才能に恵まれすぎたドMが魔法界で百合逆ハーレムを目指す話   作:ひさなぽぴー

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51.ドラコ・マルフォイが見たもの 中

 鬼。言わずと知れた、日本で最も有名な妖怪の一つだ。

 これはもう、断言しちゃっていいでしょう。それくらい名前は知られてるはず。

 

 じゃあこの世界における鬼はといえば、人型の魔法生物の一種ってことになってる。イギリスで人型の魔法生物と言えばゴブリンや巨人が有名だけど、似たような感じだね。

 

 日本の固有種って扱いで、個体差がかなり大きい生物だ。個体によっては巨人のように大きい人もいれば、人間とさほど変わらない体格の人もいる。

 それでも共通してる特徴は、巨人顔負けのパワーとタフネスを誇ること。それでいて、巨人よりもさらに高度な知性を持っていて、魔法すら使うことができる。そんな存在だ。

 

 うん、わりとヤバい存在だね。日本魔法界は、そんな連中と隣り合った場所なのだ。

 

 とはいえ、能力がヤバいだけで鬼自体はそんなに危険な存在じゃない。人間に匹敵する知能があることから、普通に人間社会に順応してるからね。

 

 もちろん生態による文化や習慣の違い、そこから来る軋轢なんかはある。人間と争った歴史だってある。酒呑童子とその一党が、源頼光たちと争ったのはその典型だ。

 

 ただ、彼らには明確な弱点がある。簡単な魔法一つで特定の方角からしか境界を越えられなくなる、炒った豆をぶつけられると大ダメージを受ける、とかだ。だから魔法族側では対応手段が確立されていて、現代では平和に住み分けができてる。

 それに、巨人が人間と交配できるように、鬼も人間と交配できる魔法生物の一つだ。かつてはマグルと鬼の間に生まれた子供が、武将としてマグル界で名を馳せたことだってある。

 

 さてそんな鬼たちだけど、この世界の彼らにはもう一つ、おおむね共通するものがある。

 それが強い相手と戦うのが好き、心身ともに、もしくは片方だけでも強い存在が好き、っていう性格なんですけども。

 

「つまりなんですの? 殿下はその種族的性格を、バッチリ受け継いでいるということですの?」

「そうじゃないと、杖もなしに嬉々としてアクロマンチュラと殴り合いをするなんて普通しないでしょ?」

「……まあそうですわね」

 

 投影された映像の中で、ニコ殿下が八面六臂の大活躍を見せている。周辺の木々を使って立体的に機動するくらいは当然として、石だろうと枝だろうと何でも使って勝ちに行くスタイルは泥臭いけど、ガチな命のやり取りはこういうものなんだろうなって気もする。

 

 ていうか、普段あんなに大人しくておしとやかで、淑女の鑑みたいな立ち居振る舞いしてるのに。このときばかりはそんなもん知らんとばかりに、楽しそうに笑みを浮かべて戦闘の狂気という愉悦に身を任せる殿下の姿は、まさにバーサーカーだ。

 猿叫は上げてないから、バーサーカーだと信じたい。あれは薩摩ホグワーツじゃない、そう信じさせてくれ。

 

 話を戻そう。頑丈という自己申告に偽りはないようで、アクロマンチュラの鋭い爪や牙を受けても、服が裂けるだけで殿下の柔肌にはほとんど傷がつかなかった。

 毒もあるはずなんだけど、効いてる様子がない。ハグリッド並みの耐久力をしていらっしゃる……。

 

 で、最終的にアクロマンチュラは胴体ど真ん中に、ひねりの入ったえげつない黄金の右を受けてノックアウト。試合終了となった。

 

 つっよ。なんか人間よりはるかに大きいアクロマンチュラの巨体が、体液まき散らしながら十数メートル以上吹っ飛んだんですけど。巻き込まれた木がミシミシ言ってら。

 

