幻想郷に迷いしカスカベ防衛隊 作:匿名ねこ
しかし、展開はある程度まとめれたので、これからはいつも通りに投稿できる予定です!
また、モチベ向上のため感想や評価等よろしくお願いします!
感想に関しては、これからの展開の参考や勉強にもなるので是非お願いします!
──目を開けた。
ぼんやりとした視界の中、天井がゆっくりと形を結んでいく。見慣れない……けれど、どこか落ち着くような、木と紙の匂い。そこは、古い日本家屋のような和室だった。
「……ん」
体の下には、柔らかい敷布団の感触。枕元には小さな湯呑と、木目の整った小さな卓。障子からは柔らかな光が差し込んでいて、静かな風がどこからともなく吹き抜ける音が聞こえる。
”ボーちゃん”は、ゆっくりと体を起こした。まだ、頭の中は霞がかったままで、現実感がない。
畳の香り。木の柱。静けさ。しかし、どれもこれも──どこか、少しだけ「異質」だった。
和室の中を見渡す。
部屋の一角には小さな棚があり、薬草のような植物が整然と並べられている。壁には謎めいた模様の掛け軸。窓の外には……奇妙に揺れる竹の影。
「……ここ、どこだろう……」
ぽつりと呟いた。
その瞬間、ふと頭の奥に記憶が浮かんだ。
──そうだ。
自分は、しんちゃんたちと「現双の森」に入ったはずだった。そして、霧が出てきて、道が分からなくなって、気づいたら──
「……みんな」
静かに周囲を見回す。けれど、この部屋には自分一人しかいない。しんちゃんも、風間くんも、ネネちゃんも、マサオくんも──誰も、いない。
少しずつ、不安が心の中に芽吹いていく。どこだろう、ここは。本当に日本なのか?いや、それ以前に──何が起きたんだ?
その時だった。
──ガラッ
隣の襖が勢いよく開く音がして、ボーちゃんはそちらに顔を向けた。
「うささっ……あ、人間さん起きてるじゃん!」
そこに立っていたのは、見たことのない少女だった。
背は小さく、くせっ毛の短い黒髪。そして──頭には、ぴょこぴょこと動く、白いうさぎの耳。
「ちょっとししょー! 例の人間、起きてるよー!」
少女はそう言うと、跳ねるように部屋を飛び出して行った。あまりの速さに、ボーちゃんはただ、ぽかんと見送るしかなかった。
(……うさぎの耳……?)
それは、コスプレ……なのだろうか。それとも、本物──?
考えがまとまらないまま、再び襖が開いた。
今度現れたのは、まるで雰囲気が違う人物だった。
左右で色の異なる不思議な配色の装束。長く、白銀の髪。凛とした佇まいに、どこか医者のような気品を纏った女性。
「……目覚めたのね」
彼女は感情の読めない無表情で、静かにボーちゃんを見つめていた。
「あなた、“迷いの竹林”で倒れていたの。見つけたのは私の弟子……鈴仙よ。ここでしばらく保護していたの」
その言葉は、まるで状況説明のように淡々と語られる。ボーちゃんはただ、じっと彼女を見つめるしかなかった。
「私は八意永琳。そして、隣にいる子は因幡てゐ。イタズラが大好きでね、この子と話すときは気をつけなさい。あれだったら殴ってもいいから」
「いっしし……って、それはあんまりにもひどくな~い? 」
てゐが隣から茶々を入れるように笑う。その目は、何か企んでいるような、不思議な光を宿していた。永琳はそれに軽くため息をつきながら、再びボーちゃんの方へ向き直る。
「とにかく、しばらくはここにいてもらうわ。体の調子は、まだ万全じゃないはずだから」
淡々とした口調。けれど、どこか冷たさすら感じる言い方。
(……しばらく……?)
ボーちゃんは、心の中でその言葉を反芻する。
この場所で、一人。仲間はどこにもいない。
そして、奇妙な耳を持つ少女と、感情を見せない女医。
──ここは、一体どこなのだろう。
静かに、不安と疑問が胸に渦巻いていく。
(……しんちゃん……みんなどこ……?)
