ダンジョンマスター異世界侵略記   作:フリー123456789

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第11話 準備①

 

 マグナスの部屋を訪れてから数時間後。再び各大臣とハルが会議室に集った。

 各大臣は、それぞれ髪色に合わせたドレスを身に纏っている。

 だが、外に出て転移ポータルを設置するイータは外敵に備えて青の鎧を装備して待機している。全身鎧のフルフェイスであり、イータの美貌はどこにも無い。

 

 準備万全なイータを見て勿論ハルは―――

 

(に、似合わねぇ……)

 

―――自分で設定したことを棚に上げイータの装備が似合わないと思った。

 そもそも他の大臣はドレスの中、同じ容姿をしたイータだけがフルフェイスの装備というシュールな状態なのがいけない―――そう結論付けたハル。

 

「何か?」

「いや、何でもないよ。本当に。それで、準備は大丈夫な感じ?」

 

 ハルの思考を読むようにイータが鎧からくぐもった声を発した。それを聞いたハルは、誤魔化すように会議の本題へと話を進めた。

 だが、その声は若干震えながら走っており、誰が聞いても誤魔化したということが分かる。

 この場において、それを指摘する者は誰も居ないが、白い目でハルを見やった。

 

「はい。後は設置場所に向かうだけでございます。スカイ・オーブは既に配置済みでございますか?」

 

 何も問題は無いと言い切ったイータ。それよりもマスターの方はどうなんだ、と煽るように確認した。

 本来であれば、咎められる行為。仮にここが王国であれば、貴族であろうとも処罰されてしまうほどだ。だが、ハルは気にする様子を見せず寧ろ先程の自分の失礼な考えのせいだと思った。

 

「準備万全ということね。うん、スカイ・オーブは王国の都市に移動させてるよ。えーと、名前は確か……」

「エル・ラインでございます」

 

 思い出せないハルを補助するようにアルファが王国のとある都市の名を伝えた。

 

 エル・ライン。

 アヴェリス公国との国境を守護する王国辺境伯が治める領地だ。元々、魔物の発生頻度が多いため冒険者が多く集まっていた。

 そんな状況下で最近、度々生じていたアヴェリス公国との領土争いにより、アンデットの発生が急増した。そのためいつも以上に王国内の冒険者がアンデット狩りのために集まっている。

 

 エル・ラインはその立地から冒険者たちにポーションや武器、宿を提供するために商人やその他の人々が移動した。その結果、辺境にも拘わらず王国内で上位の発展具合を見せている。

 

「エル・ラインだったね。ちょっと見てみようか」

―――プルプル

 

 ハルの言葉と共に会議室に居たスカイ・オーブが少し震えると<視界共有>を行いホログラムを展開する。会議室には大空とその下に街並みが広がっている。魔物の国しか知らない大臣たちは広がる光景に軽く感心した。

 それと同時に王国内で有数の発展都市とはいえ、エターナル・ヴェイン最終階層には遠く及ばない事実を改めて確認し、ダンジョンマスターであるハルの偉大さを再認識した。

 

 もっとも大臣たちがそのような心境であることにハルが気付くはずもなく、呑気に「綺麗だねー」「凄いねー」と呟くだけであった。

 

「さて、どこに設置しようか。洞窟か、森か。できれば、多くの冒険者に来て欲しいから都市から近ければ近いほどいいんだけど……」

「それなら幻影系スキルを持った悪魔種を一緒に派遣するのはどうでしょうか。イータが転移ポータルを設置し終えるまでの間、周辺に近づけないよう細工するのです」

「なるほど、名案だ」

 

 転移ポータルの設置場所に悩んでいたハルに対して、イプシロンが悪魔種に幻影系スキルを使用させることを提案した。合理的判断だと思ったハルは、その提案を実行するためにどんな魔物が良いか考えだした。

 

「マスター、あの辺りが良いのではないでしょうか?」

「うん?どこら辺?」

「ここでございます」

 

 アルファがスカイ・オーブが映し出したホログラムのとある部分を指さしたが、ハルはどこを指しているのか気付かなかった。その様子を見たアルファは、溜息を吐いた後、席を立ちハルの側に立ち改めて場所を指刺した。

 

(あ、石鹸のいい香り。風呂上りかな?)

