ダンジョンマスター異世界侵略記 作:フリー123456789
「ギィギィ!」
歪んだ体、緑の肌。
鼻は潰れるほど短く口は大きく裂けている、遠目からでも目立つ醜悪な容姿。
見た者を不快にさせるギラギラと光る瞳―――ゴブリン。
ファンタジー作品におけるメジャーな魔物であり、その強さは作品によってまちまちである。最下級レベルから魔王幹部レベル。
行くところまで行くと稀ではあるが、最終進化のゴブリンが魔王を務めている作品もあるほどだ。
それではEoCはどうかというと。
「よっと」
「ギィ……」
漆黒の剣でいとも簡単に頭から真っ二つにする一体のスケルトン―――ハル。
ここから分かる通り、EoCでは低レベルでも無双できるほどゴブリンは弱い―――わけがない。
ゴブリンは、元のステータスが弱く直ぐに倒されてしまうため基本的に群れで行動する。
そのためはぐれのゴブリンの末路は悲惨な物である。
だが、群れで行動しているゴブリンに遭遇した場合、対峙する魔物や冒険者のランクによっては苦戦必至。
ゴブリンは、人間の子ども程度の知能レベルを有しているためずる賢い手を使い人間を罠に嵌めることも可能であり、また種族的に弱いからこそ多様な進化先が存在する。
ゴブリンの正当進化先であるホブゴブリンから剣術を扱うゴブリンソードマン、魔法を扱うゴブリンシャーマンなどなど。
閑話休題。
つまりEoC―――この世界においてゴブリンは厄介な魔物、害獣と位置付けられている。
成り立ての冒険者が舐めて掛かることで死亡する事故が多発しており、ゴブリン駆除が常駐しているほどだ。
だが、殺されるのはまだ救いなのかもしれない。
女が居る冒険者パーティが全滅した場合、男の亡骸は見つかるが女の方は体の一部でも見当たることがまず無い。
ほとんどの場合、ゴブリンの苗床となるからだ。
★★★
滅国のアヴェリス公国。
初心者とはいえ戦いの心得がある冒険者よりもおよそ弱いであろう村民や町民がゴブリンに勝てるわけもなく、ゴブリンの住処には苗床用の女と食糧用にバラバラにされた男が大量にあった。
それを見たハルは人間として激怒したり気分が悪くなったり―――することなく淡々と魔石集めに勤しんだ。
不思議と何も感じなかったのである。
それもそのはずダンジョンマスターは、種族を超越した存在であるからだ。
ゴブリンの行動も自然の1つだと捉えることができる。
更に付け加えると現在、スケルトンに宿っている。
これも大きな要因といえよう。
だが、人間性を捨てたわけでは無い。
ゴブリンを駆除した後、生きる気力の無い苗床となった人間たちを楽にし、その後食用の男たちと一緒に火葬する。
「大分魔石も集まったな。後半分ってところかな?」
<収納>に入っている魔石を数えながらそう呟く。
突如始まった魔石回収の作業もハルの体感的にかれこれ数時間は経って居る。
ペース的に遅いのかもしれないがアルファたちの提案により本体を使えないため、ステータスの低いスケルトンで何とかするしかない。
強装備をさせようにもレベルや種族的に装備することができない。
唯一できたまともな装備が漆黒の剣と古ぼけたローブであった。
どちらも国家級の武器であり、国宝となるレベルの代物だ。
ただハルひいてはエターナル・ヴェインにとってありふれた装備であるが。
現在の強さ的にセレネと同程度だろうか。
周辺国有数のレベルでないと相手取ることができない強さを手に入れられることを考えるとこの装備たちが如何に強いか分かるだろう。
火葬を終えゴブリンの拠点から外へ出る―――その瞬間、
「ッ!(何だこの気配!)」
