ダンジョンマスター異世界侵略記   作:フリー123456789

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第33話 提携

 

 月明かりと静けさが広がる王都において、魔法ギルド長の執務室は≪永久光≫を用いたランタンが卓上を明るく照らしていた。

 机上には大量の資料がまとめられている。その資料を余すことなく読み込んでいく老人の名はエルヴァイン・クローデル。

 

 エルヴァインはその人生を魔法に捧げた。長年の研究も相まって晩年には王国随一の魔法詠唱者と謳われた。だが、王国では魔法の地位は低く第三王子アルドリンが政界に登場するまで冷遇されていた。

 もっともエルヴァイン自身は魔法の地位向上に興味があったわけではない。彼の行動原理は飽くなき好奇心である。アルドリンにより改善された魔法詠唱者の待遇も魔法ギルド長のポストもエルヴァインからすればすべて副次的なものであった。

 

 エルヴァインは好奇心の赴くままに生きていた。

 だが、彼に残された時間は少ない。既に125年以上生きており人族の寿命を遥かに越えている。彼が独自に開発した不老不死の魔法は完璧ではなくゆっくりと確実に歳を取っていった。

 

 エルヴァインは絶望した。魔法の深淵を覗くことすらできず死ぬことに。

 そんな彼に一つの知らせが届いた。

 

―――王国の辺境都市エル・ラインにスケルトンの世界が出現した。

 

 エルヴァインが食いつかない訳が無かった。彼はすぐさま調査隊を派遣しゲートをくまなく調査した。調査報告書によると、噂の通り無限に感じるほどのスケルトンが出現したという。さらには剣で壁を攻撃すると弾かれ、魔法をぶつけると消滅していくという。

 ゲートには魔法的な何かが関係しているに違いない。エルヴァインは資料を読みながら生来の好奇心を満たしていった。

 

「……誰じゃ?」

 

 エルヴァインの執務室にノックが響いた。彼は読んでいる資料からドアへ目線を移動させた。

 

「私です。ベインでございます」

「入れ」

 

 執務室に男―――カルム・ベインが入った。彼の容姿を一言で表すならば出荷間近のグラス・ボアだろう。彼はスキルの中でも珍しい部類である<魔力視>を用いて魔法ギルド内での地位を確立させていった。次の魔法ギルド長とまで言われているが、欲望に直球という欠点があった。

 

 カルムは顔に流れる汗をハンカチで拭いながら口を開く。

 

「スケルトン・ロードの魔石が手に入りました」

「誠か?!」

「はい。南方諸国から来たという商会が我々との提携を条件に譲渡しました」

「ほう。その商会の名は何という?」

「ニョルズ商会です」

 

 

 

 

 魔法ギルドに一台の馬車が止まった。魔法ギルドは多くの商会と提携しているため珍しくもない光景だ。だが、その馬車を牽引する馬がナイト・ホースであった。

 通常、魔物を捕縛する場合の難易度は該当ランクの1つ上となる。ナイト・ホースはBランク魔物であるためAランクの難易度となる。

 だが、捕縛しても使役するためには更なる労力が必要だ。スキル<使役>を取得していれば別だが、スキル自体が珍しいため必然と価値が跳ね上がる。

 

「あれはナイト・ホースじゃないか……ッ!」

「あの商会は一体……。見たこともない紋章だ」

 

 件の馬車はナイト・ホースを完全に使役している。それも2体だ。魔法ギルドの前を移動していた多くの人々はその馬車を一目見て一体、どの大商会なのか思考を巡らせた。

 

 だが、その思考も馬車から降りた御者を見て放棄することになる。沈む太陽を彷彿とさせる見事なオレンジの髪。王国で見たことが無い程の美しい顔。絹のように白い肌。

 男どもはその美貌に喉を鳴らした。

 

「はぁ。鬱陶しい」

「おぉー、これがギルド!マスターの城よりみすぼらしいですね!」

「比較対象がおかしいですよ、ベタリオン」

 

 注目の的である女―――デルタは溜息をこぼした。

 

「さて、分かっていますね?」

「もちろん!余計なことは何も言わない、ですよね!」

「ええ、間違ってはいませんが……もう少し声を抑えれますか?」

「分かりました!」

 

 デルタは頭に手を当てると、魔法ギルドへと入って行った。

 魔法ギルド前に残された馬車。治安の良い王都とはいえ、持ち主が側を離れれば盗難のリスクは跳ね上がる。

 だが、誰もその馬車に近付こうとはしなかった。魔法ギルドがある区画は裕福な者が多いというのもあるが、馬車を牽引するナイト・ホースを前にして冒険者でもない者が怯まないわけがない。

 

 魔法ギルドの前には妙な静寂が漂った。

 

 

 

 

「ようこそ魔法ギルドへ。失礼ですが、こちらは初めてでしょうか」

「はい」

「やはりそうでしたか。まずはこちらの方に一筆お願いします」

 

 そう言うと受付の男は紙を取り出した。デルタの前に出された紙には、彼女が見たことがない文字が羅列されている。だが、迷うことなくそれを読んでいき項目を埋めていく。

 

「ニョルズ商会会長のデルタ様ですね……ご用件は魔法ギルドとの提携でございますか」

「そうです」

 

 デルタの言葉を聞いた受付の男は、困った様子を見せた。魔法ギルドとの提携には複数回の商品購入もしくは入荷が求められる。もっとも相手が大商会であれば例外が認められる。

