才能に恵まれすぎたドMが魔法界で百合逆ハーレムを目指す話 作:ひさなぽぴー
列車を下りると、夏とは思えない涼しさが出迎えてくれた。スコットランドっていう立地に加えて、夜っていう時間帯。さらに雨も重なって、9月とは思えない気温だ。
「妹様、こちらをお使いください」
これでさらに、湖の上を移動することになる新入生はもう寒いまであるだろう。そう思ったから、アストリアには暖気の呪符を渡すことにする。
日本滞在中に呪符のことは教えてあるから、アストリアも使い方は知ってる。ぱああと顔をほころばせてお礼を言いながら受け取った。かわいい。
でも彼女だけだと角が立つかもしれないから、他の人にも分けてあげられるよう複数渡しておく。
呪符の解析はもう済んでるし、作り方も難しくない。専用の道具はいるけど、それも購入済み。いつでも補充できるから、多少あげたところで問題はないってわけよ。
「ゼンポウジ!」
さてあとはホグワーツに向かうだけ……と思ってたところで、不意に声がぶつけられた。
わたしがこの声を聞き間違うはずがない。パンジーだ。
すぐさまそちらに出向いて、礼を取る。
「はい、お呼びでしょうか」
「…………」
かしこまるわたしに対して、パンジーはしばらく無言だった。どうしたんだろう。普段なら、ここで何か一発かましてくれるのに。
そう思いつつも、ここで顔を上げるほうが不敬になる。だからわたしはそのまま、パンジーが口を開くまでかしこまり続けた。
「……助かったわ。ありがと」
そうしてようやく口を開いた彼女は、それだけ言うと杖でわたしの肩をぴしゃんとたたいてくるりときびすを返した。
え、と思ってつい顔を上げると、まるで急いでるみたいに大股で離れていくパンジーの背中が見えた。
「あの守護霊はお前だろう?」
どうリアクションしたものか、と思って固まってたわたしに新たに声がかけられる。
「マルフォイ様、ノット様」
ドラコとノットだ。並んでこちらに近づいてくる。珍しいことに、クラッブとゴイルはいない。
「僕たちのコンパートメントの扉すぐ近くまで、ディメンターは来ていたんだ。危ういところだった」
「そこにお前の守護霊が飛び込んできてな。おかげで助かった」
なるほど。つまりその場にはパンジーもいて、命拾いしたからお礼を言いに来たってことか。
列車からディメンターを殲滅させるつもりでイザナミ様を解き放ったけど、ドラコたちのためになったら何よりだ。
「恐悦至極に存じます。皆様がご無事で何よりでした」
だから改めてかしこまりつつ、頭を下げたけど……同時に思う。
……え? だとしたらさっきの、デレか? パンジーの貴重なデレシーンだった? それは、できればきちんとこの目で見たかったな!?
「お前は穢れた血だが有能で、わきまえてる。僕たちはそんなお前の献身に対して何も報いないような、恩知らずなんかじゃない」
「ああ。……何か困ったことがあれば、いつでも言えよ。たとえば……パーキンソンのやつに過剰にいじめられたりしたときとかな」
「……ありがたきお言葉」
うん、その、ありがたいお言葉なんだけど。本当に、二人の気遣いと優しさが嬉しいんだけど。
よ、余計なお世話~~!!
パンジーのアレは、もうそういうプレイだから……! わたしにとってアレは、生きていくのに必要な必須栄養素なの……! それを奪うなんてとんでもない!!
でも言えねぇ~~!! さすがのわたしでも、ここまで純粋な善意で言ってくれてる二人に対して、余計なお世話なんて口が裂けても言えねぇ~~!!
その後、ドラコたちじゃなくて他のスリザリン寮の純血たちからたくさんお褒めの言葉をいただいた。
それ自体はとても嬉しいんだけど、彼ら彼女らはみんな口を揃えて困ったことがあれば言ってくれと言いながら、パンジーを見ていた。じっと見てる人、ちらちら気にしてる人、見方は色々だけど、とにかくみんなパンジーを気にしてるのは共通してた。
ぱ、パンジー……! 去年までのあれやそれやが、裏目に出すぎてる……! 逆にわたしは好感度を稼ぎすぎてる……!
なんてこった。あれ、わたしとパンジーの二人しか喜んでなかったのか……。
ど、どうしよう……。こんなに大勢の純血がパンジーを牽制してるとなると、今年はパンジーに衆人環境でいじめてもらえないのか? そんなのあまりにも悲しくて、めっちゃしょんぼりしちゃう。
今年度からパンジーの責めが緩くなったらどうすればいいの……? 人前でパンジーにいじめられるのが楽しみの一つでホグワーツ来てるのに……!