今までに感じたことの無い威圧感をハルは感じた。
威圧感を感じた方向に視線を向けるとそこから何かが現れながら口を開く。
「……貴様か。我の配下を次々と殺していたのは……」
「へぇ……。喋れるんだ?」
「当たり前だ。我を下級ゴブリンと一色単にするな」
ハルの目の前に相対するは、岩壁。
現在のハル、スケルトンの3倍以上はある背丈。
裂けた口から覗かせる鋭く伸びた牙。
今まで対峙してきたゴブリンが見せなかった知性が宿った瞳。丸太のように太い四肢。
(ホブゴブリン……いや、武器を持たずにこの威圧感。多分、ゴブリンファイターかな)
戦って見ないと分からないが、現在のハルが強者だと感じるということは、少なくともセレネと同程度以上だということだ。
「グォオオ!!!」
「ッ!」
ハルの分析を阻止するように土を踏みしめ全身を使って突進し、ハル目掛けて拳を突き刺す。
ハルは、わずかに体を後ろへと反らし躱すが、続く衝撃波に耐えきれず吹き飛ぶ。
空中で無防備となったハルに追い打ちをかけるべくその巨体からは考えられないほどの跳躍を見せ、体勢が崩れている胴体に先程と同様の全力の一撃を突きつける。
だが、間一髪で胴体と拳の間に剣を挟み込み剣を壁として拳の威力を抑え込み華麗に地面に着地する。
両者共に息をつく。
(ふぃー。一撃でも喰らったら死ぬなぁ……)
ハルは、先程避けた際に地面にできたクレーターを見て一撃でも喰らえばこの体は駄目になることを悟った。
(あの剣……何か細工があるな?)
一方のゴブリンは、ハルの身軽さと器用な体捌きに驚くと共に鋼のように硬い拳がぱっくりとやられていることに驚く。
ハルに付けられた傷自体は、持ち前の<自己再生>で修復可能だ。
しかし、あの剣が厄介であることには変わりない。
次に行動したのはハルであった。
先程の突進のお返しと言わんばかりに素早く体をクラウチングスタートのように低くし、飛び出すと同時に剣を前へ突く。
「クゥ……ッ!(速いッ!)」
咄嗟の動きに対応できなかったゴブリンは、腰を低く落とし腕をクロスさせ頭と胴体を守る―――ことはできず、腕を突き破り胴体に大きな穴を貫通させた。
だが、ハルもただでは済まなかった。
(いやー、体がボロボロだよ)
ステータスに見合わない動きをしてしまったせいで、スケルトンの体全体にヒビが入ったのである。
ゴブリンは、先程と同様<自己再生>で何とか体を修復するが、<自己再生>は燃費が悪く次の攻撃を修復させるほどの余力はもうない。
対するハルは、レベルが多少上がったとはいえ<主従交換>で消費した魔力が戻っておらず下級の回復魔法を唱えるのみ。
つまり、どちらも満身創痍。
次の行動で決まる。(ハル自身は全く問題無いが)
視線が交差する。
刹那、ボスゴブリンとハルの位置は背中を見せ合うように入れ替わり、一泊遅れて衝撃波が木々を襲う。
「グッ……!」
肋骨が折れ辛うじて背骨まで到達することは無かったが、ハルは膝をついてしまう。ゴブリンに軍配が上がる―――ことは無かった。
ハルが膝をつくと同時にその巨体が膝から崩れ落ち地面を揺らしながらその生命を終えた。
勝者ハル。
どちらが勝ってもおかしくなかった。
勝敗を分けたのは古ぼけたローブだ。
このローブは、どんな致命傷もHPを1残して耐えることができる代物だ。
パッシブ効果であり次に発動できるようになるまでクールタイムが発生する。
アイテムの有無で勝敗を分けるのだと改めて実感するハル。
ボロボロの体を修復することなく、最後の仕事だと鞭を打ちながら既に巨大な肉の塊となった元ボスゴブリンへと近付き魔石を採取する。
