才能に恵まれすぎたドMが魔法界で百合逆ハーレムを目指す話 作:ひさなぽぴー
とりあえず、わたしの守護霊はもう守護霊って言わず、シンプルにイザナミ様とお呼びすることにした。
そんなイザナミ様だけど、まさかのウメハラムーブに困惑するわたしたちを尻目にディメンターの首根っこをむんずとつかむと、引きずる形で風のように走り去っていった。
どこに行ったんだろう、とは思ったけど、今回の召喚はディメンターに対する怒りを込めた発動だった。たぶん、列車内の他のディメンターを殲滅しに行ったんだろう。いいぞもっとやれ。
……ただ、守護霊ってディメンターを追い払うだけのはずなんだよなぁ。あんな、こう、正面からフルボッコにして動きを停止させるほどのダメージを与えられるなんて話、聞いたことない。
だからあれは守護霊じゃなくて守護神イザナミ様だ。わたしはそう認識したし、呼び方も変えたわけ。
会話はできないみたいだし、意思の疎通もできるかわかんないけど、明らかに普通の守護霊とは性能も挙動も違うから。何かしらイザナミ様の関与があるのは間違いないと思うんだよね。
だってあれ、絶対怒ってるやつじゃん。似姿のわたしでもディメンターたちにムカついてたんだから、イザナミ様本神の怒りなんてそりゃもう有頂天でしょ。
と、イザナミ様とディメンターに関する話は一旦置いといて。
ディメンターが排除されたからか、少なくともコンパートメント内は元の様子を取り戻した。それでもわたしはここから動かないことにした。ハーミーたちにチョコレートを振る舞ってるルーナを手伝う。
ディメンターによって与えられた恐怖に対しては、チョコレートが有効だ。なんでかは知らない。
いや、本当になんでなんだぜ。チョコレートが今の形になったのって19世紀の後半なんだけど、それまではどうしてたんだろうね? カカオ成分が有効って言うなら、まあそれより前からあったから使われてたのはわかるんだけど。
ともかくこうなることはわかってたから、今年は多めにチョコレート菓子を持ち込んでる。ただのチョコだと飽きるかもと思って、いろんなお菓子を日本から持ってきたんだよね。
余ったらスリザリン寮のみんなにお土産にするつもり。今年度はホグワーツにディメンターが常駐するから、必要になる場面もあるだろうし。
ま、それも余ったらの話だ。ハーミーたちにはそれぞれが好きなものを食べてもらって、気力を取り戻してもらおう。
「……あれがディメンターなのね。怖かったわ……」
きの〇の山とたけ〇この里を交互に食べながら、ハーミーが憂うように言う。
「助かりましたわ……本当、生きた心地がしませんでしたもの……」
わたしにお礼を言うダフネはポ〇キーを三本ほどまとめて持ってるけど、その手は震えてる。
「……あの、リンさんが出したのってもしかして守護霊です?」
チ〇ルチョコのセット(色んな味が入ってるやつ)をなかなかの勢いで食べ終えたアストリアが、小さく首を傾げながら聞いてきたからうんって頷いておく。
さすがに純血の旧家出身なだけあって、守護霊の呪文についても知ってるみたいだ。ついでにその難易度も知ってるようで、彼女はものすごく驚いてくれた。そこに徐々に尊敬の色が広がっていくのが見える。
その正面では、ルーナがアポ〇を結構なハイペースでほおばりながらも訳知り顔をしてた。行動不能にはなってなかったけど、それでも堪えてはいるんだろうね。
「ディメンターを倒すなんて。やっぱり神様はすごいンだ」
ただこの発言に、純真なアストリアが「そうかこの人は本当に神様なんだ……!」って言いたげな顔をしてわたしを見たあと、ルーナにならう形で拝み始めたのはちょっと困った。
「拝むのはどうかとも思いますけれど……それでも、リンの守護霊がどうやらより性能が高いのは間違いないのでしょうね……」
どうしようって考えるわたしに、ダフネがそう言いながら窓の外を示した。
特に疑問もなくそれに従ったわたしたちは見た。窓の外、雨が降りしきる夜の中、ディメンターに対して北斗有情破顔拳を決めるイザナミ様の姿を。
テーレッテーという幻聴がわたしを襲う。吹き飛んで地面を転がったディメンターが動かなくなったものだから、余計にはっきり聞こえた気がする。
い、命は投げ捨てるもの……。
ていうか、なんでよりにもよってソレなんだ。さっきのと言い、イザナミ様ひょっとして格ゲーマーなのか。だとしてもソレはその、殺意が高すぎやしないか。
あと、そこらへんに大勢のディメンターが倒れ伏したまま動いてないんだけど、本当に殲滅するやつがあるか。遠巻きに眺めてる狼の守護霊が、なんかドン引きした様子で所在なさげにうろうろしてるじゃないか。
いや、あいつら相手に手加減なんてしなくていいけどね?