こんなんじゃ……満足できねぇぜ……。
「なんでそんなに残念そうなの?」
「そうですわ。いいことではありませんか」
「……うん、まあその、そうなんだけど」
ところが、内心を隠して純血の皆様をさばき、三人で馬車に乗り込んだあと。どうやら見抜かれてたようで、ハーミーとダフネに両側から呆れられた。
わたしのポーカーフェイスを見破るとは……二人ともいつの間に開心術を極めたのか。
「何年の付き合いだと思ってるのよ」
「好きな人のことならなんとなくわかるものですわよね」
……ううむ。これこそまさに、愛じゃよってやつだなぁ。
いやうん、わたしも二人に対しては警戒心が緩むのはあるんだけど。みんながパンジーを牽制して、いじめないように気を遣ってくれたのが本当にショックだったんだろうね。なるほど、組み分け帽子が度し難いって言うはずだよ。
「……そんなにいじめられたいの?」
「なら、わたくしたちがシてあげましょうか?」
「ふああ♡」
だけどそんな考えは、両側から食らったささやきで吹き飛んだ。
ざぁこ♡ とでも言いたげな、普段の二人からはかけ離れた挑発的な声を、耳元でダイレクトに。しかも左右から同時に食らったんだ。細かい悩みなんて吹き飛ぶに決まってるんだよなぁ。
「……リン、そういう趣味があったのね……」
「パンジーのワガママに付き合うわけですわね……」
距離が取られ、うわあって言いたげな二人の視線も突き刺さる。
き、気持ちいい~~!!↑↑
「……き、嫌いにならないで……?」
「ふふ、冗談よ。なるわけないでしょ、この程度のことで」
「そうですわ。あまりみくびらないでくださいまし」
「パーキンソンのことなんて気にならないくらい、私たちが気持ちよくしてあげればいいんでしょ?」
「激しくしてあげますから、せいぜいたくさんよがりなさいな」
「ふ、二人とも……! すき……!!」
すぐに距離を詰めなおして、手を取ってくれる二人がたまらなく愛おしい。
よかった、二人とも気にしないでくれて。
そしてこれは、あれなのかい? これからは、二人もたくさんいじめてくれるって認識でいいのかい?
どっちなんだい!?
パワーッッ!!
***
馬車の中。つまり密室。かつ御者もいない状況。何かあっても聞いてるのは馬車を引いてるセストラルだけ。これで何も起きないはずがなく。
早速試しにとばかりに、両サイドから耳元で罵倒をささやいてくれた二人に、わたしが昇り詰めたのは言うまでもない。声だけでてっぺんに到着したわたしに二人とも驚くやら呆れるやらだったけど、新しい境地に案外二人とも楽しそうだったのをわたしは見逃してなかったよ。
いいぞ。一緒に底の底まで堕ちていこうぜ。
まあハーミーは罵倒の語彙が少なすぎて微笑ましかったんだけど、逆にダフネはすごかった。さすがスリザリン。
ちなみにホグワーツについたとき、身体ができあがってたわたしは二人に支えられながら降りたんだけど。
相変わらずやけに懐いてくれてるセストラルに身体をたくさん舐められて、それでもう一回、うっかり頂上に昇っちゃったのは我ながらクソザコすぎるなぁと……。
とっさにハーミーがクワイエタスをかけて音を遮断してくれなかったら、ホグワーツの玄関先でわたしのよがり声が鳴り響くところだった。危ない危ない。
流れるような連携でスコージファイとテルジオをかけて、ぐしょぬれ下半身をきれいにしてくれたダフネにも感謝しないとね。
まあ、直後に三人揃ってマクゴナガル先生に呼び出されて別室に連れていかれたものだから、みんなでこの世の終わりかって感じで戦々恐々としてたんだけど。
そんな様子にマクゴナガル先生は首を傾げつつ、小さな箱を二つ差し出してきた。おかげでお説教じゃないってわかったけど、心臓に悪いよんもう。
「タイムターナーですか?」
「ええ、そうです。選択科目をすべて受講するあなたたちのために、特別に魔法省から借り受けることができました」
小さな箱に入っていたのは、金の鎖でつながれた、これまた金の装飾に砂時計が埋め込まれたようなネックレス。
そう、タイムターナーだ。短時間ではあるけど、時間遡行を可能にする魔法のアイテム。お前を待ってたんだよ!
