TSガチロリあ〜かいぶっ!   作:aaa

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第4話 空崎ヒナ

 空崎ヒナがその音を聞いたのは、帰宅最中のことであった。

 前日より溜めていた残りの資料分、そして舞い降りてきた二つの問題を鎮圧しに外出。その先で直帰しようとした先でのことである。

 

 今日の仕事として舞い降りてきたのは主に二つ。

 

 第一に、温泉開発部がトリニティ海岸部の近くで違法工事をしているという知らせ。ゲヘナならともかく、発生先は学園外の地域。場合によっては外交問題に発展する。

 

 第二に、美食研究会によるトリニティ近隣地区飲食店爆破テロの知らせ。ゲヘナならともかく、発生先は学園外の地域。場合によっては外交問題に発展する。

 

 ほぼ同じ案件であった。

 外交問題への発展だけはなんとしても避けなくてはならない。

 エデン条約が目下進む只中だからだ。

 ゲヘナとトリニティの二学園が結ぶ、簡単に言えば平和条約。締結前に問題が、ゲヘナの起因で起きれば今後一切エデン条約が結ばれることはないだろう。

 抱えた爆弾の導火線を切らない限り、上部組織の万魔殿と条約締結先のトリニティから何を言われるかはわからない。

 抱えている問題をこれ以上増やすわけにはいかないのだ。いかに風紀委員長という大きな肩書きを持っていても、膨大な書類仕事の山に飲まれていたとしても、現場に駆り出されるのは自明の理。

 

 自明の理なのだ。彼女の実力ならば、キヴォトス全土、誰もが言っても自然と納得できる。

 そう言い切れるほどの、確固たる実力を彼女は有している。

 

 結局のところ、今回の案件はヒナが先行し、一通り制圧してから現場に風紀委員の面々がやってくることが多かった。

 何よりそれが早いから。今の状況だと、後進の育成を推し進めるより時間を掛けずに制圧したほうが早いから。

 風紀委員会の実力の半分以上はヒナが占めているが、そこは幹部クラスのメンバーの育成に今は任せている。

 

 取り締まりを終えた後は周辺地域で同学、ゲヘナ学園の生徒が風紀を乱していないか、もしくは起きている事態に対処するために四方八方に動き回る、そんな予定となっていた。

 書類が溜まっていたが、戻る頃には日なんてとっくに暮れている。ならば残して帰るか、自宅に持って帰るかの二択である。

 場合によっては長時間身体を動かさなければならなくなる、うら若き学生には過剰なロードワークではあるものの、とはいえ幾日も過ごしていれば否応無しに慣れている。

 結果、平均睡眠時間は3時間程度。

 とはいえ基本的にコンディションは崩さない。

 暴れ回っている生徒を見つけては愛銃───デストロイヤーを構えて、放ち、捕える。

 繰り返し、繰り返し。

 

「…………?」

 

 次は、と。

 考えている最中だった。

 銃声がすること自体、キヴォトスでは珍しいことではない。些細なことがきっかけで銃撃戦に発展することなど、日常茶飯事なのだ。

 ただ、その数がやけに多かった。

 トリニティ近辺で活動している最中から聞こえていた音なのだ。ただ、それが何時間も続いているだけ。

 

 めんどくさい。

 ゲヘナ所属の生徒ならどうしよう。

 

 気になってしまったものは仕方がない。

 ブラックマーケットに入り浸るような学籍のない学生ならともかく、知ってる制服ならば更なる面倒ごとに発展する。

 

「……」

 

 嘆息を置いて、ヒナは背中の翼を肥大化させる。なるべく早く事を終わらせたいため、ビル群の上から音のした先に向けて駆け出した。

 

 辿り着いた先は戦闘の跡。

 海岸部で行われていたその跡は規模が大きかったらしく、周辺一帯がむざむざと荒れている。

 建物の外壁は弾痕が残りつつ、無数に針で刺したような穴が幾つも存在。

 窓ガラスは当然割れている。割れたガラスがコンクリートの上で無残にも放置されている。

 だが、“よくあること“の範囲からは外れないラインだ。問題は何が起きて、そうなったのか。

 

 すぐそばに、倒れ伏している黒い制服を身に纏った学生がいた。

 見たことがない学生だ。ただ、どこの学園にもおそらく所属していないと判断はできる。

 何も珍しいことではない。ブラックマーケットに屯しながら傭兵稼業でお金を稼ぐ学生など珍しい話ではない。

 やけに多いと感じたが。

 

「あれは……」

 

