才能に恵まれすぎたドMが魔法界で百合逆ハーレムを目指す話 作:ひさなぽぴー
深夜の神宮とその周辺は、ほとんど真っ暗でちょっと怖かった。
明かりは出せない。何せこれはスニーキングミッションだからね。
だけどわたしの目には古代魔法の痕跡が見える。敷地内に入るとその痕跡が光って見えるから、わたしにしてみればここの闇はあんまり闇に感じない。
ハーミーはそうはいかないけど、彼女はわたしを全面的に信じてくれるみたいだ。彼女の信頼がアツい。これに応えなきゃ女が廃るってもんよ。
だからわたしはハーミーと手を繋いで、迷うことなく古代魔法の痕跡を追っていく。相変わらず地面を這うように、まるで誘導するかのように光が道を描き出している。
これだけ明るいのに、他の人には一切見えないってのも不思議だ。魔法はマグルの感覚じゃ不思議そのものだけど、古代魔法は魔法族から見ても不思議に満ちている。
「着いたよハーミー」
「暗くてほとんどわからないけど、確かに昼間来た場所ね」
そうして辿り着いたのは、昼間にも来た三ツ石だ。一メートルほど上のところには、昼間と変わらず菊花紋が浮かんでいる。
これ、千年以上もここにあったのかな。そう思うと、なんだか妙に感慨深い。
だけどわたしたちの目的は、鑑賞じゃない。だからわたしたちはどちらからともなく視線を交わすと、これまたどちらからともなく杖を抜いた。
この先は何があるか、何が起こるかわからない。未成年が魔法を使うのは違法だけど、命の危険があるときはその限りではないからね。構えておくに越したことはない。
「……それじゃ、行くよ?」
「ええ、お願い」
そしてその会話を合図にして、わたしは紋様に向けて杖を振る。すると紋様はするりと溶けて雫のようになって三ツ石の中に沈んでいき、これに合わせる形で光がほどけて消えた。
だけど暗闇になったのは一瞬で、次の瞬間三ツ石から白い光があふれて鳥居の形を取った。
実体はたぶんない。光でできた鳥居だ。
その鳥居の向こう。外宮の景色が広がってるはずのそこには、明らかに他と切り離された空間が広がってるのが見える。洞窟だ。
空間跳躍なのか、亜空間なのか……。どっちにしても、この鳥居がゲートなのは間違いない。それを確認して、わたしはハーミーに目配せした。
彼女は、グリフィンドールらしい覚悟を決めた顔で、うんと頷いてくる。わたしも頷き返すと、二人で手を繋いで鳥居の中へと踏み込んだ。
途端に周囲の空気ががらりと変わる。1993年の夏は2020年代に比べれば涼しいけど、それでも夏は夏。上空はともかく、地上ではそれなりの気温を感じてたのに、急に肌寒くなった。もうちょっと厚着してくるべきだったかもしれない。
「……結構ひんやりしてるわね」
「水の音も聞こえるよ。川が流れてるんだ」
そして鳥居は一方通行だった。くぐった先で振り返れば鳥居は影も形もなくって、進んだ先で何かしないと外には出られないらしい。
だから二人で奥へ進むことにしたんだけど……要所要所で道が途切れてて、断崖絶壁になっていた。ジャンプ程度じゃ越えられないくらいの断絶があって、さてどうしたものかと思ったけど……わたし、閃きました。
箒に乗ればいいんじゃね? とね。
いやわかってる。みなまで言うな。ルールで禁止スよねって言うんでしょ。
実際ホグレガだと、こういうところで箒には乗れなくて、自力でなんとかしなきゃいけなかった。箒を禁止する魔法か何かがあったんじゃないかな。
でもね……うん……。残念ながら、問題なく使えちゃったんだ……。
おかげでどんな断崖絶壁だろうと、あっという間。これが試練なんだとしたら、ここを作った人は泣いていい。
うん、たぶんだけど、本来は古代魔法で橋をかけるなり仕掛けを解くなりして進むのが正解なんだと思う。
でもここが作られた当時は、恐らくまだ日本には空飛ぶ箒なんて文化は影も形もない時代。
なんなら発想すらなかったかもしれない。何せ空飛ぶ箒の文化は江戸時代入ってからだもんね。
そして皇室が古代魔法を失ってから、およそ800年。その間ここが使われてないだろうことを考えれば、箒で強引に突破するやつへの対策が導入されてないのは当然なのかもしれない。
設計者の想定を外した攻略方法には、思うところがないわけじゃないんだけど……一応こっちにも時間制限ってものがありましてね。つける穴は徹底的につくことにしましょう。なにせわたし、スリザリンの女なので。
ということで、道中の仕掛けはまるっとスキップさせてもらった。それなりの量が目白押しだったんですけどね。
古代魔法による橋掛けが必要と思われる場所を皮切りに、ヘロディアナの間を思わせる大型のパズルを解かないと行けなさそうな場所や、特定の手順を踏まないと出現しない足場を昇っていく場所。一定時間以内に渡り切らないと消える足場を適宜出現させながら進む場所、なんてのが続いたんだけど……ぜーんぶスキップ。
何がまずかったって、この空間かなり広々してるんだよね。一般的に洞窟って言って想像するような、岩と壁だらけじゃなくて……あけっぴろげな空間の中に、落ちたら死ぬぞ的に細めの道が崖みたいな感じに続いてる形なのよ。
下がまったく見えなくって、普通に進む分にはかなり怖いだろうけど……その分、空を飛ぶのを妨げるものがなんにもなくってね……。
「すごく悪いことしてる気分だわ……」
「強いて言えば、悪いのは崇徳天皇なんだよねぇ……」
血の呪いで皇室が軒並みスクイブになってなきゃ、ここの仕掛けも時代に合わせて相応にアプデされてたんじゃない?