しんちゃんも、風間くんも、ネネちゃんも、マサオくんも──誰一人、姿が見えない。知っているものが何一つない場所。
目の前にいるのは、感情の読めない綺麗な女性と、どこか妙な笑みを浮かべる兎耳の少女だけ。
心細さが、胸の奥にじんわりと広がっていく。
「……あの……」
ようやく、言葉が口から漏れた。
「ここ……どこなんですか……?」
問いかける声は小さく、頼りない。だが、それでもボーちゃんなりに勇気を振り絞った一言だった。
永琳はその言葉に、少しだけ視線を落とした。
「……ここは“永遠亭”と呼ばれる場所よ」
「えいえんてい……?」
ボーちゃんは繰り返したが、その単語にはまったく聞き覚えがなかった。
「……この竹林の奥深くに建てられた館。元は隠れ住むための場所だったけれど、今は薬を作ったり、人間を治療したりしている施設でもあるわ」
その言葉だけでは、ボーちゃんにはまだ現実感がなかった。
「……なんか、変な夢みたい……」
そう呟いたボーちゃんの目は、どこか遠くを見ていた。永琳は、ふっと息を吐き、そして視線を静かに細めた。
「あなた……やっぱり、そういうことなのね」
「……?」
「あなたは“人里”から来た人間じゃない。──“外来人”よ」
「がい……らいじん……?」
ボーちゃんは、口の中でその言葉を転がした。初めて聞く響きだった。
「外の世界──私たちが“外界”と呼ぶ場所から迷い込んだ存在。それが“外来人”。そして……」
永琳は、静かに言葉を区切った。
「──ここは、“幻想郷”という場所」
その言葉は、まるで現実を切り裂くように、はっきりとボーちゃんの耳に届いた。
「げん……そうきょう……?」
「この世界は、外の世界からこぼれ落ちたもの──忘れ去られたものたちが集まる“境界の中”の世界。常識も、現実も、ここでは通じない。人間も妖怪も神も、等しくこの地で生きている」
「……妖怪……?」
ボーちゃんの小さな肩がぴくりと震える。
てゐがくすりと笑った。
「そうそう。この世界、けっこう“ヘン”なんだよ。だけど、慣れたら楽しいよ?」
「……」
ボーちゃんは黙ったまま、再び周囲を見回した。和室の空気は変わらず穏やかだったが、今やその空間すらも、現実から大きく切り離されたように思えた。
(……ぼく……すごいところに来ちゃったのかも……)
じわじわと実感が追いついてくる。
けれど、それでも──今、ここにいるのは自分だけ。どこにいるのかを知ってしまった以上、もう後戻りはできない。
「……しんちゃんたち……この世界にいるのかな……」
そう呟いたボーちゃんに、永琳は少しだけ目を細めて言った。
「……そのしんちゃん、というのは貴方のお友達かしら?」
「……はい」
「そう……今すぐにでもそのお友達を探したいでしょうけど、それは無理ね」
永琳は静かにそう言い放った。
「……それって……体がまだ元気じゃないから……ですか?」
ボーちゃんは、おそるおそる問い返した。確かに、自分の身体が完全に回復していないのはわかっている。けれど、それでもしんちゃんたちのことが気がかりで、じっとしているのは耐え難かった。
永琳はふっと目を細めて、少しだけ口角を動かした。それは笑みなのか、呆れなのか──その表情は、どこか曖昧だった。
「……半分は正解。けれど、半分は違うわ」
「え……?」
「あなたが外に出られない理由……それは、ここにいる”姫”のご命令よ」
「……姫?」
ボーちゃんは、ぽかんと口を開けた。
「ええ。──蓬莱山輝夜。私たちと共にこの永遠亭で暮らす、蓬莱の姫」
「……ほうらい……?」
「彼女は、あなたに──興味を持ってしまったのよ」
「……ぼくに……?」
小さく呟いたボーちゃんの声には、まぎれもない戸惑いが混じっていた。自分のような存在に、なぜ興味を?
