第二次皇露戦争   作:エヴァで3万負けました

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軍事知識、文章力も皆無なので生暖かい目で見てください。
あとだいぶAiに文章を補正してもらってます。


第1話 侵攻予兆

 

2021年10月10日、午前8時12分。

ロシア連邦、モスクワ、クレムリン。

 

プーチン大統領はこの日の会見を、自身の政治生涯でも最も重要なものと位置づけていた。

会場がまだ準備の喧騒に包まれている間も、彼は壇上近くの通路に立ち、じっとその光景を眺めていた。側近や政府高官が控え、護衛官たちが周囲を固める中、静かな緊張が漂っていた。

 

やがて会場が整い、記者たちの視線が一斉に集まる。

プーチン大統領はゆっくりと階段を登り始めた。一段、また一段。

その足音が、静寂を切り裂くように響いた。

 

次の瞬間――

 

轟音が世界を震わせた。

階段が爆発し、プーチン大統領の身体は空高く吹き飛ばされた。

炎と煙が一瞬で会場を飲み込み、続いて記者団の席、政府高官席が次々と爆発。合計五発の爆弾が、まるで計画された交響曲のように連鎖した。

 

テレビ局の生中継映像が、そのすべてを容赦なく捉えていた。

カメラが激しく揺れ、炎に包まれたプーチンの姿が一瞬映り込んだ後、画面は雪崩のように乱れ、悲鳴と崩落音だけが響き渡った。

 

生中継を見ていたロシア国民は、テレビの前に立ち尽くし、呆然とするしかなかった。

そしてこの映像は瞬時にネットへ拡散され、世界中に衝撃が広がっていった。

 

混乱が広がる前に、クレムリンは完全封鎖された。

公式発表によると、プーチン大統領をはじめ、FSB長官をはじめとする政府高官、記者団を含む27名が死亡した。

 

モスクワの街は即座に戒厳令下に置かれ、重武装の兵士と警察が通りに溢れた。

ニュースは伝えた。階段と高官席の下に事前に仕掛けられた爆弾、そして記者席では中継用カメラに偽装した爆発物が使用された、と。

 

だが、事件からわずか三日後。

戒厳下のモスクワで、今度はセルゲイ・ショイグ国防相とワレリー・ゲラシモフ参謀総長の乗った車列が爆破された。

両名と護衛、運転手ら数名が即死。

 

この連続暗殺をきっかけに、事態は急転した。

軍の一部が蜂起。モスクワとサンクトペテルブルクで、クーデター軍と政府残存勢力の激しい市街戦が勃発した。

十日間の血みどろの戦闘の末、両都市はクーデター軍の手に落ちた。

 

そして占領されたクレムリンの屋上。

赤いソ連旗が、再び風に翻った。

 

第一祖国党――ロシアの極右政党――の首謀者、セルゲイ・イヴァノヴィチ・モローゾフは、マイクを握り、宣言した。

 

「ロシア連邦はここに解体された。新たなソヴィエトの時代が、今、始まる」

 

元KGB職員であり、ソ連崩壊後もその復活を夢見てきた男。

極端な思想ゆえに政治犯としてシベリアの刑務所に幽閉されていたが、彼のネットワークは驚くほど強靭だった。

数年にわたり、軍部の若手将校たちに浸透し、ついにはウクライナ侵攻計画の情報を掴んだ。

それを利用してハト派の高官や上級将校と結びつき、プーチン政権の中枢を徹底的に切り崩した。

 

暗殺の連鎖。刑務所の解放。そしてクーデターの成功。

セルゲイ・モローゾフは、新生ソヴィエトの書記長として、歴史の表舞台に立った。

 

そして時は2024年。

世界を覆い尽くした新型コロナウイルスの災禍は、ようやく有効なワクチンの普及によって終息の兆しを見せ始めていた。

しかし、平和の代わりに新たな影が広がっていた――新ソヴィエト連邦の復活と、それに伴う大規模軍拡である。

 

ヨーロッパ、特に東欧諸国では、国境沿いに展開する新ソ連軍の重装備部隊が、NATOの防衛線を睨みつけ、常時緊張状態が続いていた。

その軍事的圧力は、黒海から中東、中央アジアを経て、東アジアの日本皇国にまで及んでいた。

 

アメリカは新ソ連との全面戦争を避けるため、外交交渉と制裁の強化を繰り返している。

だが、新ソ連側は一切譲歩の色を見せず、むしろ強硬姿勢を露わにしていた。

 

経済面では、旧ロシア連邦時代よりも着実な回復の兆しが見え始めている。

中国との強固な経済・資源提携が、停滞からの脱却を後押ししたのだ。

完全なブーストとはいかないまでも、一時的な活況を取り戻し、軍事予算の拡大を可能にしていた。

 

軍事面での進展は目覚ましい。

主力戦車T-14アルマータの量産が本格化し、T-90Mの近代化改修も加速。

第五世代戦闘機Su-57の生産ラインは、2024年に入ってさらに拡大され、数十機規模の追加配備が実現した。

海軍では、中国の技術協力のもと、新型原子力空母の建造が急ピッチで進められている。

旧ソ連の栄光を再現するかのように、新ソ連軍は再び「鉄のカーテン」を東へ押し広げようとしていた。

 

これに対し、日本皇国は静かに、しかし確実に備えを固めていた。

 

北海道には、第7機甲師団をはじめとする大規模機甲部隊が集中配置され、対岸の新ソ連極東軍を睨み返す。

千島列島や北方領土の防衛線は、最新の対艦ミサイルと電子戦システムで強化され、侵攻の可能性に備えた鉄壁の要塞と化している。

 

ここで、日本皇国の現状を簡単に振り返っておこう。

 

日本皇国は現在、アメリカ、中国に次ぐ世界第三位の経済大国として、国内外から確固たる地位を認められている。

その原動力は、アニメ・漫画・ゲームといったソフトパワー産業の圧倒的な人気、そして自動車、船舶、鉄道車両、半導体、電子機器、家電などのハイテク輸出である。

 

人口は現在、約1億8000万人。

1990年代以降、慢性的な少子高齢化が続き、一時は1億7200万人台まで落ち込んでいた。

しかし、2012年に自由皇国党・安芸内閣が推進した「未来の子供政策」が転機となった。

待機児童の解消、児童虐待対策、中絶減少支援に加え、貧困層への「子供一人あたりの食費負担軽減」、全国的な大学の無償化、そして賃上げの波。

これらが相まって、出生率は劇的に回復。

2016年には「第三次ベビーブーム」が到来し、人口減少の流れを逆転させた。

 

さらに、原子力産業への再投資も進んだ。

東日本大震災の教訓を活かし、地震・津波対策は世界最高水準を誇る。

耐震設計の革新と次世代炉の開発により、エネルギー安全保障を強化。

日本皇国は、経済的繁栄と人口増加、そして軍事的自立を同時に達成し、新ソ連の脅威に立ち向かう準備を整えていた。

 

そして、簡単に現在の世界情勢についても触れておこう。

 

冷戦終結後、西側諸国は長らく「テロとの戦い」に没頭していた。

2001年の9.11同時多発テロを皮切りに、アフガニスタン、イラク、そしてISISとの非対称戦争が続き、国際秩序は揺らぎ続けていた。

 

しかし、真の転換点は2019年に訪れた。

北朝鮮軍が突如として38度線を越境し、第二次朝鮮戦争が勃発したのだ。

 

開戦初日、北朝鮮の電撃的な侵攻によりソウルは陥落。

首都は炎に包まれ、韓国政府は一時的に崩壊寸前となった。

だが、忠清南道・北道の防衛線で韓国軍は持ち直し、アメリカ軍と日本皇国軍の迅速な増援・空中支援が加わったことで、戦局は急変した。

 

開戦8日目に反攻作戦が開始され、そして17日目には平壌が陥落。

29日目に北朝鮮は無条件降伏を宣言した。

金正恩と家族を初め、軍高官や側近、その家族は当時のロシア連邦に亡命(一部は脱出中にデルタに逮捕された)し、朝鮮半島はついに統一された。

 