 

 エターナル・ヴェイン最終階層には、全ての機能が備わっている。勿論、温泉も含まれている。EoCにおいてはただのオブジェクトであった。だが現実と化したこの世界においては、入浴可能となっており非番のメイドや時間に余裕ができた大臣たちが入り浸っている。

 この世界に渡ってからエターナル・ヴェインで最も使われている施設かもしれない。

 

「都市の壁までの距離も良い感じだね。冒険者たちもアクセスし易そうだし……。ここにしようか」

「……承知しました」

 

―――イータ送ったら温泉に入ろうかな

 

 そう思いながらアルファが指さした場所を確認したハルだが、アルファが変態を見る目を向けていたことに気付かなかった。

 

「じゃ、行って―――」

「お待ちください」

 

 場所を確認したハルは、<主従交換>を行いスカイ・オーブと位置を入れ替えようとしたが、それに対してアルファが待ったを掛けた。

 

―――まだ伝えるべきことがあったのかな?

 

 と、ハルは考えたがアルファの次の言葉に冷や汗をかいてしまう。

 

「マスター。もしや、生身で向かうつもりでしたか?」

「いや……?そんなつもりは……無かった、といいますか……」

 

―――嘘ですね。

 

 ハルの言葉を聞いた瞬間、アルファはそう思った。他の大臣たちも同じ気持ちだったらしく皆アルファのように疑いの目をハルへ向けていた。

 唯一態度が変わらなかったのは、事態を把握しきれていないスカイ・オーブと扉の前で我関せずと言っているかのようにしているメイドだけであった。

 

「分かりました。それでは<幽躰憑依>を行ってください」

「すぅー……。まだ用意できていません……」

「マスター?」

「ごめんなさい!」

 

 アルファが詰めた結果、ハルが衝動的に動こうとしていたことがバレてしまった。謝罪の言葉を発したが、大臣たちにはただの装飾のように感じいずれまた同じようなことを起こしてしまうのだろうと考えた。

 現にセレネを助けに行く際にも似たようなことが起きている。

 

―――支配者としての振る舞いを学ばせるべきでしょうか

 

 アルファは心の中で独り言ちる。アルファが思考する様子は絵になる美しさであった。

 

「ホムンクルスを配合してくるよ。配合装置まで案内よろしくね?」

 

 そんなアルファの姿にハルは目を奪われる―――ことなく、逆に美の中から不穏な気配を感じ取り体を震え上がらせた。そして一刻も早くこの場から避難するために魔物配合装置までの案内をメイドに頼んだ。

 勿論、メイドはダンジョンマスターからの頼みを断ることなどできる訳もなく黙々とハルを案内しようと扉を開けた。扉が人一人通れるぐらいの隙間が空いた瞬間、ハルは目にも止まらぬ速さで会議室から廊下へと飛び出した。

 

 賢さのステータス補助の為のスキルを得るために必要なレベルまでしか上げられていない大臣たちは、ハルの動きを止めることなど不可能だ。

 気付いた時には、会議室からハルは居なくなり廊下で待機していたメイドと共に魔物配合装置へと向かっていった。

 

「……イータ以外、各々持ち場に戻りましょうか」

「かしこまりました、お姉さま」

 

 そう言うとイータを残し会議室から大臣たちは去って行った。

 その場に残ったのは、鎧を纏い沈黙するイータと何も考えていなさそうなスカイ・オーブ、それとハルを逃がしたメイドだけであった。

 

 

★★★

 

 

 ユグドラサンクタム城を移動する2つの人影―――ハルとメイド。

 アルファの追及から逃げたハルは、目的の場所までメイドに案内させている。とある部屋の前で止まったメイドが洗練された動きで扉に手を掛けた。

 

 メイドが扉を開けるとそこには、巨大化した時のアビスと同等程度の大きさの機械が設置されていた。扉の近くには、キーボードとモニターが一体化したATMのような機械がある。それを用いてダンジョンマスターの魔物管理空間にアクセスし、複数体の魔物を融合させる。

 

 EoCを攻略する上で最重要なファクターと言っても良い。ダンジョンマスターであるプレイヤーの強さには上限がある。だが魔物はそうとも限らない。特殊なスキル・特性を付与させることでプレイヤー以上の強さを得ることができる。より高いランク、より希少な種族、より強力なスキル―――これらを得るために必要な設備が魔物配合装置だ。

 

 ハルは少し緊張した様子を見せながら思いを馳せる。

 

(これが魔物配合装置か……。EoCでは常にお世話になってたなぁ。さてと感動するのはこれぐらいにして、っと。ゲームの時はタップすれば起動していたけど……。どうすればいいんだろう)

 