「理由までは、私にも分からない。けれど、彼女がそう言ったのは事実よ。“その子は面白そう。しばらくここに置いておきたい”──そう言って、外出禁止を命じたの」
「……」
思わず、言葉を失った。自分の意思ではなく、どこかの誰かの“気まぐれ”で、この館に閉じ込められている──その事実が、じわりと胸の奥を重くする。
「もちろん、あなたに害を加えるつもりはないわ。姫はそういうことには興味がない。ただ……退屈しのぎにあなたを“観察したい”だけよ」
「……なんか……動物園の動物になったみたい……」
ボーちゃんはぽつりと呟いた。すると、近くで聞いていたてゐが吹き出したように笑った。
「うひゃひゃっ! うまいこと言うじゃん、人間! まさにその通り!」
「てゐ、真面目な話よ。ふざけないの」
永琳が冷ややかに言い放つと、てゐはひょいと肩をすくめた。
「へーいへーい。でもさ、可哀想じゃん。お友達と離れ離れで、勝手に幽閉されてさー。ねぇ人間さん、退屈したら私が遊んであげよっか? うさうさ大冒険、案内してあげるよ~」
「……でも、外に出ちゃ……いけないんでしょ?」
「ふふーん、それは“バレなきゃ”大丈夫ってことさ♪」
「はぁ……てゐ、そういうことを吹き込まないの。問題になるでしょう」
永琳はぴしゃりと釘を刺したが、てゐは相変わらず悪戯っぽい笑みを浮かべたままだった。
ボーちゃんは、小さくため息をついた。
(……なんだか、ややこしいところに来ちゃったな……)
心配の種は尽きないボーちゃんであった……
永遠亭に身を寄せてから、一週間が経とうとしていた。最初はただ不安でいっぱいだった日々も、今では少しずつ日常の色を帯び始めている。
ボーちゃんは、この一週間の間に、様々な経験をした。
鈴仙という名の、赤い瞳の女性──最初は少し怖かったけれど、話してみると意外に優しく、丁寧だった。
人里へ薬を売りに行くとき、ボーちゃんも小さな荷物運びや、薬草の袋を渡す手伝いをしたこともある。道中はいつも静かな竹林を抜ける。迷いの竹林という名前の通り、少しでも気を抜けば、すぐに方向感覚が狂ってしまうような不思議な場所だった。
「……よくあんなとこ、通れますね……」
そう呟いたとき、鈴仙はクスッと笑って言った。
「ふふっ…慣れよ。私も最初は散々迷ったけどね」
そして、てゐの悪戯。
突然足元にトラップが仕掛けられていたり、布団の中にカエルのおもちゃが入っていたり……ただでさえ静かな永遠亭の中で、てゐだけが異様に生き生きしているように見えた。
「ふふん、退屈してないでしょ~?人間さん♪」
「……もう少し、静かにしてほしい……」
そう言うとてゐは笑いながら転がっていった。
永琳は変わらず、定期的にボーちゃんの診察を行っていた。
聴診器を当てながらも、ほとんど表情を崩さないその様子は、まるで機械のようだった。
「……身体には異常なし。少なくとも表面的にはね」
「……?」
「いえ、気にしなくていいわ。ただの確認よ」
永琳はそれ以上何も言わなかったが、時折、ボーちゃんを見つめる眼差しに、何かを探るような鋭さが宿っているように感じた。
そうして、少しずつ日々が過ぎていったある日──
「……そろそろ、姫に会ってもらうわ」
永琳は、何気ない口調でそう告げた。
「……ひめ?」
「蓬莱山輝夜。ここ、永遠亭の主。ほら、前に言ったあなたに興味を持っている“張本人”よ」
ボーちゃんは驚きに目を見開いた。以前聞いた名前……けれど、姿を見たこともなければ、気配すら感じたことがなかった。てゐがふざけて「幽霊みたいに部屋にこもってるんだよ~」と言っていたのも、あながち冗談ではないのかもしれない。
「今まで会わせなかったのは、あの方の気まぐれよ。けれど、今日の朝、突然“会いたい”とおっしゃったの」
「……どうして今……?」
「それは、本人に聞いてみなさい。──もっとも、まともな答えが返ってくる保証はないけれど」
永琳はそう言いながら、ボーちゃんの額にそっと手を当てた。
「緊張しなくていいわ、何かされることはない。ただ、少し──癖が強いだけ」
「……くせ……」
それが、どれほどの“癖”なのか、ボーちゃんにはまだ想像もつかない。しかし、ついに“その人物”と顔を合わせる時が来たのだ。心の奥が、少しずつざわめき始める。