統一韓国は、各国からの巨額復興支援と、元北朝鮮地域の広大な市場開拓によって、経済大国への道を驀進した。

しかし、この勝利には代償も伴っていた。

かつての「クッション」役だった北朝鮮が消滅したことで、韓国は本当の意味で中国・ロシアとの最前線に立たされた。

西側諸国全体も、この戦争を機に「非対称テロ戦争」から「国家間全面戦争」へのシフトを余儀なくされた。

ヨーロッパでは軍拡競争が一気に激化し、NATOの防衛予算は過去最高を更新し続けている。

 

一方、中国は台湾問題で依然としてピリピリとした空気を保っているが、北朝鮮という緩衝地帯が失われた今、統一韓国という新たな脅威に目を向けざるを得なくなった。

 

国内状況はさらに深刻だ。

失業率の急上昇、深刻な環境汚染、大手不動産・自動車・船舶・軍事関連企業の相次ぐ倒産が、不況の嵐を巻き起こしている。

不動産バブル崩壊の余波は続き、住宅価格の下落が家計を直撃。

若年層の失業が社会不安を煽り、民主化を求める運動が各地で再燃し始めている。

北京の指導部は表向き平静を装っているが、内部の緊張は日増しに高まっている。

 

このような世界の激変の中で、新ソヴィエト連邦の台頭は、まるで冷戦の亡霊が蘇ったかのように、すべての勢力図を塗り替えた。

日本皇国は、こうした嵐の只中で、静かに、しかし確実に自らの防衛線を固めている――。

 

2024年8月12日、午前11時12分。

新ソヴィエト連邦、モスクワ、在ソヴィエト日本皇国大使館前。

 

この日、オホーツク海での北洋漁業に関する会議が予定されており、日本皇国外務省ロシア課から1名、水産庁漁政部企画課長が派遣されていた。

2人を乗せた黒いセダン――日本製の高級車――が、モスクワの賑やかな街路を滑るように進む。

大使館の出入り口ゲートが視界に入ったその瞬間、路肩に停められた不審な車が、轟音とともに爆発した。

 

爆風がセダンを直撃。

車体は一瞬で炎に飲み込まれ、ガラスが飛び散り、黒煙が空を覆った。

 

数時間後、消火作業が終了。

職員2名の死亡が確認された。

 

当初、メディアは「単なる不幸な事故」と報じた。

しかし、同時にアメリカ大使館、ドイツ大使館、韓国大使館でも類似の爆発が発生。

SNSでは、3年前のプーチン大統領爆殺事件を思い起こさせる声が広がり、「新ソヴィエトの関与か?」という憶測が飛び交った。

 

新ソヴィエト政府は「テロの可能性を視野に入れつつ、道路地下のガス管爆発が主因」と公表。

だが、日本皇国をはじめとする各国は、これを偶発的事象とは見なさなかった。

各国は一斉にテロリズムとして非難し、新ソヴィエトへ厳重抗議を申し入れた。

 

しかし、新ソヴィエトの態度は日増しに硬化していった。

やがて公式声明で「事件はガス管爆発ではなく、西側諸国による偽旗作戦。新ソヴィエトの孤立を狙った陰謀だ」と逆襲。

バルト三国国境付近では、特殊兵器装備の精鋭部隊が大規模演習を展開し、NATO側に露骨な圧力をかけた。

 

この事件は、極東の緊張をさらに煽る火種となった。

 

2024年8月16日、午後11時03分。

ベーリング海峡付近、海上。

 

アメリカの偵察衛星は、ここ2日間、巨大な艦隊の影を頭上から捉え続けていた。

それは新ソヴィエト北方艦隊――揚陸艦、兵員輸送艦、補給艦、そして主力の重航空巡洋艦「アドミラル・クズネツォフ」の姿がはっきりと確認された。

クズネツォフは、数年にわたる大規模改修を経て、再び海に浮かんだ新ソ連の象徴だった。

 

即座にアラスカのエルメンドルフ空軍基地からE-3 Sentry(AWACS)が緊急発進。

北方艦隊の監視・警戒任務に就いた。

 

「アラスカDC、こちらRaven One。機首方位315、新ソヴィエト北方艦隊はベーリング海峡を通過中。速度16ノット。兵装および艦載機の動きなし。オーバー。」

 

「Raven One、アラスカDC了解。引き続き監視継続。状況変化時は即報せよ。アウト。」

 

3時間にわたる空中監視の後、E-3は燃料限界で帰投。

任務は米海軍駆逐艦に引き継がれた。

 

一方、北方艦隊は夜をまたぎベーリング海峡を抜け、17日午前4時16分、カムチャツカ半島沖東方110マイル地点に到達。

半島の地形に沿うように南下を続けていた。

 

米海軍は駆逐艦を帰投させ、第一潜水戦隊所属のバージニア級原子力潜水艦「ノースカロライナ(SSN-777)」に監視を引き継いだ。

 

ノースカロライナのソナー室では、すぐに異変が確認された。

艦隊後方に、5隻の潜水艦が鉤型陣形で追尾している。

音紋照合の結果――

 

- Victor III級(NATO: Victor-III)核攻撃潜水艦1隻

- Improved Kilo級(改キロ級)ディーゼル攻撃潜水艦2隻

- Borei級(ボレイ級)戦略弾道ミサイル潜水艦1隻

- Delta IV級(デルタIV級)戦略弾道ミサイル潜水艦1隻

 

これらは明らかに護衛兼偵察の役割を果たしている。

ノースカロライナは静かに深度を調整し、距離を保ちながら追尾を開始した。

 

数時間後、北方艦隊はカムチャツカ半島を回り込み、オホーツク海へ進入。

ノースカロライナは限界まで粘ったが、ついに燃料とセンサー疲労で交代を余儀なくされた。

 

米海軍はすでに数時間前、日本皇国海軍へ情報を共有。

皇国からは原子力潜水艦「土佐」と通常動力潜水艦「吾妻」が急遽出港していた。

 

1時間後、ノースカロライナに代わり、土佐と吾妻が監視任務に就く。

北方艦隊はオホーツク海を南下し、宗谷海峡を通過。

そのままウラジオストク方面へ針路を固定した。

 

2024年8月20日、午前9時47分。

ウラジオストク港、太平洋艦隊本部沖合。

 

北方艦隊の先陣を切るアドミラル・クズネツォフが、霧のベールを切り裂くように湾内へ滑り込んだ。

その巨体が錨を下ろす頃、湾内はすでに活気に満ちていた。

新ソヴィエト海軍太平洋艦隊の主力艦艇が、整然と並ぶ中、合流の瞬間を迎えていた。

 

クズネツォフの後方から、揚陸艦群、兵員輸送艦、護衛駆逐艦が次々と入港。

総計25隻の大船団は、港湾施設を埋め尽くすように停泊した。

岸壁では、クレーンが忙しく動き、積み荷のコンテナが次々と陸揚げされる。

戦車、装甲車、支援車両の影が、朝陽に長く伸びていた。

 

太平洋艦隊の旗艦は、湾奥に威容を誇っていた。

空母「ソヴィエツキー・ソユーズ」――旧ソ連時代に設計され、未完のまま放置されていた巨艦を、中国から巨額の取引で買い取り、完成させたものだ。

中国の造船技術と新ソ連の航空工学が融合したこの空母は、甲板にSu-33艦上戦闘機を満載し、対艦ミサイル・システムを強化。

クズネツォフの姉妹艦として、極東海域の制空権を担う存在に仕上がっていた。

両艦隊の合流は、単なる停泊ではなかった。

艦橋からの信号灯が交錯し、無線が活発に飛び交う。

鉄道で運ばれる弾薬と兵員、仮設テントの拡大――すべてが、大規模演習を超えた何かを予感させる。

 

この一連の動きは、日本皇国国防総省に深刻な警鐘を鳴らしていた。

最近、新ソヴィエトはバルト三国国境での大規模演習、ウクライナでの小規模衝突を繰り返している。

これが単なる演習か、それとも本格的な極東展開の前触れか――誰もが息を潜めていた。

 

皇国宇宙軍の偵察衛星「銀河」は、宇宙から北方艦隊と太平洋艦隊を常時監視。

ウラジオストク港からは頻繁に艦艇が出港するが、いずれも沿岸部での短距離航行に留まっていた。

 

しかし、北方艦隊がウラジオストクに到着してから4日後、再び異変。があった。

米軍からの通報で輸送艦、兵員輸送艦、補給艦、情報収集艦、そして潜水艦2隻を加えた大船団――総計25隻――が確認された。

 

