TSガチロリあ〜かいぶっ!   作:aaa

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第5話 ロリとは

 

「それで?」

 

 夜更け前のことだ。

 尾刃カンナは報告を受けて、身体に鞭を打ってヴァルキューレ警察学校まで足を運んだ。

 複数のまとめられた書類を事細かく、精査するかの様な目つきで上から下まで読み込んでいく。

 珍しく物事が早く運び……というより事態が沈静化していたこともあってか、本来なら時間がかかる書類手続きがスムーズに続き、ヴァルキューレの手元に残ったのは結果だけだった。

 

「……幼い子供が襲われていたのを保護して、今あちらで眠っています」

 

「あれが?」

 

 ソファの方向に目をやる。

 寝息を立てている小学生。毛布をかけられているが、とはいえ身体中に染み付いている傷はどうにも目立っている。

 保護した時点で身体はボロボロ。報告書によるとゲヘナ学園の風紀委員長が助けに入った時点ではそうなっていたらしい。

 

 小学生が襲われる。襲ったのは大人。保護したのは空崎ヒナ。

 

「その前は?」

 

「今周辺で壊れたドローンの映像を解析中です。捕らえた人たちはまだ気絶しています」

 

「気絶……。そうか。それで、なぜ私がその子の相手をすることになる。コノカの方が慣れているだろう、小さい子の相手は」

 

「非番です」

 

「…………」

 

 なら、仕方がない、のか? 

 嘆息して予め入れておいたコーヒーを啜る。苦い。眠気を覚ますために入れたブラックのコーヒーは、現実の状況も相まって、複雑な面持ちにになってしまう。

 とはいえ、仕事。数時間先に保護先の風紀委員会がこちらまで来るとのことだが、それまで何を行うべきか。

 

「わかった。あとのことは任せてくれ。解析と聴取は任せるぞ」

 

 思案し、やはり事情を訊くのが一番であると結論付けて、小学生の対面の席に座る。

 

「子供の相手か……」

 

 この顔で? 泣かせてしまうのがオチだ。

 眉を顰めて、とはいえこのあと、小学生が起きたら自分が対応しなければならない。

 カンナは腕を組み、次のことについてただ考えているだけだった。

 

 

 

 

 

「では、話を聞かせてもらおう」

 

 目を開いて仰天。

 こちらを睨みつけているのはケモミミを生やした金髪のお姉さん。

 黒いネクタイと、ダークグレー寄りのシャツに腕を通した、警察の鑑の様な格好をしている女性だ。

 

「ひっ」

 

 しかし怖い。

 睨んでいる様にしか見えないそれに、今から始まるのは尋問なのかと疑いたくなる。

 おかしい……確か昨日は警察っぽい人に保護されたはずなのでは? 

 ちらりちらりと、周囲の状況を見てみる。

 青と基調とした壁と、机に敷き詰められたパソコン群。壁に埋めてあるのはロゴ。その下には“K.S.P.D.”と文字が敷き詰められている。

 VALKY……ヴァルキューレ? 

 西洋? 

 

「あの、ここは?」

 

「ここはヴァルキューレ警察学校。保護されて、今ここにいる」

 

 警察学校? 

 警察になるための教育機関に属しているって認識でいいのか……?

 研修生か? その割には風格を感じるが。

 

「あぁ、自己紹介が遅れた。私は尾刃カンナ。ここの公安局、局長を務めている」

 

 渡されたのは警察手帳……というよりかは学生手帳だった。

 いや、警察手帳といえばそうなのかもしれない。

 学生の肩書に加えて局長の肩書を持っている。

 言葉通りに受け取るならば、この人……カンナさんは実際に肩書きに則った仕事をしているということなのだろう。

 というかこれでオガタって読むのか……。

 一人前の警察を育成するための場所、という認識を改めた方がいいらしい。

 日本の常識は通用しない。既に知っているというのに。

 息を吐く、そして吸う。

 新しい自分として向き合わなければならない。ロリに憑依した。結果として性転換した。

 自認しろ、新しくなった自分を描くんだ―――!