これと必要の部屋の時間引き延ばし効果を組み合わせれば、使える時間が劇的に増える。そうすれば勉強はもちろん、特訓や研究だってはかどるってもの。
ぶっちゃけた話、成績優秀者でいた理由の9割くらいはこいつを使わせてもらうためだったりする。成績優秀者じゃないと使わせてもらえないからね。
だけど……二つ? 一つ足りないな。
「タイムターナーは非常に貴重なものです。貴重なだけでなく、使い方を誤ると大変なことになる危険性も持っていますからね。二つ借りられただけでも、随分と譲歩してくれているのですよ」
マクゴナガル先生はそう言うと、一つをハーミーに。もう一つをダフネに差し出した。
「グリフィンドール生向けに一つ、スリザリン生向けに一つ。それがあちらが示したラインです。ミス・グリーングラスとミス・ゼンポウジは、二人揃っているときだけ使うようになさい」
「……わたくしが管理するのですか? 首席のリンのほうがいいかと思いますが……」
「ミス・ゼンポウジは、時折私たちも驚くような短慮をすることがあると校長先生が仰せです。そのため、ミス・グリーングラスのほうが適任だと判断しました」
それは本当にそう。ぐうの音も出ねぇや。
そりゃな。学校側も、バジリスクの目と鼻の先でえっちしだす輩にタイムターナーなんて危険物は渡せないよなって。
ダフネも当事者ではあるけど、巻き込まれた側だしな。納得しかない。
……まさかとは思うけど、バジ前えっちのこと、全教師陣にも広まってたりする……?
いや、詳細知ってたら、生真面目なマクゴナガル先生はもうちょっと違うリアクションしてるか。まあバレてたところでどうにかできるものでもないんだけどさ。
どっちだとしても、これについては開き直るとしましょう。
ということで、えっちがしたいです! さっきまでたくさん気持ちいい想いはしたけど、やっぱ最終的には身体を直に触れ合わせて抱き潰されたいんです!!
なんて内心をおくびにも出さず、真面目腐った顔でうんうん相槌を打ってたら、机の下で両側から小突かれた。ごめんて。
「かしこまりました。それでは、責任をもって管理させていただきますわ」
「くれぐれも勉強以外に使用しないこと。もちろん、他言は無用です。よろしいですね? それでは、大広間に向かいましょう。もう組み分けの儀式は始まっているはずですよ」
マクゴナガル先生の念押しに三人揃ってはいと応じれば、先生は厳格な表情を維持しつつもわずかに微笑んで頷いた。
そのまま先生と一緒に大広間へ向かう。なるべく音を立てないように中に入ってみれば、言われた通り組み分けは進行中だった。
「グリーングラス・アストリア!」
しかも、ちょうどアストリアが組み分けされるところ。これを見逃すわけにはいかねぇと、わたしたちはそれぞれのテーブルに向かった。
まあとはいえ、彼女はスリザリンだろう。原作からしてそうだったわけだし、そこは覆らないはず。
そう思ってたけど……なんか帽子が悩んでる。わたしの隣で、ダフネが早くもそわそわし始めてる。まだ一分経ってませんがお姉ちゃんや?
とはいえ、わたしもこれはちょっとびっくりしてる。即決だと思ってたんだけどな。
「……スリザリン!」
結局スリザリンには組み分けされたけど、結論が出るまで三分ほどかかった。一分前後くらいならさほど珍しくないけど、三分はさすがにちょっと長めだな。
「お姉さま!」
「アストリア、結構かかりましたわね」
「はい。帽子さん、レイブンクロー以外ならどこでもやっていけると言ってくださって……どこがいい? って聞いてくるものだから、悩んじゃったのです。でも、やっぱりお姉さまと一緒にいたかったので」
わたしがダフネの隣(わたしとは反対の側)に用意した椅子にちょこんと座ったアストリアいわく、どうやら選択肢が多すぎて目移りしちゃっただけらしい。わかる、選択肢が多いと迷うよね。
よかった。わたしの変な影響を受けて、うっかりグリフィンドールとかに振り分けられやしないかちょっと不安だったんだよね。うん、ちょっとだけ。
まあ、結果がすべてだ。原作通りにスリザリンに組み分けされたんだから、これでヨシ!
あとは……この年度の新入生でめぼしい原作キャラはいないから、イベントも特にないだろう。良くも悪くも適当に流しつつ、食事の時間を待つとしよう。
そう思ってのんきしてた矢先のことだった。
「キデラノミヤ・ニコ!」
突然日本のビッグネームが出てきて、わたしは思わずむせる羽目になったのだった。
ドMの性癖、遂に恋人たちにバレるの巻。
これからの性生活はどうなっちゃうんでしょうねぇ!