皇国国防総省は即座に海空宇宙軍全域に警戒態勢強化を指示。

 

さらに、船団到着後、ウラジオストクを通る貨物列車の本数が急増。

集積地にはコンテナが山積みになり、衛星画像からは戦車、歩兵戦闘車、架橋車両、地雷処理車両などの重装備が確認された。

 

野外には無数の仮設テントが張られ、明らかに軍事キャンプの様相。

 

さらに航空戦力も増強されている。

かつてベレンコ中尉亡命事件で世界を驚かせたチェグエフカ空軍基地には、元来のMiG-31迎撃機に加え、Su-27戦闘機数機が新たに展開。

そしてその中で目を引いたのはステルス戦闘機Su-57である。

チェグエフカに隣接する拡張滑走路では、1個飛行隊分、12機のSu-57ステルス戦闘機が、整列して駐機されていた。

これらはモスクワから空輸された最新鋭機で、レーダー反射を最小限に抑えたステルス機体が、霧に溶け込むように静かに待機している。

燃料タンクとミサイルが搭載され、いつでもスクランブル発進可能な状態だ。

太平洋艦隊所属の航空基地ではTu-22M爆撃機が2機増強され、一度皇国防空識別圏に侵入。

皇国空軍のスクランブル発進で追い払われた。

新ソ連の極東軍管区は、こうした増強で沸騰していた。

 

皇国政府の電波管制局からは、極東軍管区地域の乱数放送などの暗号通信量が急増したとの報告も上がっていた。

 

2024年8月18日、午前10時00分。

東京・市ヶ谷、日本皇国国防総省会議室。

 

重厚な扉が閉ざされた会議室に、緊張の空気が満ちていた。

国防大臣・摺山をはじめ、統合軍司令官・大山大将、陸軍総司令官・神田大将、海軍総司令官・浜中大将、空軍総司令官・宮沢大将、宇宙軍司令・鳥谷大将、そして皇国国家情報庁の幹部、統合国防研究所所長・永浦らが一堂に会した。

議題はもちろん、新ソヴィエト軍の不穏な動き――ウラジオストクへの北方艦隊集結と、爆発事件後の強硬姿勢だ。

 

情報庁の佐山少佐が、プロジェクターで衛星画像を映し出し、簡潔に現状を説明した。

 

「衛星写真からわかるように、ウラジオストクを中心に大量の物資を集積しています。鉄道輸送されたコンテナの中身は、戦闘車両の予備部品や弾薬の可能性が高いです。また、新ソヴィエトは中国から医薬品を大量に買い付けています。鎮痛剤や包帯類が主で、戦時医療体制の強化を示唆しています。」

 

神田陸軍大将が、眉を寄せて呟いた。

 

「なるほど……このペースだと、侵攻は早くて1ヶ月、遅くとも2ヶ月以内か。」

 

佐山少佐はさらにある文書を会議室にいる全員に渡す。

 

「そして今配られた資料は、6日前に発生した水産庁の職員と外務省の職員が爆破された事件についてです。実は水産庁の職員は我々情報庁の所属でもありました。」

 

その言葉を聞いた室内の人間は驚嘆した。それに構わず佐山少佐は話を続ける。

 

「彼は新ソ連軍部の内通者と接触し、侵攻に関する機密資料のデータが入ったUSBメモリを手渡されていましたが、どうやらKGBにバレていたようです。彼はそれで乗っていた車諸共爆殺されました。ですが、事前に彼から送られてきたデータを我々は受け取り、侵攻に関する資料を掴みました。」

 

神田陸軍大将は重い空気の中、最初に口を開く。

 

「彼の死を無駄にしない為にも、我々はできるだけ新ソ連に対する備えを強化しよう」

 

宮沢空軍大将が同調する。

 

「私も神田大将と同じ意見です。昨夜、Tu-22爆撃機が防空識別圏に侵入し、千歳基地のF-15がスクランブル対応しましたが、今後こうした偵察行動はさらに増えるでしょう。」

 

鳥谷宇宙軍大将が、静かに手を挙げて発言した。

 

「衛星『銀河』シリーズの最新画像でも、ウラジオストク港湾の熱源分布が急増しています。夜間でもクレーンと車両の活動が活発で、通常の演習規模を超えています。また、電子妨害波の強度が上昇しており、我々の光学・SAR衛星の解像度が一部低下しています。新ソヴィエトはすでに宇宙領域での妨害戦を意識している可能性が高いです。」

 

永浦所長が、資料を指しながら補足した。

 

「研究所の予測モデルでも、侵攻確率は現在68%を超えています。医薬品の大量購入パターンは、旧ソ連時代のアフガン侵攻前や、最近のウクライナ紛争前と酷似しています。さらに、極東軍管区の暗号通信量が過去最高を更新中です。内容は解読不能ですが、頻度から見て最終調整段階に入っていると判断せざるを得ません。」

 

神田陸軍大将が、テーブルを叩くようにして言った。

 

「東欧諸国に陸軍力を集中して圧力をかけているとはいえ、新ソヴィエトの物量は圧倒的です。机上演習では、上陸を許せば遅滞戦闘で防戦一方になると結論づけています。長期戦になれば我々の不利は明らかです。陸軍としては、海軍と空軍に海上でなるべく撃破してもらいたいと考えております。」

 

浜中海軍大将が、頷きながら応じた。

 

「陸軍の意見に賛成です。海軍としても、上陸船団や後続輸送船を徹底的に叩きたい。しかし、新ソヴィエトの潜水艦は侮れません。新ソーサス(New SOSUS)や全海域対潜網システム――普段は地震観測機器に偽装していますが――で探知は可能ですが、作戦上の障害になるでしょう。それに、SLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)の脅威もあります。」

 

大山統合軍大将が、視線を海軍側に向けた。

 

「そうだな。新ソヴィエトが何を仕掛けてくるか分からないが、北海道や東北に上陸されたらまずい。海軍としては、上陸前に海上でどのくらい食い止められそうか?」

 

浜中海軍大将が、資料をめくりながら答えた。

 

「正直、性能面ではほぼ互角と言ったところでしょう。あとは個々の技量の差です。我々の方が練度が高いと自負していますが、油断はできません。新ソヴィエト海軍は現在、ウラジオストクをはじめ大小の軍港に太平洋艦隊と北方艦隊を駐留させています。太平洋艦隊の空母ソビエツキー・ソユーズ、北方艦隊のアドミラル・クズネツォフが、航空戦力として多大な障害となるでしょう。また、それらを護る防空艦を突破するのも一筋縄ではいきません。」

 

摺山国防大臣が、口を挟んだ。

 

「陸軍の11式対艦誘導弾改と新型滑空弾はどうかね? 実戦投入はできそうか?」

 

神田陸軍大将が、慎重に答えた。

 

「11式改は実戦投入できないわけではありませんが、弾数が限られています。地上発射型が120発、空中発射型が30発です。新型滑空弾に関しては、試験用20発プラス予備10発しかありません。追加発注をかけますか?」

 

摺山大臣が、即座に決断した。

 

「ああ、頼むよ。兵器関連企業にも戦時体制への移行を調整し、弾薬と医薬品の増産を急がせろ。忙しくなるぞ。それで、浜中さん、アレはまだダメか?」

 

浜中海軍大将の表情が、少し緩んだ。

 

「アレに関しては、習熟訓練もほぼ終了しており、実戦投入に問題ありません。」

 

「そうか! 油断や慢心は禁物だが、それなら奴らを蹴散らせるかもしれないな。」

 

浜中海軍大将の言葉に、部屋にわずかな安堵が広がった。

その「アレ」とは、皇国海軍が極秘に開発・建造した翔鶴型砲撃潜水艦である。

主砲は23式155mm電磁砲1基、533mm魚雷発射管6門を備え、エンジンは原子力タービンを採用。

同型艦として瑞鶴も就役済みだ。

味方からの情報をもとに、敵艦隊位置を特定。

浮上して約250kmの射程を誇る電磁砲を展開し、データリンク経由で中枢の空母や大型艦を精密攻撃する。

まさに「海の忍者」――新ソヴィエト海軍に対する切り札だ。

 