(……しんちゃんたちのこと、知ってるのかな…もしかしたら、この姫様が何か、手がかりを──)
そんな淡い希望を胸に、ボーちゃんは静かに立ち上がった。
永琳は、静かに頷く。
「準備ができたら、案内するわ。──姫の部屋へ」
そうして、重い空気を纏いながら、永遠亭の廊下を進んでいく。廊下を進み、角を曲がったその先。
そこだけ、空気の流れが違っていた。まるで周囲の空間が異質なものに包まれているかのような、微かな圧力と気配。
──異様な存在感を放つ、漆黒に近い深紫の襖。
ボーちゃんは思わず足を止め、喉がひくりと鳴る。
(……なんだろう、この感じ……)
永琳は振り返らず、そのまま静かに襖の前に立ち、声をかけた。
「輝夜、連れてきたわよ」
一拍の間の後、奥から柔らかく、しかしどこか気品を帯びた声が返ってくる。
「ええ、分かったわ。その子だけ、通してちょうだい」
「了解したわ」
永琳はボーちゃんの方を見て、静かに頷く。そして、襖をすっと開いた。
「──行きなさい。姫は、あなたに会いたいと言っているわ」
ボーちゃんは息をのんだまま、静かに足を踏み出した。
襖の先──そこには、まるで別の世界が広がっていた。
美しく整えられた和室。床の間には見事な花瓶と掛け軸が飾られ、仄かな香が漂う。
障子越しに差し込む午後の柔らかな陽が、部屋をほんのりと橙に染めている。
その一角──縁側に座るひとりの女性。
まるで、絵巻物から抜け出したかのような、儚くも神秘的な存在だった。
艶やかな漆黒の長髪がさらりと肩を流れ、透き通るような白い肌は月の光を受けて淡く輝いている。
瞳は夜空を映すように深く、それでいて柔らかい光を湛えていた。
紅紫色の衣装は精緻な文様が刺繍されており、その佇まいはまさに“絶世の美女”と呼ぶにふさわしいものだった。
その姿に、ボーちゃんは思わず見惚れてしまう。
(……きれい……)
まるで、現実感が希薄になるような感覚。すると、女性──輝夜はゆるやかに顔を向け、微笑んだ。
「こっちにいらっしゃい」
その声は、優しく、どこか包み込むような響きを持っていた。ボーちゃんははっとして、小さく頷く。そして静かに縁側へ歩み寄り、輝夜の隣に腰を下ろす。
しばらく、風が竹林を揺らす音だけが響いた。
輝夜は、その風の音に耳を傾けながら、静かに言葉を紡ぐ。
「……ここでの暮らしは、退屈だったでしょう?」
そう言って、輝夜はほんの少しだけ微笑む。その表情はどこか寂しげでもあり、不思議な温かさもあった。
「……いいえ、そんなこと……少しだけ、変わってるけど、みんな優しかったです」
「ふふ、そう。──でも、貴方は“帰りたい”のでしょう?元の世界へ」
ボーちゃんの目が僅かに見開かれる。
「……どうして、それを……」
「永琳から聞いたわ。貴方、“外来人”なんですってね。──この幻想郷じゃなく、別の世界から来た子」
ボーちゃんは、少し驚いた顔で頷いた。その答えに、輝夜は静かに空を見上げる。
障子越しに見える青白い月が、彼女の瞳に映り込む。
「……実は、私もそうなのよ。元は──この地上の者ではなかったの」
「え……?」
「私は月の姫。月の都で、大切に育てられてきたの」
淡々と語られるその言葉に、ボーちゃんは目を見開いた。
「でもね、いくら美しく整った世界でも……あの場所は、窮屈だったの。何もかもが決まっていて、変わらなくて、自由もない。完璧で、だからこそ退屈で……ね」
輝夜の横顔は、まるで遠い昔の夢を語るように、どこか寂しげだった。
「私は地上の暮らしに憧れた。儚くて、不完全で、けれど生きている“世界”……。だから、私は──自ら罪を犯したのよ」
ボーちゃんは小さく息を呑んだ。
「……罪?」
「そう。──“蓬莱の薬”。永遠の命を与える、禁断の秘薬。月では絶対に触れてはならないとされていた薬を、私は作らせ、飲んだの。最も信頼できる存在……永琳に頼んで」
その名が出た瞬間、ボーちゃんの頭にいつもの無表情な女医の姿が浮かんだ。
「永遠の命──それは、神に等しい力よ。だからこそ、私は死刑を宣告されたわ。でも、死なないのよ。だって、“永遠”になってしまったのだから」
輝夜は、自嘲気味に微笑んだ。
