才能に恵まれすぎたドMが魔法界で百合逆ハーレムを目指す話   作:ひさなぽぴー

59 / 106
11.極東より、殿下のおなり

 大広間の視線のおよそ半分は、いきなり派手にむせ始めたわたしに。およそ半分は、壇上に上がって今まさに帽子をかぶろうとしている東洋人の少女に向けられる。

 わたしもむせるのをできるだけ抑えながらも、その少女に注目する。そして同時に、内心で頭を抱えてた。

 

 なんでかって? 決まってるだろ、キデラノミヤ……木寺宮は名字じゃない。その字の通り、宮家……つまりは皇族を示す宮号(みやごう)だからだ。

 

 前にも少し触れたけど、日本魔法界にはマグル界において断絶したとされる宮家が今もいくつか残ってる。

 彼らはマグル界から離れ、皇室にかけられた血の呪いの解呪に魔法界で専念することを選んだ血族だ。

 

 木寺宮家もその一つ。戦国時代末期に断絶したとされてるけど、魔法界で脈々と天皇家の血筋を男系で保持し続けてきた宮家だ。マグル側では知られていない存在だけど、血縁的には間違いなく皇室の一員なのだ。

 嫡流から離れている傍系の宮家は、現実の皇室典範に照らし合わせれば親王は与えられない。だけどこの世界の魔法界では、親王宣下の制度が生きている。

 だから木寺宮家をはじめとしたいくつかの魔法界側の宮家は、現代でもしっかりがっつり親王位を代々継承してたはずだ。マグル側の皇室のほうが上だけど、継承権も持っている。

 

 今組み分け帽子をかぶっている彼女は、その一員。つまりれっきとした女王*1であり、現代でも変わりなく殿下と呼ぶべきお方なのだ。そんな高貴なお方が、なんでホグワーツにいるんだ?

 ここにいるってことは、魔法力があるということ。つまり皇族としては珍しく、日本魔法界を蝕む血の呪いを発症せずに済んだ子なんだろうけど……だからって日本の皇族をわざわざホグワーツによこす理由なんてないだろうに。

 

 むしろ日本人なら。それも皇族なら、マホウトコロに通わせるのが当たり前のはず。

 そもそもマホウトコロはホグワーツと違って、7歳から入学できるんだ。その歳からマホウトコロに通って、卒業までずっとって形が一般的。皇族となればなおさらだ。ホグワーツにまで来るメリットがない。

 

 だからこそ、ニコ殿下が言及されていないだけで原作にもいた、なんて風にはとても思えない。何かの外的要因で、ホグワーツに通うことになってここにいる可能性が高い。

 

 そしてそんな可能性を呼び起こす、原作にはない外的要因と言えば? ……ええそうです、わたしですね。

 もちろん考えすぎかもしれないけど、そう考えておいたほうがいいと思う。こういうのは何事も最悪を想定して備えておくに限るから。

 

「……スリザリン!」

 

 あれこれ考えるわたしをよそに、組み分け帽子は普段通りの調子を崩さず、寮の名前を宣言した。よりによってスリザリンだ。マジかよ。

 

 ローブの差し色に緑を加えられたニコ殿下が、ゆっくりとした足取りでスリザリンのテーブルに向かってくる。

 

 遠目に見ても美少女だな……。おまけに拍手する人たちへの応対があからさまに慣れてる。うっすら浮かべる皇室スマイルを見れば、ああきちんと皇族なんだなって思うけど……その顔面偏差値でそれは反則でしょ。

 

 おまけに、さもお仲間発見とばかりに、途中でわたしのほうに足を向けなおした。これはロックオンされてますわ。

 状況が状況だ。ただ親しんだ日本人がいたからってだけじゃない可能性あるよね、これ。

 

 ……ああもう、どうにでもなれだ。わたしは開き直ることにして、近づいてきたニコ殿下に日本式の最上礼を取ってひざまずいた。

 

「殿下、ようこそおいでくださいました。臣はあなた様のご入寮を心より歓迎いたします」

「嫌ですわぁ、そないな堅っ苦しいの。ここは日本やないんやし、そもそもそちらさん先輩やないですか。うち、気軽に接してほしいですわぁ」

「いえ、そういうわけには……」

「んもう、いけず。……はあ、しゃあないなぁ。それならせめて、お顔を上げておくれやす」

 