 男はニョルズ商会の名をこれまで聞いたことがない。そのため弱小商会だろうと考えた。しかし、商会長であるデルタの容姿は美しく身なりも到底、弱小商会が用意できるものとは思えない。

 例外を認めるべきか。迷った末、男は判断を決める。

 

「誠に申し訳ございません。我が魔法ギルドでは―――」

「よい。私が対応しよう」

「これはベイン様。ですが―――」

「よい、と言ったのが分からなかったか?」

「……失礼しました」

 

 突如、男にベインと呼ばれた者がデルタと男の間に割って入った。彼はそのまま受付の男から話を引き継ぐ。

 

「そなたが我が魔法ギルドに用があるという商会の者か?」

「はい。ニョルズ商会会長デルタと申します」

「やはり聞いたことが無い名だな」

 

 ベイン―――カルム・ベインは自身の二重顎を触れそう言った。

 

「旧アヴェリス公国よりさらに南からやってきましたから当然でしょう」

「南方諸国か。あの地は種族対立が激しいからな。ギルドすらないと聞く」

 

 カルムは記憶を辿った。彼の知る知識では、南方諸国は複数の種族が国境を巡り争っている状態だ。小国であろうとも基本的に展開されている冒険者ギルドすら無かったはずだ。

 カルムの言葉を受け、デルタは少し俯き影を落としながら呟く。

 

「その通りでございます。私どもが活動していた国は比較的安寧を謳歌していたのですが……戦禍に巻き込まれてしまい……。命からがら北方へ逃げてきました」

「アヴェリス公国があった場所は公都を残し今や魔物の巣窟となっているはずだ。よく無事でいたものだな」

「それは護衛の者が優秀だったからですね」

「ほう……それはそれは」

 

 カルムはデルタの一歩後ろに控えている者を見た。兵士の格好をしており槍を背中に背負っている。ベタリオンは品定めをするような瞳に笑顔で返した。

 

 カルムは咳払いした。

 

「そなたの武器。マジックアイテムだな?」

「その通りです!これはマスターからの頂き物なんです!愛用しています!」

「ほ、ほう。マスターとはデルタ殿のことか?」

「マスターはマスターですよ!」

「……デルタ殿」

「……」

 

 デルタは頭が痛い思いであった。彼女としては少しでもエターナル・ヴェインに関わる情報を渡したくない。だが、ベタリオンを制御することができず、カルムにマスターという存在を伝えてしまった。

 

「ベイン様。2階の交渉室が空いております」

「そうか。ではデルタ殿」

「かしこまりました」

 

 デルタはカルムの後を歩く。ベタリオンも付いて行こうとしたが、カルムに止められた。

 

「デルタ殿。護衛の者は外で待機させておくように」

「ベタリオン。そういうことですので」

「分かりました!」

 

 元気よくそう言うとベタリオンは魔法ギルドを後にした。

 

「ははは。とてもユニークな者だ」

「そうですね」

 

 デルタは溜息まじりにそう言った。

 

 

 

 

 質素な交渉室に案内されたデルタはソファへと座る。彼女が座ったことを確認するとカルムは対面に座らず、デルタの隣りへと深々と座った。カルムは腕をデルタの背もたれへと移す。

 予想外の行動にデルタは軽蔑していたが、それを表情に出すことはなかった。

 

「本題に入ろうか」

「はい、ニョルズ商会は魔法ギルドとの提携を申し込みます」

「ほう」

 

 カルムは既に知っていた情報をまるで今、知ったかのように振る舞った。

 

「こちらに何も利益が無さそうだが?それとも……」

 

 カルムは舐め回すようにデルタを見た。見事に実った双丘と汚れを知らない肌。そしてガラス細工のように精巧な顔。

 商会の中には少ないながらも女の商会長もいる。だが、男尊女卑がスタンダードな世の中において彼女たちが大きな利益を得るにはそれ相応の見返りを相手に与える他ない。

 だが、デルタは否。エターナル・ヴェインはその枠に当てはまらない。

 

「こちらを」

 

 カルムがデルタの太腿に触れようとしたタイミングに、彼女はテーブルに1つの魔石を置いた。それは通常の魔石と言うにはあまりにも大きすぎた。大きく色濃すぎた。

 

「なんだ、これ、は」

 

 カルムはそれを見た瞬間に悟った。これがただの魔石ではないことを。彼は自身の持つ<魔力視>を用いてその価値を駄目押しで確認した。

 カルムの脳には、膨大な魔力が籠っていることを示している。ここ最近、冒険者そして商人の間でとあるAランク上位の魔物が討伐されたという噂を思い出した。

 

「スケルトン・ロードの魔石……ッ。き、貴様これをどこで」

 

 カルムはソファから勢いよく立ち上がりデルタを詰めた。だが、彼女はどこまでも冷静に言葉を紡ぐ。

 

「商会の用心棒が討伐しました。提携していただけるのならば、その御礼としてこちらを差し上げます」

 

 Aランク上位として恐れられているスケルトン・ロードを討伐した者が所属する商会を無碍にすることはできない。既に、商会長であるデルタに失礼を越えた態度で接してしまったカルムは頷く他無かった。

 カルムは焦る様子を最大限隠し余裕を見せる。

 

「いいだろう。締結を許可しよう」

「ありがとうございます」

 

 王国魔法ギルドとニョルズ商会との間に提携が結ばれた。

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