幻想郷に迷いしカスカベ防衛隊   作:匿名ねこ

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始めから言っておきます。

戦闘描写がかなり悪いです……

それでも頑張って描写をしてみたので、是非楽しんでください!


5話 正しさと本音のぶつかり合いだゾ!

 相変わらず変化のあまりない長い廊下を、風間君は手元のメモに沿って歩いていたが、やがて目的地に辿り着いた。そこは他の部屋に比べて扉がひときわ大きく、どこか古びた印象を受ける場所だった。

 

 

 風間君は一度深呼吸をしてから、扉をノックし、静かに扉を開ける。

 

 

 目に飛び込んできたのは、天井が見えないほど高く積み上げられた本の山。そのすべてが規則正しく並んでおり、空気には独特の重厚さが漂っていた。

 

 

「うわ~……凄い…!」

 

 

 思わず感嘆の声を漏らす風間君。その声に反応するように、奥の方から無機質な声が響いた。

 

 

「……誰かしら? レミィ?」

 

 

 声の主を探して進んでいくと、椅子に腰かけて読書をしていたパチュリーの姿があった。風間君の存在に気づいたパチュリーは、ちらりと一瞥を送ると、すぐに本に視線を戻しながら、言葉を放つ。

 

 

 

「……貴方ね。それで、この大図書館に何の用かしら? 残念だけど、子供用の絵本は置いてないわよ」

 

 

 少し小馬鹿にしたような言い方にムッとしつつも、風間君は努めて冷静に、用件を伝える。

 

 

「えっと、レミリアさんに頼まれて、この本を返しに来ました」

 

 

 手にした本を見せると、パチュリーは読んでいた本を閉じ、風間君の持っている本に視線を移した。

 

 

「……ああ、その本ね。それなら………」

 

 

 そこで言葉が止まる。風間君が怪訝に思って彼女を見ると、パチュリーはわずかに迷いの表情を浮かべていた。

 

 

 数秒の沈黙の後、何かを決意したように目を閉じ、そして静かに口を開く。

 

 

「それなら、そっちの隅にある“地下書庫”に行って並べてくれないかしら。本来ならこあ──小悪魔の仕事だけど、今は別件でここにいないの。だから、お願いできるかしら?」

 

 

 そう言って、パチュリーは古びた鍵をポケットから取り出し、有無を言わさず風間君の手に渡した。

 

 

「も、勿論です! ……え、えぇっと、それは分かりましたけど、この鍵は…?」

 

 

 戸惑いながら問いかける風間君に、パチュリーは再び読書に戻ったまま、淡々と答える。

 

 

「……地下には“禁書”と呼ばれる危険な本があるの。それらが奪われたり、勝手に読まれたりしないよう、普段は鍵をかけているのよ」

 

 

「えっ……そんなところに僕が行って大丈夫なんですか?」

 

 

「問題ないわ。どうせ貴方、この世界の文字は読めないでしょう? それに、仮に貴方が持ち出そうとしたとしても……その時は然るべき対応をするから」

 

 

 “然るべき対応”という言葉に、風間君は背筋がぞわりとしたが、それでも「分かりました」と返事をして鍵を握りしめた。そして地下書庫への道を進み始める。

 

 

 その背中を、パチュリーは無表情でただ静かに見送るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

繝輔Λ繝ウ祈祷中・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ…地下書庫まで長くないか…? それに、凄く暗いし……」

 

 

 風間君は例の地下書庫へと向かっている最中だったが、道のりがやけに長かった。辺りは仄かな明かりしかなく、ほとんど暗闇に包まれている。お願いを聞いたことを少し後悔し始めたその時、風間君の目の前にふいに牢屋の柵のようなものが現れる。

 

 

「なにこれ……柵? ……あ、ここで鍵を使うのかな」

 

 

 そう呟きながら、古びた鍵を取り出し、柵にかけられていた南京錠を解除する。ギィ…という鈍い音と共に扉を開け、中へと足を踏み入れた。

 

 

 だが、その中も相変わらず暗く、何も見えない。どうしようかと迷っていたその時、突如、空間が明るくなった。

 

 

 そこは無機質な空間で、古びたベッドと、バラバラになったぬいぐるみや人形が散乱していた。

 

 