 日本語で対応したわたしに、ニコ殿下ははんなりとした京言葉で返してきた。

 促されるままに顔を上げれば、その言葉遣い、たたずまいに見合うかわいらしいご尊顔とご対面。

 

 うーん、顔がいい。近くで見ると、より美少女ってわかる。

 

 日本人らしいみどりの黒髪は、とても瑞々しくてまるで輝くよう。平安時代の女性を思わせる髪型(さすがにあれほど長くはないけど、それでも肩甲骨くらいまではある)はサラッサラのストレートヘアーかつ姫カットで、まさに大和撫子って感じがする。

 身長はわたしよりちょっと大きいくらい。たぶんだけど、145センチにギリ届かないくらいかな?

 幼女とは言えないだろうけど、ロリとしては通じるだろう。顔の造形も身体つきも子供っぽいし、新入生と一緒に組み分けを受けてるってことは11歳だろうし。

 

 けどその……今のスリザリンにこんな美少女が来るのは、ちょっとまずいっていうか。

 こちとらスリザリン生にロリコンを増やした罪を背負う女だからわかる。ただでさえわたしが被害を出してる今のスリザリン寮に、こんな子が来たら追い打ちもいいところなのよ。

 

 断言してもいい。こんなかわいいロリを投入しようもんなら、男女問わず狂うやつ()が出てくる。顔がよすぎるのも考え物だよ!

 

 それでもニコ殿下当人はそんなこと気にしてないのか、それとも気づいてもいないのか。ご自身のペースを崩すことなく会話を続けてきた。

 

「先輩、お名前を伺ってもよろしおすか?」

「善宝寺凜と申します。三年生です。よろしくお願いいたします、殿下」

「凛先輩やね。覚えましたわ。これから卒業まで、あんじょうよろしゅうね」

「はい、よろしくお願いいたします殿下」

 

 こうして、日本のプリンセスがスリザリンに加わった。

 

 その後の組み分けの儀式全部と食事の半ばくらいまで、わたしは彼女のそばに控えてあれやこれやとお世話をしつつ、彼女とスリザリンの有力者たちの顔つなぎに終始することになった。

 

 とはいえ、苦労はあんまりなかった。わたしの影響で日本魔法界の情報をそれなりに知ってるスリザリン生の多くは、ニコ殿下に好意的だったからね。

 特に2650年以上続く、純血王家の傍系かつ王位継承権もある家柄と紹介したときの盛り上がり方はすごかった。あの瞬間、ドラコやノットはもちろん、純血の人たちの目の色が一気に変わったもんな。

 

 当のニコ殿下は、いかにも京美人と言ったたたずまいを維持しつつも時折ご冗談を飛ばすなどしており、案外気さくなお方のようだ。おかげで彼女の周辺は男子がほとんどだけど、男子のノリにもついていけており、楽しそうにされていたのが印象的だ。

 

 けど彼女の場合それはね……被害者の山ができるっていうか……。

 男って生き物はな、自分と同じ感性してる女の子にめっぽう弱いんだぞ。だからTSものが流行るというのに、サブカルに耐性のない魔法族が直撃喰らおうものならですよ。

 

 ほら見ろ、クラッブとゴイルですら顔を赤らめたままぼんやり殿下ばっかりガン見してる。ほぼ食べることしか興味を向けない二人ですらそれなんだから、一般的な男子なんてそりゃもうアッという間にコロリよ。

 

 そんな哀れな犠牲者たちの様子を、一通り案内と仲介を終えてようやく食事にありついたわたしは遠巻きに眺めていた。

 わたしの周りにはダフネやアストリアをはじめとして、ニコ殿下の美貌にやられてない生徒たちがいつの間にか固まっている。大半が女子で、殿下の人気っぷりに機嫌を悪くしてる子がそこそこいる辺り、女社会の闇が垣間見えた気分。

 