それはさておき、会議はさらに進んだ。

来るべき新ソヴィエト軍の侵攻に備え、部隊配置の強化、予備役動員、サイバー防衛の向上、宇宙領域での電子戦対策、道民の避難計画など、あらゆる対策が決定された。

部屋を出る頃、参加者たちの表情には、決意の影が濃く刻まれていた。

 

2024年8月19日、午前9時45分。

横田統合空軍基地、在日米軍司令部。

 

基地正門をくぐった国産セダンが、滑らかに停車した。

後部座席から降りたのは大山統合軍司令官と浜中海軍総司令官。

二人は制服の襟を正し、厳粛な足取りで司令部ビルへ向かった。

 

会議室の扉を開けると、懐かしい顔が待っていた。

在日米軍司令官ロバート・D・バード中将と、第七艦隊司令官ジョン・J・ハモンド大将。

大山とバードは旧知の仲――冷戦末期の共同演習から続く友情が、今も健在だった。

 

「久しぶりだな、ロバート。ジョンも元気そうだ。」

 

軽い握手と肩の叩き合い。

短い世間話――家族の近況、天候の愚痴、ビールの銘柄――で場を和ませた後、すぐに本題へ移った。

 

バード中将が、テーブルの上の衛星画像と予測チャートを指差した。

 

「合衆国は、新ソヴィエトの侵攻を9月23日から26日の間に予想している。

北方艦隊と太平洋艦隊の合流、物資集積のペース、医薬品の大量購入――すべてが一致する。」

 

大山大将が、静かに頷いた。

 

「やはり米国も同じ読みか……。もし戦争になったとして、我々にどの程度の支援をしてくれそうか?」

 

ハモンド大将が、即答した。

 

「ホワイトハウスからは『最大限の支援を』との明確な指示が出ている。議会もすでに承認済みだ。

第七艦隊を全力で投入する。三沢はもちろん、岩国からも航空隊の増援を出す予定。

陸上戦力は東北に配置し、北海道には第3海兵沿岸連隊、第4海兵連隊、第12海兵連隊を展開させる。

対中国との実戦経験を積ませる意味もあるが、何より君たちの防衛線を固めるためだ。」

 

浜中海軍大将が、わずかに目を細めた。

 

「冷戦時代の因縁を晴らせる機会か……。米国の支援に感謝する。

ただ、沖縄からそんなに戦力を引き抜いて、大丈夫なのか?」

 

バード中将が、笑みを浮かべて肩をすくめた。

 

「心配無用だ。本国から予備部隊を即座に回す予定だ。

それに、感謝するにはまだ早い。もう一つ頼みがある。

F-22を三沢基地に配備させてほしい。

情報筋によると、更にSu-57を装備した飛行部隊が増強されるそうだ。

F-35もいるが……戦力が増えることに越したことはないだろう。」

 

大山大将が、低く呟いた。

 

「Su-57か。ステルス性能は未知数が多い。警戒を強めねばならないな。」

 

「ああ、そうだ。それと、各種弾薬、燃料、食糧を大量に輸送したい。

新ソヴィエトに悟られぬよう、韓国経由でルートを組んでいる。」

 

「了解した。細かな調整は後日、スタッフ間で詰めよう。ありがとう、ロバート、ジョン。」

 

「どういたしまして。共に戦う日が来るなら、喜んで肩を並べるよ。」

 

協議はそこで一旦終了した。

 

その後も、大山と浜中は奔走を続けた。

在日米軍以外の同盟国、兵器関連企業、民間物流企業に至るまで、あらゆる関係先に協力と連携を要請。

北海道の各軍基地には、弾薬庫・燃料タンク・食糧倉庫が満杯になるまで物資が運び込まれた。

 

さらに、陸軍の精鋭――富士教導機甲旅団が「射撃能力と先進戦術技術の向上」という名目で北海道へ派遣された。

表向きは演習だが、実戦準備の色が濃厚だった。

 

皇国政府は、国民に混乱を招かぬよう情報を厳重に統制。

メディアには「通常の防衛演習強化」としか発表せず、SNS上の憶測も抑え込んだ。

 

2025年9月20日、午前8時00分。

北海道、皇国陸軍各基地。

 

朝の点呼が終わった直後、北海道内の全陸軍・海軍・空軍部隊に内部通達が回された。

その内容は、簡潔だが重いものだった。

 

- 全兵士の外出禁止。

- 兵士家族の本州への早期避難実施。

- 戦争の予兆――全戦闘準備態勢へ移行。

 

前々から、新ソ連軍の侵攻は軍内で囁かれていた噂だった。

だが、この通達で誰もが確信した。本物の戦争が、すぐそこまで来ているのだ。

 

それも当然だった。

富士教導機甲団をはじめ、第一空挺団、陸軍特殊作戦コマンド、その他精鋭部隊が北海道に集結し、「演習」が終わった今も動員が解除されていない。

基地のゲートには、弾薬、医療品、食糧を満載したトラックがひっきりなしに出入りし、倉庫は溢れんばかりの物資で埋まっていた。

 

さらに、予備役の段階的招集が始まった。

大山統合軍司令官は、ついに「デフコン」を発動させたのだ。

現在はデフコン3――増加警戒態勢。

戦闘機の即時発進準備、ミサイルの装填、通信網の暗号強化――すべてが静かに、しかし急速に進んでいた。

 

翌日、9月21日。

三沢日米共同空軍基地に、米空軍のF-22ラプターが2個飛行隊分(24機)が到着した。

表向きは「日米間の空中戦闘技術向上」という名目だが、誰もが知っていた。これは本物の備えだ。

 

一方、横須賀の第七艦隊本部では、旗艦ブルー・リッジと空母ジョージ・ワシントン、そして護衛駆逐艦、補給艦艇群が出港準備を急ピッチで進めていた。

甲板では、F/A-18スーパーホーネットのエンジンが唸りを上げ、乗員たちの表情は引き締まっていた。

 

2024年9月23日、正午12時00分。

東京・皇国総理大臣官邸、記者会見室。

 

フラッシュの嵐が部屋を照らす中、官房長官が壇上に立った。

臨時記者会見のテーマは、ただ一つ――新ソヴィエト軍の侵攻危機。

 

「新ソヴィエト軍の極東地域における異常な軍事動向を受け、皇国政府は厳重警戒態勢に入っています。

侵攻の兆候が確認された場合、日米安保条約に則り、米軍との共同防衛体制を即時発動します。」

 

会見は短く、しかし衝撃的だった。

国内メディアは一斉に速報を流し、国民の間に緊張が広がった。

 

数時間後、アメリカ側も動いた。

ホワイトハウスで、大統領補佐官が同様の声明を発表。

 

「米国は同盟国日本皇国への脅威を深刻に受け止め、全面的な支援を約束する。

新ソヴィエトの行動は、地域の平和を脅かすものであり、国際社会の監視を強める。」

 

これに対し、新ソヴィエトの反応は素早かった。

モスクワの外務省が公式声明を発表。

 

「我が新ソヴィエトが日本皇国に侵攻の意図は一切なく、これは極東軍管区内で予定されている統合軍事演習『ボストーク2024』のための兵力移動に過ぎない。

事前通達も、9月21日から25日までのオホーツク海および上空での演習について、外交ルートを通じて行っている。

また、我々に非があるように言っているが、日米軍も北海道に兵力を移動をさせている。人の事をとやかく言う立場では無い」

 

確かに、外務省経由でその通達は届いていた。

だが、日本皇国側はこれを信用しなかった。

演習の規模が異様に大きく、物資の集積、潜水艦の展開、航空機の増強――すべてが「演習」の域を超えていたからだ。

 

2024年9月23日、午後9時10分(米国東部時間 同日午前8時10分)。

東京・皇国総理大臣官邸、地下セキュア通信室。

 

記者会見から9時間。

官邸の地下深く、音響遮蔽されたセキュア通信室に、安芸総理の姿があった。

テーブルの向こう側に置かれた大型モニターが点灯し、画面に映るのはロバート・B・ハーラン・ホイテカー大統領。

共和党の強硬派として知られる彼の表情は、いつになく硬かった。

 

回線は暗号化され、第三者の介入は不可能。

これは、非公開――文字通り「二人だけの」電話会談だった。

 

安芸総理が、静かに口を開いた。

 