だとしてもディメンターをボコボコにするのって冗談抜きで快挙というか、そのとき歴史が動いた案件だから……。
どうしようかなこれ……。なまじわたしとイザナミ様の外見が同じなだけに、あれがわたしのしたことってのは誰だってわかるよなぁ。
政治利用なんてされたくないんだけど、もしあれが一時的なノックアウトじゃなくてガチの「撃破」だった場合、されるしかないというか。
だってディメンターって、滅ぼせないから魔法界でも持て余してた存在なんだもん。わたしだってあんな連中、この世にいないほうがいいって思ってるし。
とりあえず、みんなには内緒にしてもらうとして……あとはダンブルドア先生に相談かなぁ……。
「……守護霊ってあんなことできたかしら……」
「できなかったと思いますわ……」
内心で頭を抱えてるわたしに、ハーミーとダフネの視線が突き刺さる。その目は、どこからどう見ても「あれも古代魔法?」って言っていた。
わたしはこれに対して、わからないって言うつもりで肩をすくめたけど……たぶんあれは古代魔法じゃないんだよな……。
証拠はなくともほぼ確信してるんだけど、あれはわたしの身体の問題だと思う。何度も言うけど、わたしの身体はイザナミ様の似姿だもん。
何せイザナミ様は死後の世界のまとめ役で、死んだ魂を管理する冥府の女神だ。普段いるのも、賽の河原の川向こうっていうバリバリ死に満ちた場所だし。
彼女の仕事も、死んだ魂を正しく回収し、循環させることが含まれる。少なくとも、わたしはあの世でそう聞いた。だからこそ、死者が転生する特典なんかをつけたトーナメントを開催したりできるらしいんだけど。
そんな神様が、生き物から魂を吸い取るっていう……こう、いかにも正しく生命を終わらせなさそうなことするディメンターを、どう思うかって話だ。控えめに言っても、歓迎はされないよねぇ。
もちろん、普通は冥府の女神がわざわざ現世を広く監視してるなんてことはないだろうけど……イザナミ様がわたしの人生を、娯楽感覚で観測してる可能性が高いことを考えればそりゃまあ、ねえ?
お気に入り(だと思いたい)のライブ配信見てたら気に入らない輩が出てきて、しかもそこに介入する手段があるなら、そりゃあ介入するんじゃないかな。しかもわたしからヘルプコールしたようなもんだし、勇んで応じるのもわかっちゃうよねって。
そして、そんなイザナミ様の一番の権能は死だ。彼女という神格は、死そのものであると言っても過言じゃない。
であれば本来死なない、そもそも生きてるかどうかわからない存在であるディメンターに、死の概念をぶち込んで殺せてもおかしくないよね。キングハサンか?
とまあここまで推測を並べたけど、わたしの身体のことは下手に言うわけにはいかない。だからこの話も人に話すわけにはいかない。素直に古代魔法ってことにしといたほうがいいんだろうな、きっと。
ワンチャン、あれが守護霊の呪文の正しい使い方だったりしないかなぁ。あの魔法、別に対ディメンター用の魔法じゃないもん。ディメンターが世に生まれるよりずっと昔からあるものだし。
たぶんだけど、込めた感情とか想いとか、そういうので色々変わるんじゃないかなって勝手に思ってるけど、どうかなぁ。魔眼できちんと見ておけばよかったな……。
「……落ち着いたかしら」
「悲鳴は聞こえなくなりましたわね。みんな無事だといいのですけれど」
そうこうしてるうちに、事態は落ち着いたらしい。ハーミーたちがそう言葉を交わしてすぐに、車内の明かりが復旧した。
とりあえずはしのげたかな……って思ったところに、イザナミ様が戻ってきた。普通は扉を開けたりする物理的な干渉力が守護霊にないから当然なんだけど、コンパートメントの壁を列車の外から貫通してにゅって出てきたものだから、わたしたちは全員すごいびっくりした。
なんでや。さっき普通にディメンターを殴ったり持ったり引きずったりしてたじゃん。なんでここに来て、普通の守護霊みたく物質貫通してくるのさ。
おまけにそのイザナミ様は、ドヤ顔ダブルピースをかましてから消える始末。わたしは怒るのも忘れて、深いため息をつくしかなかった。
わざわざそれするためだけに戻ってきたんですか……? あの世で会ったときも思ったけど、相変わらずお茶目な女神様だよ。
「失礼。人間の姿をした守護霊がここから出てきたという話を聞いたんだけれど……」
