才能に恵まれすぎたドMが魔法界で百合逆ハーレムを目指す話 作:ひさなぽぴー
ルーピン先生にフィニート・アナテモースをかけた翌朝のこと。わたしは前日にした約束に基づいて、ルーピン先生の部屋を訪れた。
わたしを出迎えてくれたルーピン先生は、昨夜と同じくらいに顔色が悪かった。どうやら、フィニート・アナテモースでは人狼症への対処にはならないみたいだ。
残念。あわよくば……と思ってたんだけどな。
ただ、防衛術の教授職への呪いは就任直後の規模まで戻ってる。昨夜かけたときにフィニート・アナテモースがどう効果を発揮するかをきちんと確認して、データ収集もできてる。まだ精査はできてないけど、少しは前に進めてるはずだ。
あとこの呪いが一時的に薄れてるおかげで、今朝は魔眼で人狼症を視るのがすごい楽。覆ってるものがなくなったから、はっきり視えるんだよね。
「……やあ、ミス・ゼンポウジ……昨日は色々とありがとう」
「いえ、それはわたしのセリフです」
「押し問答になりそうだね。この件はそういうことにしておくとして……」
ともあれ、周囲に気づかれないようそっと室内に案内されたわたしに、ルーピン先生はコルクで封がされた小瓶を差し出した。中には、てらてらと光る液体が少々。
「……ご要望の、唾液だよ。これだけあれば、何かわかるかな?」
「ありがとうございます、先生。絶対に成果を出して見せます」
「気負わなくていいよ。ただ、危険なものなのは間違いない。絶対に素手で触ったりしないようにね」
「はい、気を付けます」
そう、先生が差し出したのは彼の唾液だ。
でもただの唾液じゃない。狼人間に変身している最中のものになる。
人狼症は、狼人間に変身したものに噛まれることで発症する。正確には、噛まれて適切な処置が施されたものが発症する、だけど。
その要因は、唾液にある。変身中の狼人間の唾液が、血液と触れ合うことで感染するのが人狼症なのだ。
ということは、唾液には何かしら魔法的な要因がある。そうにらんだ私は、昨夜フィニート・アナテモースをかけたあとに採取をお願いしたのだ。朝一での受け渡しになったのは、時間経過でその効能が減退する可能性を懸念してだね。
本当のことを言えば、わたしが直接採取したかった。でも、それはさすがに却下された。残当。
「……なるほど」
で、急ぎ魔眼で確認してみれば、唾液にはルーピン先生のものとは異なる魔法力が宿っている気配があるものの、活性化していないのか害になるような力はうごめいていない。
けれどレベリオをしてみれば、その反応は敵性を示す赤。唾液自体がそういう挙動をするはずはないから、これはそれだけ攻撃的な何かが唾液の中に含まれてるって見ていいだろう。
じゃあ唾液の中にある危険そうなものとなると……魔法界で得た知識の中に心当たりはないけど、マグル界で得た知識の中には心当たりがある。
これはずばり、細菌やウィルスのような微生物を示してるんだとわたしは見たね。
つまり人狼症とは、唾液に含まれるごくごく微小な魔法生物によって引き起こされる感染症なんじゃないでしょーか。
せっかくの機会だ。魔眼レベル2も起動してみよう。
数秒だけど、これで観察すれば……ああ、なるほど。唾液に含まれている力は、血液と反応することで起動するのか。そして全身を巡って人を侵す。
最終的に侵食が完了すると、満月の日に生じる、もしくは満月から発せられている魔法的な要因によって肉体を変異せしめる……というわけか。さすが魔眼レベル2、数秒でもかなりのことがわかるな。
この変身の直接の原因になっている要素が、具体的に何かはまだわからない。それらしいものを、魔眼を使っていても視認したことがないんだよね。
魔眼レベル2なら何かわかるかもだけど、こっちはこっちで逆に視えすぎるからな……。起動していられる時間もごく短時間だし、その状況で何もかもが視える中から一つのものをこれだと特定するのはまず不可能だ。
とりあえず、満月の日に恐らく最大になるだろう、狼人間に変身させている外的な魔法要素を、仮にブルーツ波と呼称するとして。
あとはこの唾液に、血液を混ぜて実際どういう挙動をするのか視てみたいところだけど……。
「もしこの病気が呪いだとしたら、それだけで感染する可能性がある。絶対に許可できないよ」
「ですよねぇ」
ということで却下された。妥協案として、ルーピン先生が自分の血を提供するということになったので、そこも観察させてもらったところ。
「……ふむ。一度感染した人の血液では反応はしない、と」
