才能に恵まれすぎたドMが魔法界で百合逆ハーレムを目指す話 作:ひさなぽぴー
観光がてら外宮の中を歩いて、わたしはさらにびっくりする羽目になった。
だって、外宮内を漂う古代魔法の痕跡以外にも、あちこちに古代魔法の力の集中点が見えるんだよ? これはもう、神社全体がそういうパワースポットって見て間違いないでしょう。
この力の集中点、通りがかるついでに触れてみたりしたところ、かすかにわたしの古代魔法のリソースが増えたような感覚があった。ホグレガでも同じようなことは起きてたから、これはもう伊勢神宮全域を巡るしかないかもしれない。
ということで細かいことを考えるのをやめて、わたしは集中点を巡りつつ、古代魔法の痕跡を辿ることにした。幸いと言うべきか、外宮の中にいる限りはどこにいても視えるっぽいから、観光のついでにそれとなく追跡ができた。
「で、辿り着いたのがこの三ツ石ってワケ」
「誰に話しかけてるの?」
「様式美だよ」
そんなお茶目を挟みつつ、わたしは
三ツ石。外宮の新本殿を建ててる敷地の南側にある石積みだ。三個の石を重ねてるから、三ツ石。シンプル。
普段は綱で囲われてるこの石は、わざわざ人が入らないようにしてるところからお察しの通り儀式に使う場所だ。主に式年遷宮のとき、ここで飾りとか調度品、なんなら人を清める儀式が行われる、一種の祭壇の役割があるんだけど。
その石の一メートルくらい上の虚空に、ひときわ強い魔法の塊が浮いているのが視える。ホグワーツで見た古代魔法の痕跡とは紋様が違うけど、わたしにはわかる。
これは古代魔法の紋様だ。見た目が違うのは、単に土地が違えばそこは変わるってことなんだろう。
まあその紋章、ご丁寧に菊の御紋なわけですが。うん、百パー皇室関係の場所でしょうね……。
しかしさて、そのものずばりなものがあったわけだけど、どうしたものだろう。
本音から言えば、触りたい。これにかかわることで、何が起こるのか。どんなものが待っているのか。それを考えるとわたしの小さなお胸はワクワクで満たされちゃうのだ。
だけどわたしの中の冷静なわたしが、ちょ待てよって止めてくる。
未成年が魔法を使うのはダメ、っていう法律云々の話じゃない。今の日本魔法界に、古代魔法の使い手がいないこと。そしてわたしが生粋のマグル生まれなことが問題なんだ。
前話でも触れたけど、皇室は古代魔法の継承者だ。古代魔法ってのはあくまでイギリスでの呼称なんだけど、ややこしいから全部古代魔法で統一させてもらうとして。
日本魔法界の書籍には、歴代天皇の多くが文字通り、神の持つ魔法と言わんばかりの奇跡を起こしてるって記録がたくさん出てくる。そうだね、古代魔法だね。
魔法族が普段使う魔法も十分奇跡的な代物だけど、古代魔法はその上を行く。何せ干ばつを豊作に変えられるんだもんな。
初代神武天皇から続く欠史八代はさすがに魔法界にも一次史料は残ってないけど、魔法界に伝わってる逸話を総合すれば、恐らく全員が古代魔法の使い手って見るのが妥当だと思う。
他にも古い時代の天皇ほど、古代魔法と思われる魔法を使ってる人が多い。そりゃ血筋を辿れば主神とも言うべき天照大神に行きつくってされるのも納得だし、純血の定義が古代魔法ありきで固まるのもわかるってもんよ。
うん。日本魔法界における本来の純血って、天皇家およびそこに連なる宮家だけなんだ。
これは本当の魔法とは古代魔法であり、それ以外の魔法は劣化したものという認識から生まれた考え。
古代魔法の使い手こそが真に純血の魔法使いで、世の中の一般的な魔法使いは純血からその力を分け与えられた人たちって発想だね。だからこそ、以前にも言ったようにわたしはその基準に従えば、純血ってことになる。
だけど今、その使い手はいない。一人もいない。
それどころか、魔法使いすら一人もいなかったりする。
ごくごくまれに、恐らくは生まれた直後から魔法力を発揮するくらい才能に恵まれた子供が生まれることはあるみたいだけど、そういう子も成長と共に魔法力を失う。魔法力がなければ、どんなにすごい魔法だって使えないのは当然だよね。
だから独自路線を行く一部の宮家だけが、例外的に少し魔法族を輩出してるくらいだ。
じゃあどうしてそんなことになってるのかって話だけど……答えは簡単。
前にわたしが、秘密の部屋編で皇室が血の呪いを受けたって言ったのを覚えてる? 実はこれがそうなのよ。天皇家は血の呪いによって、スクイブしか生まれない家系になっちゃってるのだ。
マグルじゃなくてスクイブってのがいやらしくて、ゴーストを視認できる程度にはわずかに魔法力がある。それでも魔法を使う水準にはほぼ達してないから、魔法族にしてみればそんなの生殺しだよね。
