ダンジョンマスター異世界侵略記 作:フリー123456789
「転移ポータル用意できてないからなぁ」
初めは<主従交換>で一気に玉座の間へ移動しようと考えていたが、このスキルはダンジョンマスターとその従者の位置を交換するスキルであるためセレネを連れて行くことはできない。
「うーん、何か良い方法―――あ、そういえばこいつが居た。<召喚・扉の魔女>」
考えた末、ハルは中世風のローブを纏った女――扉の魔女を召喚した。
体温を感じさせない肌、身体の下半身は透けさせ、背後には黒い金属でできた重厚な扉を宙に浮かせながら魔法陣から現れた。
セレネは突然現れた扉の魔女に驚き、次にその正体が人間に近いが人間ではないことに気付くと困惑の色を見せ確認するようにハルに尋ねる。
「あの、そちらの方は……人間でございますか?」
「うん?いや、人間ではない……かな?魔物ではあるけど。扉の魔女と言ってゲームでは敵味方関係無く転移させることができたから錯乱にうってつけ……ってセレネに話ても分からないか。簡単に言うとこいつを使えば、転移できるよってこと」
「転移魔法ですか!?そのような高等位相魔法を扱えるのですか!?」
「いや、魔法じゃない……。とりあえず詳しい話は転移してから!」
説明するのが面倒になったハルはアルファたちに説明を押し付けようとした。
早速転移をするために扉の魔女へ命令を下そうとするハルであったが、セレネに待ったを掛けられた。
「倒れ伏している兵士どもは如何なさるので?」
「やっべ、何のために生かしたのか問い詰められるところだった。えーと、こいつがいいかな。俺の愛用なんだけど……<召喚・深淵蛇王>」
ハルが呟くと先程の召喚とは異なり地面にぼんやりと魔法陣が浮かび上がる。
浮き出た魔法陣がぼんやりと黒く輝きだすと複雑に絡み合う紋様とセレネでは解読できない文字が冷たい光を放ち脈打つようにうごめき出す。
光は時を刻む毎に強くなり、それに連なって空気が重くなっていく。
数秒経つと魔法陣の中央から黒い霧が立ち昇り渦が巻き起こる。
霧からは長い影が見え隠れし、影の持ち主は「ゴゥゥゥ……」と周囲の生命に恐怖心を与えるかのような鳴き声を鳴らす。
低いうなり声と共に姿が露わになる――よりも前にハルの体に絡みつくようにとぐろを巻いた。
どんな屈強な戦士、魔法、魔法武器であろと貫くことなどできないと思わせる暗黒色の鱗。
太陽を反射して青く煌めく模様。
目を合わせるだけで畏怖を与える神秘的な輝きを放つ赤眼。
深淵蛇王。
ハルがEoCで愛用していた魔物の内の一体である。
召喚された深淵蛇王は、こちらの世界に渡ってから何故一度も構ってくれなかったのかと言わんばかりに体をハルに擦り付けていた。
セレネは深淵蛇王を見たときその神秘的な姿に魅入られたのか近付く。
しかし、深淵蛇王に睨まれ体が銅像のように凍り付いた。
(な、なんなの……ッ!)
心の中でも心がけていた公女としての言葉遣いを忘れるほどに。
目の前にいる存在は、生物を超越した何か。
アレが鳴く度に体が震え先程ハルに命乞いをした時以上に心臓が脈打つ。
思わず後ずさりしようとするが、足が床に縛り付けられたかのように動かない。
全身が恐怖に支配され、息を忘れてしまうほどだった。
目を逸らしたいが、逸らした瞬間に”死”が迫る明確なビジョンが見えてしまう。
セレネの様子がおかしいことに気付いたハルは、心当たりが見つかったのか、深淵蛇王に<畏怖>を解くように命令する。
正気を取り戻したセレネは思わず「……神、なのですか……」と呟く。
ハルは否定しつつ疑問に答えた。
「深淵蛇王っていう魔王種の一体。多分、魔王種が持っている<畏怖>が効いたんだと思う」
「なる、ほど……」
「うんうん。それじゃ、準備しますかね。深淵蛇王……、言いずらいなぁ。アビスにしよう。アビス、こいつらを丸呑みにして。消化したらだめだよ?」
深淵蛇王――アビスは、名前を与えられ嬉しかったのか、ハルに巻き付いていた体を更にきつく締め付けるが、ハルは「嬉しいのかぁ~? このこの~」と呟くだけで特に痛がる様子を見せなかった。
じゃれ合った後、<変幻自在>を使い巨大化させアルドリンを含めた王国兵士を一気に呑み込んだ。
仕事を終えたアビスは体を小さくするとブレスレットのようにハルの左手首に巻き付く。
最強のブレスレットの誕生である。
セレネはアビスが居なくなった――厳密には小さくなったのだが――ことで緊張が途切れ前に倒れる―――よりも前にハルに受け止められる。
長時間にわたる魔力使用による疲労、絶体絶命の状況、理解外の存在……、数々のことがわずかな間で起こった。
並の者であれば気を保つのは難しいだろう。
ここまで気を保ち理解外の存在に対して交渉を成立させたセレネは、人類史上最も偉大な存在なのかもしれない。
受け止められたセレネは、申し訳なさそうに告げる。
「も、申し訳ございませんハル様。体を支える気力が無く……」
「ありゃりゃ。アビスが止めを刺しちゃったか。寝てていいよ。後はこっちでやっておくから」
「……はい。おねがい、します」
そう言うとセレネは目を閉じ力なく体をハルに預けながら気絶した。