 しかし、それよりも風間君の目に強く焼きついたのは──部屋の中心で膝を抱えるようにうずくまる、金髪の少女の姿だった。

 

 

「え……だ、誰?」

 

 

 どこか見覚えがあるような、けれど確信を持てない。心配になった風間君は、本をそっと床に置き、少女に声をかけた。

 

 

「あの~……大丈夫ですか? どうしてこんなところに?」

 

 

 その声に、少女の肩がぴくりと震える。そして、ゆっくりと振り返った彼女の瞳は、泣いたあとのように赤く潤み、頬には水滴が残っていた。

 

 

「………あなた、だーれ?」

 

 

 少女は不思議そうに首をかしげた。風間君は少し戸惑いながらも、自分の名前と、レミリアに助けられて今は紅魔館に住んでいることを話す。その説明の中で「レミリア」の名前を出した瞬間、少女の肩がピクリと小さく震えた。

 

 

「ふ~ん……そーなんだ。あ、それじゃあさ! 私と遊んでよ! 丁度退屈だったの!」

 

 

 少女は一転して元気な声でそう言った。風間君はパチュリーに頼まれた事を成し遂げなければいけないと断ろうとしたが、少女の無邪気な笑顔を前に断れず、「分かった」と応じる。

 

 

「でも……何して遊ぶの? ここには遊べそうなものはなさそうだけど…」

 

 

 そう尋ねると、少女はきょとんとした顔をして、まるで当たり前のことを言うかのように口を開いた。

 

 

「……? そんなの決まってるじゃない!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───貴方で遊ぶのよ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間、風間君の背筋を冷たいものが駆け抜けた。

 

 

 風間君を含め、カスカベ防衛隊のメンバーは色々とあり、5歳児とは思えない程にかなりの修羅場を潜り抜けてきた。

 

 

 ───だが、この時ばかりは違った。それは本能的な恐怖……今までの修羅場がまるでお遊びだったかのような、とんでもないものに触れてしまったと、全身が警鐘を鳴らしていた。

 

 

アハハハハッ!!!! ねぇ……人間はお人形さんやぬいぐるみさんよりは頑丈だよねぇ!? だったらさぁ…私の攻撃にも耐えられるよねぇぇッ!?!?

 

 

 少女は狂気に満ちた声でそう叫ぶと、数秒前まで距離があったはずなのに、次の瞬間には目の前にいた。尖った爪のような手を振り下ろす。

 

 

「っ…!?」

 

 

 反射的に横へ飛び退いた風間君。間一髪で回避したその腕は、彼の腹ではなく、背後の壁をえぐった。

 

 

へぇ……正直、今ので終わりかと思ったけど、少しは動けるみたいね。……でも、これはどうかなぁ…!!!

 

 

「ま、待って! どうしてこんな事するの?! 一旦ゆっくり話し合おうよ!!! 」

 

 

 その言葉を少女は無視し、懐からカードのようなものを取り出し、静かに唱える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

禁忌「レーヴァテイン」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女の手から現れたのは、炎を纏った巨大な杖。

 

 

さぁさぁさぁさぁッ!!!もっと踊って見せてよ!小さなお人形さんッッ!!!

 

 

 殺意を帯びた攻撃が風間君を追い詰める。

 

 

「ま、まずい…?! このままじゃ殺される…!」

 

 

 だが、風間君は必死に、それも奇跡のように避け続ける。

 

 

……ちょこまかとウザイわねぇ!!! 少しは攻撃してみたらどうなの?!?!

 

 

 その様子に少女は苛立ちを見せ、攻撃の速度も威力も増していくが、それでも風間君は紙一重で回避してみせる。

 

 

「はぁ……はぁ……や、やめて! こんなの遊びじゃない!!!」

 

 

有り得ない……こんなガキに避けられる攻撃じゃないはず………チッ

 

 

 少女は舌打ちをし、再びあの狂気の笑みを浮かべた。

 

 

貴方とっても面白いわね…! 私の攻撃をここまで避けた人間は貴方が初めてよッッ!!!……でも、もう飽きちゃったかな? 避けるだけで攻撃もしてこないし。───もういいや……さよなら

 

 

 少女は俯きながら、再びカードを取り出し、宣言する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

禁忌「フォーオブアカインド」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その宣言と共に、少女の背後からスッ…と三つの影が現れる。全て、同じ金髪に赤い瞳──まるで鏡写しのように全く同じ姿の少女たちだ。

 

 

「えぇぇぇぇっ?!?! 一体どうなってるの?! なんで、急に増えてるのっ!?!?」

 

 

 風間君は思わず叫び声を上げながら、身体を後ろへと引く。だが、もう逃げ場はない。

 

 

ふふふっ……貴方は壊れる瞬間、どんな風に鳴いてくれるのかしら?