魔法族から魔法力を奪うとか、たぶんあのヴォルデモートですら義憤に駆られるレベルなんじゃないかな。ガンジーも助走つけて殴るレベル、の類義語みたいな。
そんなとんでもない呪いの発端は、なんと古代魔法の使い手。要するに皇族です。
彼の名前は
彼は呪う際にこう言った。
「
と。
なんでそんなことを言うに至ったのかは歴史の話になるから省くけど、とにかく皇室を恨むような目に遭ったのね。
そして古い時代の天皇は、大体の場合凄腕の魔法使いだ。そこに古代魔法の使い手って強化オプションがついてくる。
もちろんすべての天皇が古代魔法の使い手ってわけじゃないんだけど、崇徳天皇はばっちり古代魔法が使えた。そんな天皇が全身全霊をかけて放った呪い……って言われれば、どんだけヤバいかはわかってもらえると思う。
うん、何せ800年近く経った今も、多少薄れてはいても途切れることなく続いてるからね。マジでヤバいよ。
この呪いの何がヤバいって、天皇当人にだけ影響するわけじゃない、ってこと。
天皇が呪われてるんじゃなくて、天皇の血筋そのものが呪われてるから、天皇家の血が入ってれば呪いは無差別に発症するんだよね。その性質から、天皇家を滅ぼしても意味がないっていう。
おまけに、血縁が離れてても発症する。さすがに天皇家から遠くなればなるほど発症率は下がるけど、それでもゼロにはならない。
逆に言えば、近いほど上がる。天皇および上皇の子供は全員が確実に発症するけど、皇室と婚姻する可能性の高い上位の公家や、皇室から臣籍降下した源氏や平家といった家系もまた、この呪いを発症する可能性は高い。
そういう家系ほど魔法族同士の婚姻が進んでたから、イギリス的な純血であればあるほど呪いの発症率は高かったんだよね。
なんか調査によると、皇室の血を一切混ぜることなく10代くらい経ても、まだ呪いの発症率は3割を超えるらしいよ。あまりにも皇室を滅ぼすって意志に満ち満ちてる。シンプルに怖いよね。
要するに日本魔法界では、魔法族としての血が濃ければ濃いほどスクイブになる可能性が上がると、呪いによって明確化されちゃってるわけ。そりゃあイギリス魔法界でいうところの純血の考え方は、生まれないだろう。
ちなみに古代魔法の使い手が絶えて久しい現代では、純血って言葉はただ両親と祖父母が魔法族である人だけを指すのが一般的になってるよ。それだけ魔法使いの数が少ないってことでもあるけど。
この呪いがかけられてすぐ、かつ実態がまったく知られてなかった鎌倉時代半ばに至っては、日本魔法界に半世紀近く魔法使いはほとんど生まれなかったらしいよ。日本魔法界にとって、鎌倉時代は最も混乱した時代って言われてるくらいだ。
もちろん、当時の人たちだって黙って見てたわけじゃない。呪いの実態がわからないながらに色々知恵を絞って、色んな方策を講じたりしたんだよ。
たとえば鎌倉時代後半には、天皇家を二つに割ることで緩和を狙ったりとか。いわゆる持明院統と大覚寺統だ。まあ、魔法的に目に見える効果はゼロだったんだけど。
それどころか皇統が二つになって天皇の範囲が広がった結果、魔法族が生まれない範囲が広がったうえに、南北朝時代の混乱を呼び寄せただけで終わったんですけどね。
そんな事情のせいで、日本魔法界は他国に比べると圧倒的にスクイブ率が高い。魔法使いの数が少ないってのは、そういうことなんだよね。
ちなみに、マホウトコロは最も歴史の古い魔法学校の一つの中では、所属生徒が最も少ない。そういう公式設定になってる。この世界でもそう。
この設定を知ったとき、わたしは首を傾げたものだ。だってマグル界の人口はもちろん、国土の面積の上でも現代ではイギリスより日本のほうがあるはずなのに。
なんでそんな設定なんだろう? って思ってたんだよね。その理由がこれだ。
日本魔法界がマグルを見下してないのは、この辺の影響もあるんじゃないかな。これだけ人口差があれば、魔法族だって色んな意味でマグルを無視できない。
ついでに、日本魔法界が少しでも闇の魔法に属する魔法をことさらに忌避するのも、これが理由。日本の魔法族は、その大半が呪われていると言っても過言じゃないから。
だから日本魔法界は、呪い大国なんだよね。彼らが解呪に全力なのは、すべてここに帰結するわけ。
そんな魔法族を滅ぼしかねない血を今でも日本魔法界が中枢に据えてるのは、皇室の血がそれだけ魔法族として優れているから。皇室の血が濃い魔法族は、大体有能なんだよね。
なんていうか、魔法族の才能や資質って、マグルよりも比較的血縁の影響を受けやすいよね。家族全員有能なウィーズリー家とかがいい例じゃないかしら。
