テケリ・リ
東京都米花町の地下奥深く、地底にそれはいた。
震え、タールのような物を滴らせる黒い粘液。
ふと、
落ちた水が黒い粘液に触れると、水滴は途端に吸い込まれた。それに反応して下の黒い粘液は動き出した。
黒い粘液、、、ショゴスは考えた。
上に行けば、水がある。
己を封印した古のものも、いる。
もはや限界だ。
思索したショゴスは、大きく、黒 いや深緑の体を大きく揺らし、玉虫色の小さな新しいショゴスを自らの体から分裂させる。かつて古のものの奴隷であったショゴスは、
梯子を真似た。
しかし、それもやはり届かない。
地下の空洞はおよそ 高さ300mの直径の直方体であり、
それが長くショゴスを苦しめていた。
やがて、大きな空洞を掘り進めることで外に行く事にしたショゴスは、梯子ショゴスを薄く大きく変形させた。
ゲル体の体は柔軟性が低いが、無理をした。
人間が上下水道、地下鉄を通すために作り出したシールドにショゴスはたった一匹でたどり着いた。
1日に20m*2掘り進め、斜めに掘ることによってより効率的に作業ができる。 素晴らしいアイデアだ。
そしてしばらくの時間が経ったころ、地上が見えた。
シールドの円柱構造から目を生成して見ると、土では無い何かが地面を覆っていた。
ショゴスは考えた。
この謎の固形物を破壊すれば外に出られるのでは無いか。 地上が危険だとしても水が必要だ。
私は本来水に住むべきなのだ。
だから破壊すべき。
論理的思考でたどり着いた結論に従い、シールドの先から足を生やしたショゴスが蹴破るコンクリートの地面。
久方ぶりの陽光に、目を通して入ってきた情報に。
ショゴスは動き出し、感動の涙をも流す。
「テケリ・リリ・リ・テケリ*3」
ショゴスは反射した光を目にした。
白いトラック。
いわゆる軽トラと言われる物だが、人間の文化は30000年の眠りから醒めたショゴスには分からない。
「テケリテケリ?・リ・リリ・リケリテケリ*4」
運転手はおらず、トラックの積み荷はありったけの水。
幸運、捨てられた廃トラックだ。
「テケリ・リ!!」
水の入った透明な容器──1.5Lペットボトルのプラスチックをショゴスは途端に融解させて中身の水をありったけ取り込む。
「テケリ・リリ・リ!」
歓喜 この世にこれ程のうまさを誇る水があろうとは。
言葉は人と違うショゴスだが、それだけは雄弁に伝わってくる。だがしかし、そんな姿を子供が見ていた。
「ひぃっ!」
「助けてー!」
「いやー!」
「テケリ?」「テケリ・リ?」「リケリテケリ」
まるで言葉が通じない。ショゴスは心の内でそう思った。
1歩子供─7~9歳と言った1人の男は命乞いばかり。
ショゴスには人間の言葉は理解出来ないが、本来人間の何倍もの賢さを持つ古のものから奴隷として作り出されたショゴスはあれが命乞いだとは容易に想像出来た。
ショゴスは蹲り助けてと叫ぶ子供に飛びかかろうとした。
そんな時、あることを考えた。
「テケリ・リ?」*5
1. もしもあの千の化身を持つ無貌の神だったら
即座に残酷に殺されて終わり
2. もしも呪文を知っていたら
退散or自害命令コース
3. もしも本当に人間だったら?
こいつは体長が小さく孤立した1匹、つまり親からはぐれた子供!食える!
だがしかし、もしもその子供が本当は無貌の神の化身の1つだったとしたら?
思考は堂々巡り、超高速で自身の仮想論と討論をしたショゴスは、結局こいつはただの子供。
そう早合点した。
「これでも喰らえー」
現れたのは五角形の黒と白が入り交じった球体、サッカーボール。 まるで一瞬のうちに転移したかのように急に現れたサッカーボールにショゴスは反応できない。
靴が輝き、蹴りをショゴスに向けて放つ。
「テケリ・リケリリ・リテリケリ」
嘲り、愚かな行為に嗤うショゴス。
「そ、そんな」
サッカーボールは受け止められ、玉虫色に体が輝き出す。
「テケリ・リ!」
空気を押しのけて悪臭の気体が辺りに漂う。
今だと狙いを付けて触手を放つ。
「なーんてな! 全部演技だバケモン!」
「こちとら死体は何度も見てるんでな!その程度屁でもないぜ!