 

 

 一人目の少女が飛びかかってくる。

 

 

「うわっ!? と、とにかく避けないと…っ!!」

 

 

 ギリギリのタイミングで体を捻り、横っ飛びに避ける。フランの鋭い爪がかすめた袖が裂け、冷たい空気が肌を刺す。

 

 

「まずい……! 本当に当たったら終わる!!」

 

 

ほーら、今度はこっちぃ〜!

 

 

 二人目の少女が横から襲い掛かる。

 

 

「また来た!?!?」

 

 

 咄嗟にしゃがみ込むことで、狙われた首筋を寸前で回避する。 背後から壁が粉々に砕ける音が響く。

 

 

「落ち着いてって!? こんなことしても意味ないよ!」

 

 

 風間君は必死に説得するが、少女たちは狂気じみた笑みを浮かべるだけで、全く聞こうともしてこない。

 

 

 すると今度は、三人目が宙から振り下ろしてくる杖に、必死に後転して距離を取る。

 

 

「まだだ! まだ来るっ!?」

 

 

 四人目のフランが素早く地面を蹴り、低空で突っ込んでくる。風間君は全力で横へ跳ね、床を転がる。転がりながらも壁にぶつかり、肘を擦りむく。

 

 

「くっ……はぁ、はぁ……何なんだよ…! 本当に、なんでこんなことするんだよ…!!」

 

 

 そんな風間君の悲鳴に、最初の少女がケラケラと笑いながら言う。

 

 

アハハハッ! 避けて避けて、必死に逃げ回ってるだけじゃない!そんなのじゃ……

 

 

 次の瞬間、今度は少女たちが一斉に襲いかかってくる。

 

 

つまんないのよぉぉぉぉッ!!!!!

 

 

「つまんないって、何がだよっ!?!? 」

 

 

 風間君は四人の連携攻撃に翻弄されながらも、ギリギリで身を捩じらせて回避する。四人の少女は苛立った様子で杖を振り下ろし、床を砕く。紅魔館の石床に大きなヒビが走り、瓦礫が弾け飛ぶ。

 

 

なんでよっ!! なんで避けるのよ!! どうして壊れてくれないのよおおおおっ!!!

 

 

 風間君はゼェゼェと肩で息をしながらも、なんとか意識を保っていた。

 

 

「そ、そんなの……っ! 壊されてたまるかっ!! 僕はカスカベ防衛隊のリーダー……こんなところで諦めてたまるかぁぁっ!!!」

 

 

 彼の目に、ほんの少しの火が宿る。恐怖に震えながらも、風間君は立ち上がる。

 

 

 少女はその様子を見て、狂気の笑みをさらに深くする。

 

 

『──ふふっ……やっぱり、貴方、面白いわ。壊すのがもったいないくらいに……でも、壊すの。

 

 

 そして、また新たなスペルカードを掲げようとした瞬間──

 

 

「ま、待って!!」

 

 

 風間君の声が、苦しげに響く。肩で息をしながら、ふらつく足を前に出して、必死に叫ぶ。

 

 

「もう……やめようよ、こんなこと……! 君は……僕を“壊す”って言ってるけど、本当はそんなことしたくないんですよね?!」

 

 

……は? 何を言ってるの?

 

 

 少女の動きが、ピタリと止まる。その赤い瞳が、まっすぐ風間君を射抜く。その表情はどこか“戸惑い”を含んでいた。

 

 

 ───この反応は、明らかにこれまでの“壊す気満々の殺戮者”とは違う。

 

 

 風間君はそれを見逃さなかった。恐らく、これが唯一の突破口。今にも泣き出しそうな震える声を押し殺しながら、必死に言葉を繋ぐ。

 

 

「君が……僕を本当に壊したいなら、とっくにできたはずだ……! 攻撃は何度も当たる寸前だった……でも、君はわざと外してた!」

 

 

