない、とも思ってたらしい。
だからこそ、バジリスクちゃんに与えられた使命は殺すことではなく、守ること。その邪視を向ける相手は外敵だった。彼女はそう語る。
先にも述べた通り、マグルと魔法族が今よりずっとずっと近かった時代だ。マグルの戦争に思いっきり関与する魔法族はいたし、逆もしかり。ホグワーツそのものが攻められることも、きっとあったはずだ。
魔法族同士の争いなんて言うまでもない。ホグワーツが城の形をしてるのは、そういうことなんだろう。
そんな、ホグワーツを侵そうとする外敵からホグワーツを守る。ホグワーツで学ぶ純血の魔法族を、守る。スリザリンは、バジリスクちゃんにそう託した。
『それが主様の願いであった。だと言うのに、妾は……』
バジリスクちゃんはそう締めくくると、寂しそうに顔を伏せた。
彼女、いつの頃からマグル生まれを穢れた血と呼ぶようになり、殺したいほど憎むようになったのか、覚えていないらしい。たぶんだけど、呪いに合わせて忘却呪文を受けたんだろう。
誰がやったのか、はっきりはわからない。だけど、それができた人間は限られる。ゴーント家の人間だ。秘密の部屋に入ることができたのは、彼らだけだもの。
「ゴーント家は、昔から極端な純血主義の家系じゃった。マグル生まれを公然と蔑み、マグルを特別劣った家畜のようなものだと見て、拷問の魔法をかけて遊ぶような。故に滅びた。そんな彼らにとって、そなたの持つスリザリン当人の知識や思想は邪魔だったのじゃろうな」
ダンブルドア先生はそう語った。わたしもそう思うし、ハリーだってうんうん頷いて同意してる。
あるいは、そんなゴーント家の在り方に、かつてのバジリスクちゃんが真っ向から反抗して戦いになった可能性だってあるかもしれない。それくらい、彼女が語ったスリザリンの思想は現代の純血主義とは違う。
ましてや、今なおスリザリンを主と呼ぶ彼女にとって、主の思想を歪められることは受け入れがたいだろうし。
「もし君がよければ、これからもホグワーツで生徒たちを守ってはくれんかね。時代柄、マグル生まれの子も区別なく守ってほしいというのが当代校長であるわしの願いじゃが……」
『そんなことが許されるのか? 妾はこの数か月の間に、二人の生徒を石にしておるんじゃぞ。50年前に至っては、一人殺してしまっておる! そんなことをしでかしたものが守るなど、おこがましいではないか……!』
「いいや、君は操られていただけじゃ。君が悪かろうはずはないよ。それはきっと、スリザリンも同じように言うじゃろうて」
『そうだよ。悪いのは君を操ってたやつらだよ!』
『わたしもそう思うな。大丈夫、過去は消えないけど、やり直すことはできるよ。ね?』
『…………。わかった……こんな妾にどこまでできるかわからぬが、できる限りやってみよう』
「おお、やってくれるかね。ありがとう、ホグワーツを代表して礼を言わせておくれ」
こうして、バジリスクちゃんは生き残り、ホグワーツを守る任務に就いた。
ついでに、わたしとハリーは彼女のお世話係に自動的に就任することにもなった。まあうん、蛇語わかるのが今のところわたしたちしかいないもんね。
「ところで、君のことはどう呼べばよいかのう? スリザリンから何か名前をもらってはおらんのかね?」
『名前か。主様は妾のことを、イシュカと呼んでおった。それで呼んでくれればよい』
「左様か。では、改めてよろしくのう、イシュカ」
ダンブルドア先生はそう言うと、バジリスクちゃん……イシュカに礼を取った。それは現代にも伝わる、由緒正しい魔法界のマナーの一つ。
イシュカはこれに目を細めると、小さく頷いて『こちらこそ』と言ったのだった。
そんなある種感動的な対話の瞬間を見届けたわたしは、いきなり大仕事を頼むのは心苦しいなぁって思いながらも、口を挟む。
『あの、そういうことならぜひにでもイシュカにしてほしいことがあるんですけど。それも可及的速やかに』
『なんじゃと? おい小娘、下手な嘘はやめておけ。悪い子は食ってしまうぞ?』
「……ふむ、何かあるのかね?」
「いやその。禁じられた森の奥に、アクロマンチュラのコロニーがありましてですね?」
「え」
そうだよね、さすがのダンブルドア先生もそういう反応になるよね。
でも本当だもん。本当にアクロマンチュラいたんだもん!
ハリーとイシュカはというと、ピンときてないみたいで首を傾げてる。ああ、そういえばアクロマンチュラが発見されたのって18世紀末だっけ。ハリーも原作と違って接点がまだないから、そりゃ知ってるはずがない。
ただイシュカのほうは、50年前の話をしたら思い出したみたいで、『ああ!』と納得した様子を見せていた。どうやらトムくんからどういうものか聞いてたらしい。
ところで、その隣でダンブルドア先生がまさかって顔したの、わたし見逃さなかったよ? 心当たり、そりゃあるよなぁ先生よぉ!
放っておいたら、お辞儀がホグワーツ侵攻のときにやつらを戦力として駆り出すんだ。何より、あまりにも危険すぎる。あんなやつら、いないに越したことはない。
ずっとどうしようか考えてたけど、これで合法的にあいつらをせん滅できるぜ!
「……あいにくと……その可能性は……うむ、かなり高いと、わしも思う」
『は? お主それ正気で言っとる? アクロマンチュラとかお主あれじゃろ、未熟な学生なんぞ手も足も出んのじゃろ? 死ぞ? そんなのが近くの森にいる? それもコロニーで? 主様が残したホグワーツで、何をしてくれとるんじゃ!?』
ワイトもそう思います……。
スリザリンが当時どういう主張でもって純血主義を掲げたのか。これは完全にボクの妄想ではありますが、可能性としては結構あるんじゃないかと思ってます。
お辞儀以降のホグワーツではスリザリン寮とそれ以外の寮が対立していますが、それに近しいことがホグワーツ全体で起きてたんじゃないかなと。そしてそれは、マグル界の諍いや戦争に端を発していたんじゃないかなと。
そんな状況であれば、理想より現実を取るスリザリン寮に名を冠したスリザリンが、理想を捨てるのはそんなにおかしなことじゃないだろう、と思う次第です。
あとそれはそれとして、ゴーント家がヘイトタンクとして優秀すぎる。なんだこいつら。たまげたなぁ。
ちなみに、「イシュカ」はアイルランドやスコットランドで使われていた古ゲール語で「水」という意味。ウィスキーの語源の一つ。
スリザリン寮はエレメント的に水をつかさどるので、ふさわしかろうと思い命名しました。
発音をカタカナにするといろいろな書き方ができるっぽいけど、女の子っぽい響きを優先してイシュカとしました。