「大統領閣下、お忙しい中ありがとうございます。

本日の会見で、国民に危機を公表せざるを得ませんでした。

新ソヴィエトの動きは、もはや演習の域を超えています。」

 

ホイテカー大統領が、ゆっくりと頷いた。

背後のホワイトハウスの執務室は、夜明け前の薄暗さだった。

 

「安芸総理、私も同じ認識だ。

CIAとNSAの最新分析では、侵攻は9月25日未明から26日朝の間に始まる可能性が85%を超えている。

北方艦隊と太平洋艦隊の合流、空母2隻の展開、Su-57の配備――すべてが上陸作戦の布石だ。

ボストーク2024などという演習通達は、単なるカバーストーリーだ。」

 

安芸総理の声に、わずかな苛立ちが混じる。

 

「外務省経由の通達は確かに受け取っていますが、規模が異常です。

宗谷海峡、オホーツク海、北海道沿岸――演習区域が我が国の領海・防空識別圏に食い込みすぎています。

もし偶発的な接触が起これば、即座にエスカレートするでしょう。」

 

大統領が、深く息を吐いた。

 

「その通りだ。

だからこそ、米国は即時対応を準備している。

第七艦隊はすでに横須賀を出港準備完了。ジョージ・ワシントン空母打撃群は、北海道東方海域へ向かうコースを取っている。

F-22の追加配備も完了した。

三沢と千歳から、いつでも制空権確保のスクランブルが可能だ。」

 

安芸総理が、目を細めた。

 

「感謝します。

しかし……もし新ソヴィエトが先制攻撃を仕掛けてきた場合、日米安保第5条の発動は即時になりますか?

我が国は、北海道の防衛線を死守する覚悟ですが、米軍の地上戦力投入は……」

 

ホイテカーが、即答した。

 

「第5条は発動する。

議会はすでに事前承認を与えている。

海兵隊の沿岸連隊は北海道、東北に展開済みだ。

ただし、地上戦は最後の手段。

我々の優先は、海上・空中で新ソヴィエトの侵攻艦隊を叩き潰すこと。

新ソ連軍にとって我々の連携が一番の厄介だ。」

 

安芸総理が、静かに頷いた。

 

「その通りです大統領閣下。

皇国軍は、デフコン3からさらに引き上げます。

ボストーク2024終了後にはデフコン2へ移行し、必要に応じてデフコン1を宣言します。

国民への最終通達も準備中です。」

 

大統領の声が、低く響いた。

 

「安芸総理……これは冷戦以来の最大の危機だ。

だが、我々は負けない。

自由と民主主義を守るため、共に戦おう。

何かあれば、いつでもこの回線を使う。

God bless Japan。」

 

「ありがとうございます、大統領。

皇国も、共に戦います。

天皇陛下と国民のために。」

 

通信が切れた。

部屋に残ったのは、静寂と、モニターの残光だけ。

 

安芸総理は、ゆっくりと立ち上がり、窓のない壁を見つめた。

外では、東京の夜がまだ穏やかだった。

だが、北海道の空と海は、もう嵐の前触れに震え始めていた。

 

2024年9月23日、午前11時42分。

オホーツク海上空、皇国海軍哨戒機P-3C「オライオン」機内。

 

機内は低く唸るターボプロップエンジンの振動と、ソナー・レーダーコンソールの電子音で満たされていた。

コックピット後方の戦術室では、機長・佐伯中佐と副操縦士、TACCO(戦術指揮官)の三人が、ヘッドセット越しに短いやり取りを交わしていた。

 

「こちらP-3C コールサイン『Kite-21』、オホーツク哨戒エリア中部。

新ソヴィエト艦隊の位置確認。空母2隻を中心に輪形陣形成中。距離約85マイル、北西方向。

クズネツォフとソビエツキー・ソユーズの両艦、艦載機の離着艦訓練継続中。Su-33が甲板上でエンジン始動確認。」

 

TACCOの画面に映るレーダー画像は、鮮明だった。

中心に二つの巨大なシグネチャ――アドミラル・クズネツォフとソビエツキー・ソユーズ。

その周囲を護衛艦が円を描くように取り囲み、対空ミサイルの照準訓練を繰り返している。

艦隊の動きは「演習」としては異様に統制されており、まるで実戦を想定した防空網の構築のように見えた。

 

副操偵察士が、双眼鏡で肉眼確認を追加した。

 

「視認。クズネツォフの甲板にSu-33が4機並んでいます。ソユーズ側はSu-33に加え、MiG-29Kらしき機影も確認。

護衛のソヴレメンヌイ級駆逐艦がS-300Fのレーダーをアクティブにしている模様。ECM(電子妨害)の兆候あり。」

 

佐伯中佐が、低く指示を出した。

 

「高度を維持、距離をさらに広げろ。

新ソーサス網に引っかからないよう、深度を浅く保ちつつ、電子偵察を継続。

衛星『銀河』とデータリンク接続、リアルタイムで本部に送信。」

 

機体は雲の下を滑るように飛び、ギリギリのライン――皇国防空識別圏の外縁をなぞるように旋回した。

ボストーク2024は公式には「統合軍事演習」として続いている。

新ソ連外務省の通達通り、オホーツク海と上空が演習区域に指定されている。

しかし、誰もが知っていた。この「演習」は、侵攻の最終リハーサルだ。

 

突然、TACCOのコンソールが警告音を鳴らした。

 

「レーダー照射! 新ソ連艦隊からFire Control Radarがこちらをロックオン。

S-300Fの追尾レーダー、連続照射中。距離80マイル。」

 

機内が一瞬、静まり返った。

 

佐伯中佐が、冷静に答えた。

 

「ECMをオン。チャフ・フレア準備。

回避旋回、針路を東へ。高度を上げて識別圏外へ離脱。」

 

P-3Cはエンジンを唸らせ、急上昇しながら東方へ逃げるように旋回した。

回避旋回を終え、距離を100マイル以上に広げたところで、機内のVHF/UHF無線が突然割り込んだ。

周波数は国際緊急チャンネル156.8MHz(チャンネル16)――通常は民間船舶用だが、軍事演習中はしばしば「警告」用に使われる。

 

静かな機内に、抑揚のないロシア語が流れた。

自動翻訳機が即座に英語・日本語で字幕表示する。

 

「こちら新ソヴィエト海軍太平洋艦隊旗艦『ソビエツキー・ソユーズ』。

皇国海軍哨戒機に対し警告する。

貴機は現在、我々が指定した演習区域内に侵入している。

直ちに離脱せよ。繰り返す、直ちに離脱せよ。

これ以上の接近は、偶発的事故を招く可能性がある。

以上。」

 

佐伯中佐の表情が引きつった。

同時に、TACCOのコンソールが再び赤く点滅した。

 

「FCSレーダー、連続ロックオン確認!

S-300FのFCRが我々を完全に捕捉。

照射強度が急上昇――これは本気の脅威照射です!」

 

副操縦士が、声を抑えて言った。

 

「中佐……これはただの演習警告ではありません!

レーダーが火器管制モードに入っています。ミサイル発射準備の兆候です。」

 

機内は一瞬、息を呑むような静寂に包まれた。

P-3Cは非武装の哨戒機。対抗手段はECMと回避しかなく、もしミサイルが飛んでくれば、数秒で終わる。

 

佐伯中佐が、即座に決断した。

 

「全機、ECMフルパワー。チャフ散布準備。

針路を東南東へ、最大速度で識別圏外まで離脱。

本部へ緊急報告――『新ソ連艦隊から直接警告通信受信。FCS連続照射中。演習区域主張は領海侵犯に相当。脅威レベル急上昇』。」

 

無線士が、暗号化回線で本部に送信した。

 

「Kite-21、本部了解。

状況をリアルタイム共有し、 デフコン3維持。ただし、即座にデフコン2移行の可能性あり。 貴機は安全優先で離脱せよ。」

 

P-3Cはエンジンを唸らせ、急降下しながら東へ逃げるように飛び去った。

 

2024年9月26日、午前2時30分。

東京都・市ヶ谷、統合司令本部 地下作戦室。

 

薄暗い照明の下、巨大なマルチディスプレイに映るのは、オホーツク海・北海道沿岸のリアルタイム衛星画像と、暗号通信の傍受ログ。

作戦室には大山統合軍司令官をはじめ、陸海空宇宙軍の司令官、各部隊長、在日米軍連絡官が集まっていた。

全員の表情は、疲労と緊張で引き締まっている。

 