 ハルは魔物配合装置を起動させるための機械の前で考える。電源ボタンがあるのかと探したが、見当たらなかった。

 

「お、起動した」

 

 考えた末、試しにキーボードのエンターキーを押してみると―ヴォン―という起動音と共にモニターが点く。魔物保有数、種族一覧、配合選択……様々なメニューが表示された。機能的にEoCの頃から変わっていないことを確認したハルは、安堵の表情を浮かべキーボードでモニターを操作し、配合選択を開いた。

 するとこれまでの配合履歴から魔物を選ぶ簡易配合と手動で選択する通常配合が表示された。ホムンクルスはどの魔物同士を配合したとしても必ず配合結果の候補に現れる。そのためハルは通常配合を選択し不要な魔物を選別し始めた。

 

―――レベル条件を満たした雑魚を使おうかな

 

 そう考えたハルであった。しかし、これから先<幽躰憑依>で利用し続ける身体であるならば、アルファロンやベタリオンのように希少な特性を与えても良いのではないかと考えた。

 

「こいつとこいつにしようかな」

 

 考えた末、ゴブリンの派生である小鬼之王とゴースト種族の浮遊剣士の2体を選択した。これら魔物には、それぞれ固有特性があり外で人間と交流する上で役に立つ物だと判断した。

 魔物を選択し終えた後、モニターは次の項目を表示した。ホムンクルスの概要設定欄だ。ホムンクルスを配合する場合限定の特別仕様であり、ここで容姿や性格を設定することができる。

 

(そうだなー、性別は男。名前は……未定でいいか。後でこの世界で一般的な名前を聞いておこう。後は、無垢で俺が外で活動するための身体である、っと。こんな感じでいいかな。容姿は今と同じで髪は真逆の白髪にしよう。かっこいいし。それにセレネとお揃いだからね)

 

 その後もホムンクルスの設定を決めていったハルは、いよいよ魔物配合を始めた。魔物配合装置の中央にある台座に選択した魔物が召喚される。

 旧アヴェリス公国の森林で戦ったゴブリン・ファイター以上の体格を持つが、どこか高貴な雰囲気を醸し出している魔物―――小鬼之王。もう一体は、フードを被り騎士のように剣を正面に構える魔物―――浮遊剣士。

 EoCでは低レベルに位置する魔物であり、序盤では使っていたが100Lvの魔物に余裕が出てきた辺りから使わなくなってきた魔物たちだ。ここで使うのが適切だろうとハルは考えた。

 

 台座に召喚された2体の魔物を包み込むように光が放たれた。彼らは完全に光に飲み込まれる前に小鬼之王は王を前にした配下のように跪く。一方の浮遊剣士は剣を正面に掲げ使えるべき主に剣を捧げた。

 彼らは、これから自分たちがどうなるのか本能的に直感している。だが、まるでそれがどうしたと言わんばかりの様子だ。寧ろマスターの血肉となり存在することができることを名誉だと感じながら光に包まれていった。

 

 ハルが見守っていると光は数秒後、徐々に落ち着いて行き1つのシルエットが浮かび上がった。

 

「無事に成功したね」

 

 ハルは台座に立つ魔物―――ホムンクルスを見てそう呟いた。自分と瓜二つの姿形、唯一の違いは髪色が白髪になっていることぐらいか。改めて観察すると現実世界の自分とは打って変わって容姿端麗であることに肩を落とした。だが、今はこの姿こそが自分自身なのだと考え持ち直した。

 

 ホムンクルスを観察し終えたハルは、右手をホムンクルスへ向けスキルを呟く。

 

「<幽躰憑依>」

 

 その言葉と共にハルはホムンクルスの身体に乗り移ると辺りを観察するために瞼を開く。本体と同じ容姿で設定しているため身体の違和感は感じない。逆に元からこの身体だったのではないかと錯覚するぐらいだ。

 

―――スケルトンの時よりも動けそうだ

 

 直感的にそう思ったハルは本体へ目を向ける。するとそこには、いつの間にかアビスがブレスレットから大きくなり、玉座の間で見た光景を再び再現した。アビスは大事そうに本体を包み込んでいる。そしてホムンクルスへと移動したハルの命令を待つかのように見つめた。

 

「アビス、またよろしくね」

「シャァアアア」

 

 ハルの命令を受けたアビスは本体に絡ませたまま陰に沈んでいき、自室へと向かった。

 

「さてと、会議室に戻ろうか」

「承知しました。ご案内いたします」

 

 外出準備を終えたハルは、メイドに会議室まで案内させた。

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