 なんていうか、シンプルに暴力の化身。魔法界なのに魔法のまの字も見たらない。

 これで彼が純粋な鬼じゃないってマ? 戦略兵器じゃんこんなの。

 

「元から『そういう』ところあるんですけど、あの姿になるともうガマンできひんくて……いややわぁ、恥ずかしいわぁ」

 

 その当人は今、両手を頬に当てて照れておられます。

 あの、殿下? ちょっとお転婆なところを見られた、みたいな感じの照れ方していい光景じゃないと思うんですがそれは。

 

 というかこういうのって、鬼としての姿や暴力性を忌避していて、それを受け入れてくれた優しい人にトゥンク……ってのが王道じゃないんですか。なんですか、暴力とはマブってことですか。

 

「先祖代々続く血の呪いをなんとかしようとした結果ですよって、この身に恥じるところなんてあらしません」

「話題が急ハンドル過ぎる」

 

 まさかそこに話が接続するとは思ってなかったじゃんね。

 

 なんてやってるうちに、記憶の中のニコ殿下は当初追いかけてきていた一匹目のアクロマンチュラに躍りかかった。

 この頃には既にシリウスはアニメーガスを解いていて、ニコ殿下の杖を使ってどうにかこうにかアストリアたちに被害が及ばないように健闘していた。

 

 見た感じ基本は蜘蛛退散呪文(アラーニア・エグズメイ)を使いつつ、攻撃を避けたり逸らしたりするのが主体。何度か危ないところもあるけど、そういうときは犬に変身することでギリギリ回避していた。

 アズカバンから脱獄してきてさほど経ってない上に、浮浪者同然の生活をしてた時期だってのにがんばってるなぁ。これが火事場のクソ力ってやつか……。

 

 とはいえ、この健闘はシリウスだけの手柄でもないみたいだ。シリウスが懸命にアクロマンチュラを引き付けているからか、多少余裕を取り戻したドラコがアラーニア・エグズメイでちょこちょこ援護射撃を飛ばしてる。

 

 やるやん。この魔法、確か習うのは四年生だったはずだけど。土壇場の見よう見まねで覚えたのかな? それとも予習してたのか。

 どっちにしても主人公じゃん。アストリアも、これには完全にやられちゃってる。

 

 そんな中、アクロマンチュラにライダーキックさながらの飛び蹴りをぶちかますニコ殿下。連戦だって言うのに疲弊した様子はなく、むしろ嬉々とした表情全開で最高に楽しそうである。

 

 この上からの参戦は奇襲になったらしく、アクロマンチュラは回避しきれず顔部分に直撃を食らって吹っ飛んだ。

 もちろんそれで終わるはずもなく、蹴りを食らわせた反動で着地したニコ殿下は、そのまま追撃を開始する。

 

 その様子を見ながら、シリウスは片膝をついて息を整えている。アクロマンチュラがシリウスたちに攻撃する余力がなくなったからってことだろう。

 

「凛先輩はご存じですやろ。日本魔法界に横たわる、最悪の呪いのこと」

「崇徳天皇がかけたものですね?」

 

 戦いの様子を見ながら、ニコ殿下が説明を再開する。わたしの問いに、彼はうんと頷いた。

 

「その呪いを解くために、色んなお(いえ)が手を尽くしてくれてはります。この約八百年間、色んな方法が試されてきました。そんな中、血の呪いの主体って言うてもいい血縁そのものを、人間以外の血で薄めようとしたんが当家なんです」

「……そ、れは。確かに、理屈はわからなくはないですけど……」

 

 さらっと言うけど、狂気の沙汰だよそれは!

