才能に恵まれすぎたドMが魔法界で百合逆ハーレムを目指す話 作:ひさなぽぴー
ともかく、シリウスとピーターの和解は無事成った。
いやあ、ずっと気をもんでた案件がスムーズに終わってほっとしてる。裏で色々暗躍してた(たぶん)かいがあったってもんだね。
暗躍の大元とも言える催眠魔法に関しては、まあ、わたしのやることだから仕事としては完璧だろう。だからとりあえず、今は深く考えないことにした。棚に上げたとも言う。
でもま、何かの拍子に必要になる機会は来る可能性があるから、お辞儀をなんとかするまでは再開発にある程度のメドはつけておこうと思う。お辞儀が退場したら、もう使わない。そう決めました。
ただわたしが自己解決した一方で、シリウスが社会的に刑務所を脱獄した指名手配犯である事実はまだ変わらない。次はこれをなんとかしなきゃいけない……んだけど。
「それについては、既に父上が準備を整えてくださっている。ダンブルドア、あとはあなたの説得があればウィゼンガモットは動くはずだ」
朗報、マルフォイ家ガチで動いてた。どうやら年末年始ごろにあったマルフォイ家の動きは、マジでシリウスを助けるためのものだったらしい。
ドラコから、封蝋のついた手紙を受け取ったダンブルドア先生は軽く驚いてたけど、それ以上に驚いてたのはもちろんハリーとロンだ。あのマルフォイが! って感じだろうね。
あと、なぜかシリウスもめっちゃ驚いてた。なんでや。そこは合意の上やないんか。
「勘違いするなよ。一度途絶えかけたとはいえ、ブラック家の権威は死んでない。純血王家の復活に最善を尽くしたとなれば、マルフォイ家の権威も高まる。これはそれだけの話だ」
対するドラコは、いつもの調子で鼻を鳴らしてふんぞり返った……けど。
「ん? 俺がきちんと身の潔白を主張してさえいれば、ハリーが腐れマグルの家に行かずに済んでたんだから責任は取れ、って嗜めてくれたのはどこの誰だったっけな?」
意趣返しなのか、シリウスが即座に暴露をかましてくれたおかげで、顔を真っ赤にして大慌てだ。
「そういうところだぞシリウス・ブラック!! そんなだから友人に裏切られるんだ!!」
彼はそう捨て台詞をはくと、だんだんと床を踏み鳴らしながら校長室から出ていこうとした。
けど、ロンがその行く先をはばむ。そのまま有無を言わさず肩を組むと、ダル絡みし始めた。
「へえー? マルフォイにもそんな人の心があったんだな? いやぁ、おっどろきー」
で、そう言いながらにやつくロンの顔は、フレッドとジョージにそっくりだった。うーん、これはまごうことなき兄弟。
「ええい離れろ! ウィーズリーなんかと話すことなんてない!」
「まあまあ、そう言わずに。ほらハリー、君も来なよ! 今回の功労者を労ってあげなくっちゃな!」
「うん、そうだね。いやー、まさか君がそんなに僕のことを心配してくれてたなんて……もしかして僕、君のことを勘違いしてたかもしれない!」
「心にもないことは言わなくて結構だ! いいか、僕は! お前が! お前らが! 嫌いだ! 嫌いなんだよ!!」
そのままハリーも加わって、ドラコいじりが始まった。うーん、シリウスからのこの流れ、完全にグリフィンドールのノリ。
まあでも、ドラコはいつもいいリアクションしてくれるからね。いじりたくなる気持ちは今のわたしにもわかる。
これで決定的にシリアスな空気が吹き飛んだこともあって、子供たちはここで解散になった。校長室に残ったシリウスとピーターは、そのままダンブルドア先生と色々話すことがあるだろうけど……そこはもう、わたしが手を出す必要はないだろう。
まあ、あの二人とスネイプ先生の顔合わせはもめるだろうなぁ……とも思うわけだけど。そこはダンブルドア先生にがんばってもろて。
「おいゼンポウジ! こいつらをどうにかしろ!」
「かしこまりました、ただちに」
おっと、ドラコがお呼びだ。
お呼びとあらば即参上。わたしは杖を取り出して、ハリーたちに詰め寄った。
「待て、待ってくれよリン!」
「そうだよ、話せばわかる!」
「ごめんね二人とも。尊きお方を貶めることは見過ごせないんだ」
「「わーーっ!!」」
大げさだなぁ。ただちょっとグリセオとヴェンタスを組み合わせてコケさせただけじゃないか。
「よくやった。……さて、ゼンポウジ。それともダフネかな? タイムターナーを貸してくれ」
「……わたくしが持っておりますけれど。どうなさいますの?」