昨日の「ボストーク2024」終了後、新ソ連軍の主力部隊はトラックと鉄道で大陸内部へ移動を開始した――と、衛星・SIGINT(信号情報)・HUMINT(人的情報)で確認された。

だが、誰もがそれを「偽装撤退」と睨んでいた。

 

国家情報庁の佐山少佐 が、最新の傍受データを投影しながら報告した。

 

「新ソ軍の暗号通信が急激に増加しています。

昨夜22時以降、極東軍管区のVHF/UHF帯と衛星回線で、通常の3倍以上のトラフィックです。

内容は依然として解読不能ですが、頻度とパターンから見て、最終指令段階に入っている可能性が高いです。」

 

「SOSUSおよび全海域対潜網システム、ともに異常反応なし。

敵潜水艦の静粛航行が続いていますが、ボレイ級やヤーセン級の影は確認できていません。」

 

「海軍第二潜水隊、展開完了。土佐、瑞鶴を含む翔鶴型2隻がオホーツク海東部で待機中。

警戒配置につきました。」

 

「ウラジオストク港およびチェグエフカ飛行場に新たな動きはなし。

Su-57の駐機位置も変化していません。ただし、夜間飛行の兆候はあります。」

 

「陸軍第2歩兵師団は既に展開配置完了済み。また、第9歩兵師団、第1歩兵師団を乗せた輸送船も函館港に到着しました。」

 

「第一艦隊は現在、米第七艦隊と共同で駿河湾沖に展開中。

ジョージ・ワシントン空母打撃群はいつでも北上可能。

舞鶴の第三艦隊は富山県沖で待機中。」

 

連絡官が即座に暗号回線で送信した。

 

「了解!」

 

作戦室に、重い沈黙が落ちた。

誰もが知っていた。

偽装撤退の裏で、新ソ連軍は「本番」のタイミングを計っている。

そして、それはもう、時間の問題だ。

 

――同日、午前11時30分

全国のテレビ画面が、一斉に切り替わった。

 

昼食前の平日バラエティ番組が、突然ニュース速報に変わる。

アナウンサーの声が、震えを抑えて響いた。

 

「お昼の番組の時間ですが、予定を変更して、日本皇国軍広報から緊急会見があります。」

 

画面に映ったのは、制服姿の皇国軍広報担当官。

背後に国旗と軍旗が掲げられ、フラッシュが絶え間なく光る。

 

担当官は、落ち着いた声で読み上げた。

 

「お昼の時間をお楽しみのところ、失礼いたします。

常日頃から国民の皆様には皇国軍の活動にご理解、ご協力をいただいていることに感謝しております。

本題ですが、現在、皇国は新ソヴィエト軍による侵攻が予想される事態となっております。

大変な混乱が予想されます。

国民の皆様には、どうか落ち着いた行動をお願いします。

避難が必要な際は、スマホの緊急速報、防災行政無線、地域の防災サイレンが鳴ります。

最寄りの警察署、交番、消防署、駅、公共施設へ避難してください。

避難時は慌てず、我々の指示に従うようお願いいたします。」

 

会見はわずか3分で終了。

しかし、その瞬間から日本皇国は変わった。

 

SNSでは「戦争」「第三次世界大戦」「新ソ連侵攻」が即座にトレンド1位を独占。

反共系極右翼団体が在新ソ連大使館前で無許可デモを開始し、興奮した数人が木刀や特殊警棒を持って敷地内に侵入。

即座に警備隊に制圧され、逮捕者が出た。

 

皇国軍は、東京・北海道・東北を中心に戒厳令を発令。

東京では警察や憲兵が軍の移動を優先し、交通統制を実施。

貨物駅と港湾には、遅滞なく戦車・弾薬・食糧が運び込まれた。

 

北海道には、精鋭部隊が続々と集結。

第一歩兵師団、近衛師団、第一空挺旅団、第九歩兵師団、第1レンジャー連隊、陸軍特殊作戦コマンド。

さらに、各要所――皇居、政府機関、原発、港湾施設、空港――には、陸海空警察、海上保安庁の特殊部隊、在日米軍のグリーンベレー、MARSOCが警備に就いた。

 

中でも最も重要なのは、本州と北海道を唯一繋ぐ青函トンネルだった。

建設時、軍は秘密裏に設計に関与。

重戦闘車両を積んだ貨物列車が高速で通過できる構造に仕上げていた。

ここを失えば、補給線は壊滅する。

 

そのため、青函トンネル周辺には、

- 潜水艦2隻(土佐型原子力潜水艦)

- 水上警備艇数隻

- SAM(地対空ミサイル)陣地

- 陸軍特殊作戦コマンド「あ号部隊」

- 15式機動装甲戦闘車

 

が、鉄壁の守りを敷いていた。

 

国民の多くは、まだ現実を飲み込めずにいた。

だが、軍と政府は何ヶ月も前から腹を括っていたのである。

 

2024年9月26日、午後10時13分。

青函トンネル 北海道側出入口付近、知内川橋梁下。

 

夜の闇は深く、礼文島沖上空ではF-15J改のエンジン音が遠く響き、新ソ連空軍機を追い払うスクランブルが続いていた。

一方、地上では静寂が支配する――いや、静寂を装った緊張が。

 

青函トンネル北海道側出入口の警備線は、陸軍特殊作戦コマンド「あ号部隊」の精鋭で固められていた。

20式双眼暗視鏡を装着したエコー1とエコー2は、橋梁下の土手を地形に溶け込むように伏せていた。

周囲はSAM陣地と15式機動装甲戦闘車が睨みを利かせ、潜水艦の影が海面下で待機している。

 

突然、無線に低い声が割り込んだ。

 

「デルタ2よりロメオ1へ。熱源反応あり。知内川から3名。エコーが近い。どうやって来やがったんだ、コイツら。」

 

「ロメオ1了解。エコー1、聞こえるか?」

 

「こちらエコー1、聞こえていたよ。どうすればいい?」

 

「よし、殺害しても構わないができれば半殺しにしてくれ。アパッチ4、5は狙撃支援。3名は橋梁下へ向かっている。」

 

エコー1が、吐き捨てるように応じた。

 

「エコー1、了解。クソ、半殺しとは無茶言いやがる。」

 

エコー1と2は、川沿いの茂みを利用して音もなく移動。

アパッチ4(観測手)とアパッチ5(射手)が、720m先のキルゾーンを捕捉していた。

 

「こちらエコー1からアパッチ4。」

 

「アパッチ4よりエコー1、敵はキルゾーン9にいる。2人を殺るから残りを半殺しだ。手にはSMGのようなものがある。気をつけろ。」

 

「エコー1、了解。頼んだぞ。」

 

アパッチ4が、アパッチ5の肩を軽く叩いた。

 

「距離720m、風速3m/s、右から左へ。まだだ……止まってからだ。……撃て!」

 

パシュ! カチャン パシュ!

 

サイレンサー付きの00式7.62mm狙撃銃が、夜の静寂をわずかに破った。

3名の敵が、橋梁下のコンクリートにしゃがみ込み、何かを確認しようとした瞬間――

2名が頭部を撃ち抜かれ、即死。

血が地面に広がる前に、残った1名は背後から肩を掴まれ、視界が一瞬で夜空に反転した。

次の瞬間、地面に叩きつけられ、両手を後ろに回され、手錠がカチリと音を立てた。

 

エコー2が、死亡した敵兵のリュックを素早く物色した。

 

「すげぇ……こいつが持ってるのはPP-19ビゾンだ。初めて見た。これは何だ?C4か?」

 

「どれ、見せてみろ。…多分PVV-5だな。あちら側のC4だ」

 

エコー1が、拘束された男のリュックを開け、内容を確認する。

 

「おい、この生きてるやつは塩ビチューブ持ってるぞ。どれどれ……白い粉と燃料のポリタンク。アンフォ爆薬だな。」

 

「一体どこのスペツナズだ? FSB……いや、今はまたKGBか。GRUか。何か身分証やバッジはないか。」

 

エコー2が、もう1人の死体のポケットを漁る。

 