「これでよし! 疲れた~。マグナスに癒してもらおぉ~」
本体ではない為、異世界に渡ってから感じたことの無い疲労感に襲われるハル。
そしてつい零してしまったマグナスに対する言葉。
実は、この世界に渡った時に今後、寂しい思いをするのだとアルファの態度から直感的に感じ取ってしまった。
だが、その後に会ったマグナスのこちらに容赦無い態度に救われたのである。
……結局、それはアルファを含めた大臣らも同じであったが。
仮にエターナル・ヴェインと共に世界を渡らず1人ボッチだった場合、自分がどうなっていたのか分からない。
(止め止めッ! 考えるだけでも恐ろしい……)
閑話休題
魔石を採取したハルは、これで男性型ホムンクルスを製造するための魔石が集まったことに気付く。
ここまで数時間、初心に返ることができたハルは、充実した時間を過ごすことができたと思った。
ここまでの苦労と冒険を噛みしめながら<幽躰憑依>を解除する―――が魔力が足りず不発に終わった。
きっと本来の肉体であれば、赤面しているところだろう。
そしてそんな顔を揶揄ってくるマグナス。
ここにマグナスが居なくて良かったと思う反面、早く帰宅して皆に会いたいと思うハルは<上級魔導の水晶瓶>を使い魔力を全回復させ<幽躰憑依>を発動する。
「うーん、よく働いたなぁー」
エターナル・ヴェインの自室にあるベッドで目覚めたハル。
体を伸ばしていると胸に重みがあることに気付く。
大方アビスが寝ているのだろうと思い毛布を捲るとそこには、セレネが眠っていた。
「ど、どういうことだってばよ……」
★★★
ハルが去った戦場にて2つの動かない物体が横たわっていた。
どちらも優秀な肉体を持っているためこの場にいる魔物たちにとって、栄養豊富な獲物である。
そこに3匹の小さなゴブリンの群れが現れた。
彼らは、数日間に及んで餌にありつけることができず、元より痩せていた体を更に痩せさせついには骨が浮かび上がるほどだ。
そんな状況だったからであろう。
目の前にご馳走がある状態で我慢することなどできるはずが無い。
ゴブリンたちは滅多にすることは無い共食いを行うため一斉に目の前の肉塊へとかぶりつく―――ことはできなかった。
ゴブリンたちの口に広がるのは豊満な肉とそこから零れ落ちる高級ワインのような赤い血、ではなく自分の口から溢れ出す薄汚れた血であった。
「ギィギ……」
情けないゴブリンの鳴き声に反応するように動かなかった物体の1つ―――スケルトンが体をむくりと起こし汚物を見るような目をゴブリンたちに向けながら告げる。
「……キサマラ。イッタイ、ナニヲ タベヨウトシタ?」
「ギ、ギィ」
「キサマラテイドニ ホショク サレテイイ ワケガナカロウ、イネ」
『ギギィ!』
スケルトンの宣言と共に一斉にゴブリンたちが棍棒を上から振り下ろす。
スケルトンの言葉を理解することはできなかったが、馬鹿にされていることは伝わったからだ。
打撃系が弱点であるスケルトンにとって棍棒は、弱点特攻の武器のようなもの。
このままでは、スケルトンはバラバラに砕ける―――ことは無かった。
ゴブリンが棍棒を振り下ろすよりも速くスケルトンは呪いの言葉を呟く。
「街キュウ呪マ法」
スケルトンの呟きと共に、足元に異様な気配を放つ魔法陣が浮かび上がる。
次の瞬間、魔法陣は円形に広がり、静寂が漂う。
周囲には冷たい空気が満ちる。
魔法陣が収束するとそこには、生命を感じさせない冷たい砂漠の光景が広がっていた。
「……スベテハ、シュノタメニ……」
スケルトンのコツコツとした声が風に溶ける。
街規模の静寂と砂を残して。