サオリの元親友で現実逃避気味なアリウス生徒の話   作:かぶり猫

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第二話 それは偶然と呼ぶには出来すぎで(1)

 

 今日は週に2回のファミレスチェーン店「ファインネス」でホールスタッフのバイトの日。

いつも通りに開店から休憩を挟んで閉店まで、フルタイムで接客をして終わりの予定だ。

お昼時でひっきりなしにやってくる客を案内しながら記憶を振り返る。

 

 昨日、私はサオリとはもう会うことは無いと、ある種の確信をもってあの場を立ち去ったはずである。

彼女から私の居場所を突き止める手段などないし、その逆も同じく。

そう、そのはずだ。

 

「「いらっしゃいませ」」

 

 なんで彼女は私と一緒に接客をしてるの?

 

「何名様でいらっしゃいますか?……3名様ですね!かしこまりました。席へご案内いたします、こちらへどうぞ!」

 

 作り笑顔は絶やさずに、でも脳内には疑問符が飛び交っていた。

ここのバイトももう1ヶ月はやっている、確かに新人が入ってくることも有り得るのだろう。

いやでも何故よりによってサオリが??

 

「こちらがメニューになります」

 

 飲食店バイトというだけであれば何処にでもある、あえて「ファインネス」を選んだのだとしてもここはチェーン店だ、他の店舗もごまんとあるだろう。

そもそもあえてこの場所を選ぶ理由があるのか?ないはずだ、サオリがそのようなことをする理由がない。

 

「ご注文はお決まりでしょうか?」

 

 流れるように接客をこなしながら、でも相変わらず脳内はまるで落ち着きを取り戻すことは無い。

そもそもだ、サオリのてきぱきと接客をこなす様子からして初日という訳ではないはず。

……私とシフトが合わなかっただけで前々からここで働いていた?

本当に偶然、昨日の今日で出会うという偶然が起こり得るのか?

 

「ご注文は以上でよろしいでしょうか?かしこまりました!少々お待ちください!」

 

 落ち着かない、サオリが居るというだけでここまで気持ちが定まらないものだろうか。

考えないようにする、しようとする。

得意分野であるはずのそれが、酷く難しい。

厨房とホールを行き来しながら、常に心ここに在らずといった様子で仕事をこなす。

 

「ふわとろハンバーグとナポリタンでお待ちのお客様はどちら様でしょうかー?」

 

「あの……」

 

「はい!どういたしましたか?」

 

 考えないように、考えてないように……。

 

「私たちどっちも頼んでないです……」

 

「……はい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「失敗したぁ……」

 

 あの後もことある事に聞き間違いや出し間違いをしては謝り続け、ついには普段バイトに積極的に関わってくることがない店長にも「体調が悪いのなら休んだ方がいいぞ」とまで言われる始末。

サオリに気を取られて完全に仕事が疎かになっていた、今まで失敗などしてこなかったというのに。

 

 スタッフルームにて着替えながら、もう同じ失敗はしないと、今日の仕事ぶりを反省する。

きぃ、と扉が開き、誰かが入ってきた。

 

「……アスカ」

 

 サオリだ、……正直なところすごく気まずい。

これは彼女が悪いという訳ではなく、単に私自身が彼女と共にいることにどうしようもなく落ち着かないのだ。

 

「……サオリ、何か用?」

 

 一緒に居ると、「もしかしたら」などという邪な感情が湧いてきてしまう。

その感情を押し殺し、認めてしまわないように蓋をする、その作業に疲れさえ覚え始める。

 

 落ち着かないというのはサオリも同じなようで、どこかそわそわとしながら受け答えた。

 

「っああいや、何も無い。……いや、ある、な」

 

 各々、ロッカーに向かい着替えを行いながら話し続ける。

 

「ん……?」

 

「アスカもここで働いていたんだな、驚いたよ。実は私もつい4日前からここで働かせてもらえることになったんだ」

 

 4日前、ちょうど前回のバイトの次の日からだ、道理でサオリのことを見たことがなかった訳だと、ひとりで納得する。

 

「そっか。……なら私が先輩だね、先輩の教えには従ってもらうよ」

 

 つい、軽口が口から零れてしまう、そのことに手が止まる。

2人とも顔すらも合わせずに着替えているのに、会話が途切れるようにしたはずなのに。

そうなるよう仕向けたことを自分の手で台無しにしている、本当に無意識だった。

 

「っ……ああ!そうだな。よろしく頼む、先輩さん」

 

「……」

 

 心なしか声を弾ませたサオリが答える。

ああ、これはまずい、よくない、そんなものは望んではならないのに。

早くここから離れないと、そう決めつける。

手早く着替えを終わらせ、荷物をまとめると、そのまま立ち去ろうとする。

 

 でも、その前に一つだけ。

 

「……サオリ」

 

「ん?」

 

「そのカッターシャツは1番上まで止めなくていいんだよ、それだと苦しいでしょう?」

 

 サオリが制服を脱いだ姿のまま固まる。

これだけはどうしても気になっていたのだ。

 

「……そうなのか」

 

「うん、それだけ」

 

「ありがとう、助かった」

 

 サオリからの感謝を受け取る度に、自分の内からそれを拒絶しようとする声が響く。

それを無視して、逃げるようにスタッフルームを後にした。

 

「……感謝を言われるようなことじゃ、ない」

 

 

 

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