サオリの元親友で現実逃避気味なアリウス生徒の話   作:かぶり猫

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プロローグ 火と灰に染まる日、私は───

 

 耳をつんざく爆発音が通路へと響き渡る。

着弾地点からそう近いわけでもないはずのここですら思わず顔をしかめるような音に、その威力を想像して身震いした。

 

「チームⅢ、作戦地域へと突入します」

 

 スクワッドのあの子……ヒヨリちゃんの声、私は言われるがままに走る。

通路を抜け、火と灰に染まる視界。

肌を撫でる風に熱さを感じずには居られない、だがその感想は、私が持ってはならないものだと無視をする。

今まさにゲヘナとトリニティを結ぶきっかけになるかもしれなかった場所、その瓦礫を踏みつけたのだから。

 

「う、うぅ……」

 

「痛いよ……狭いよぉ……」

 

「誰か……助けて……」

 

 辺りに響く悲鳴、苦痛に喘ぐ声、助けを求める声、ナニカが軋む音から、この惨状を生み出したのは私たちであるという事実から目を逸らす(逃げる)

彼女たちはトリニティとゲヘナだ、私達アリウスへと弾圧を行った者、そして相容れない悪魔。

彼女たちが苦しむのは至極当然のことであり、アリウスからの報復である。

唱える、唱えて、そうであると自らを納得させる。

 

 ああ、そうだ。

銃のメンテナンス、ちゃんとしたっけ、分解から一通りしたはずだけど、どうだったっけ。

一度考え始めれば、あの声たちは聞こえなくなった。

 

 彼女(ヒヨリ)の後を追う、それだけでいい、そうして言われた通りに敵を撃つ、それだけでいい、それ以外に考える必要は無い。

 

 ふと、彼女の足が止まる。

何事かと前を向けばそこには───────

 

 

──────傷だらけの最強(空崎ヒナ)が立っていた。

 

 

「ひ、ヒナさん、まだ立ってますねぇ……」

 

「ど、どうしましょう……あれを受けてまだ立っているなんて、すごいですねぇ、強いですねぇ……まだまだ戦うなんて、どうして……痛いはずなのに、苦しいはずなのに……」

 

 リーダーの言葉を隅に頭が急激に冷えていく。

傷だらけ、いくら最強と言えどもあのミサイルで受けた傷だ、そう軽いものでは無い。

今の私たちでも勝てるのではないか、そう楽観的に考え───────即座に不可能だと理解する。

 

アレは私たちで勝てる相手ではない、そう頭の中で警鐘が鳴らされる。

理屈ではない、感情でもない、もっと根源的な、本能からの恐怖。

まるで、あの方を前にした時のような…… 。

 

「あ、あなたを先に行かせないように言われているので……すみませんが、これも命令でして……」

 

 竦む心とは裏腹に、身体は銃を構える。

それは訓練の成果であり、私が所詮命令に従うだけの兵隊でしかないことを如実に表していた。

 

「……」

 

 最強は静かにその、鈍器とすらも呼べるであろう長身の銃口を向ける。

私と彼女のそれに違いがあるとすれば、それは銃を構える動作ひとつですら、敵を威圧するのには十分すぎる点だろう。

 

「……どきなさい」

 

 けれど、ハリボテの戦意なんてものはどこまで行ってもハリボテで、たった一言、彼女が口にするだけで剥がれ落ちてしまうようなものだった。

 

 そこからは一瞬だ。

 

 たった一つの銃口から浴びせられる銃弾の雨にひとり、またひとりと倒れてゆく。

いくら撃ち返そうとも、かの最強は揺らぐことすらない。

開幕早々動く暇すらなく倒れる生徒。

瓦礫の壁をも砕く連射に飲み込まれる生徒。

不意をつこうと飛び出していき呆気なく撃たれる生徒。

ついにはヒヨリと呼ばれた少女すら倒れ、立っているのは私1人となった。

彼女の死角になる壁の裏で息を潜めていると、足元で動くなにかに気がつく。

 

「……ぅ……」

 

 瓦礫に挟まれたゲヘナの生徒だった。

動けない程瓦礫に押しつぶされているという訳ではないようだが、もう体を持ち上げる体力すら無いのだろう。

彼女は助けを求めるかのようにこちらを見つめる。

それが、いつかの誰かに凄く似ていた気がした。

 

 そして、理解してしまった。

私もこの子も、ゲヘナであるとかトリニティであるとかアリウスであるとかは関係なく、皆痛みに苦しみ、自分以外の誰かに助けを求めるだけの子供であるという事実を。

 

「……っ!!」

 

 壁を隔てた先には化け物とも呼べるような強さの彼女が、目の前には今も私に助けを求める女の子が。

命令を遂行しヒヨリちゃんを守るか/あの最強を相手に?

この子を助け出すか/どうして私がそんなことをする必要がある?

そもそも作戦が失敗したら私たちはどうなる?トリニティに捕まる?アリウスに帰ったところで、作戦一つこなせない存在にあの方はどうする?

選択を迫られる。

いつもみたいに、何も考えずにただ命令に従うだけでよかったはずなのに、それが出来ない。

銃が小刻みに揺れる、それが自らの手から伝わるものだと、遅れて気づく。

 

 

「ぁす……け……」

 

 女の子の手が伸びる、だんだんと、今にも私の手に触れそうなほどに。

 

 

呼吸が浅く

 

目が霞み

 

音も遠くに

 

そして

 

そして────────────

 

 

 

 

 

「いい?アスカはここに隠れてて、そしてアイツらの隙を見て逃げて。……絶対に、何があっても」

 

 

 

 

 

 ありもしない声を聞いたと思った時には、既に走り出していた。

 

 

 

 逃げて、逃げて、逃げて、逃げて。

銃弾の雨に背中を撃たれても、途中でガスマスクが弾き飛ばされても、瓦礫と火の景色が過ぎ去っても、逃げ惑う人の群れを割っても、初めてこの目で見るトリニティの街並みを抜けどことも知れぬ廃墟に迷い込んでも、ひたすらに逃げ続けて。

 

 弾痕だらけになった靴が限界を迎え壊れた拍子に転げるように倒れこんだ後、ふと、とあることが脳裏に過ぎった。

ヒヨリちゃん、彼女の所属する部隊、アリウススクワッド、そのリーダーである錠前サオリ。

彼女に対して、ヒヨリちゃんを守ることが出来なくて申し訳ないことをしたなぁ、などと。

最初から出来もしない、やろうともしなかったことに再び後悔をする自分を虚しいとすら思う。

 

 そこで私の意識は途切れた。

 

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