「クソ、何もないな。エコー2よりロメオ1へ。敵兵を排除。2名キル、1名拘束した。顔と言葉からしてロシア人だ。SMG、爆薬は確認したが所属部隊は分からない。残った奴を回収して尋問しよう。」

 

「ロメオ1、了解した。回収班を向かわせる。よくやった。見張りを交代しろ。」

 

数分後、回収班の車両が到着。

拘束された男を後部座席に押し込み、後続のトラックから交代要員2名が降りる。

死体は素早く死体袋に収められ、エコー1と2もトラックに乗り込んだ。

 

――1時間後、あ号部隊拠点

 

尋問(ほぼ拷問)は、容赦なく行われた。

水責め、睡眠剥奪、電気刺激――男はついに口を割った。

 

「時間がない。早く言え」

 

あ号部隊の尋問官が英語で生き残りの男と話す。他の数人が男を囲み、1人は後頭部に銃を突きつける。

 

そして耐えかねた男はついに口を割った。

所属はKGB直属の特殊部隊「ヴィンペル」。

目的は青函トンネルの破壊。

同時に、千歳基地、三沢基地、大湊基地への同時攻撃を計画していた。

 

「他に何も知らない……本当に……」

 

男の言葉はそこで途切れた。

尋問官はため息をつき、拳銃を抜いた。

一発の銃声が、コンクリートの壁に反響した。

 

情報は即座に統合司令本部へ。

欺瞞情報の可能性は否定できないが、無視するわけにはいかない。

三沢基地、大湊基地、千歳基地の警戒態勢は即座にレベルアップ。

SAM陣地が増強され、在日米軍のグリーンベレーとMARSOCが追加配備された。

 

青函トンネルは、まだ守られている。

だが、夜はまだ長い。

新ソ連の次の手が、いつ来るか――誰もが息を潜めていた。

 

2024年9月27日、午前0時42分。

大湊警備府・航空基地側、滑走路巡回ルート。

 

基地内のオレンジ色の街灯が、霧混じりの夜をぼんやりと照らしていた。

定期巡回中の歩哨2名からの報告が、予定時刻から5分遅れている。

異常を察知した基地警備隊の2名が、無線で呼びかけながらルートを辿った。

 

「こちらアルファ3、歩哨ポストB-7応答なし。確認に向かう。」

 

2人は懐中電灯を振り、滑走路脇のフェンス沿いを進む。

周囲は静かすぎた。警衛車両のエンジン音が遠くに聞こえるだけ。

人影はどこにもない。

 

突然――

 

パシュ パシュ

 

乾いたサイレンサー音が二度。

2人の兵士は胸と頭を撃ち抜かれ、音もなく倒れた。

血がアスファルトに広がる前に、闇から5つの影が現れた。

 

黒い戦闘服、フェイスマスク、PP-19ビゾンSMGを構えた男たち。

彼らは素早く倒れた兵士の無線機を回収し、警衛車両に乗り込んだ。

車両のサイレンを消し、ライトを点灯させたまま、基地内を「通常巡回」のように走らせる。

基地の警備兵たちは、オレンジの照明の下でまだ気づいていない。

 

5人はヘリ格納庫へ直行。

外に立っていた歩哨を背後から制圧――首を絞めて気絶させ、引きずり込んで隠した。

格納庫内は無人。SH-60K哨戒ヘリが並ぶ中、監視カメラの死角を計算しながら移動。

 

リーダー格の男が、低く指示を出した。

 

「爆薬をローター基部と燃料タンクに。タイマーは10分後。

次は潜水艦ドックと水上艦艇の別働隊と合流だ。」

 

爆薬を素早く設置。タイマーをセットし、格納庫を離脱。

車両を航空基地奥の半島状地形へ走らせる。

そこで車両を捨て、徒歩で海岸へ。

 

その瞬間、基地内に警報サイレンが鳴り響いた。

「侵入者警報! 全員配置につけ!」

 

5人は全力で走った。

3分後、海岸の指定地点に到着。

そこには2人の仲間が待機し、黒い小型潜航艇が波間に浮かんでいた。

 

「ダワイ、ダワイ! 早く乗れ!」

 

5人が飛び乗り、ハッチが閉まる。

潜航艇は静かに潜航を開始。

 

基地内では、すでにパニックが広がっていた。

SH-60Kの爆薬が発見され、解除班が急行。

潜水艦ドックと水上艦艇でも緊急点検が始まっていた。

 

しかし、5分が経過。

 

――ドーン!!

 

夜空が巨大な炎で赤く染まった。

SH-60Kの格納庫が爆発し、火球が空を裂く。

続いて潜水艦ドックから轟音。

停泊中の潜水艦の甲板が吹き飛び、水柱が数十メートル上がった。

水上艦艇の艦橋が炎に包まれ、連鎖爆発が基地全体を揺らした。

 

衝撃波が海面を震わせ、潜航艇の船体を軽く揺らす。

 

艇内のリーダーが、満足げに息を吐いた。

 

「よし、やったな。速やかに撤収するぞ。」

 

ヴィンペル部隊は浮かれる暇もなく、潜航艇を全速で深海へ沈めた。

大湊基地は火の海と化した。

爆発の光が、大湊の夜を不気味に照らし続けていた。

 

2024年9月27日、午前1時15分。

北海道礼文島北方沖、約15海里。

 

潜航艇のハッチが静かに開き、5名のヴィンペル隊員が波間に浮かぶ通常動力潜水艦の甲板へ移乗した。

潜水艦は旧ソ連時代のキロ級改良型(プロジェクト877V)――表向きは「海洋調査船」として偽装されていたが、内部は特殊作戦用に改装済み。

甲板上の乗員が素早くロープを投げ、隊員たちは滑り込むように艦内へ。

 

リーダーが、最後にロシャリクのハッチを閉め、合図を送った。

 

「合流完了。潜航艇、自沈プログラム起動。」

 

潜航艇の船体がゆっくりと沈み始める。

事前に仕掛けていた爆薬――艦内各所に設置された小型爆弾パッケージが、タイマーで順次起爆。

水面下10メートルで最初の爆発が起こり、続いて主船体が内側から破裂。

金属の悲鳴のような音が海中に響き、気泡が大量に噴き上がった。

潜航艇は数分で完全に沈み、証拠を海底に葬った。

 

潜水艦の艦長が、ブリッジから隊員たちに視線を向けた。

 

「ヴィンペル部隊、無事か? 大湊の爆発は確認した。

SH-60K格納庫、潜水艦ドック、水上艦艇3隻――すべて炎上中だ。

作戦成功率は90%以上と見ている。」

 

リーダーが、フェイスマスクを外しながら応じた。

 

「損失なし。青函トンネルは失敗したが、他の目標は達成。

千歳と三沢の別働隊も予定通り動いているはずだ。」

 

艦長が頷き、潜望鏡深度へ移行を指示。

 

「深度150メートルへ。針路を北西へ。

新ソ連領海まで最短ルートで脱出する。

静粛航行を徹底。皇国側の対潜網が活発化している。」

 

艦内は静かになった。

ヴィンペル隊員たちは、疲労した体をベンチに預け、装備を点検。

誰もが知っていた――これは序曲に過ぎない。

大湊の炎は、新ソ連の本隊が宗谷海峡を突破する合図となる。

 

海面では、火災の赤い光がまだ遠くに揺れていた。

皇国軍の警報は、北海道全域に広がり始めていた。

戦争は、もう始まっていた。

 

2025年9月27日、午前1時25分。

津軽海峡・陸奥湾内、皇国海軍潜水艦「朝日」艦内。

 

艦橋は赤い戦闘照明に染まり、静粛航行モードの緊張が張り詰めていた。

突然、暗号化された緊急回線から副長の声が響く。

 

「艦長! 大湊基地から緊急報告です。

基地内で爆発発生。停泊中の駆逐艦『多摩』と潜水艦『筑摩』が爆沈した模様です!」

 

艦長の目が鋭く細まった。

 

「何!? 大湊が爆発だと……クソ、露助め……どこから湧いてきたんだ。」

 

副長が、続報を読み上げる。

 

「被害の規模はまだ正確に把握できていませんが、格納庫とドックが炎上中。

特殊部隊の潜入工作と見られます。」

 

その直後、ソナー室から報告が入った。

 

