サオリの元親友で現実逃避気味なアリウス生徒の話   作:かぶり猫

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第三話 それは偶然と呼ぶには出来すぎで(2)

 

 次の日、今度はブラックマーケットではよくある抗争に際し、傭兵として雇われていた。

そしてもう1人傭兵を派遣するのでそちらと協力するようにとも。

 

そう、一昨日にサオリと再会し、昨日にサオリと同じバイト先だったことが発覚した次の日だ。

 

「…………」

 

 ぽかんと口を開きながら、ただただ目の前の光景を見つめることしか出来ない。

 

「アスカ……その、なんだ……また会ったな。……荷物が落ちたぞ、大丈夫か?」

 

「………………うん、大丈夫」

 

「どう見ても大丈夫そうな様子じゃないが」

 

「大丈夫ッッ!!!」

 

「そ、そうか……」

 

 なんだ?何?何なの本当に??

一昨日昨日今日とずっとずっとずっと!

なんで私の行く先々にサオリが居るの????

さすがにここまで来ると偶然では片付けられないでしょ???

 

 落ち着こう、冷静になれ。

1度サオリに背を向け、深く息を吸う。

 

「……サオリ、ひとつ聞いておきたいのだけれど」

 

「なんだ?」

 

「ここ3日間のことは……偶然、だよね?」

 

 まるで落ち着いていない。

むしろ意図したものでもあって欲しいとでも言うのだろうか、まるで意味の無い質問をしたと自分でも思う。

それに対してサオリは……

 

「ああ」

 

 この反応は間違いなく偶然だ、うん、本当に何も考えてなかった顔だ。

 

…………偶然、偶然でこんなことがあるんだぁ~~~そっか~~~~!!

 

 もどかしい気持ちを吐き出す訳にもいかず、もにょもにょとした表情のまま一先ず依頼をこなす為に動き始める。

 

 時間に余裕があるわけではない、まずはこの確認をしなければ。

ふぅ、と2度目の呼吸を整え、ひとつの質問を行う。

 

「……サオリ、ここにいるってことは、私が組む相手はサオリだっていうことでいいんだよね」

 

 その言葉を境に、私たちの間に漂う空気が一変する。

 

「ああ、目標はブラックマーケット3番地の封鎖、これによりニャンニャン派の援軍として派遣されたポッポー派の一味を分断することだ」

 

「同じだね、了解。方法はどうする?これ、通信機器」

 

「助かる、ブービートラップの類を展開して待ち構えればいいだろう。情報ではポッポー派は今回の抗争にはあまり乗り気では無いらしい、大所帯という訳では無いだろうからな」

 

 1度任務を行う姿勢へと入ってしまえば、それに必要な思考以外の一切を遮断できる(見ないフリできる)ようになる。

かつて私が持っていたはずの技術が、今もまだ健在なことを確認した。

 

「こっちで収集してた情報と相違なし、加えて言うならおおよそ10人程度の規模だって噂かな」

 

 てきぱきと、教え込まれた動きを繰り返す。

爆弾の作り方、障害物の作り方、いかに姿を現さず意表をつくか、所謂ゲリラ戦の戦い方。

どれもアリウスで嫌という程学んだことだ、であればそれを繰り返すだけで済む。

 

「10人か……しっかりと対策をしていれば怖い人数ではないな、油断は禁物だが」

 

 ブラックマーケットでの抗争は日常茶飯事だ、抗争が始まればそれに与する者以外は足早にその地域を立ち去る。

逃げ遅れた者に対する情けなんてものは無い。

 

 罠を作り続けて1時間ほど経った頃合だろう、静まり返ったこの通りに駆動音が響き渡る。

 

「……来たぞ」

 

「了解」

 

 双眼鏡を手に取り、建物の隙間から覗き込む。

 

「目標は戦車1台と歩兵6人。戦車はおそらくクルセイダー巡航戦車、形から見て旧式のものと推測。警戒している様子はナシ、乗り気じゃないっていうのも間違ってなさそう」

 

 クルセイダーについてはおおよそどこかの裏ルートをたどってブラックマーケットに流れ着いた盗品の類だろう。

歩兵は……歩き方からしてまるでやる気が感じられない。

 