 

 確かに、魔法界には人間と交配できる魔法生物がそれなりにいる。ヨーロッパだけでもゴブリンに巨人、ヴィーラとすぐに複数思いつくくらいにはいる。

 でも交わったことで何が起きるかなんて、わかったものじゃないのに。ましてや、色んな生物の血を取り入れるとか……よくそんなとんでもない大博打に打って出たなぁ。

 

「それが残念なことに、皇室にはノウハウがありましてん。その、色んな魔法生物とアレコレしはったお方が過去にいはりまして……その記録を元に数百年間、当家は色んな魔法生物と交わって、血を取り込んできたんです」

「ええぇ……どうかしてますわ……」

「うちもそう思います」

 

 それ、絶対色んな魔法生物とウコチャヌプコロしまくった例の皇族じゃん……。

 確かにあの日記を残すような人間なら、そういう方法を確立しててもおかしくはないだろうけど……! こんなところでそんな伏線回収されてもなぁ!

 

 え、人型じゃない魔法生物とも交配実績あり? 嘘だろ??

 ハクタク!? ミヅチ!? ほ、他にももっと!?

 

 ……うん、この話やめよっか!

 ほらダフネが顔引きつらせてドン引きしてる! そりゃそうだ!

 

「そやからうちも、鬼言うよりは鬼の血も入ってる何か、鬼の血が一番強く出てる何か、が正しいですね。何がどんだけ入ってるかは、さっぱりわからへんですけど。

 でもそのおかげで、当家は他の皇室よりスクイブ率低いんですわ。何せ6、7割くらいはちゃんと魔法使えますさかい」

「ですがそれ、人によって身体的特徴が違いすぎて、大変ではありませんの?」

「そうですねん。うちの見た目がこないなんも、雪女とか座敷童子とかみたいな、女しかいぃひん魔法生物の血の影響やろう、って言われてますわ。家族全員、そんな感じで何かしらありましてん」

ハリポタ(この世界)とはジャンルの違うファンタジーって感じだ……」

「一応共通点もあって……それが動物に避けられることなんですわ。お父様はほとんど人間と変わらへんのですけど、そこは一緒で。ほんま、遺伝子って摩訶不思議ですわぁ」

 

 頬に手を当てて、やれやれって感じで苦笑するニコ殿下は相変わらずお美しい。なるほど、雪女とかの血の影響って言われると納得できる気がする美貌。

 だけど鬼の姿になれること自体は魔法でもなんでもなく、そういう生態でただの身体機能らしい。今改めて魔眼で彼を視たけど、最初に視たときと同じく魔法の気配は感じ取れない。

 

 いやー、魔眼で視てもわからないことがあるとは思わなかったな……。レベル2なら、何かわかったりするんだろうか。

 

 あとなるほどと言えば、もう一つ。動物に避けられる理由についてもだ。

 だって見た目はともかく、その遺伝子は何が何だかわからない得体のしれない存在って思われても仕方ないところあるもん。そりゃあシロも、部屋の隅で殿下から距離取るよなぁって。

 

 ……あ、そうこうしてるうちに記憶の中のニコ殿下がアクロマンチュラをノックアウトした。地面に仰向けで横たわったアクロマンチュラは、脚が二本ほど引きちぎられた状態でひくひくと痙攣してたけど、ほどなくして動かなくなった。

 残心してそれを見届けた記憶の中のニコ殿下は、無邪気な笑みを満開に花開かせて、嬉しそうにくるくる踊ってる。

 

 ……うーん、これは薩摩ではありませんね! ヨシッ!

 

 でも記憶の中のドラコは、この様子にドン引きだ。元々決して勇敢なタイプじゃないだけに、身内に居座っていた強大な力の持ち主(しかも見た目がアレ)は恐ろしく見えるだろうな。

 彼の腕の中にいるからか、それともニコ殿下のことは信頼しているからか、アストリアは怯えた様子はない。不安そうな顔は、殿下が心配なだけかな? なんて純真な子なんだろう。

 

 一方で、鬼状態のニコ殿下に一切態度を変えなかったのはもう一人。シリウスだ。

 彼はふらつきながらも改めて立ち上がると、満足して戻ってきたニコ殿下を普通に受け入れたのだ。

 