あと、皇室の血そのものが魔法的な鍵になってるものや場所がちょこちょこあるのも大きい。
魔法もそうで、たとえば天皇が時季ごとに行ってる様々な儀式はすべて儀式魔法らしいんだけど、あれは皇室の血縁がやらないと意味がないんだって。そうやって汎用性を削った代わりに効果を高めた魔法なんだってさ。
まあ、スクイブがやっても意味がないから、結局今の皇室はそれらの魔法を使えてないんだけど……少なくとも、その儀式の手順や必要なもの、意義を失うことなく現代まで継承してきたことの意味は大きい。
結果として、今上天皇まで続く皇統は魔法は使えないけれど、重要な儀式すべてを継承する血筋って扱いで生き残った。
天皇になると以降の世代は確実に魔法力を失うから、大半の宮家が天皇を継承したくなくって押し付けた結果、とも言えるんだけど。そこはまあ、結果オーライってやつだよね。
経緯はともかく、歴史があることは間違いない。歴史そのものへの敬意も、皇室が今も魔法界の中枢にある理由の一つだ。
このおかげで、天皇は権力を持たずともマグル界、魔法界双方で国民統合の象徴として機能してるってわけ。
そしてここまでのことを、マホウトコロでは魔法史の基礎──100ページ超えの情報を基礎って呼んでいいかはさておき──として学ぶ。日本魔法界の歴史は、血の呪いの歴史とほとんどイコールだから。
これは歴史を尊重してるとか、そういう学問的な美談じゃない。血の呪いのことを後世に伝えることで、いつの日か天皇家とその血縁すべてにまたがる古代魔法による血の呪いを解く。そういう執念の代物だ。
そのためだけに日本魔法界の歴史学はあると言っても過言じゃない。それがわたしが教科書を読んで受けた印象。
ところがここに、一人例外がいる。そう、神様から直々に才能を授けられたわたしだ。
わたしは、その家系図を辿ればわかる通り生粋のマグル生まれ。善宝寺家には12世紀に渡って皇室の血は入っていない。
それどころか、魔法族の血だって入っていない。たぶんだけど、崇徳天皇が想定した「民」ですらないマジモンの例外なんじゃないかな。
そんな人間が、魔法どころか古代魔法まで使うことができる。こんなの、どう考えても政治的にまずい。
まず間違いなく新しい純血の誕生って思われるし、それで済むなら万歳だろう。
最悪の場合、かの天皇が言った、皇にとって代わる民……つまり危険分子ってみなされて、ぶち殺される可能性があるでしょ。
そうじゃなくても、天皇家に代わる存在として担ぎ上げられる可能性だってある。その過程で暗殺とか、そういう可能性もある。
天皇になること自体が儀式で、その辺の手順や存在をすべて把握してるのは今の天皇家だけだし、女性がなるのは王朝が切り替わることからわたしが即位させられる可能性は高くないかもだけど……一番穏当なところで、無理やり皇室に嫁がされるってところかな?
今のところわたしに釣り合う年齢の男性皇族はいないけど、元宮家のほうはわかんないし、マグル側の歴史では断絶した扱いの宮家が魔法界には普通にいくつも存続してるしなぁ。
てなわけで、今目の前にある古代魔法にかかわっていいのかなぁって思うわけ。これに触れた瞬間、関係各所に連絡がいくようになってたとしてもわたし驚かないもん。
逆に下にも置かない扱いをされる可能性もゼロじゃないけど……わたしそういうのは望んでないんですよね……。
わたしがほしいのはわたしのことが大好きな女の子と、わたしのことをたくさんいじめてくれるご主人様であってですね……それ以外はあんまり必要ないっていうか……。
ただ、皇室に認知されることが必ずしも悪いわけじゃない。
呪いを受けて約800年、ずっと解呪のために奔走してきた日本魔法界において、一番呪いに関する情報が集まってるのは間違いなく皇室なわけで。
その情報にアクセスすることができれば、あるいはダフネの。グリーングラス家の呪いを解く手がかりだって手に入るかもしれないでしょ。
ダフネの、そして彼女の愛する家族のためなら、わたしの命をかける価値はあるって思ってるのも本当で……いやまーじで、どうすればいいのかなぁ。
「リン」
と、そんな悩むわたしの手がそっと握られた。ハーミーだ。
思わず呼ばれるままに顔を向ければ、そこには真剣な顔でわたしを見つめる彼女がいた。その凛々しい顔に、思わずどきっと胸が高鳴る。
「リンがどんなこと考えてるか、全部はわからないけど……私は何があっても一緒よ」
「ハーミー……」
「だから、リンの好きにしていいと思う。大丈夫、絶対、ずっと傍にいるわ」
「ハーミー……♡」
ああもう、ほんっとわたしの彼女は最高に素敵でかっこよくて、それでいてとってもかわいいんだ! すき!!