「決まってるだろ? クィディッチを見に行くんだ。特に今年度まだ戦ってないレイブンクローの動きは、今のうちにしっかり研究しておかなきゃいけない」
「勝敗は決まっているでしょうに、熱心ですわねぇ。まあそういうことなら構いませんけれど……」
その後、ドラコはタイムターナーで時間を遡ってクィディッチを見に行った。
うーん、まさか原作ではあれほど秀逸なストーリーギミックを担ったタイムターナーが、ただのクィディッチ観戦で使われて終わるとは……。
いやその、散々えっちするために使ってたわたしが言うのもなんだけどさ。ハリー目線の物語としてこの世界を見ると、チェーホフの銃としてはあまりにも雑すぎるなって……。
まあ、12歳のロリ百合えっちを皮切りに、女の子同士のアブノーマルなプレイが散々出てくるこの世界が世界的児童文学として普及してる世界線なんて、あるわけないだろうから考えるだけ無駄だろうけどさ。
世界的アダルト文学として普及してる可能性? いやあ、ないでしょ。ポリコレに怒られるよこんなの。
***
と、こんな感じで一件落着……落着? したわけだけど、まだわからないことがある。
なんでニコ殿下たちがシリウスをかくまっていたのか。理由は、経緯は、なんだったのか。その辺りのことが謎のままだ。
ダフネも、アストリアが危険なことをしてたんじゃないかって心配してる。だからこの日の夜、わたしとダフネは男子寮のニコ殿下とアストリアの部屋に押しかけた。
「お二人ともおこしやす。お待ちしとりました」
三つ指をついて出迎えてくれたニコ殿下だったけど、そんなことより室内が和室に改造されてることのほうがびっくりだよ。
それになんなの、その「一撃必殺」って掛け軸。文字に反して大らかで柔らかい字だけど、どこの誰が……よ、
し、
「おじい様が昔、親戚のおじさんにもらったって言うてましたね」
「そりゃ親戚のおじさんでしょうけども!!」
心臓に悪いぞこの部屋! そこらへんにあるもの全部が歴史的に価値のある文物の可能性ある部屋とか、セックスをしないと出られない部屋の何十倍も怖い!!
入ったことなかったから知らなかったんだけど、いつの間にこんなことに! ダフネが驚いてないところ見るに、前々からっぽいけどさぁ!
「アストリア気づいたのです。おうちでくつろいでるときは、靴は脱いだほうが楽って」
「ええまあ、それはわたしも強く同感するところではありますけどもね??」
とまあそんなことはさておき。
ニコ殿下が出してくれた(わたしがやるって言ったんだけど押し切られた)緑茶を、戦々恐々としながらいただきつつ、話は始まった。
「と言うても、口で説明するより実際に見ていただいたほうが早いかと思いますんで……はい、やーたーのーかーがーみー」
「……殿下もドラえもん見るんですね……」
「そらもちろん。今度の映画も楽しみですわぁ」
のぶ代さんの声マネ(全然似てない。ほぼイントネーションだけ)をしながら鏡を取り出した殿下は、わたしの言葉に嬉しそうに笑った。
1994年は夢幻三剣士だったかな。挿入歌が熱いんだよな。
主題歌もなんやかんやで名曲。ストーリーは怖いけど名作ですよ……なんて言うと、万が一違ったときに困るから言わないけど。
まあ話は戻して。おほんと冗談めかして咳ばらいをした殿下は、改めて八咫鏡を抱えた。鏡面から映像が浮かび上がっていく。
周りの景色は森。見覚えのある景色。禁じられた森だ。ひときわ大きな木の下で、ニコ殿下とアストリアが大きな黒い犬をなでている様子が見える。
「そもそもどうして森に入ろうとしましたの?」
「色々と素材が欲しくて……」
ダフネの問いかけに対する殿下の答えはこう。これを聞いたダフネは、無言でわたしを見た。
わたしを連想したんだろうけど、なんででしょうね。ちょっとわかんないなぁ。
「あの犬、シリウス様ですよね? このとき既に正体をご存じだったのですか?」
「いいえ、知りませんでした。でも、人間だとはわかってましたよ。アニメーガスは普通の動物と気配がちゃいますからね」
クルックシャンクスみたいなこと言う。いやクルックシャンクスがそう言ってたかはわかんないけど。
うーん、見ればわかるってことかなぁ。だとしたら、殿下もわたしみたいに魔眼みたいなことができるんだろうか。
もちろん、不思議なことで満ちてる魔法界だ。わたしが知らないだけで、魔眼以外にも見破る手段はあるかもしれない。殿下はそういうのを持ってるのかもね。
