幻想郷に迷いしカスカベ防衛隊 作:匿名ねこ
また、再三言いますが、私の考えたオリジナル設定がこれから濃く現れる為、苦手な方はブラウザバックを推奨します!
それでも良い方はどうぞ!(モチベ向上の為、感想や評価待ってます!)
気がつけば、どこか薄暗く、ひどく沈んだ空間に立っていた。空気は冷たく、妙に重苦しい。そして部屋の中には、無残に破れたぬいぐるみや、バラバラになった人形が散乱している。言いようのない不快感が、肌にまとわりついて離れない。
そんな中、部屋の中央にぽつんと、少女が座っていた。
金色の髪──それはきっと、陽の光を浴びたら美しく輝くだろう。だが今は、暗がりの中でどこか色褪せて見えた。彼女は静かに膝を抱えて、震えながら泣いていた。
「だ、大丈夫……?」
自然と口をついたその言葉。しかし、発した途端、風間君の背筋にゾクリとした寒気が走る。 心臓の鼓動が急に速くなり、嫌なほど耳に響く。汗が、額から、背中から、にじみ出る。
少女のすすり泣きがぴたりと止まった。そして、ゆっくりと──不気味なほどゆっくりと、少女はこちらに顔を向けた。
「────っ!」
その顔を見た瞬間、風間君は息を呑んだ。
そこにあるはずの可憐さや無垢さは、どこにもなかった。目は血走り、唇は不自然に吊り上がり、まるで壊れた人形のような──いや、それ以上におぞましい、“歪んだ何か”がそこにいた。
風間は反射的に後ずさる。だが、背中に冷たい壁がぶつかり、それ以上逃げ場はなかった。少女は立ち上がり、ひとつ、またひとつと、無言でこちらに歩み寄ってくる。目が離せない。足も動かない。ただ、息苦しさだけが増していく。
「……や、やめて……来るな……!」
声はかすれ、空気に呑まれていった。そして──少女が目の前まで来る。
彼女の腕が、ゆっくりと伸びる。鋭く尖った爪が、まるで風間君の腹部を狙うかのように持ち上げられた。
「────ッ!!!」
瞬間、全身に走った恐怖に、風間は叫び声を上げて──
「うわああああっ!!」
──目を覚ました。
息を荒げ、額には冷たい汗。心臓はまだ激しく鼓動している。視界に映るのは、薄暗い天井。そして、紅魔館の客間の天蓋付きベッドのカーテンだった。
「ゆ、夢……?」
風間君は震える手で額を拭いながら、原始的だが頬を抓ったりして必死に現実かどうかを確かめる。
「なんだよあの夢……それにしてもあの夢の人、誰かに雰囲気が似てるような…」
だが、誰なのかまでは思い出せない。朧げに残る、あの少女の歪んだ顔だけが、頭の中で何度もフラッシュバックする。
気を紛らわせるように、風間君はベッドから身体を起こした。そしてトイレへ行こうとしたその時──
「──っ!?!?」
目の前に、咲夜が突如として現れた。
「うわっ!? な、なんですか急に!! 驚くじゃないですか!!」
肩を跳ねさせながら、風間君は怒気混じりに声を上げたが、咲夜は微動だにせず、あくまで淡々とした口調で告げた。
「風間様、おはようございます。朝食の準備ができましたので、お早めにホールの方へお越しください。それでは、失礼いたします」
そう言い終わるが早いか、彼女はまたしても一瞬で姿を消した。
「……本当に何なんだよ」
唖然としつつも、風間君はひとまずトイレを済ませ、案内された通りホールへと向かった。
重厚な扉を開けると、そこには昨日と同じようにレミリアが座っており、咲夜はその傍らに控えている。だが今日は、それだけではなかった。テーブルの対面には、新たな人物が二人座っている。
一人は長い紫がかった髪を持ち、ぶ厚い本を片手に無言で読んでいる少女。落ち着いた佇まいに加え、何か只者ではない空気を放っていた。
そしてもう一人は、その隣でにこやかに微笑んでいる、角のような飾りをつけた女性。翼のような装飾も見え、どこか悪魔めいた雰囲気がある──が、態度はとてもフレンドリーそうだ。
「やっと目覚めたか」
「は、はい……おはようございます」
レミリアが軽く手を上げて、艶やかな笑みを浮かべる。その演技まだ続けるのかと内心思いながらも、風間君は空いた席に座り、そっと周囲を見回した。
「えっと……この方たちは……?」
別に自分から聞かなくても紹介はしてくれると思ったが、一応自分から聞いた方が良いのかなと思い、疑問をレミリアに投げかける。
すると、「そうか、まだ紹介していなかったな」と、レミリアがゆるやかに手を動かす。