 少女の瞳がわずかに揺れる。

 

 

「なんでだよ……!? どうして……壊すって言いながら、本気でやらなかったんだ……?!」

 

 

「……うるさい」

 

 

 少女は口を閉ざした。そして分身達は霧の様に消えていく。

 

 

「それに……本当に暴れたいなら、 何で柵を壊して外に出なかったの?……あんな鉄格子なんて、一瞬で壊せたはずなのに」

 

 

「…………っ!!」

 

 

 その言葉に、少女はハッとしたように目を見開いた。そして──ゆっくりと、口を開いた。

 

 

「……わかってたわよ、そんなの……壊せるって……でも……」

 

 

 その声には、先ほどまでの狂気はなかった。むしろ、どこか弱々しく、寂しげだった。

 

 

「私……怖かったのよ……外に出たら……また誰かを壊しちゃうかもしれない。だから、壊せるのに……壊さなかったの。もう誰も、傷つけたくないから……」

 

 

 少女はほんの少しだけ、視線を落としながら呟く。

 

 

「私ね、壊したくないの。本当は……誰も、何も……でも……この身体、この心の奥から、止められないの。──“壊したい”って、衝動が、勝手に溢れてくるのよ……!」

 

 

 少女の瞳が、涙を浮かべる。だが、その涙は不思議と落ちない。ただ、光の中に溶けて揺れているだけだった。

 

 

「私は……“壊すことしかできない”って、ずっと”お姉さま”に言われてきたッッ!!!だから……私も、そう思うようにしたのッ!!! だって、そっちの方が楽でしょ…? もしかしたら治るかもしれないなんて愚かな希望を信じ続けるよりも、ずっとね……」

 

 

「そんなの……!」

 

 

 風間君は、強く言い返す。

 

 

「そんなの、おかしいよ!! 君の力は“壊すためだけ”のものじゃない! 君自身が、簡単に決めつけるなよ!」

 

 

 少女の瞳が、驚いたように見開かれる。

 

 

「君の力は、誰かを守ることだってできるはずだ。僕にはまだ……どうすればいいかなんて、全部は分からないけど……でも、君が“壊さないでいられる未来”だって、絶対にあるっっ!!!」

 

 

 風間君の必死の叫びは、静まり返った空間に強く響いた。

 

 

 そして──

 

 

 少女は小さく微笑んだ。それは、今まで一度も見せたことのなかった、かすかな“素顔”だった。

 

 

「……変な子ね、君」

 

 

「僕なんてまだまだですよ。僕の友達にもっと変な奴いますから……ははは……」

 

 

 その言葉に、少女はほんの一瞬、きょとんとした後──ふっと笑った。

 

 

 それは、今までのようなどこか壊れたような笑みではなかった。心の奥から滲み出た、あたたかな笑みだった。

 

 

「……私、フランドール・スカーレット」

 

 

「……え?」

 

 

「名前。私の……名前よ。さっきまで名乗ってなかったから、ちゃんと伝えておこうと思って。それで、あなたのお名前は?」

 

 

「あ、僕は風間トオルって言いま………」

 

 

 その瞬間、風間君の中で何かがカチリと音を立てて繋がった。

 

 

 ──“お姉さま”。

 

 

 ──レミリアが不意に呟いた、“フラン”という名前。

 

 

 ──そして、この少女の名前──フランドール・”スカーレット”。

 

 

「……! もしかして……レミリアさんの妹?」

 

 

 フランはコクリと頷いた。

 

 

「うん、私とお姉さまは姉妹。血の繋がった…本当の……」

 

 

 風間君は、なぜか納得したように目を伏せた。

 

 

 ──そうだ。だからこそ、自分は最初にこの少女を見たとき、妙な既視感を覚えたのだ。夢の中で見た“誰か”。あの紅い目、金の髪。どこかレミリアに似た面影を感じたのは、ただの偶然じゃなかった。

 

 

「……そっか。あの時、夢で見たのは……フランさんだったんだ……」

 

 

「夢?」

 

 

「……あ、いや……うまく説明できないんですけど……夢で一度フランさんに会ってて……」

 

 

「ふぅん……ふしぎな子ね、やっぱり」

 

 

 フランは、再び笑う。

 

 

「ありがとう……私、今は少しだけ、自分が“壊すだけじゃない存在”でいられるような気がする。──君と話せたから」

 