……とはいえ、このまま菊花紋様の古代魔法に一直線ってことにはならない。なんでって、おじさんとおばさんがいるからだよ。
下手したら二人を巻き込むことになる。それは避けないとだ。法律的にも、倫理的にもね。
ということで、外宮の観光も終わって旅館にチェックインして、伊勢志摩の海産物に舌鼓を打ったたあと。早めに寝たわたしとハーミーは、夜中に起き出してこっそりと旅館を抜け出した。
「どうするの?」
「こんなこともあろうかと、こんなものを持ってました」
旅館を出るとき、スーツケースからわたしが持ち出したもの。それは箒だ。
もちろん掃除用じゃなくて、空を飛ぶためのもの。つまりは魔法のアイテムだ。
とは言っても、ハリーが持ってるニンバス2000みたいなイギリスの箒じゃない。ハーミーたちが来日する前に玄武大路で買った日本製で、かの有名な日本のクィディッチチーム、トヨハシテングでも使われて……いた、昴
うん、使われていた、だ。もう型落ちしてて……だからお安く買えたんだけどね。
「なんでそんなの持ってきてたの?」
「いや、そういうつもりで持ってたわけじゃなくて……魔眼の練習と魔法道具の構造を調べるのに買っただけ。ホントだったら分解するつもりだったんだよね」
要するに、カメラの後釜だ。あますことなく解析して、何かしらいいものを作れたらいいなって思ってる。そんなだから、ハーミーへの返答は苦笑しながらになった。
同時に、急ごしらえでタンデムシートを取り着けた昴48式に、二人でまたがる。
「それより、行こう。しっかりつかまっててね」
「ええ。……これくらいでいい?」
「うん、大丈夫。行くよ!」
後ろからぎゅって抱きしめてきたハーミーの、柔らかい感触にドキドキしながら合図する。
軽く地面を蹴れば、わたしたちは昴48式ごとふわりと夜の空に浮かび上がった。
うん、箒に乗るの実は一年生の授業ぶりなんだけど、身体がきちんと覚えてる。問題なく操縦できてるな。
ここら辺は自転車みたいなものなのかも。ま、わたしが授かった才能の影響もあるだろうけどね。
そのままぐんぐんと高度を上げていけば、ところどころに光がまたたく日本の夜景が眼下に広がった。東京や大阪みたいな大都市ほどじゃないけど、これはこれで一種の趣がある。
特にこうやって上空からマグルの街並みを眺める機会なんてそうそうあるものじゃないから、二人揃って思わず感嘆の声が漏れた。
うーん、なかなかの景色だ。クィディッチは正直興味ないけど、こうやって箒で空を飛ぶのはわりと好きかもしれない。
夏だってのに上空の夜風はそこそこひんやりしてるけど、それも悪くない。ハーミーと二人乗りしてると、体温感じられるしね。
「……今度は何もないときに、こうやってデートに行きたいね」
「いいわね。でも夜ならまだしも、昼だと難しいわよね……人目についちゃうもの」
「そだねぇ。大人になってどこでも魔法が使えるようになったら、目くらまし呪文でなんとでもできるんだろうけど」
まあ透明の呪符があるから、それで代用はできるんだけど。呪符って起動したあとは自分の意思でオンオフできないから、透明化とかは使いどころがちょっと難しいんだよな。一応フィニートでオフにはできるけど、それやると残り時間がどれだけあってももう二度と使えなくなるし。
うーん、もっと完成度の高い透明化魔法ほしいな。
作るか。作っちゃうか。幸い、研究材料は去年のうちに揃ってるし。
「……なんて言ってるうちに見えてきたよ。外宮だ」
恋人同士のつかの間の空中デートはここまでだ。
さて、果たして伊勢神宮では何に出くわすのかな。ワクワクしつつも、ハラハラしてる自分の心ににんまりと笑みを浮かべて、わたしは昴48式の頭を下に向けた。
日本の総人口はイギリスより多いのに、マホウトコロの在校生が公式で判明してる魔法学校の中で一番少ない設定なのは、日本魔法界が古代魔法による血の呪いでスクイブだらけだったからなんだよ!(キバヤシ
とまあこんな感じで、しばらくはドMのあたおかエピソードはそんなにない回が続きます。
ちからをためている。