「艦長! 上空の大海から連絡です。

陸奥湾沿岸で通常動力潜水艦らしきエンジン音をキャッチ。

小型、深度浅め、速度22ノット。恐らく大湊攻撃の脱出艇と思われます。」

 

艦長が、唇を噛んだ。

 

「なるほど……特殊部隊は潜水艦で脱出か。

司令部に即報せ。『我、コレヨリ大湊基地ヲ襲撃シタト思ワレル敵潜水艦ノ索敵及ビ撃沈ニ向カウ。以上』。」

 

朝日は静かに深度を調整し、陸奥湾内へ進入を開始した。

湾の封鎖線には原子力潜水艦「愛宕」が待ち構え、上空からは哨戒機「大海」とSH-60K哨戒ヘリがパッシブソノブイを次々と投下。

海面下の音響網が、敵の微かなエンジン音を捉えようと張り巡らされていた。

 

数分後、ソナー士の声が上がった。

 

「報告! 敵潜水艦は全長およそ70m。

本艦2時方向、深度30m、速度22ノットで航行中。」

 

「キロ級か? 音紋照会を急げ。」

 

音紋データベースを照合。

特徴的なディーゼル・エレクトリック推進音と低周波振動――一致する艦種は改キロ級。

 

「音紋一致率87%。改キロ級と思われます。

データに完全一致はないが、特徴は改キロ級そのものです。」

 

艦長が、即座に決断した。

 

「確実に仕留める。魚雷発射管室へ――13式改誘導魚雷を2番、3番管に装填。

注水完了次第発射せよ。」

 

艦内が一瞬、静まり返る。

発射準備の間も、敵潜はこちらに気づかず、陸奥湾出入口へ向かって航行を続けていた。

仮に逃れても、出入口には愛宕と駆逐艦・フリゲート群が待ち構えている。

逃げ場はない。

 

「2番管、3番管注水完了!」

 

「2番、3番――発射!」

 

シュウウウウ……

 

水圧で押し出されるような音が艦内に響き、2発の13式改誘導魚雷が静かに海中へ滑り出した。

ワイヤー誘導とアクティブソナーで敵を追尾。

10秒……15秒……

 

17秒後――

 

海面から巨大な水柱が上がった。

上空のSH-60K乗員が、暗視装置越しにそれを目撃。

 

「水中爆発音確認! 圧壊した模様です!」

 

朝日の艦内が、歓喜のどよめきに包まれた。

 

「やった……! 先の大湊攻撃に一矢報いたぞ!」

 

艦長が、静かに息を吐いた。

 

「よくやった。全員、警戒を継続。

残骸の確認と、湾内の追加索敵を続けろ。」

 

攻撃から2時間、海面にはロシャリクの残骸が浮かび上がっていた。

破壊された船体の一部、気泡、油膜――すべてが、ヴィンペル部隊の最期を物語っていた。

 

大湊基地の被害も、夜明けの光で明らかになった。

 

- 潜水艦:1隻沈没、2隻大破、1隻微損

- 駆逐艦:1隻沈没、2隻中破

- 補給艦:1隻沈没

- その他支援艇:数隻沈没

- SH-60K哨戒ヘリ:4機破壊

- 人的被害:多摩艦内にいた36名と警備兵12名の48名死亡、28名負傷

 

三沢基地、千歳基地では、ヴィンペル別働隊の侵入が成功したものの、歩哨に見つかり交戦。

結果として爆破は失敗に終わり、スペツナズは撤退を余儀なくされた。

 

ヴィンペルは大湊基地の破壊工作に成功したものの、他の同時攻撃はすべて失敗。

しかし、その炎は新ソ連本隊の侵攻を告げる狼煙となった。

宗谷海峡では、すでに上陸艦隊の影が動き始めていた。

 

2024年9月26日、午前3時32分。

東京都・市ヶ谷、国防総省 地下統合指揮所。

 

大湊基地の爆発報告からわずか2時間。

指揮所の巨大スクリーンには、北海道全域の衛星画像とリアルタイムの避難状況が映し出されていた。

赤い警告灯が点滅し、職員たちの声が重なり合う。

 

大山大将が、通信卓の前に立ち、報告を聞いた。

 

「報告! 北海道全域で避難開始を確認。

大湊基地攻撃の被害は、駆逐艦『多摩』、潜水艦『筑摩』、補給艦1隻が爆沈。

しかし、津軽海峡警備中の潜水艦『朝日』が脱出を図った敵特殊潜水艦(ロシャリク級)を13式改魚雷で撃沈に成功しました!」

 

大山の表情がわずかに緩んだ。

 

「本当か……一矢報いたわけだな。

ウラジオストクの動きは?」

 

作戦参謀が、衛星画像をズームしながら答えた。

 

「はっ。ウラジオストク港では未だ大規模な出港動きはありませんが、

偵察衛星『銀河』の最新画像で、揚陸艦・兵員輸送艦に大量の兵士が乗り込む様子を確認。

甲板上にはT-14アルマータとBMP-3の影も複数。

これは偽装撤退ではなく、本格的な上陸準備です。」

 

大山が、深く息を吐いた。

 

「そうか。完全に侵攻秒読み段階だ。

大湊基地の復旧を急がせろ。

損傷艦艇の応急修理と、代替防空網の構築を最優先に。」

 

その頃、北海道全域では避難が始まっていた。

 

午前3時30分頃、テレビ・ラジオ・スマホの緊急速報が一斉に鳴り響いた。

防災行政無線が夜の静寂を切り裂き、自治体のスピーカーから繰り返される。

 

「緊急警報。北海道全域に新ソヴィエト軍の侵攻が予想されます。

直ちに避難を開始してください。

最寄りの避難所へ移動し、軍・警察・消防の指示に従ってください。」

 

寝静まった住宅街が一瞬でざわめき始めた。

家族連れがパジャマ姿で家を飛び出し、軍のトラック、民間のバス、タクシー、個人車両が道路を埋め尽くす。

稚内、宗谷岬、豊富町、天塩町の海岸線付近では、住民が指定された内陸部の避難所へ急ぐ。

 

港では、徴用された民間客船・フェリーが灯りを点け、乗船を急ぐ人々で溢れていた。

病院では、重症患者のヘリ・船舶移送が始まり、看護師たちがストレッチャーを押して桟橋へ急ぐ。

 

しかし、大規模避難は当初計画より大幅に遅れていた。

道路の渋滞、燃料不足、パニックによる混乱――すべてが重なり、避難民の列は思うように進まない。

軍のトラックが民間車両を強制的に道端に寄せ、優先通過を確保する光景が各地で繰り広げられた。

 

稚内・天塩町・豊富町の海岸線では、陸軍が陣地構築を完了。

対戦車地雷・対人地雷が埋設され、第1線は第2歩兵師団が固めていた。

 

そして、朝焼けが空を薄く染め始めた頃――

 

2024年9月26日、午前4時56分。

ウラジオストク港・オホーツク海。

 

偵察衛星「銀河」が捉えた瞬間。

太平洋艦隊と北方連合艦隊が、一斉に動き出した。

 

空母「ソビエツキー・ソユーズ」と「アドミラル・クズネツォフ」を中心に、揚陸艦群・護衛艦・補給艦が輪形陣を解き、南へ針路を固定。

同時に、チェグエフカ基地からTu-22M3爆撃機数機が離陸。

ウラジオストク近郊のミサイル基地から、大量のイスカンデル弾道ミサイルとカリブル巡航ミサイルが発射された。

 

宗谷海峡方面へ向かう軌道を描くミサイルの軌跡が、レーダー画面に無数に映る。

 

北海道侵攻――ついに始まった。

北海道全域で空集合警報が発令された。

 

一方統合指揮所でも警報サイレンが鳴り響いた。

大山が、テーブルを叩いて立ち上がった。

 

「全軍に通達!

デフコン1を発令。

北海道防衛線、全戦闘態勢へ移行せよ!」

 

朝焼けの空に、ミサイルの尾煙が伸び始めた。

本格的な侵攻が始まったのだった。

 

 




読んで下さりありがとうございます。
やってることは完全某北海道侵攻漫画のオマージュ(悪く言えばパクリ)みたいなものです。なんとか構成やらは変えようとは思いますがやはり似てしまいますね。
北海道旅行は楽しかったです。とりとんは行くべき。あと藻岩山でスノボーしてみたいですね。
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