 

 そう言ったフランの顔には、安堵と達成感が浮かんでいた。その様子を見た風間君は、緊張の糸が緩み、膝から力が抜ける。

 

 

 そしてフランは、何か疑問を思ったのか、不思議そうな表情をして風間君に問う。

 

 

「そう言えば、風間君はどうしてここに来たの? お姉さまにここは危険だって何も説明されなかったの?」

 

 

 フランが小首を傾げながら尋ねた。

 

 

 風間君は、少し戸惑ったように目を泳がせたが、やがてぽつりと答える。

 

 

「えっと……レミリアさんに頼まれて、地下書庫に本を届けに来たんだ。確か『これをパチュリーさんに届けてほしい』って……」

 

 

「地下書庫……?」

 

 

 フランの眉がピクリと動く。

 

 

「……風間君」

 

 

「は、はい……」

 

 

「ここはね、私の部屋なのよ。見ての通り、地下書庫なんてどこにもない。私しかいない、完全に閉ざされた空間」

 

 

「……っ……!? え、そ…そんな!?」

 

 

 風間君の目が見開かれた。頭の中で、混乱と困惑がぐるぐると渦巻く。

 

 

 ──地下書庫なんて、最初から存在していなかった?

 

 

 ──じゃあ、自分は一体何のためにここへ……?

 

 

「ちょ、ちょっと待って……それじゃあ、僕は最初から“ここ”に来るように仕組まれてたってこと……?」

 

 

 フランは静かに頷いた。しかし、その表情は徐々に険しくなっていく。

 

 

「……理由は分からない。でも……たぶん、わざとよ。お姉さま、嘘をついたのよ」

 

 

「嘘を……」

 

 

 フランの周囲に、ふつふつと不穏な空気が広がっていく。先ほどまでの柔らかな雰囲気が一変し、空気がピリピリと張り詰める。

 

 

「なんで……なんでそんなこと…? 私が風間君を……“壊す”かどうか試す為に、ここへ送ったの?」

 

 

「フランさん……」

 

 

 フランの肩がわずかに震えていた。怒りとも、悲しみともつかない感情が、その小さな体からじわじわとにじみ出ていた。

 

 

「あいつ……っ。私がどんな気持ちでここに閉じ込められてたか知らないくせにっ…! 内心もう誰も来なければいいって思ってたのにっ…! それなのにあいつは…風間君を道具の様に……ッッッ!!!」

 

 

 風間君は息を飲んだ。目の前のフランは、明らかに感情の渦の中にいる。だが──それは“怒り”ではあったが、かつての狂気とは違っていた。これは、誰にも理解されず、利用されたことへの“哀しみ”だ。

 

 

「……殺す」

 

 

 フランの口から、低く、重く、冷たい言葉が漏れる。

 

 

「え、い…今なんて…?」

 

 

 風間君の声は震えていた。だが、確かに聞こえた。

 

 

 次の瞬間──

 

 

殺してやるッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 

 叫ぶと同時に、フランの体から爆発的な魔力が放出された。風が逆巻き、部屋中が揺れる。壁に飾られた古い絵画が吹き飛び、床石にヒビが走る。

 

 

「フランさん、やめて!! 冷静になってッ!!」

 

 

 風間君は思わず立ち上がり、フランの腕を掴もうとする。しかし、彼女の怒りはもう限界を越えていた。

 

 

「離してよっっ!! 風間君は優しいけど……っ、でも、そんなの関係ない!!! あいつは、君を……私を……ッ、“道具”みたいに扱ったのよ!? 家族のくせに!! ずっと閉じ込めておいて、今度は“壊すかどうか”試すなんて、そんなの……許せるわけないでしょッッッ!!」

 

 

「でもっ……でも!! 本当にそれでいいんですかっ!!?」

 

 

 風間君は、必死に叫んだ。

 

 

「確かに……僕だって、理由はどうであれ今はレミリアさんのことが許せない! でも、フランさんがここで手を汚したら……それこそ本当に“壊すしかできない存在”になっちゃうよ……!」

 

 

 フランの動きが、一瞬止まる。

 

 

「フランさんがさっき言った言葉……“私は壊すことしかできない”って言葉、僕は……絶対に信じたくないんだ……!」

 

 

「……………」

 

 

 フランの背中が揺れる。だが、その震えは止まらない。

 

 

「私は、もう……止まれないよ……風間君。怒りが……止まってくれないの……」

 

 

 バサッ──

 

 

 フランの背に浮かぶ結晶の羽が、光を帯びる。扉へと向かう足音が、石の床に響く。

 

 

(だめだ……本当に、行く気だ……!)