「え? だとしたら殿下、人間だとわかっていてこの犬に近づいたということですの?」
「そうなりますね。でもしゃーないって言いますか……その、うち、ちょっと事情があって。動物にえらい避けられるタチでして……魔法生物ですら、大半は懐く以前に近寄ってもくれへんのです。それか襲われるかのどっちかで」
「ああ……アニメーガスなら逃げないから、ここぞとばかりにモフりに行ったんですね……」
いるよね、なんかやたらと動物に避けられる人。漫画とかだと、極端なまでに避けられるキャラもたまにいるけど、ニコ殿下もそういうタイプの人らしい。
なんか、アストリアのペットであるシロも、殿下には近寄ってくれないらしい。
言われてみればと思って部屋の中を見渡せば、シロは部屋の隅でじっとしていた。もうひよこじゃないんだけど、その姿はやけに幼く見える。
これでもだいぶ慣れたほうらしい。そんなに。
「まあマルフォイ先輩からは、『わかっていたならなおさら近づいたらダメだろう』ってお説教されてしもたんですけど」
「それはそう」
「ドラコが正しいですわ」
ドラコ……ニコ殿下にもオカンしてたんだね……。なんていうか、そりゃ原作でも監督生にもなるわなって感じだよ。この感じだと、満場一致だったんじゃなかろうか……。
……ところで投影されてる映像、犬に化けたシリウスを愛でるニコ殿下とアストリアが、ひたすらキャッキャウフフしてるだけのてぇてぇ映像なんですけど、これで何がどうなって今に繋がるんです?
そう思ったわたしが、この先の展開について聞こうとしたときのことだった。
「ところで、お二人とも蜘蛛は平気です?」
ニコ殿下が、わたしたちにそう聞いてきた。
いやあ、即座に嫌な予感が全身を駆け巡ったよね。ダフネも色々と察したみたいで、げんなりした様子を見せた。
「……まさかとは思いますけれど、これからアクロマンチュラに遭遇しますの?」
「えっ、お姉さまどうしてご存じなのですか!?」
「……遭遇しますのね……」
顔を深いため息をついたダフネに、アストリアが驚きつつも尊敬の目を向けた。どうやらここまでの会話の中で、先の展開を見破ったと思ってるらしい。
そうだったらまだよかったんだけどね……。わたしたちはアクロマンチュラのことを新学期初日から知ってたので、一種カンニングみたいなもんですわ。
まあそんなことを言うよりも早く投影されている記憶に動きがあったから、この話はおしまいなわけだけど……。
「これがアクロマンチュラですのね……思っていたよりも大きいですし、恐ろしいですわね……」
現れた巨体を見て、ダフネがわたしに身を寄せた。元々近かったけど、完全にわたしにすがるような形になった。
一昨年まではわたしを盾にする形に動いただろうけどね。時間の流れを感じますね。
まあそれはともかく、そんなわけで映像の中にアクロマンチュラが出現した。見た感じ、空腹なのかだいぶ気が立ってるな。これは危険度マシマシだぞ。
事前に情報があったわたしたちはともかく、そんなこと知る由もない当時の殿下たちは、シリウス含めた三人揃ってびっくりで硬直してしまっている。
だけどそんな中、まずシリウスが動いた。誰よりも早く危険を理解したんだろう、彼は犬の姿のままで間近にいたニコ殿下の服にかみついて勢いよく引き倒して地面を転がしていく。
直後にアクロマンチュラの鋭い爪が、二人のいた地点を通過した。ちょっと強引なやり方ではあったけど、シリウスの判断は正しかった。
『アクシオ!!』
次いで第三者の声が響いた。同時に放たれた青白い光で、アストリアが引き寄せられていく。
『大丈夫か!? 逃げるぞ!!』
現れたのはなんとドラコだ。どうやらアストリアたちが森に入ったのを見たらしく、追いかけてきたとのこと。
彼はアクシオの勢いでバランスを崩したアストリアの身体を倒れる寸前で抱きとめると、決死の表情で叫んだ。
「はあ……ドラコ様かっこいいのです……♡」
その様子に、今現在のアストリアはメロメロだ。映像のアストリアも、ドラコの腕の中で頬を染めている。
なるほど、マジで冗談抜きに白馬の王子様だったんだね。これは惚れても仕方ない。ダフネは渋い顔を隠さないけど。
『アクシオ! 殿下も無事か!?』
『は、はいな、うちも問題ないです』
二度目のアクシオで引き寄せられた殿下を、やはり抱きとめて立たせつつ、ドラコが急かす。