 オートマタの兵隊。それも大勢。

 学生同士での諍いならばともかく、その兵隊が導入されることはなかなかにない。

 入って行ったのはビルとビルの隙間。

 

 気掛かり。

 

 何かが起きているのは理解したが、対処をどうするべきかを考える。

 最も面倒なのはゲヘナ以外の学園間のいざこざ。問題に発展した場合、対応にこちらも足を運ばなければならない場合が出る。面倒。

 ゲヘナ学園間のみの問題。比較的楽。自由な校風ありきといえど、他学園内の管轄内だとしかし厄介。面倒。

 未所属学生間のみの問題。楽。というか何もしなくていい。首を突っ込んで時間を取られてしまうこともある。ただし場合によっては面倒ごとに発展する。

 

 気配を完全に殺して、その集団全体が見れるように、再度建物の屋上に移動した。

 着地。周囲の様子を見る。何もない。

 目的の先、すっぽりと空いた空間。フェンスで覆われているが、見ること自体に支障はない。

 

「……!?」

 

 異常な光景が目に入る。

 どうにも夜目でも視界の先がくっきり映ったらしく、そこで見たのは小さな子供に対して銃を向けるロボット。

 耳にも入る。

 大人だ。きっちりとしたスーツをこなして、軽快に言葉を並べている。

 子供の背後には人の山が見える。おそらくは戦闘し、倒れた集団。先ほどまでヒナがいた場所で伏していたのと同じ。

 

「これは……」

 

 子供一人に対して大勢の大人が襲いかかっている構図。

 立ち上がって、それでも反逆せんとする子供の姿がくっきりと目に入る。

 同時に、横持ちにしていた銃を正面に向けるオートマタの姿も。

 

「…………」

 

 すでに次の行動を決めたらしい。

 あとのことはあとで考える。

 何よりも、というべきなのは、敬愛する大人だったら見過ごすようなことはしない。

 たとえそれがどんな状況であっても、いつものように身を犠牲にしてでも助けようとするだろう。

 なので。

 

「そこまでよ」

 

 閉塞空間内に響く声、同時にデストロイヤーから放たれた銃弾は紫色の光と共に放出。オートマタに目掛けて命中させ、機能停止に持ち込んだ。

 身体に溜めていた疲労はなんのその、それはこの場で立ち止まる理由にはならないのだ。

 

「ゲヘナ学園所属、風紀委員会、委員長───空崎ヒナ」

 

 血と傷はぼろぼろの服から覗き見れる範囲だけでも多い。それほどまでに長く戦っていた少女の前に、彼女は立つ。

 

「まずは、そこをどいてもらう」

 

 

 

 気がついた時には彼女が前にいた。

 

 夜空に瞬く星のように、まさしく彗星のようにやってきた彼女は手に持っていた武器でこの場を制圧した。

 制圧だ。たったの一人、孤軍奮闘していた自分とは違う、言葉通りの制圧。

 一撃撃つだけでボウリングのピンのように跳ねていく機械兵士の姿には呆然とする他なかった。

 強さの秘密が気になったが……、やはり見ただけで純粋な戦闘力の高さが窺い知れる。

 

 1秒、1秒と時を刻むごとに兵士は倒れていき、やがて主犯格のロボットだけが目の前に残った。

 後退りしながら、こちらから距離を取ろうとしている。

 

「なぜ? なぜ空崎ヒナがここに……? バカな、こんなはずでは……」

 

「偶然よ」

 

「あってたまるかそんな偶然が……ッ!」

 

「……あなたからは話を聞かなければならない。大人しく付いてくるか、それとも……、どっちにする?」

 

「くっ……こんなところで、私の計画の邪魔を───」

 

「遅い」

 

 後方を向いて逃げようとしたロボットに即座に対応。急所は外しているらしく、ただ倒れ伏したのみだ。

 

 空崎ヒナ、少女は名乗った。

 先ほどまでイキリ散らかしていたロボットを一瞬で黙らせた。表面部分の目と思わしき部分は×印が二つ浮かんでいる。

 

「大丈夫?」

 

 吸い寄せられるような瞳だった。

 紫色の目、アメジストを想起させるようなそれに思わず言葉を呑んだ。

 口角を釣り上げて、こちらの安否を確認する姿に目を惹かれてしまう。

 

「大丈夫、です……げほっ」

 

「大丈夫じゃないわね」

 

 咳と同時に血が出ちゃった。

 やはり身体に無理させたらしく、先ほどまで息巻いたと同時に漲っていた力が急速に抜けている。さながら風船に穴を開けて空気が噴出されるかのように。

 というか、もう眠い。このまま眠ってもいいだろうか。

 