 

 

 風間君は再び叫ぼうと口を開いた、──その瞬間。

 

 

「フラン!!」

 

 

 廊下の奥から、鋭い声が響いた。

 

 

「お姉さまっ……!?」

 

 

 同時に、柵が勢いよく開かれた。

 

 

 そこにいたのは、蒼白な顔で息を切らしたレミリアと、ぜぇはぁと息をレミリア以上に切らしているパチュリーだった。

 

 

「よかった……間に合った……!」

 

 

 レミリアの顔には、今まで見たことのない、心からの“焦り”と“心配”が浮かんでいた。

 

 

「フラン、お願い、落ち着いて聞いて!」

 

 

「……何しに来たのよ、お姉さま」

 

 

 フランの声は冷たく震えていた。

 

 

「私が“壊す”かどうか見に来た? 成果を確認しに来た? それとも、処分に来たの!?」

 

 

違う!!

 

 

 レミリアは叫んだ。

 

 

「そんなつもりじゃなかった!! 私は……私は……あなたに……会わせたかったのよ……!」

 

 

「誰を!? 風間君のこと!? そうやって私に狂気がまだあるか確認しようとしただけでしょッッッ!!!」

 

 

 

「ち、ちが……」

 

 

 レミリアは一瞬言葉を詰まらせた。その間に、パチュリーが前に出た。

 

 

「はぁ……はぁ………ふぅ。……違うのよフラン。レミィはね、その人…風間君だったかしら? が貴女を救ってくれるって運命が見えたのよ」

 

 

 フランの表情が歪む。

 

 

「……それで、それだけの理由で風間君を“利用”したって言うの……?」

 

 

「……それは……否定できないわ。でも、少なくとも私たちは、あなたが彼と触れ合うことで、何か……何かが変わってくれたらって……」

 

 

「それが……っ、それが一番勝手なやり方よッッ!!!!」

 

 

 フランの怒りは再び高まった。その声は紅魔館の廊下全体に響き渡り、空気が歪む。怒りが魔力に変わり、目に見えるほどに周囲の空間が波打ち始める。

 

 

「全部勝手じゃない……!? 私がどう思ってるかなんて、一度だって聞こうとしなかったくせにッ!!」

 

 

 結晶の羽が、狂ったように光を反射する。その輝きは、怒りの火花と化して、壁に散る。

 

 

「“救う”だなんて、都合のいい言葉で誤魔化さないで!! 風間君が私に壊されたら──それは“失敗”で、“風間君が無事なら成功”!? ふざけないでよ!!!! 私の気持ちは!? 私の叫びは!? 私の存在は、最初から“実験道具”でしかなかったの!?」

 

 

 レミリアは何かを言いかけたが、フランの怒りがそれを許さなかった。

 

 

「ねえ、答えてよっ!! 私のこと、ずっと……怖かっただけでしょ!? 家族じゃない……怪物だと思ってたんでしょ!? だから閉じ込めたんでしょ!? 誰にも触れさせないようにして……!! それで今さら、“救いたかった”なんて、虫が良すぎるのよッッッ!!!!!」

 

 

 バァン──!!!

 

 

 床が砕け、魔力の爆風が部屋を駆け抜ける。風間君がとっさに腕で顔を庇い、レミリアも袖で顔を隠す。パチュリーの防御魔法が一瞬展開され、吹き飛ばされる寸前で踏みとどまった。

 

 

「私は……私は……!!」

 

 

 フランの声が震える。怒りだけではない。そこに滲むのは──心の奥にずっと溜め込んでいた、孤独と絶望。

 

 

「私だって……ただ、“普通”になりたかっただけなのに……!! 誰かと笑いたかっただけなのに……!!」

 

 

 瞳から一粒、涙が零れ落ちた。怒りの中に混じる、幼さと痛み。

 

 

