才能に恵まれすぎたドMが魔法界で百合逆ハーレムを目指す話 作:ひさなぽぴー
4階の立ち入り禁止エリアに賢者の石が隠されていて、スネイプ先生がそれを狙っている。そんな結論に至ったハリーたちは……特に何もしなかった。もとい、何もできなかった。
なんてったって証拠がない。ハリーたちが提示できる証拠はハリーの主観でしかないんだ。教師たちからすれば、スネイプ先生はスリザリンひいきが強すぎるし愛想もないけど、きちんと(いかんせん闇の魔術に対する防衛術の教師が毎年外れすぎるんだよな)教師をやってる同僚だもん。
校長のダンブルドア先生としても、スネイプ先生は自身に忠実な部下であって敵でも何でもないから手放す理由なんてない。だから、ハリーたちの訴えが受け入れられる確率は常にゼロパーセントなんだよね。
じゃあ自分たちで盗まれないように対策をしよう! って考えも、残念ながらほとんど意味がない。
だってホグワーツの教授陣が用意した複数の罠で守られてるんだもん。ただの一年生が、教授陣の罠よりも上等なものを作れるわけないもんね。ハリーは確かにヴォルデモートを撃退して「生き残った男の子」って言われてる英雄だけど、それは彼自身の能力で成し遂げたことじゃないんだし。
まあ実際のところ、ここに設置されてる罠はうまいことやれば一年生でも突破できる程度のものでしかなく、言ってみればダンブルドア先生お手製のハリー・ポッター英雄養成コース一年生編って感じの内容なんだけど。それを知ってるのはわたしだけで、それこそ証拠のない話だから言えるはずもない。
必然、ハリーたちは彼らなりにスネイプ先生を監視しながら時間を過ごすしかないってわけだ。
そして賢者の石を狙っている張本人なんてことはまったくないスネイプ先生が、ボロを出すなんてあるはずもない。ゼロには何をかけたってゼロなんだよなぁ。
一応わたし、あらゆる才能を持ってるから占いもたぶんできる。魔法の無意識の発露で予知をしたって体で色々語り、両親の資産をバブル崩壊前に引き揚げさせることに成功したって実績もある。
だから原作知識を予言って体で出すことも、できると言えばできるんだけど……賢者の石編に限っては、それもあまり意味をなさないだろう。さっき言った通り、今年度のあれやそれやは大体ダンブルドア先生お手製のハリー・ポッター英雄養成コース一年生編だからだ。
ダンブルドア先生が聞いた予言は、ハリーとヴォルデモート、どちらが勝ってもおかしくない内容だった。実際、何かの拍子にヴォルデモート側が勝利した世界線だって原作では描かれている。
だからこそ、ダンブルドア先生はハリーをできる限り強く育てる必要がある。ヴォルデモートと対峙したとき、少しでも勝率を引き上げるためにはそれしかない。
そして目的のためなら手段を択ばないという選択ができるダンブルドア先生は、教育者としての己の声を押し込める。
彼だって、弱冠11歳の子供にこんな試練を課すことはおかしいってわかってる。子供にすべてを託さなきゃいけないことのおかしさだって理解してる。
それでも彼には、こうするしか道がない。きっと彼じゃなくても、まったく同じ状況に置かれたら同じことをする人のほうが多いだろう。だからわたしは、ダンブルドア先生を非難するつもりなんてまったくない。
……ちょっと話がそれたな。ともかくそんなわけで、ダンブルドア先生としては今年度の事件には是が非でもハリーに関わってもらいたいはずだ。
そして乗り越えてほしいって思っているはず。ヴォルデモート本人が来ているから、彼がまだ無力なうちに対峙させて精神力を養おうって思惑もあるかもしれない。そんな状況でわたしが原作知識を提示しても、事件の早期解決のために動いてくれる可能性は低い。
最悪の場合、わたしが彼の手駒にされる可能性や、開心術でわたしの秘密がバレる可能性もある。ダンブルドア先生がそこまでGG値*1が高いとは思いたくないけど、可能性があるうちはできるだけ触れたくないのが本音。
わたしが必要の部屋で閉心術の特訓をしてるのも、その一環だったりする。いや、もちろん最大の使用想定者はお辞儀だけどね?