 もちろんそうじゃない子もいるんだけど、殿下から距離を置きつつも殿下に悪感情を抱いてない子は、ほぼ全員がわたしの催淫魔法の効きがよかった人たちでしてね。なんていうか、うん、つまりはそういうことなんだろう。

 

 この中にはパンジーもいるんだけど、彼女は意外なことに下級生のお世話に終始してた。一年生の男子はほぼ殿下が独占してるから、女の子中心にだけど。

 マジで意外なんだけど、入学当初の魔法界を知らない(体の)わたしに対して色々常識を教えようとしてたことを考えると、元々面倒見はいいほうなのかもしれない。わたしに対しては、穢れた血だから攻撃的だっただけなのかも。

 

 ……ん? でも去年は特に新入生のお世話なんてしてなかったような。

 あれかな、三年生になって、先輩としての自覚ができてきたとかだろうか。パンジーも大人になってきたってことかな。

 

 ちなみにニコ殿下を遠巻きにしてる側には、実はドラコもいる。これも結構意外だ。ニコ殿下の美貌にやられなかったとか、やはり聖人か?

 

 それは冗談にしても、純血へのこだわりの強い彼なら、色恋沙汰を抜きにしても積極的にかかわりに行くと思ってたんだけどな。たとえば日本魔法界そのものとの繋がりとか、そっち方面とか。

 

「もちろんそれは魅力的だが……日本魔法界との関わりで言えば、ゼンポウジ相手のほうが気楽なんだよ。お前には命令するだけで済むしな」

 

 と思ったら、わりと納得な回答が返された。

 

 確かに殿下相手だと、どうしても政治色が強くなるだろうしなぁ。それにある意味、それだけわたしのことを信用してくれてるってこともあるのかな。

 

「それに殿下おひとりに周りの意識が集中している今こそ、僕はもう一つの窓口を独り占めできる。そうだろう、グリーングラス?」

「あら、さすがはドラコ。目ざといですわね」

 

 話を振られたダフネがくすくすと笑う。

 なるほど、そっちもあるか。目のつけどころがシャープ。

 

 ただドラコは、グリーングラス家のギャレスさんが始めた日本との貿易商に関してはほとんど触れてこなかった。彼はダフネたちがこの夏に日本へ行っていたことを知っていて、日本に関する情報を多く知りたがったのだ。

 日本旅行を終えたあと、遂に貿易業を始めたグリーングラス家に接触はしつつ、そっちには必要以上に踏み込んでこない。実にわきまえた立ち居振る舞いで、お見事と言うべきだろう。

 

 でも、ドラコはなんでこれをハリー相手にできないんだろうね……。

 

「それでですね、お姉さまにこの子を買ってもらったのです!」

「へえ、きれいな子だな。父上は白い生き物が好きだから、ほしがるかもしれない。そのときはいい業者を紹介してほしいな」

「はい、任せてください! アストリアが案内するのです!」

 

 まあ、後半はほとんどアストリアのお守りって感じだったんだけど。それはそれとして、ドラコがかなり楽しそうだったのが印象的だ。

 余所行きの口調が完全に取れてるアストリアは言うまでもなく、その微笑ましい姿にダフネは終始ニコニコしてた。

 ドラコに対して敵意を見せてない辺り、アストリアの相手として不足はないって判断してるのかな。いや、単にドラコが紳士的な対応に終始してたからか?

 

 でも実際、ドラコとアストリアは原作だと夫婦になる。しかも、パパフォイたちの反対を押し切っての恋愛結婚だ。元々相性はいいのかもしれない。

 

 ただ一つ、ここでもパンジーの態度が意外だった。ドラコと仲良さげなアストリアに嫉妬するんじゃないかと思ってたんだけど、そうでもないんだよね。

 なんなら、どっちにはあんまり目も向けてなかった。主にわたしや下級生の女の子ばっかり見てた。

 

 ええ……? 君、去年まであんなにドラコにこだわってたじゃない……? 一体どんな心境の変化が……?