「処刑されても死なず、私は“地上に落とされる”罰を受けた。『賤しい民と共に生きよ──』それが、月の裁きだったの」
ボーちゃんは言葉を失っていた。
「でもね、それすらも、私の計画だったの。私は、月を離れたかった。地上の風に触れたかった。ただ、それだけだったのよ」
彼女の視線は再び空へ──そして、懐かしんでいるような、しかし拒んでいるような、複雑な感情を抱いた目が遠い月へ向けられる。
静かな沈黙のあと、ボーちゃんは、ふと口を開いた。
「……それって……なんだか、“竹取物語”みたい」
「……竹取物語?」
輝夜が眉をひそめて、こちらを見る。少し首をかしげるような仕草だった。
「うん……昔話です。竹の中から出てきた女の人がいて……月から来たって言われてる姫様で……最後は、月に帰っちゃうっていう……」
「……もう少し詳しく」
その後も、ボーちゃんの説明を輝夜は黙って聞いていた。
だが、その話が終わった瞬間──
「ぷっ……ふふ……ふはははっ……!」
突如、輝夜が噴き出し、そして──まさかの大爆笑を始めた。
「ふふっ……あはははっ、ちょ、ちょっと待って……なにそれ……っ、竹の中……!? あっはははっ!」
先ほどまでの気品も、静けさも吹き飛ぶような笑い声。輝夜は膝を抱えて笑い続ける。肩を揺らしながら、涙を浮かべるほどに笑っていた。
「──竹の中って……ええっ、本当にそれ、地上では真面目な物語なの!? うそっ……くっくっ……」
ボーちゃんはぽかんとしながら、ただその様子を見守るしかなかった。
「……昔からある話で……有名なんです……」
「ふふっ……ごめんなさいね。でも……もう、面白すぎて……っ!」
ようやく笑いが落ち着いてくると、輝夜はハンカチで目尻を拭いながら、少し息を整えた。
「ふう………でもまあ、貴方が似てるって思う気持ちは分かるわ。でも……その話は私の事とは違うわね」
少し肩を竦め、名残惜しげに笑みを見せる輝夜。
「……でも、すごく似てる気が……」
ボーちゃんがそう言いかけた、まさにその瞬間──
空気が変わった。
ふわりと、輝夜が立ち上がる。その所作はまるで舞うように優雅でありながら、どこか張りつめた緊張を孕んでいた。
そして、彼女は月を見上げた。その表情は、先ほどまでの穏やかで気品ある姫君のものではない。鋭く、憎悪すら滲む眼差しが、冷たい光を放つ月を貫いていた。その目に、もう笑いはない。
「──私は、その物語に出てくるような愚か者じゃない」
淡々とした口調だったが、その声音は氷のように冷たく、確かな怒りと強い意志が滲んでいた。
「私は帰らない、絶対に……どんな手を使ってでも」
その言葉は、まるで呪詛のように重たく響く。月を見上げる彼女の姿には、決意と怨念、そして──深い孤独が滲んでいた。
それは、自らの過去を否定し、断ち切るための強さ。だが同時に、それがどれほど激しい感情から生まれたものであるかを、ボーちゃんにも痛いほど伝えていた。
ボーちゃんは、その気迫に言葉を失う。先ほどまでの柔らかく穏やかな輝夜とは、まるで別人のようだった。
そして──
「ねえ、坊や」
突如、輝夜が振り返り、ボーちゃんを真っ直ぐに見つめた。その唇には、先ほどまで見せなかった──妖しい微笑みが浮かんでいた。
「もし──この空に浮かぶ“月”が本物じゃなくて、偽物と入れ替わったとしたら……貴方は、どうする?」
囁くような声。その言葉は、まるで夢のように柔らかく、それでいて、どこかぞっとするような不気味さを含んでいた。
ボーちゃんは思わず息を呑む。その問いが、ただの思考実験ではないことを──直感的に、感じ取っていた。
お読みいただきありがとうございました!
今回はボーちゃん視点でのお話です!
書いてて思ったのが、ボーちゃんの口調を再現するのが凄く難しい……
そして、輝夜が口走ったように、この幻想郷は永夜異変前です。
これからボーちゃんはどのように異変に巻き込まれていくのだろうか……
次回! カスカベ防衛隊のメンバーたちではなく、新たな登場人物が幻想郷に……?
平日の投稿時間について
-
朝がいい!(7~8時くらい)
-
お昼がいい!(12時~16時くらい)
-
夕方がいい!(17時~18時くらい)
-
夜がいい!(19時~23時くらい)
-
深夜がいい!(0時~4時くらい)