ダンジョンマスター異世界侵略記   作:フリー123456789

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第9話 勘違い

 

 エターナル・ヴェイン最終階層。

 

 ダンジョンという地下であるにもかかわらず外と同じように太陽があり、風があり、自然がある空間。

 

 この階層には、様々な異名が付いている。

 

 曰くダンジョンの心臓部、曰く最も発展した場所、曰く……。

 

 それもそのはずこの階層には、魔物配合やダンジョン司令部、謁見の間などダンジョンを支配するために必要な施設が全て整っているからだ。

 

 それら施設が一堂に会する建物こそユグドラサンクタム城。

 

 その一室である会議室。

 

 玉座の間よりも控えめであるが、燦然と輝くシャンデリアが吊るされ、蝋燭―――ではないが、光の玉が会議室を明るく照らす。

 

 壁にはきめ細やかな装飾が施されており円卓の上座、すなわちハルが鎮座する席の後ろの壁には、エターナル・ヴェインを示す紋章が施されている。

 

 部屋の中央には、巨大な円卓があり各大臣とハル、他にも数名が交わって会議できるほどだ。

 

 円卓と椅子の材木は全てエルダートレントという希少種の魔物のドロップアイテムを商人NPCに渡すことで交換できる物だ。

 

 EoCの物が現実と化すことで、その材木特有の優しい匂いが部屋に充満しリラックスして会議に臨むことができるようになった。

 

 だが、そのような緊張緩和効果も、現在のハルには通用しなかった。

 

 ハルは、重要なことを確認するかのように口を開く。

 

「つまり、俺はセレネに結婚を申し込んだということに……?」

 

「はい、左様でございますが……まさか……」

 

 普段通り返事を返すアルファであったが、だんだんと尻すぼんでいき、ハルに疑いの目線を向ける。

 

(や、やっちまったぁぁぁ!!!)

 

 ハルは混乱しながらも今朝の出来事を思い出す。

 

 

★★★

 

 

 男型ホムンクルス配合のために必要な魔石収集から帰って来たハルは、現在未曾有の危機に陥っていた。

 

 腹部に重さを感じたハルは、毛布を捲るとそこには客人用の服を身にまとったセレネが眠っていた。

 

「ど、どういうことだってばよ」

 

 慌てながらも体に感じるセレネを観察しだす。

 

 ハルが指示したメイドによってセレネの逃避行の末に付いていた汗や泥などといった汚れが綺麗に落とされており、清められたセレネの姿にハルは色気を感じた。

 

 冷静になるために深呼吸して落ち着こうとしたが、その際セレネの良い匂いが一気にハルに襲い掛かって来た。

 

 つまり―――

 

(ああああ、マズいマズいマズいッ!理性がっ……理性が死ぬッ!)

 

 ―――生き地獄。

 

ハルは、ダンジョンマスターとして種を超越した存在であるにもかかわらず、男としての本能をよみがえらせるほどの破壊力に襲われていた。

 

(アビス!影の中でもいいから!避難させてくれ!)

 

 あまりの破壊力ゆえ、いつ理性が吹っ飛んでもおかしくないハルは、腕輪となったアビスに助けを求めた。

 

 ハルのお願いを受けたアビスは「シャァァ……」と小さく唸るとハルの体を影に沈ませる。

 

 そして部屋の壁際に設置されていた本棚のところにハルを転移させた。

 

(た、助かった!)

 

 アビスに心の中で感謝したハル。

 

 そしてセレネを起こさないように細心の注意を払い――だが、一刻も早くこの生き地獄から抜け出すために100Lvの身体能力を無駄に発揮し――ながら扉を開けベッドルームから自室へと移動する。

 

「ふぅ……」

 

 自室へと移動したハルは、中央にある机と椅子目掛けて腰を下ろし息を整える。

 

(あ、危なかった……もう少しでやられていたところだぜ……)

 

 あのままでは、間違いが起きていたと考えるハル。

 

 軽く呼吸を整えて冷静になった後、私室の扉を開け廊下へと出る。

 

「あ、マスター!おはようございます!」

 

「おはよう、ベタリオン」

 

 ハルの私室の前に待機していたベタリオンがハルに気付き見事な敬礼をしながら挨拶をする。

 

 それに対して適当に流すハル。

 

「ところでアルファはどこに居るか分かる?」

 

「アルファですか?いやーわからないですねー。アルファロンに聞いてみますか?」

 

「いや、大丈夫」

 

 そう言うとハルは、大きくブレスをしながら―――

 

「アルファァァァァーーーッ!ヘルプウゥゥゥゥーーーッ!」

 

 ―――叫んだ。

 

「ま、マスター?!」

 

 突然の奇行に驚いたベタリオン。

 

