…唯一。忘れていたことがあった。
私の、名前だ。
“アッシュノワール”。
それが、私の…ウマ娘としての名前だった。
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夢から目が覚め、私は走る。
不思議と息が切れず、ずっと足取りは軽いままだ。
星々が瞬く夜を、私は駆け続けた。
走り続ける内に、朝日が昇り始める。
腕時計に目を移す。
…私の目が可笑しいのだろうか、
まだ腕時計の針は3時を指していた。
そう、不思議に思いつつも私は再び走り出した。
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走り続ける足を止め、強く握り締めていた拳を解く。
私の掌からは、血が滲んでいた。
無意識の内に、爪が食い込んでいたのだろう。
また、走り出す。
気付かぬ内に、見覚えのある物が目に入った。
…三女神の像。
この世界…現実にはあるはずの無い物だ。
像の前に一歩、踏み出す。
近づくと、女性の声が頭の中に響く。
“まだ諦め切れてないの?”
…諦められるわけが無い。
私にとっては願っても無い事だった。
この空っぽな自分に、あの時だけは…
トレーナーと一緒にいた時は価値を見出せたから。
諦めたく無い。
“なら、私に…私達に見せてみせなさい。”
そう聞こえると、辺りが眩い光で包まれた。
眩い光に対して
反射的に閉じてしまった目を開くと、
私の姿は変わっており、
かつての姿…ウマ娘としての姿に変わっていた。
周囲も変わっている。
あの時、あの場所で起こったことを、
私は忘れないだろう。
…有マ記念…中山レース場のターフビジョン前だ。
私は有マ記念で勝った直後、
故障を起こして意識を失い、夢から醒めた。
私にとってはトラウマに等しい。
呼吸が、心拍が、動悸が、
自然に上がってしまう。
なんとか落ち着きを取り戻すと、
ある事に気がついた。
目の前には、
影を纏った様な風貌のウマ娘が何人も立っていた。
彼女らに見覚えは無いが、はっきりと分かる。
<皇帝>。
<皇帝を超えし帝王>。
<日本総大将>。
<世紀末覇王>。
<新時代の扉>。
<金色の暴君>。
<お祭りウマ娘>。
<蒼空の覇者>。
<総てを蹴散らす天賦の才>。
私には”私達を、超えて見せろ”と、
言われたように聞こえて。
鼓動が暴れる。…前と同じだ。
それに加えて、
体が震える。恐怖からか、
武者震いかは私にも分からない。
しかし、此処で待っていても、
立ち止まっていても、何も始まらない。
覚悟を決め、ゆっくりと歩み、向かう。
…私の運命を変える為の、ゲートへと。
…閑散としたレース場に、足音が唯響き渡る。
分かってる、無謀だって。
でも踏み出さなきゃ、何も変わらない。
…変えることすら出来ないから。
運命の時が、審判の時が迫る。
…\ガコンッ!/