「名前、言える?」

 

「名前……?」

 

 憑依元の記憶を読み込もうとするが、何も頭に浮かばない。

 精神的な、生存意欲みたいなものが根底にはあるけれど、しかし、それ以外のこの少女の元となる部分はすっぽりと抜け落ちている。

 

「わから、ない。気がついたらここに、いた」

 

「…………そう。家とかは」

 

「わかんない……」

 

「…………」

 

 想定しない言葉に言葉は止まる。

 けれどこちらを心配しているように感じる。

 すでに日は暮れている。

 

「まずは人を呼ぶ」

 

 スマートフォンを取り出して連絡を取り始めるヒナ。

 テキパキと行動している様は、なるほど、確かに風紀委員長なのだろう。

 冷静に状況を見て即座に判断している。

 

 とはいえ。

 今の自分には帰る場所も浮かばない。

 どうにかしてでもエネルギーを補給して寝場所を探さなくてはならない。

 このまま付いていく? 

 

 というか信頼していいものか……? 

 いや、そこはもう、いい。この場を助けてくれたことだけで、感謝の念でいっぱいだ。

 頭を横に振って否定する。

 連絡を終えたのか、ヒナは顎に手を置いて次の行動を考えているようだ。

 

 

「今からシャーレ……遠いか。先生は今ミレニアム、呼ぶにしても心配をかけてしまうか」

 

「……?」

 

「と、なると……学園寮は……、危ないか。何が起こるかわからないし。ならいっそのこと……」

 

「ヒナ……さん?」

 

 思案し、行うべきことを決めたのか。

 続けてスマホを使って連絡を続けている。

 ただ、二度目の連絡は少々丁寧な感じがした。

 

「……」

 

 もしかしてあれだろうか。

 このままヒナの家で泊まるという流れだろうか。

 聞いたことのある名前だし、安全は保障されるに違いない。

 やばっ、緊張してきた。

 ロリの身体で変な声も顔も出さんようにしとこ。

 気づけば身体の傷が気にならないくらいまで来ていた。本当に丈夫だな、この身体。

 

「来た」

 

「あれは……」

 

 やってきたのはヒナと同じくらいの学生だろうか。

 目元は帽子によって隠されてるが……見覚えはないけどそれっぽいものは見たことがある。

 警察官がつけているタイプの帽子だ。真ん中には属する組織の証が付いている。

 その下、身に纏うはハーフパンツに明るい配色のワイシャツ、さらに重ねて防刃ベスト。

 警察か? 警察だな。

 

 なるほど、事情聴取とか、取り締まりを行うのだな。

 ということはアレか、自分はこの後保護される、ということだな。

 

 うん? 

 

 同じような服装が続々とやってくる。逮捕、確保、移動。よどみのない慣れた動作によって次々と人とロボットが運ばれていく。

 そして最後に自分の元に同じような女子生徒がやってきて、そのまま手を優しく握ってくれる。 

 

「あとはお願いするわ」

 

「お任せください!」

 

 あで。 

 ヒナのお部屋に行く流れでは? 

 いや、そらそうか。冷静に考えて通報しない方がおかしいんだよな。

 頭がやられているのかもしれない。

 ……やられるだろ。そりゃ。

 知らないロリに憑依して、何も知らないまま銃を手に取ることになって。

 そのまま戦うことになって。それも数時間。

 運よく勝てたからよかったものの、ヒナが来てなかったらどうなっていたことか。

 考えるだけで頭が痛い。瞼が重く感じる。疲労困憊だ。

 今は助かったことだけ考えよう。明日のことは明日考える。

 

「また明日」

 

 ヒナに優しく頭を撫でられた。

 眠気が一気に覚めた。優しく微笑む慈愛を感じる笑みに心が掴まれたように感じる。

 惚れそう。精神が男だから惚れちゃいそ。でも4〜5歳歳下だよな……。

 というか女性同士って問題ないのか? 

 まぁいいか! 

 

「それでは行きましょうか」

 

 警察らしき人に誘導されて、車に乗せられる。

 ……元の世界なら自分より数歳下の子が運転しているわけだが。

 もう深く考えない方がいいのだろうか。事故った程度では死なないだろう。

 そしてこのまま保護される流れだろう。そう考えると安心感がさらに深まった。

 しかし、本当に疲れたな。考えたいことも色々あるが……。

 

 ……よし、寝るか! 

 

 寝た。

 

「起きたな」

 

 起きた。

 

 起きたらケモミミの生えた金髪のおねーさんが自分を睨みつけるように見ていた。

 助けてヒナちゃん。

 

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