 

***

 

 やがて宴もたけなわ。大体の生徒がデザートまで食べきって、新入生の何割かが舟をこぎ始めた頃を見計らって、ダンブルドア先生は夕食を切り上げることにした。

 

 ちなみに新任教師の紹介は食事の前に既に済んでいて、ロックハート後任のリーマス……もとい、ルーピン先生。

 それとケトルバーン先生後任のグラブリー=プランク先生(予想通り!)は、おおむねちゃんと生徒たちに受け入れられてる。

 

 このあとは各自寮に移動することになるわけだけど、今年度はこれを寮監がすることになったらしい。スネイプ先生が生徒たちを先導する。

 普段なら、初日の案内は監督生の役目なんだけど……と思ったけど、どうやらディメンター対策の一環らしい。寮に移動したあとに、改めて先生からディメンターに対する注意喚起がされたのだ。

 

 ダンブルドア先生もしてたけど、食事前だったもんなぁ。お腹を空かせた子供たちの多くにとっては、すっかり忘れられちゃっててもおかしくないもんね。

 

「消灯時間は9時だ。それ以降は、絶対に寮から出てはならん。なぜなら、ディメンターどもは夜になるとより活発になる。その対策であるということを忘れないように」

 

 スネイプ先生はそう締めくくると、すたすたと談話室をあとにした。

 相変わらず、子供は好きじゃないんだろうなぁ。まあ単純に、明日の授業の準備に忙しいってのもあるかもだけど。

 

 ところが、ここで一つ問題が発生した。それもわりと大きいやつだ。

 

 新入生の寮の案内は、当然だけど男女で別になる。女子寮に男子は入れないんだから当たり前で、監督生が男女同数設置されてるのもそういうところがあるんだろう。

 そんな中、ニコ殿下が男子の監督生についていこうとしたんだから、そりゃまあざわついたよね。

 

 同時にわたしは、「あっ(察し」ってなった。そしてこのあとに訪れる地獄絵図を予想して、早々にここから退散しようと決心する。

 

「待ってくれキデラノミヤ殿下。君はあっちだ」

「男の子はこっちやないですか」

「そうだが、君は女の子だろう」

「? ああ……そういや先生にしか言うてませんでしたっけ。うち、()()()()()()()()()あっちには入れへんです」

 

 そしてスリザリンの寮内には、天使が大挙して押し寄せた。

 沈黙はたっぷり十数秒。それだけの間を置いて、スリザリン寮内は阿鼻叫喚になった。無理もない。

 

 そう……百人いれば百人が美少女と言うだろうニコ殿下は、男の娘だったのだ……!

 

 もう終わりだよ、スリザリン生たちの性癖。特に殿下と同室になる男子は、まず間違いなく性癖がぶっ壊れるだろう。本当においたわしい。

 でもわたしにはどうすることもできない。無力なわたしを許してほしい。

 

 ちなみにニコ殿下の名前は、仁虎と書いて「まさとら」と読むのが正しいらしい。いかつい。ギャップェ。

 

 でもイギリス人には呼びづらいだろうってことで、こっちにいる間はニコで通すつもりなんだとか。わざわざ学校側にもそう伝えてて、だから組み分けのときも本名では呼ばれなかったみたい。

 おかげで誰もが彼を女の子だと思ったじゃないか。

 

「あだ名で呼ばれるんが憧れやってん」

 

 だけどそうはにかむ殿下は、めちゃくちゃかわいかった。

 

 ──だが男だ。

 

*1
日本の皇室典範において、王、女王とは皇室の嫡流から一定以上離れた皇族に与えられるもの。いわゆる王国という概念における王、女王とは意味合いが異なる




原作にいないオリキャラが遂に登場です。
できるだけ主人公以外のオリキャラは出したくなかったんですけど、日本人でこのタイミングで登場させられるような後輩キャラなんて原作にいないから、しょうがなく・・・。
今後ももしかしたら、必要に応じてオリキャラを出すことになるかもしれません。現時点では、他に出す予定はないですが・・・あくまで現時点ではなので、次章以降に出てくる可能性は否定できません。

なお今回登場のオリキャラ、ニコ殿下ですが主人公はじめ女の子と恋仲になることはないです。
気づいた方もいるかもしれませんが、実は今章開始時に本作のタグにボーイズラブタグを追加しておりまして・・・ええ、そういうことです。
誰が殿下の毒牙にかかるか、お楽しみに。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。