「そこに座っているのはパチュリー・ノーレッジ。私の古くからの友人で、大図書館の主だ。そして隣が小悪魔。彼女はパチュリーの補佐をしている」
「……どうも」
まるで風間君には一切興味は無いと言わんばかりに、パチュリーは本から目線を上げず、淡々と挨拶を返すだけだった。
「こんにちは~♪ 私は小悪魔ですっ! よろしくお願いしますね♪」
こちらは打って変わって明るい口調で、ぴょこっとお辞儀をする。
「ど、どうも……しばらくの間お世話になる風間トオルです。よろしくお願いします……」
風間君はその反応差に少し戸惑いながらも、二人に対して軽く頭を下げる。今のところ敵意は感じられないが、この館にいる者たちはどこか皆、掴みどころがない。
「……ところで咲夜、門番はどうした?」
食事が始まる少し前、レミリアがふと思い出したように問いかけた。
門番──。それはたしか、昨日咲夜が言っていた、自分を見つけてくれたという“美鈴”という人物のことだろう。風間君は、心の中で名前を反芻する。
咲夜はためらいもなく答えた。
「また門前で寝てサボっておりましたので、そのまま置いてきました」
「…まったく、あいつは……」
レミリアは深くため息を吐き、手でこめかみを軽く押さえる。
「まあいい。それより──食事にしようではないか」
気を取り直すようにそう言うと、場に再び静けさが戻る。レミリアの言葉に合わせ、パチュリーがようやく手にしていた本から視線を外した。そして無言で本を小悪魔へ手渡す。小悪魔は笑顔で本を受け取り、丁寧に抱えるように持った。
テーブルには美しく盛り付けられた料理が並んでいた。銀の皿に湯気を立てるスープ、香ばしく焼かれた肉料理、繊細なソースとともに彩られた野菜──どれも見た目からして一流の品だ。
風間君は恐る恐る、ナイフとフォークを手に取り、一口、口へ運んだ。
「……っ」
美味い──本当に美味い。
これまで、家族で高級レストランに行ったことも何度かあったが、それらに引けを取らないどころか、それ以上の完成度だとすら思えた。食材の旨味、香り、食感、そのすべてが完璧だった。
そんな風に最初は料理に感動していたが、ふと気づく。周りの空気があまりにも静かすぎることに。気まずいほどに、誰も何も話さない。ちらりと周囲を見回すと、誰もが各々の食事に集中しているようだった。
レミリアは優雅に、貴族のような所作でナイフとフォークを操り、まるで儀式のように食事を楽しんでいる。
パチュリーはというと、感情の見えない無表情で黙々と口に運んでいる。まるで“栄養補給”のために淡々とこなしているようだ。
小悪魔は相変わらず笑顔を浮かべているが、誰とも会話する様子はない。時折、パチュリーのほうに視線を送りつつも、静かに食事を続けていた。
そして咲夜は、レミリアの背後で静かに控えている。
(……なにこの空気……)
どんなに美味しい料理も、これでは味がまるで感じられない。結局、風間君は緊張しっぱなしのまま、食事を終えることとなった。
地獄の様な食事を終えた後、パチュリーと小悪魔は「図書館へ戻ります」と一言だけ残し、席を立って出て行った。
咲夜も静かに食器の片づけに向かっていく。
………っとなると自然に、テーブルには風間君とレミリアの二人だけが残された。重く感じる静寂の中で、レミリアがふいに口を開く。
「……食事は満足したか? 咲夜の料理は絶品であっただろう」
相変わらず、どこか芝居がかった威厳ある口調だった。その様子に、風間君は思わず苦笑しながら言った。
「二人きりなんですし、普通に話せばいいんじゃないですか?」
するとレミリアは、少しだけ肩の力を抜いたように、静かに笑った。
「……それもそうね。それと……何と言うか、気まずかったわよね? 誰も話さないから」
レミリアの言葉はどこか自嘲気味で、微かな影を帯びていた。
「はい。正直、かなり気まずかったです」
風間君が素直に返すと、レミリアはふふっと苦笑した。
「あはは……そうよね。これもね、私が“食事中は淑女たるもの、無言で優雅に食事をとるべし”って命令を出したからなのよ。全部、演技のためにね」
レミリアの声には、どこか虚しさが混じっていた。
その様子を見ていた風間君の胸には、ふとした違和感と、言いようのない哀しさが込み上げてきた。
「……それって、辛くないんですか? 寂しくなったりしないんですか?」
ふと、そんな問いが口をついて出た。
レミリアの動きがわずかに止まる。彼女は視線を伏せ、唇を閉ざしたまま、数秒の静寂が流れた。