『何回か攻撃を受けていたようだが、身体は大丈夫か?』

 

 何よりもまずそう言ったシリウスに、ニコ殿下の動きが一瞬止まった。小さく目を見開いて、縦割れの瞳がシリウスを見つめる。

 

『おおきにね。でもへっちゃらです。リアちゃんにも言うた通り、うち頑丈なんですわ』

『それでも念のため、医務室で診てもらうくらいはしたほうがいいと思うが』

『堪忍しておくれやす。ディメンターがうろついてるさなか、禁じられた森に入ったなんて知られてしもたらうちもリアちゃんも、ようさん叱られてしまいますわ』

『そりゃそうだ。とはいえ私もこういう冒険をしていた口だから、これ以上言う資格はないだろうなぁ』

 

 シリウスはそのまま、かつてのいたずら小僧そのままの顔でクックックと悪そうに笑った。その様子は、シリウスって言うよりパッドフットって言ったほうがいいかもしれない。

 

 この頃の彼はまだ浮浪者みたいな見た目だけど、それでも元々の顔の良さは失われてないからか、絵になるのズルいよね。

 いやま、転生して神様そのものな美貌を授かってるわたしが言うのもなんだけどさ。

 

『だとしても、まさかアクロマンチュラ相手に、単騎で挑む勇気あるスリザリン生がいるなんて思わなかったぞ。しかもそれが、こんな可憐なお嬢さんとはね』

 

 やはりいたずら小僧さながらの、からかうような態度と声色を向けられるさなかに、ニコ殿下の姿が人のものへと戻っていく。

 同時に、ニコ殿下はローブの裾で口元を隠しながら、頬を染めて視線をさまよわせた。

 

『いややわぁ、あないなお転婆なとこ、見られてしもたなんて』

『いいじゃないか、多少お転婆でも。友人のために戦ったんだ、むしろ誇るべきだと私は思うね。……おっと、(これ)は返しておこう』

『はいな、確かに返してもらいました。……おおきにね、シリウス様。おかげ様でみんな無事でした』

『それを言うなら、私のほうだよ。君たちがここ数日、食事を用意してくれていなかったらあれだけ動くことはできなかっただろう。……犬の姿では言えなかったからな、今改めて言っておこう。ありがとう、お嬢さんがた』

 

 シリウスはそう言うと、さすが名門ブラック家の長男とも言うべき流麗な仕草でお辞儀をして見せた。こういうところに育ちって出るよね。

 

 ただ、彼の発言はちょっと無視できない。

 

「……アストリア? この事件があった日以前にも、禁じられた森に出入りしておりましたのね?」

「はうっ、そそそそのぅ、あのぅ、えっとぉ……」

 

 うんそう、言葉通り受け取るなら、そういうことになるよね。ニコ殿下も小さく苦笑してる辺り、記憶の中のシリウスの発言はマジなんだろう。

 改めて思い返すと、二人が揃って厨房を探してたことがあったっけ。あれもきっとそういうことだったのかもなぁ。

 

 いやもちろん、ニコ殿下が日本食を食べたかったってのも本当ではあるんだろうけど。ついでにシリウス用の食事も用意してもらってたんだろうね。

 

「だ、だってぇ……このときまで正体は知らなかったですけど、でもでも、大きくてかわいいワンちゃんがいたのです……」

「はあ……しょうがない子ですわねぇ」

 

 悲報、ダフネの説教、不発。シリウスと実質半年間同棲してた件もろくにお説教できてないし、相変わらず妹にだだ甘なお姉ちゃんだよ。

 まあ、思うところがないわけじゃないようで、アストリアの頭をなでつつも複雑な表情を浮かべてるけどね……。

 




フフフ・・・色んな魔法生物とあんなことやこんなことをしてた皇族のくだりが、まさか伏線だったとはみんな夢にも思うまい。
ボクも思ってませんでした(二度目
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