 

「は、初めまして。私は……ごめんなさい、名前覚えてなくて」

 

「覚えてない?」

 

 なので、申し訳ないが、ここは猫を被らせてもらう。

 羞恥を仮面で隠して、全身全霊で小学生になる。心の底から、今は小学生であること無理矢理自覚させる。

 一人称から変える。私は私である。

 私なんて一人称、面接でしか使わなかった。

 

「は、はい。その、恥ずかしながら、昨日までの記憶がなくって……」

 

「……」

 

 記憶がない。

 消失したっていう考え方が正しいかは不明だ。

 自分という存在が憑依したことによって、上書きされた可能性だってある。

 憑依したのだ。死んだロリの身体に。

 なんでそうなったのか。一番あり得るのは何かの拍子で日本で死んだ自分がなんやかんやあってこの世界に流れ込んだってことだろう。

 

 なんでだよ。

 

 記憶がないというカミングアウトをしたところでカンナは固まってしまう。

 ……いやまぁ、困らせてしまった自覚はある。

 身元不明で記憶がなくて悪い奴らに狙われたガキなんて誰が保護してくれるのさ。

 

「そうか。……辛かったな?」

 

「…………」

 

 頭を撫でられる。

 安心感が身体を包む。

 陽の光で照らされて光合成をする花の様に身体の底から心地よさの様なものを全身に感じ始める。

 

「私、これからどうなるんですか?」

 

 とはいえ、考えなければならないのは次に行うべきことだ。

 保護されたとはいえ、このままここにいるわけにも行かない……はずだ。

 図々しいことではあるがこのままここにいさせてほしいとは思っている。

 

 でも、ここにいて、どうする? 

 一昨日までは大学生。バイトをするか単位のために勉強するか、資格のために勉強するか、あるいは就活をするか。

 青春の日々は終わりを迎えようとして、順当に大人として歩み始める日々だったのだ。

 将来のために日夜一日一日を楽しく過ごす様な毎日から様変わり。今ではロリに憑依している。なんでさ。

 

「そうだな。身元を明かさなければいけない以上、身分証なり作らなければならん。……連邦生徒会に引き渡すべきか?」

 

 さらにたらい回しにされるか。

 連邦生徒会という言葉にどれほどの意味を持つのかはわからないが。

 なんとかしてくれるってことでいいのだろうか。

 

「そのあとは……、学園に編入することになるだろう。どこに行くかは───」

 

「ゲヘナ、学園は?」

 

「……ゲヘナ?」

 

「風紀委員長……ヒナさんがいるところ」

 

 どうせ行くなら知り合いがいるところがいい。

 ゲヘナ学園がどういうところかは知らないけど、ヒナさんがいるっていうことだけで安心感が段違いだ。

 他の学園のことを知らないからこそ言えることでもあるが。

 

「ゲヘナか……」

 

 その言葉共にこちらの姿見をジロジロと、カンナさんは見ている。

 そういえば、自分には確か羽が生えていた。小さく、しかし白い羽だ。戦の後のはずだから少し汚れてはいるけれど、凛然と輝く様に見えている。

 

 羽。連想するのは天使だろうか。

 頭の輪っかもそうだし、天国に住まう人々としてみるべきなのか? 

 いやでもゲヘナってあれだよな……。ほぼ地獄みたいな意味合いだったような……。

 

 ここマジでどんな世界なの? 

 

「来たわ」

 

 昨日見た警察のような帽子に連れられて、見知った顔がコチラに向かってやってきた。

 ヒナだ。その後ろにはもう一人、青い髪の人がい……なんだあの横乳!? 

 

「委員長、この子が?」

 

「そうよ。一人で無数の生徒相手に何時間も戦って、生き残った小学生」

 

「嘘みたいな話ですね?」

 

「事実よ。とはいえ、私も現場の状況しか見ていなかったけれど」

 

 なんだあの横乳!? 

 は、話が入ってこない……。

 落ち着けるべく、目の前に差し出されていたコーヒーを手に取って啜る。

 苦い。その味が今の状況を表している様な気がした。

 

「昨日ぶりね?」

 

 ヒナに頭を撫でられながら話しかけられた。

 後方の青髪がこちらを睨んだ様な気がしたが、流石に気のせいだと思う。

 

 というか誰なんだあの人。

 見ている様子だと、ヒナさんの関係者の様に見える。風紀委員会に所属しているって話だし、同じところの人だろうか。

 

 さて、今の自分は小学生。

 とはいえ中身は元大学生。

 側から見ればロリ。

 ロリに対する造詣は深くないが、ともかく、中身を出すよりかは猫を被り続けた方がいいと思っている。

 