ルーピン先生はそう言ったけど、違う。反応はして、呪いは起動した。魔眼で視ればそれは明らかだ。
ただ、既にルーピン先生は人狼症に感染してる。だからなのか、反応してすぐに「なんやこいつもう侵食済みやんけ」みたいな感じで、スッと停止したんだよね。
これは面白い。予想とはちょっと違うけど、わたしにとっては好都合だ。だって、これからはルーピン先生さえ協力してくれれば、この呪いが起動する瞬間を何度でも見れるってことなんだからね。
ということで、早速何回か血をかけて呪いが起動する瞬間を見せてもらい、その監察結果をメモにまとめ上げる。
おかげで人狼症の呪いというものが、おおよそ見えてきた。ここまで来たら、より効果の高い脱狼薬まで辿り着けると思う。
それに、人狼症の調査でわかったいくつかは、血の呪いにも活かせそうだ。それそのものがすぐに活きるわけではないけど、アプローチの材料としてはなかなかだと思う。
ただ、この先の研究には顕微鏡が必要かな。魔法界にそういうのってあったっけ? 魔法道具屋は日英双方色々見てきたけど、それっぽいの見た覚えがない。
まあ、必要ならマグル界から輸入すればいいか。高性能な電子顕微鏡が必要とかになったら、少し話は変わって来るけど。
「ありがとうございます、ルーピン先生。おかげでたくさんのことがわかりました」
「役に立てたなら何よりだ。君の愛する人が治せることを祈っているよ」
「はい。……ですが、それは先生もですよ。これだけのデータがあれば、きっと」
「……そうだと、いいね。ああ、そうだととてもいい」
最後にルーピン先生はそう言うと、昨日よりは朗らかに笑った。
あ、ちなみに人狼症は対躯型だ。今回の調査で確定した。魔眼レベル2で視たら、魂との繋がりがなかったからね。
でもたぶんだけど、対躯型としては最高峰だと思う。これが魔法微生物によって起こされる自然的な呪いとか、相変わらず魔法界は恐ろしいところやで。
「さて、ミス・ゼンポウジ。そろそろいい時間だ。このままだと朝食を食べ損ねてしまうよ」
「そうですね。お暇させていただきます。次の授業でお会いしましょう」
こうしてわたしの人狼症調査は、ひとまず区切りがついたのだった。
***
十二月に入った。二回目のホグズミード休暇が近づきつつある日のこと。
日刊予言者新聞に「ホグワーツの警護に当たっているディメンターの数が、当初の7割ほどになっている
思ってたより減ったな、ディメンター。そんなにハッスルしたのかイザナミ様。よっぽどディメンターが嫌いなんだな……。
ところで記事によれば、ディメンターはホグワーツ周辺を離れて徘徊し、無辜の人々に食指を伸ばしている
かもしれない。なんともまあ、無責任な表現だこと。
憶測で一面記事を書くなとは思うけど、書いた人はリータ・スキーターだったからあいつなら書くだろうなって思うし、何よりディメンターならやりかねないのがな。
おまけに、魔法省側はディメンターの数が当初派遣した数より減っているっていうことを、つい最近まで認識してなかったらしい。そりゃあ新聞で槍玉にあげられるのもやむなしって感じだし、下手に取り下げさせるのもなって思っちゃうよね。
スキーターの記事も、どっちかって言うとこの部分……魔法省の怠慢を追及する感じの論調だった。叩けるところは徹底的に叩くところ、お前はそうだろうなって感じがすごいする。
……この事実をイシュカに教えたら、今度こそ魔法省に突撃して邪視をところ構わずぶっぱしそうだなぁ。無差別大量殺人になりかねないから言わないけど。
ファッジおよびウィゼンガモットの人たち、命拾いしたな。
まあ、実際に命拾いしたかどうかは怪しいところではある。何やらパパフォイがこの件で動いてるらしく、一部の評議員は非常に苦しい立場に追いやられているらしい。これは二面記事に載ってた。
政治的には上から数えたほうが早い強キャラなのが、ルシウス・マルフォイって人だ。
そして、やるとなったらやる。彼に不要と判断されたら、近い将来栄えあるウィゼンガモット評議員から下ろされる結果になる可能性は結構高い。
それ自体は、別にどっちでもいい。わたしに政治の話はわからないし、見たことも聞いたこともない人が失脚したところで、「ふーん」以上の感想は抱けないし。
せいぜい、後釜にシリウスを擁護してくれそうな人が来たらいいかなぁくらいだ。現状そんな人がいるとも思えないから、ただの願望だけど。