だって箒なしの生身で空を飛べるのって、長い魔法族の歴史の中でもお辞儀くらいでしょ。それとスネイプ先生。
そう思うと、誰も悪くはないっていうか……うん……。
「あそこが最後の場所かな」
「ここまで三分もかからなかったわね……」
結局カップラーメンすら出来上がらない時間で、実にあっさりとわたしたちはゴールまで辿り着けてしまった。
ハーミーが言うように悪いことしてる気分になるのもわかるけど、まあそんなこともあるよね。切り替えてこ。
さてそんなゴール地点には、ここに来たときと同じく、ちょっと小高い位置に設定された広間のような足場になってる。そしてその中央には、階段らしきものが据え付けられていた。
らしきもの、っていうのはそれが木でできていて、既にあちこちが朽ちちゃってるから。
左右にある大きめの柱からして、完全な状態だったらかつての出雲大社みたいな荘厳な階段があったのかもしれない──さすがにあそこほど大きくなかったと思う──けど……。そうだね、メンテされないままだったってことだろうね。
出口らしきものは見えない。代わりに、階段らしきものの最下段と思われる位置の目の前に、古代魔法の痕跡が浮かんでる。入ってきたときと同じく、菊花紋だ。
その下には、お盆みたいな受け台のようなものが置かれてる。随分と底の浅い、だけど結構幅のある受け台だ。上から見れば、真円に限りなく近い形かも。
でも、その中には特に何もない。絵は刻まれてるみたいだけど、それだけ。
もしかしてペンシーブかなって思ったけど、でもあれは中に液体があるから、違うよなぁ。なんだろこれ。
困ったときの魔眼くん! ってことで魔眼で視てみたら、台にも魔法の気配があった。こっちも古代魔法の気配だ。
イギリス以外で古代魔法そのものを見るの初めてだから具体的にどんな魔法かはわかんないけど、推測はできそうだ。たぶんだけど、何かを生じさせる系の……変身術、それも出現呪文に近い系統かな?
「ここで何かをするのかしら」
「ここにも古代魔法の痕跡があるから、たぶんそうだね。早速やってみるよ」
ということで、菊花紋に向けて杖を振る。
するとここに入ってきたときと同じように、紋様がするりと溶けた。
入口のときとは違って、その色は赤くなっていく。最終的に金属的な光沢がある赤い雫と化した紋様が、そのまま受け台に注がれていく。
底の浅い受け台は、すぐにその赤い何かでいっぱいになった。波紋はほどなく落ち着いて、水面は一切動きのない完全な凪になる。
やがてその表面は、太陽を思わせる赤い輝きをかすかに宿すとともに、のぞき込んでいたわたしとハーミーの顔をくっきりと映し出した。
「これ……もしかして、鏡……?」
ここまで来るとハーミーにも見えるようになったのか、彼女がつぶやく。たぶんそうだろう、わたしも頷いて同意する。色合いからして、いわゆる銅鏡ってやつだ。
そんなわたしたちの目の前に、出来立てほやほやの銅鏡がふわりと浮き上がる。受け台の中に刻まれていた絵が、片側にくっきりと刻み込まれていて絵になっていた。
円の中央には、真円。そこからたくさんの線が放射状に延びていることから、これはたぶん太陽を描いてるんだろう。
その太陽を囲う形で、四体の動物が上下左右に描かれている。ぱっと見は四聖獣に見えるけど、たぶん違うな。トラがいない。
ってことは龍、麒麟、鳳凰、霊亀かなコレ。
そこ以外にも、鏡には精緻で美麗な飾りや紋様が各所にあしらわれている。この辺の時代のことはわたしも詳しくないんだけど、三角縁神獣鏡かしら。
まあ、なんだね。今できたばかりの代物だけど、こりゃどう転んでも重要文化財か国宝ですわ。
そんな逸品が、わたしの手の中に飛び込んできた。
「……わたしに持ってけってこと?」
「そうじゃない? すごいわね、これ……一目見ただけでもとんでもないものだってわかるわ……」
「魔法の気配は何もないんだけどねぇ……」
とりあえず受け取りつつ魔眼で視てみたけど、特にそれらしい気配はない。銅鏡って言うには、ちょっと光沢が赤いっていうか……もしかしてヒヒイロカネかもしれないって気はするけど……。
と困惑しているわたしたちをよそに、階段の上のほうに光でできた鳥居が音もなく出現した。
ただし階段自体はほとんど使い物にならないから、空中に鳥居が浮かぶ形になっちゃってる。
入ってきたときと同じく、向こう側の景色が見えた。だけどその先に見えるのは、どう見ても外宮の景色じゃない。
というかあの橋、もしかしなくても内宮の宇治橋では……?
「ここでやるべきことは終わった感じかしら」
「たぶん。先に進めって言ってるみたいだよ」
「次のステップってことね。……それはいいけど、また空を飛んでスキップとかなっちゃうのかしら」
「ど、どうかなぁ……」
物足りなさそうに言うハーミーの懸念に、わたしは苦笑するしかない。楽に行くならそれでいいじゃんって思うわたしは、やっぱスリザリンなんだろうなぁ。
とはいえ、ドM的にはどんどん繰り出される苦難自体はわりと楽しめるものではある。楽ができるならそれに越したことはないけど、できなくってもそれはそれでって感じ。
そんな内心を表には出さず、わたしは改めて昴48式を用意した。わたしがまたがるのに合わせて、ハーミーもまたがってわたしの身体に両手が回される。
「よーし、それじゃ次に行くよ!」
そしてわたしたちは、滞在時間五分程度で試練を通過したのだった。
ここを作った人は、本当に号泣していいと思う。
伊勢神宮の試練RTA、Any%はーじまーるよー(走者並感