「……歩兵については戦力として数えなくてもいいだろう。罠にかかった後もし意識があったとしてもすぐには動けない。問題はクルセイダーだ、アレを仕留め切れる爆弾は使っていない」

 

「良くて小破、悪くて無傷って感じだね……。その時は?」

 

「残りの罠は全て破棄、交戦を開始する。2人で落とすぞ」

「……了解」

 

 ……足手まといにだけはならないようにしなければ。

 

「目標、罠に接近、接触まで3、2、1───」

 

 轟音、手榴弾を利用した即席のトラップが起爆した音だ。

まず罠は成功、これで全部解決してくれれば良いのだけれど、そう上手くはいかないだろう。

目標は黒煙に包まれてその姿を隠し、未だ出てこない。

 

「起爆、目標には直撃したと思われる。煙に隠れて姿が────出てきた。歩兵6人は気絶、残るはクルセイダーのみ」

 

  黒煙を突き破って現れたクルセイダーに目立った傷はひとつも無い、対するは対戦車ライフルや地雷の類無し、有効打は直撃の手榴弾程度の歩兵2人。

本来ならばあまり推奨された戦法では無いのだろうが、サオリとなら絶対にいけるという確信が胸に満ちる。

 

「……行くぞ!」

 

 その言葉を皮切りに、物陰から飛び出す。

クルセイダーから右前方にサオリ、左前方に私。

ヤツが主砲を撃つ頃には狙われなかったどちらか片方が貼り付ける算段だ。

 

 さあ、どっちを狙う。

 

クルセイダーの主砲が旋回したのは、右、つまりサオリの方向。

 

「サオリ!!」

 

「ああ!」

 

 だが、それでは遅い、そんなものでサオリを捉えるのは不可能だ。

サオリは即座にクルセイダーへスモークグレネードを投げると、建物裏へと隠れる。

次の瞬間、クルセイダーが煙につつまれるのとその主砲が発射されるのは同時だった。

 

 煙幕によって相手は視界が塞がれている。

そんな状態で機関銃を撃たれたところでかすりもしない。

その隙にクルセイダーの側面へと張り付くと、車体下部へ手榴弾を投げ込み、クルセイダー上部へと駆け上がる。

これで破壊できるなどとは到底考えていない。

 

 下部の手榴弾が起爆、大きな揺れを伴いながら戦車は進行を停止した。

ただの手榴弾であっても、唯一装甲の薄い下部からの攻撃ならば戦車の足を一時的に止めるくらいの力はある。

 

 ここまでは順調、そしてチェックメイトだ。

クルセイダーのハッチをこじ開ける。

中のオートマタと目が合う、無機質なソレが怒りに染まるのを肌で感じる。

 

「貴様ッ───!」

 

 今更やる気になったところで遅い!

 

「これで終わり!」

 最後のひとつ、残しておいた手榴弾のピンを口で抜き取る。

そしてそれを投げ込むと、勢いよくハッチを閉めた。

 

 飛び退くようにして私がクルセイダーから離れるのと、かの戦車が内部から爆炎を吹き出して機能停止となるのは、ほぼ同じタイミングだった。 

 

 

 

 

 燃え盛る戦車を眺めながら、呼吸を整え、額に滴る汗を拭う。

 

「アスカ」

 

 名前を呼ぶその声に振り返る。

 

「よくやったな、依頼完遂だ」

 

 褒められた、そんな気が───

 

───見て見ぬフリをする、今、私は戦車の爆発音で何も聞こえなかった、そういうことにする。

この言葉を受け取るには、今の私ではダメだ、そう、今の私では。

 

……認めるしか無いのだろう、私は、もう一度サオリとの関係をやり直したいと望んでいるのだ。

でもそれは今この瞬間の、逃げ続けた結果の私では受け入れられない。

もう少し、何かを為せる自分になってからでなくては、その資格はない。

 

 私はまだ、サオリや……エデン条約事件の被害者にも、謝罪のひとつすらできていないのだから。

 

「……これで終わりなら、伸びてる人達を拘束して立ち去ろう。戦車の中の人も、今ならまだ無事だろうし」

 

 初めてちゃんとサオリの顔を見て話せた、そんな気がした。

 

 

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