数パーセントもあるかどうかわからない話より、今はそのシリウス当人の行方のほうが大事だ。
いや本当、マジで影も形も存在を感じないんだけど、どこで何やってんだろう? あなたが出てきてくれないと、こっちも動くに動けないんですけど。
シリウスの影も形もないせいか、今やピーターはほとんど怯える様子もなくロンのペットをしてる。なんならパーシー(元飼い主)にも懐いてるみたいで、二人になかなかかわいがられてる。
うーん、このまま仲いいまま話が進んだら、ペットの真実を知ったときロンがどうなっちゃうだろう。わたしは彼のメンタルが心配だよ。
ともあれ、話を戻そう。そんなわけで、ハリポタの物語的には動きがない。
もちろん何もすることがない、なんてわけがないから、暇ってわけじゃないんだけど。ホグワーツ的には、ハリーとディメンター周り以外は平穏だし。
強いて言えば、パンジーからの視線が気になるのと、ドラコがここ最近やけに疲れた顔をしてることくらいか。
でもこれも、要はわたしを意識してるパンジーと、クィディッチに打ち込んでるドラコってだけだろうしなぁ。ドラコについては、パパフォイの活躍(?)にテンション上げてたから、心配することでもないだろうし。
そんな冬のある日。二度目のホグズミード休暇の前日のこと。わたしはルーピン先生を視たことで得られた知見や、思いついた理論などを取りまとめた論文を完成させ、ダンブルドア先生にぶん投げた。
いやね、脱狼薬の改良もしくは新薬開発に時間を割くのは、今のわたしには難しくってさ。いくらわたしが神様のおかげで才能に自信ネキとはいえ、片手間にやれることでもないし。
だけどそのまま眠らせておくには、もったいなさすぎるでしょ? 顕微鏡もこの短時間じゃ調達できなかったから、じゃあもうあとは論文にして、うまく使えるだろう人に投げちゃえってなったワケ。
いやー、久々に論文書いた。これに集中してたとはいえ、パソコンなしの約半月でメド立てたわたし、がんばったんじゃない? 神様謹製の才能のおかげとはいえさ。
おかげで明日のホグズミード休暇には、解放感と共に楽しめそうだ。
あとのことは心配してない。うまいこと使ってくださいって言って渡したし、ダンブルドア先生も任せなさいって言ってくれたからね。
まあたぶん、スネイプ先生が孫請けすることになる気がするけど。その部分についてはもう、わたしの関知できるところじゃないですしおすし……。
そんな校長室からの帰り道。わたしは寮にも必要の部屋にも戻らず、とある隠し部屋に向かっていた。
論文に関する話し合いがどれくらい続くかわからなかったから、今日は必要の部屋に集合はしないってなってるんだよね。だからそれぞれが今どこで何をしてるのかは、わたしも知らない。
もしかしたら必要の部屋で何かしらやってるか、ナニかしらヤってる可能性もなくはないけど、今日は必要の部屋じゃできないことをやりたいので我慢する。
何がしたいのかって言うと、必要の部屋の研究と実験だ。必要の部屋以外の場所を、必要の部屋にしたいんだよね。これもわたしの目標の一つだ。
ただ、必要の部屋の中でそれをやるのはちょっと。元からある必要の部屋の仕組みと、下手に干渉して壊れたりしたら元も子もないでしょ。だから別の場所でやろうってわけ。
もちろん、あの複雑極まりない魔法の部屋を再現するのは簡単じゃない。今のところできるのは、せいぜい部屋に色んな魔法をかけてその組み合わせを調べたり、魔法同士の相性を調べたり……そういう地道すぎることくらいだ。
おまけに魔眼が必須な上に、魔法の精度と出力の両方が必要になってくるから、わたしにしかやれないんだよね。おかげであんまり研究は進んでない。
一応、部屋の前にいる人間の思考に応じて扉が出現する仕掛けは、なんとかなりそうなところまで来てるけどね。この感じだと、ホグワーツ在学中の完成は無理かなぁ。
ま、それ以外のあんまり表沙汰にできない研究開発なんかも、そこでやってたりするんだけどね。クラスのみんなには、内緒だよ!
人狼症が微生物によって引き起こされる呪い、というのは完全に独自設定です。
なのですが、これを書いていた8月9月頃は、まさかこれがよそさまの設定と被るとは思っておりませんでしたい・・・。
そちらの設定は人狼症ではないのですが、やっぱり思いつく人は思いつくんだなって感じです。
いやでも、絶対いると思うんですよ微生物の魔法生物。目に見えるものだけが生き物じゃないのは、マグルの我々にしてみれば別におかしな発想でもないでしょうし。