「なんで……なんで私ばっかり……!! なんで、誰も私のことを“家族”として見てくれなかったのよおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 その瞬間、再び魔力が炸裂した。壁が裂け、天井の装飾が落下する。結晶の羽が放つ魔力が渦となって、まるでこの館全体を破壊しようとするように暴れまわる。

 

 

 レミリアは、その場に立ち尽くしていた。表情は苦しげで、痛みを伴っていた。パチュリーが防御障壁を強化しながら、静かに言う。

 

 

「……これが、彼女の本当の叫びよ、レミィ。見なさい、聞きなさい。あなたが目を背けてきた、“妹の声”を……」

 

 

 パチュリーの言葉を受けて、レミリアの肩がわずかに震えた。

 

 

「……っ……」

 

 

 彼女の赤い瞳から、一筋の涙が零れ落ちた。

 

 

「……ごめんなさい」

 

 

 その声は小さく、しかし確かに響いた。

 

 

「……ずっと、怖かったの…」

 

 

 フランの暴走する魔力が吹き荒れる中、レミリアは一歩──また一歩と前に進んだ。防御魔法も使わず、身を晒して。

 

 

「あなたの力も……あなたの心も……全部、私には受け止めきれなかった。妹なのに、家族なのに……私、ずっと逃げてた……!」

 

 

 フランの目が揺れる。

 

 

「閉じ込めたのは、あなたを“守るため”なんて言い訳だった。本当は……ただ、“壊れるのが怖かった”の。あなたが……私の大切な妹が、本当に壊れてしまうことが……それを見るのが……私自身が壊れてしまう気がして、怖かったのよ……!」

 

 

「……だったら……!! だったら最初から、私に近づかなければよかったじゃないッ!!」

 

 

「できるわけないでしょッッ!!」

 

 

 レミリアの叫びが、フランの怒気を押し返すように響いた。

 

 

「あなたは私の妹よ!! たった一人の……血の繋がった、かけがえのない家族なのよ!! 近づかないなんて、忘れるなんて、そんなことできるわけない!!」

 

 

 ボロボロと涙が頬を伝う。

 

 

「でも……私は、どうしたらよかったのか分からなかった。どう接すれば、あなたが笑ってくれるのか……どうすれば、一緒にいられたのか……分からなかったのよ……」

 

 

「……それで、“他人の言葉なら届くかも”って、風間君を使ったの?」

 

 

「……ええ。そう……その通りよ」

 

 

 レミリアは、フランの瞳をまっすぐ見つめながら、震える声で続けた。

 

 

「最低よね……自分でもそう思うわ。でも、それでも……それでも、私はどうしても、あなたに“壊れてほしくなかった”。どうしても……!」

 

 

「そんなの……!! そんなの、勝手すぎるよっ……!!」

 

 

 フランは、震えながら、拳を握りしめた。

 

 

「今さらそんなこと言ったって……!! 私は、ずっと……ずっと、独りだったのに……っ!」

 

 

「私も独りだったわ……フラン」

 

 

 レミリアの声は静かだった。

 

 

「あなたがいない間……私は、ずっと“姉”でいられなかった。あなたが壊れてしまう事を怖がって、見ようとしなかった私は……“家族”失格よ。でも、もし……今ここで、やり直せるなら……私は、もう一度あなたの手を取りたい。妹として……あなたと向き合いたいの……!」

 

 

 フランの肩が震える。怒り、悲しみ、そして……戸惑い。

 

 

「……やめてよ……そんな顔しないでよ……」

 

 

 フランは、ぎゅっと目を閉じた。

 

 

「そんな顔見たら……怒ってるのに、泣きたくなるじゃない……っ!」

 

 

 結晶の羽が、静かに、光を弱めていく。魔力の暴風が、少しずつ収まっていく。

 

 

「……私、どうしたらいいか分かんないよ……お姉さま……怒ってるのに、苦しくて……苦しくて……っ……」

 

 

 その場にしゃがみ込み、フランは泣き崩れた。怒りはまだ残っている。胸の奥の痛みも、癒えたわけではない。それでも──ほんの少し、心の扉が開いた。

 

 

 レミリアは、そっとフランに近づき、その小さな背中を抱きしめた。

 

 

「泣いていいのよ、フラン……もう、我慢しなくていいの……」

 

 

 その言葉に、フランは声を上げて泣いた。

 

 

「……バカぁ……お姉さまのバカぁ……っ……」

 

 