「………ええ。全く辛くもなければ寂しくもないわ。これは威厳を落とさない為にも必要な事だから……だから別に……」
そう答えたレミリアの声は、どこか遠くを見つめるように淡く、そして脆かった。それ以上の言葉は続かなかった──が、それでも風間君にははっきりと分かってしまった。
────絶対にそれは、嘘だと。
たしかにレミリアは表情を変えずに答えた。けれど、その瞳の奥に揺れる陰りと、微かに震える声の調子──それは、明らかに強がりの裏に隠された本心が滲み出ていた。
(辛くないはずがない。寂しくないわけがないじゃないか……)
風間君は、何か言わなければ──と口を開きかけたそのときだった。
「それに、私は“そうあるべき存在”なのよ」
レミリアが、静かに言葉を重ねた。
「この紅魔館を守る者として、誇り高く、冷静で、誰よりも気高くなくてはならない。例え、孤独だったとしても……だから、私が辛いなんて、そんなこと……」
そこで再び言葉が途切れた。
微かに手が震えているのを、風間君は見逃さなかった。
──彼女は、自分を縛っている。誰よりも孤独に。
誰よりも誇り高く、誰にも心の内を見せずに。
その強さが、5歳児であるものの、痛いほどに哀しく感じた。
「……それでも、僕は……」
風間君は意を決して口を開いた。
「辛いときは、辛いって言っていいと思います。寂しいときは、誰かに甘えてもいい。……それって、弱さじゃないと思うから」
レミリアは一瞬、目を見開いた。
そして、ほんのわずかに、ほんの一瞬だけ──その瞳に揺らぎが見えた。
「……ふふっ、貴方は優しいのね」
微笑みの中に、どこか寂しさを隠し込んだような表情で、レミリアはそう呟いた。
「でも、私は……もう、そういう生き方を忘れてしまったのかもしれないわ」
それが強がりか、本心かは分からない。けれど、その姿は、どこまでも儚げに映った。
「……………」
「……………」
二人の間に、再び静寂が流れる。けれど、レミリアはその沈黙に終止符を打つように、ふと口を開いた。
「……ところで、今日は貴方にやって欲しいことがあるのだけれど……いいかしら?」
その問いかけに、風間は少し驚いた表情を見せたものの、すぐに頷いた。
「もちろんです! 僕、ここで助けてもらった恩もありますし……できることであれば、何でもやります!」
その言葉を聞いた瞬間、レミリアの瞳にふと影が差す。わずかに俯きかけた彼女の横顔には、一瞬だけ──罪悪感にも似た曇りが浮かんでいた。
だが、それもほんの一瞬のこと。すぐに彼女はいつもの調子を取り戻し、再び優雅な微笑みを浮かべて言葉を継いだ。
「実は……パチェ──ああ、パチュリーのことよ。彼女から借りていた本を返してほしいって言われたの。でも、あいにく私には他の用事ができてしまってね。咲夜も朝からずっと家事で忙しそうだし……だから、代わりに貴方に届けてもらいたいの」
そう言って、レミリアは椅子の傍から一冊の本を手に取る。それは、重厚な革装丁の古びた書物だった。表紙には古代文字のような、奇妙な記号が刻まれているが、風間君には読めなかった。
「これを“大図書館”に届けてほしいの。パチェに渡してくれれば、それでいいわ」
「分かりました。任せてください」
風間君は力強く頷いた。するとレミリアは、今度は懐から小さな紙片を取り出した。
「……これが大図書館への道順よ。初めての場所だと迷うかもしれないから、分かりやすくメモしておいたわ」
その地図には、廊下の曲がり角や階段、扉の位置まで細かく記されていた。明らかに、あらかじめ用意されていたものだ。
(最初から、僕に頼むつもりだったんだ……)
風間君は心の中でそんなことを思いながらも、丁寧に頭を下げる。
「ありがとうございます。すぐに行ってきますね!」
そう言って、彼は椅子を後にし、メモを手に扉の方へと向かった。ドアノブに手をかけて、このホールを去る。
……だからこそ、気付けなかった。ホールを後にしたその瞬間、背後から微かに漏れた一言を────
「…………ごめんなさい」
お読みいただきありがとうございました!
レミリアが最後に言った言葉、これは何に対してなのでしょうか……?
そして威厳を保つためと言っているが、本当に必要以上に演技を続ける理由はあるのか…?
次回、この謎が解き明かされるのでしょうか……?
ちなみにこの騒動の後、美鈴は咲夜に何故呼ばなかったのかと文句を言いますが、一瞬で串刺しになりました。