と、間髪を入れずに今度は別の人が顔を出した。今度はちゃんと扉を開けてだ。
現れたのは、よれた使い古しのローブを身にまとう、だけどできる限り格好を整えている壮年。間違いない、リーマス・ルーピンだ。
狼の守護霊がいたからわかってはいたけど、原作通り列車に乗り合わせてたんだね。ロックハートの辞職がずれ込んだからどうなるかと思ってたけど、ちゃんと彼が来てくれてよかった。
そのルーピン先生は、わたしの顔を見てものすごくびっくりした。まあうん、守護霊の使い手が守護霊と同じカッコしてたら、そりゃびっくりするさ。
あるいは、イザナミ様がディメンターをボコすところも見たのかもしれない。黙っててもらえると助かる。
「……あの守護霊は、君かい?」
「はい。……あの、もしかして新しい防衛術の先生ですか?」
「あ、ああ。そうだよ。リーマス・ルーピンだ。よろしく」
彼が名乗ったのに応じる形で、みんなもあいさつをしていく。
その口ぶりや態度からして、ディメンターの被害はほぼないってことがわかったんだろう。ルーピン先生は今度は感心した様子で口を開いた。
「ディメンターに遭遇してしまったときの対処法を知っている上に、守護霊まで出せるのか。しかも有体とは……下級生だろうに、優秀なんだね」
「恐縮です」
「授業が始まってるなら、すぐにでも得点をあげたんだけどね。今の時点じゃまだあげられないんだ、すまないね」
「いえ、そう言っていただけるだけでも嬉しいです」
そんな感じの会話を無難にこなしたあと、ルーピン先生は他にも生徒たちを見て回るからということで退室していった。
この際、ついでにそういうことならと、いくつかチョコレート菓子も渡しておく。
ディメンターの影響を受けている生徒は相当な数になるはずだ。チョコレートも、比例してたくさん必要になるだろう。
だけどその見た目からもわかる通り、ルーピン先生はあんまりお金に余裕がない。チョコレートの手持ちはそんなに多くない可能性がある。
この予想は正しかったのか、ルーピン先生はわりと本気の感謝をしてチョコレートを受け取っていった。
その背中を、魔眼で眺めながら見送りながら思う。
なるほど、
リーマス・ルーピン。彼は人狼症という病を持っている。満月の夜になると、狼人間になって理性を失ってしまい、朝になって元に戻るまでの間、人間を手当たり次第に襲うようになるっていう恐ろしい病気だ。
変身中の狼人間に噛まれることで発症するんだけど、発症以前に適切な処置を施せないと普通に死ぬ。それで生き残っても、この病気は今のところ不治の病っていうね。ものすごく恐ろしい病気だよ。
そんな病気を抱えるリーマスの様子は、魔眼には呪いを受けたのと同じような色合いに見えた。
ただ身体の中に呪いの中核になるようなものは見当たらないものの、それらしい異物的な魔法の力が、かなりの速度で全身を駆け巡ってるのはわかる。
網のようにリーマスの全身に張り巡らされてるそれが、まるで魔法そのものであるかのように機能してるっぽい。狼人間への変身は、これが悪さをしてると見た。
視ただけでわかる。めちゃくちゃ完成度が高い呪いだ。人狼症は一般的に感染症として扱われてるわけだけど、こんなのどこから発生したんだ? 魔法界は本当、恐ろしい場所やで。
しかしこの呪い、分類はどうなるかな。これまでの知識で言えば対躯型だと思うけど。でも複合型の可能性だってあるよなぁ。ううん、もっとしっかり時間を取って視たい。
ちなみに今日が満月だからか、この呪いっぽい魔法の力の巡りは不気味なまでにらんらんと光って視える。今夜顔出して変身の瞬間が見れたら、もっとはっきりくっきりわかるだろうか。
脱狼薬も視たいところだ。ううん、わたし気になります。
ま、とはいえ今考えるべきことはそこじゃないか。
ということで、めちゃくちゃメンタルケアした。最終的に、ハーミーもダフネもルーナもアストリアも、まとめてみんなわたしを囲んでぎゅうぎゅう抱きしめてくれたので、わたしのメンタルもめっちゃケアされたよね。
やっぱりスキンシップ。スキンシップは最強なんだ!
拙作において、神様たちは自分の管轄地域のあらゆる並行世界を観測しているので、当然ゲームや漫画にも目を通してるし、全部ちゃんと楽しんでる。
何ならイザナミ様は一家でゲームとかする仲で、みんなとてもなかよし。お母さんと長女からハメ技でぶちのめされるお父さんと末弟が見られる、とってもあたたかな家庭です。