 フランの嗚咽が廊下に響く中、レミリアはその小さな背中を抱きしめ続けていた。腕の中で泣きじゃくる妹の体温が、どこか遠くに置き去りにしてしまっていた“家族”という言葉の重みを、ひしひしと教えてくる。

 

 

「……ごめんなさい、ごめんなさい……フラン……」

 

 

 何度も何度も、レミリアは呟いた。抱きしめる腕には力がこもり、決して離さないとでも言うように。

 

 

 やがて、フランの泣き声が徐々に静まりはじめた。嗚咽の間に、小さな息が混ざる。ぐしゃぐしゃになった顔をレミリアの胸元に押し付けながら、少女は最後の力で、搾り出すように言った。

 

 

「……お姉さま、あのね……私、まだ……許せない……」

 

 

「……うん。わかってる」

 

 

 レミリアは頷いた。悲しそうに、でも優しく微笑んで。

 

 

「すぐに許されるなんて思ってない。でも……今こうして、あなたの声を聞けて……それだけで、私は……」

 

 

「……バカ」

 

 

「うん、バカよ。ほんとに、どうしようもないバカ姉よ」

 

 

 フランの唇が、かすかに震える。泣き笑いのような表情が、ようやく浮かびかけた。パチュリーは少し離れた位置で、そっと息をついた。魔力の余波が静まり、館に再び静寂が戻りつつある。

 

 

 そして──ずっとそれを見守っていた風間くんが、ようやく一歩踏み出した。

 

 

「……あの……」

 

 

 フランとレミリアが、同時に顔を向けた。風間くんは、真剣な目でフランを見つめる。

 

 

「僕、ずっと……いや、今でもこの世界のこと、よくわかりません。でも……フランさん。あなたが、怒ったことも、叫んだことも……全部、間違ってないと思います」

 

 

「…………うん」

 

 

「……僕も……うまく言えないけど……誰かに“ただ普通でいたい”、”ずっと一緒にいたい”って気持ち……すごく、大切なことだと思います」

 

 

 それはかつて、友達を酷い目に遭わせてしまった経験から来た、心からの言葉である。その静かな言葉は、確かにフランの胸に届いた。

 

 

「風間君……」

 

 

「だから……すぐに全部が元通りにならなくてもいい。でも、もし……もしまた、誰かと笑いたいって思ったとき、……手伝えることがあったら、言ってください」

 

 

 その言葉に、フランはしばし沈黙したまま、見つめ返していた。

 

 

 やがて──

 

 

「……ありがと」

 

 

 ほんの小さな声で、しかし確かに、フランは言った。それは、怒りの余韻の中に差し込んだ、初めての希望の灯だった。

 

 

 風間くんは、少し照れたように頭をかきながらも、微かに笑った。

 

 

「……へ、変なこと言ったかな、僕……」

 

 

「……う~ん、ちょっとだけ……でも、カッコよかったよ…」

 

 

 フランがぽつりと返した言葉に、レミリアが思わず小さく笑った。

 

 

「……ふふ、ねえフラン……この子、案外悪くないでしょ?」

 

 

「うるさい……」

 

 

 そう言いつつも、フランの声には、ほんの僅かだが柔らかさが宿っていた。

 

 

 ──そう、まだ全ては解決していない。傷も、怒りも、すぐには癒えない。

 

 

 でも、それでも。

 

 

 ここから少しずつ、何かが変わっていくのかもしれない。

 

 

 館の外では、紅の空が静かに夜へと移ろい始めていた。




お読みいただきありがとうございました!

取り敢えず、風間君の紅魔館編はここで一旦終了です!

次回は、何故レミリアたちがこうなってしまったのかをレミリア視点で過去を描いた物語を投稿しようと思っています。恐らく、レミリアがフランを閉じ込めた理由や演技をする羽目になる理由が明確にされていないので、疑問に思っていると思います。その謎が次回で解明されます!

その次は、他のカスカベ防衛隊のメンバーの視点の物語となります!

本当は風間君がバトルするシーンを入れようとも思ったのですが、どう考えてもフランに勝てそうなイメージがわかなかったので……

また、フランの口調が幼かったりハッキリしたりとちぐはぐなのは、彼女の長い地下生活の中で、自身の事がよく分からなくなり、精神崩壊寸前だったからです。
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