『逃げるぞ! 走れ! そこの犬、お前もだ! 死にたくないだろ!』
まさかのシリウスも込みだ。おや、と思ったけど、アクロマンチュラが出現する少し前から殿下たちが犬を愛でてるところを遠巻きに見てたかららしい。
つまりドラコは、スリザリン寮の後輩のペット候補と見たらしい。そんじょそこらの野良犬ならまだしも、犬の正体はシリウスで人間だ。普通に言葉を理解した様子を見せてたから、ペットにしてもいいって考えたのかもしれない。
「それが結果的に、よかったんやと思います」
ニコ殿下は説明をそう締めくくった。どうして、あるいはどうよかったのかは言ってくれなかったけど、それは先ほど校長室でのやり取りを見るだけで何となく察せられる。
つまり、ドラコが曲がりなりにも下級生や、近くにいただけの犬ですら助けようとしたから。そこがグリフィンドール生だったシリウスにとって、加点ポイントだったんだろう。
あるいは、デスイーターだった父親とは違うと思ったか。
映像の中、ドラコを加えて四人になった一行が禁じられた森を走る。後ろからはアクロマンチュラが、猛然と追いかけてくる。
だけどすぐに、四人は足を止めることになった。二体目のアクロマンチュラが、行く手を阻んだからだ。挟み込まれて退路を断たれた形だ。
横に逃げようにも、ここは禁じられた森。大きな木々と背の高い草が広がるこの中で、そちらに逃げるのは現実的じゃない。そこに三体目、四体目のアクロマンチュラが潜んでいるかもしれないもんな。
後ろと前を交互に見ながら、ドラコが顔を真っ青にする。今にも泣きそうだけど、それでも杖を握りしめた手は身体の向きを変えるたびにアクロマンチュラに突きつける形を維持する。相当力を込めているのか手が赤くなっていて、なんとかして戦おうとしているドラコの心情が垣間見える。
絶体絶命のピンチを絵に描いたような状況。今現在、シリウス含めた四人が無事にホグワーツにいることを考えれば乗り切れたんだろうけど、それを知らなかったらこの場面を見るだけでダフネは気絶してもおかしくないよね。
さて、ここからどう切り抜けるんだろう……って思ってたら、映像の中のニコ殿下が杖を犬。つまりシリウスに差し出した。
『あんたさん、わりとやれるお人やろ? これ、貸したげるさかい手伝っておくれやす。一匹だけ、それも時間稼ぎするだけでかまへんさかい』
『に、ニコちゃん? どうしちゃったのです……?』
これにはアストリアも困惑だし、杖を差し出されたシリウスなんて、困惑通り越して混乱してる。ドラコに至っては、狂ったのかって口走ってる。
ただ、渡された当人のシリウスは杖を持っていなかったから、たとえ他人のものでも杖を貸してもらえるのはありがたかったはずだ。魔法族にとって、特にヨーロッパの魔法族にとって、杖は力の象徴であり、誇りでもあるもんね。
だからだろう。シリウスは混乱を抑え込んで杖を受け取ると、任せろと言わんばかりに一声吼えた。
これにうんと頷いたニコ殿下は、二匹目のアクロマンチュラに向けて一歩を踏み出す。
『に、ニコちゃん!』
『リアちゃん、大丈夫や。うち、こう見えても結構頑丈なんよ。それに……ふふ、アクロマンチュラとやりあうなんて、滅多にできることやない。強い魔法生物と戦うんは、一種の誉れや。あああかん、ワクワクしてもう抑えきれへん……!』
「……!? え、に、ニコ殿下……? これ、え……!?」
突然ドラゴンボールの悟空、もしくは薩摩隼人みたいなこと言い出した映像内の殿下を見て、ダフネが大仰天して声を上げた。彼女がここまでびっくりするのは珍しいけど、気持ちはわかる。わたしも言葉が出ない。
何せ楽しそうに言ってのけたニコ殿下の頭から、
さらにはニコ殿下の爪が真っ黒に染まり、まるで刃物のように鋭く伸びた。手の甲にはおどろおどろしく血管が浮き上がり、日本人らしい色の素肌もうっすらと青みがかったものに変わっていく。ぎらりと不吉に輝く金色の瞳はさながら悪魔かのように縦に割れていて、アクロマンチュラをにらんでいた。
「で、殿下……鬼……だったんですか……」
そう、ニコ殿下としての形は失われてないけれど、でも確かに、その姿は鬼のものだった。
一体どういう経緯で、シリウスがドラコたちスリザリン生のところに居つくに至ったのか、という説明をする補足回。
もう少しシリアスが続きます。
ついでに、ニコくんの存在そのものにも触れていくよ!