とんずらこかせてもらう!」
触手を回避した青年は、走りだして─
────青年?
辺りにあった木の枝、Yのような形から犬が飛び出す。
攻撃射線上にショゴス一匹、跳ね飛ばしてやるティンダロスの猟犬はショゴスに足を伸ばし攻撃する。
だが甘い甘い甘すぎる。
ショゴスは大ジャンプを放ち体を球形にしてティンダロスの猟犬を覆う。 ティンダロスの猟犬が現れるのは120°以下の鋭角からなため1匹のままだ。
ショゴスはティンダロスの猟犬を消化した。
ショゴスはゲル状の粘液であり、優れた消化能力を有する。
ティンダロスの猟犬に物理攻撃は一切効かないが、ショゴスならば消化可能*6。
ティンダロスの猟犬を消化したショゴスは改めて青年に向き直り飛びかかる。
「くらえ電気銃!」
まさか! ショゴスは思い出した。イス人のことを。
イス人は精神を入れ替え体を渡る事で生き長らえるろくでもない奴らだ。まさかこいつ、イス人の餌食になったのか。
ショゴスは少年改めて青年を覆う。
「このボディは身体能力が高い!」
「テケリ・リ!」
内側から触手に覆われたイス人とその依代の肉体。
肉体の破壊の方が楽だ。
しかし、イス人は放っておいておくと
大惨事を巻き起こしかねない。
そう判断したショゴスは、イス人だけを掴む。
「!?」
「何ッ!」「まさかこいつ」
「霊体を直接掴んでいる!」
「やめろおおおおおおぉ ───あ」
イス人を砕いたショゴスは改めて青年をどうしようか迷う。
食うべき?
食うとまずいと脳が囁く*7のでショゴスは放っておいて置くことにした。
過去ミ=ゴの脳缶保管庫を襲撃してよかった。
もし脳みその数が少なかったら完全に間違えていた。
ショゴスの脳は今までの犠牲者の脳みその再現率と己の強固な記憶能力によって成り立っている。
30000年の間脱水の干からびたショゴスには記憶能力が殆ど失われてしまった。
あ!そうだ!
小さな口がショゴスから発生する。
玉虫色のショゴスが徐々に人になる。
およそ240cmの身長で、寸胴体系の女になった。
「ぽ ぽぽぽ」
困った。人間の女で知ってる情報が極端に少ない。
男にしよう。
顔…は後からでいいや、大人の男を作ろう
「かォはいいや」
「青年の身長をざんこぅにして」
「身長ば2.4mぐらぃ?」*8
「残りぱ足ど腕に詰めぢゃおう」
「声が足りなぃ」
喉──空気の震度によって音を作り出し声を出す。
それならば、弦のような仕組みを使えば人間の模倣は出来るのでは無いか?
「あーいうえおー、かきくけこーさしすせそッたちつてとなにぬねのはひふへほまみむめもやゆよらりるれろわをん」
完璧だ!
やった!!
ショゴスは小躍りした。
人間の文化に服があるのを思い出した。
服は目の前にある。これをまねよう。
うーん、青いスーツは難しいから本体を薄ーく四角にして、
身に纏うか。
そしてスーツっぽくすればスーツに見えるだろ!
ショゴスは忘れていた。青年が起きる時間を。
「おっと!まずはこの青年を市街地にそろそろ
運ばなければいけない!」
ショゴスはせっかく作った服を惜しみながら、全力で溶かさないように注意して運ぶ。
コンクリの大穴の回りはまずい。 見つけて落ちると落下死する。 できるだけ遠くの所に置いた方がいい。
「うーん、ここら辺がいいかな!」
「ここは…」
「シーッ」
青年、工藤新一は声の出処を見た。が、思わず言葉に詰まり、戦慄した。 口は正しい位置にあるが、首に無数の目があり、
およそ人間では無い。
「ひっ」
SAN値チェック、1d20である。
「ショゴス式気絶パンチ!」
関節が無い触手なためパンチと言うが、ほぼムチのような感じになってしまった。が、工藤新一の体力を1度に大きく削り、
半分以下になった。
つまり、ショックロールだ。
が、確定気絶なため省略され、気絶した。
「ふぅ。」
「あっ!顔作り忘れてた!ちくしょう!」
スーツがアスファルトに溶け、肉体も宙に消えた。
残ったのは、玉虫色の液体だけだった。
「バィバィ、名も知らぬ青年」
そう言ってショゴスは、排水溝を進んで行った。