 昨日はヒナに助けてもらった。

 助けてもらう前は自分が抵抗した。

 その事実は覆らないし、得体の知れないロリに拍車をかけるわけにはいかないのだ。

 中身の露呈が一番まずい。性自認が男ですならギリギリ通るかも知れないが。

 見た目とのギャップは今後のコミュニケーションを害する恐れがある。

 

 故にこそ、ロリらしくあれ。

 

「昨日ぶり、ですね。えへへ……」

 

 敬語を重ねる。感情は押し殺せていなかったが、最後まで貫き通す。

 笑みもこぼす。恥辱に塗れているが面の皮を厚くしていく。

 というか、実際嬉しいし。可愛い女の子に頭を撫でられて喜ばない奴などいない。

 撫でられてばかりだな。それもそうか。

 

 さて。ロリは無自覚に愛くるしい動作を示す必要がある。無自覚であることが重要なのだ。

 猫をはじめとした動物が可愛らしい動作を自ら作るか? 違う。彼らは自然な動きでこちらの好感度を上げてくる。

 無意識の動きでこそ、ハートというものは掴まれる。

 

「これからどうするべきかを考えるにあたって、二つ、はっきりしておくことがある」

 

 ヒナは指でピースサインを示して、そのままつらつらと話を進めた。

 予め決めていたことなのか、流暢に途切れることなく言葉は続いている。

 

「一つは身元。昨日の大人からは話は聞けたかしら」

 

「まだ調査中だ。それより先にドローンの解析が済むとのことらしい」

 

 ドローン? 

 

『ドローンで様子を見ていましたが……素晴らしい神秘の保有量だ。先行研究のやり方に倣うのは、やはり正解でしたね』

 

 ……あれか。

 …………………………。

 何を口走ったのかは覚えてない。というかあの瞬間は無我夢中だったので記憶になんてない。

 

「二つ目はこの子をこの先どうするか。名前もなければ記憶もない、そうよね?」

 

「は、はい」

 

 自分の名前を名乗るのはダメだ。

 身元が割れた瞬間に“じゃあ名乗っていた名前は何?"となる。

 咄嗟に思いついた偽名にしてはキラついたネームなのと、男らしく、どこかのキャラクターを捩った名前でしかない。

 簡潔にいえば女の子らしくない。

 当然ながら記憶にない。金の卵だか引き取ったがなんだとロボットは口にしていた。

 ここから導ける答えとは……? 

 ひぇっ。この世界ロリに容赦がねぇ。

 

「記憶がない、というのはどこから?」

 

 カンナさんが訝しげに訊く。

 

「……気がついた時にはビルの間に、いました」

 

 事実を答える。

 

 この際だからはっきりさせておこう。

 憑依先の少女について。

 死んだ。何かに利用されて疲弊し切った身体で逃げ回って、昨日のヘルメット然りスケバン然り、ロボット傭兵団の攻撃にあって死んだ。

 相手方は多少身体を傷つけても問題ないと言われていた。

 逆に言えば、それほど丈夫とも言えるのだろう。

 この世界の強さの天井を知らない。強さの基準を銃弾一つ貫通しない、とするとして。

 その少女の身体にどれほどの価値があるのだろうか。

 そして溢れ出していた力。おそらくこの世界に生きている者全員が持っている、生まれついたものなのだろう。

 だから狙われた。

 金の卵とみなされた。

 

「起きたら知らない人たちに銃を向けられて……あとは、必死に、こう」

 

「こう?」

 

「抵抗して……」

 

 言ってて無理がないか、と思うが。

 状況を見ればそうとしかならない。

 次の言葉をどうするべきか、迷っていたところで前方の扉が勢いよく開いた。

 

「局長! ドローンの解析ができました! 早速流しますか!?」

 

 USBメモリ片手に女子生徒が入ってくる。

 ここ女の子しかいないな。男は? 

 

「頼む」

 

 パソコンを操作してプロジェクターを介して映像を投影。

 空中からの中継の様子だ。映像左側に海岸部がうっすらと見える。

 発砲の音が聞こえる。コンクリート部分、カメラがそこをズームした。

 映ったのはブロンドヘアーに小さな羽。相変わらず服はボロボロ。

 そして聞こえてくる一声。

 

 “ざっこ〜〜〜♡ 小学生に負けて恥ずかしくないんですか〜〜〜?♡”

 

「……」

 

 帰っていいですか? 

 

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