 そんなベタリオンに特に反応することなくハルが叫んでから数秒後、アルファが廊下の奥から走ってくる―――ことなく美しく歩いて来た。

 

「……マスター。如何なさいましたか?」

 

「へ、部屋に、部屋に……」

 

「部屋に?」

 

「セレネが居たんだよぉーーッ!?」

 

 端的に要件を伝えるハル。

 

 アルファは少し驚いた様子を見せながら口を開く。

 

「はぁ、そうですか。迎え入れてから直ぐに夜這いとは。セレネ様、意外と大胆なんですね。流石、といったところでしょうか」

 

「そうなんだよ!……って迎え入れた?何の話?」

 

 セレネを保護したが、別に迎え入れたつもりの無いハルは、アルファの言い方に疑問を感じる。

 

 だが、アルファはここで説明することなく話を続ける。

 

「はい。それも含めてマスターが捕獲した者どもから情報収集しましたのでそれを共有したく存じます。大臣も集まっておりますので会議室へ向かいましょう」

 

「お、おう……」

 

 会議室へと向かうアルファの後を追うハル。

 

 その後、頭を抱えることになるとはダンジョンマスターであるハルでさえ予測できなかった。

 

 

★★★

 

 

 そして現在に至る。

 

 会議室の円卓の奥の席に座るハル。

 

 だが、ハルは今統治者として相応しい様相をしていない。

 

 頭を抱えながらゴンッと円卓にぶつける。

 

 ハルの奇行を見て不審がるアルファたちと100Lvの頭突きを受けて無事な円卓。

 

(そういえば、天使からドロップする指輪アイテムってまだあったわ!)

 

 奇妙な雰囲気がその場を支配する中、ハルは心の中で叫ぶ。

 

 天使種からドロップする指輪系アイテムは複数種類存在する。

 

 その中の1つが<祝福の指輪>。

 

 そしてハルが勘違いしていたのは<幸福の指輪>である。

 

 フレーバーテキストに『疲労回復』が書かれていたのは<幸福の指輪>の方だ。

 

 ここでハルは<祝福の指輪>のフレーバーテキストが間違っていたことに気付くが、もう既にセレネに渡した後である。

 

 因みに、セレネの指に<祝福の指輪>が嵌められていたことに気付いたのは、スカイ・オーブで観察していたアルファたち―――ではない。

 

 ハルがエターナル・ヴェインに帰還後、セレネを客室へ運ばせたメイドだ。

 

 そのメイドがアルファに報告したことで今回の事態へと発展した。

 

 このことについてハルは知る由も無いが、知っていたとして何か変わるわけでも無い。

 

 閑話休題。

 

 セレネの様子についてアルファロンから聞いたハルたち。

 

 アルファロンによるとハルがセレネを妻に迎え入れることを聞き救われたような雰囲気を出していたとのこと。

 

 その後の雑談では、目覚めた時よりも肩の力が抜けており楽しそうに話していたという。

 

 その雑談の最中にハルが新たな男型ホムンクルスを用意していると説明。

 

 アルファロンは、セレネの国の再建のためだと勘違いしたらしい。

 

 それを聞いたセレネは、涙を堪えながらハルにお礼を言うために今回の事件に発展したとのことだ。

 

 アルファロンの説明が進むにつれて顔色が悪くなるハル。

 

(や、やべぇ……。今更勘違いでしたなんて言えねぇよ……)

 

 これを聞いたハルは、今更婚約を取り消すことなど不可能だと思った。

 

 ハルの配下である悪魔種の魔物に頼んで記憶を改竄させることができるかもしれない。

 

 しかしダンジョンマスターとはいえ、エターナル・ヴェインに悪影響が無ければそこまで人間性を捨てたわけでは無いハルはそれを決断することができない。

 

 だからこそセレネを追いかけていたアルドリンもエターナル・ヴェインに影響は無いだろうとして殺さずにダンジョンの1階に追放する処分に決定したのだが。

 

(勘違いだったけど責任取らないといけないよな。うん、別に美少女だからとか、アルファロンの話を聞いている限り行けそうだからとかそんな理由は微塵もない。一切ない。これはあくまでもセレネを思ってのこと。覚悟を決めろ!)

 

 そう心の中で決意するとハルは抱えていた頭を上げて口を開く。

 

「……そうなんだ。俺、セレネに一目惚れしちゃって……。駄目かな?」

 

 いつもの調子付いた様子を隠し嘘がバレないかクビクと祈る子供のようにハルはアルファに聞く。

 

 アルファは、そんなハルの様子を不審がりながらも当然といった感じで口を開く。

 

「……何を心配することがあるのでしょうか。エターナル・ヴェインはマスターの意思に従うまでございます」

 

「そっか。ありがとう……結婚関連のことは、セレネと話していくよ」

 

ハルはホッと息を付きながら上手く切り抜けることができた、と思うハル。

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