でもハリーたちにしてみれば、何一つ成果は得られないまま時間が過ぎていくだけの状況だ。見た目だけなら平穏そのものな学校生活が、のんびり流れている。最初のうちは緊張感をもっていた彼らも、こうも何も起きなきゃダレていく。人間、所詮ずっと気張り続けるなんて不可能なのだ。
結果、なし崩し的にスネイプ先生包囲網は瓦解したのだった。足利義昭の信長包囲網だってもっと続いたぞ。
というわけで、わたしは今日も今日とてハーミーとのデートである。ひとしきり情報交換を済ませたら、イチャついてそれでおしまい。マジで誇張なしにただのデートだ。
デートの中に勉強が含まれていることに対する賛否両論は否定しないけどさ。
「リン、気をつけてね。何かおかしいなって感じたら、すぐに知らせてね。絶対助けに行くから」
「うん、わかってる。いつもありがとねハーミー」
毎回別れ際に、スネイプ先生への警戒を促すハーミーは確かに口うるさいって言われても仕方ないとは思う。
それでも、これは彼女の優しさから来る言葉だ。彼女は本気でスリザリンにいるわたしを心配してくれていて、何かあったら本当に何があっても絶対に助けにきてくれるだろう。
こういうところが、彼女がグリフィンドールに振り分けられた理由なんだよな。レイブンクローの生徒は、ここまで義理堅くない人のほうが多い。
それがわかってるから……いや、わかってなくても、わたしは好きな人のことを信じてるから彼女にうんと言う。すると彼女は、安心した表情を浮かべて唇を寄せてくるのだ。
そのたびに、わたしは決意を新たにする。
何って、決まってるだろ。ハーミーは誰にもあげないぞ、っていう決意だよ。言わせんな恥ずかしい。
***
ところが問題は外からやってきた。具体的には両親からもたらされた。
季節はクリスマスシーズン。クリスマスってことは年末が近いってことでもあり、一般的な学校はお休みになる。ホグワーツも例に漏れず、わたしは冬休みで帰宅したんだけど……。
「えっ、日本に帰る!?」
「ああ。次の人事異動で日本勤務になりそうなんだ」
「まだ確定したわけじゃないけれど、たぶんそうなりそうなのよね」
まさかの両親帰国の報である。これには困った。
まだ確定じゃないって母さんは言うけど、組織のこういう話は出た時点で決まったようなもんでしょ。わたしも前世でオフレコだけどって異動の話をされて、オフレコなら確定じゃないやろって高をくくってたら普通にその通りの異動になって苦労した覚えがある。
でも考えてみれば、確かに両親は外務省職員としてイギリスに来ている。自営業じゃない。お役所であっても異動はつきものなんだから、イギリスから退去するなんて当たり前だった。
むしろ六年以上同じ場所に夫婦揃って務めてるって、役所的にはそっちのほうが珍しいんじゃないか? 細かい仕組みとか知らんけど、役所ってわりと短めのスパンで異動するイメージあるし。
……ん? ということは、もしかしてあれか。わたし、最初からホグワーツに通う気満々だったけど、タイミング次第ではホグワーツからの入学許可証が来る前に日本にカムバックしてた可能性もあるのか。うわあ、危ないところだった!
「凜はどうする? 入学前に、魔法の学校は日本にもあるらしいって言ってたよな? そっちに転校するって選択肢もあると思うが」
自分の迂闊さに内心で頭を抱えていたところ、父さんにそう聞かれた。それは間違いのない話だからわたしは頷いたけど、わたしとしてはこのまま最後までホグワーツに通いたい。
父さんが言った通り、日本にはホグワーツに勝るとも劣らない歴史を持つ、マホウトコロという魔法学校がある。
あるんだけど、ここって闇の魔術に対して厳しいって設定があるんじゃなかったっけか。細かいところまでは覚えてないけど、なんか学生が身に着けるローブにもそういうのを感知する機能があるとかだった気がする。
それはまずい。だってわたし、判断が微妙なオリジナル魔法を持ってる。
オリジナルだからどう扱われるかわからないけど、そもそもの基準だってわからないから、下手なことはできないでしょ。それはいくらなんでもちょっと……。
日本魔法界自体はすごく気になるから、そっちにはぜひとも行きたいところだけどさぁ。
え、使わないって選択肢? なんであると思ったんですか?(現場猫
あと、そういうわたしの後ろ暗いところに関係なく、ホグワーツじゃないとできないことだってある。古代魔法に関するあれこれや、必要の部屋自体も恐らくそうそう他の場所にはないものだろうし。
それに何より、わたしがハーミーから離れたくないんだ。お辞儀って特大の障害はあるけど、それでもわたしはこっちがいい。
「あるけど、でもわたしホグワーツに通い続けたい。ハーミーと一緒がいい……」
ということで、今世で手にした才能を駆使した、渾身の泣き落としを見よ!
「そう言うと思ったわ。ねえあなた」
「ああ。大丈夫だ、お父さんたちに任せなさい。なんとかできるように調整してみせるから」
と思ったら、盛大に肩透かしを食らった。どうやら最初から、わたしがこう言うってわかってたみたい。なんだか負けた気分。
まあとはいえ、自信満々に言う父さんが普通に調整を失敗する可能性はまだある。やっぱダメでした、ってなって日本に帰国せざるを得なくなるかもしれないとなると、どうしても今後は動きづらくなりそうだなぁ。
だからなんだか無性にさみしくなって、ハーミーの家に電話をかけた。
『えっ、日本に戻るかもしれない!?』
「うん……。お父さんたち、日本に異動になりそうなんだって」
『そんな……じゃあ、リンは? 私、イヤよ! 今さらリンと離れ離れなんて、そんなの考えられない!』
「わたしだって。それでホグワーツに残りたいって言って、お父さんたちもなんとかするって言ってくれたけど……ダメだったらどうしようって……」
そんな会話をして、二人して泣いた数日後。クリスマス前日のことである。
「グレンジャーさんと話がついたよ。お父さんたちの異動が確定したときは、凜がグレンジャーさんの家でホームステイできるように取り計らっておいたからね」
父さんは帰宅するや否や、得意げにそう言った。
……なんとかするって、そっち方向かよ!? いや嬉しいけどさぁ!?
本編で描写する機会は絶対に来ないのでここに書くんですが、主人公の両親が二人揃ってイギリス勤務になったのも、二人揃ってイギリス勤務が6年以上も続いたのも、主人公の無意識の魔法によるものです。
ホグワーツに入って両親のそばから長期間離れた結果、魔法が解けて日本に戻ることになったっていう裏設定。
ちなみに今さらですが、主人公の名前は漢字で書くと善宝寺・凜となります。