転生TS巡海レンジャーさん 作:─────
「「ど〜れだ!?」」
家のドアを開けた私にそう話しかけたのは四人の花火。
それぞれが私に向けて、ニヤニヤと笑みを浮かべている。
私はその中の一人を抱きしめてみせた。
「ずいぶんと上手になったね」
「そう言うなら一発で当てないでよ、つまんな〜い」
「ははは、これでも君に教えた張本人なんだから、この程度は見抜けないとね」
そう言って笑った私に、花火は臍を曲げたような態度でそっぽを向く。
花火と“成った”少女と私が出会って約三年半、花火は私は教わった幻術で彼女に牙を向くが、その牙が私に届くことはなかった。
一方でイタズラをされてばかりの私は、『これも花火の幻術に磨きをかける一助になるなら、いいか』などと思ってこれを放置していた。
そんな日々が二年半、しかしそんな日々も終わりが近いことを花火はすでに勘づいていた。
その日の夜
「──やっぱり、どっか行くんだ」
「なんだ、気がついていたなら教えてくれれば良かったのに」
「……どこ行くの?」
「決めていない、あてもなく旅をするんだ」
「カンパニーとケンカするために?」
「結果として、そうなるね」
花火の問い全てに、私は澱みなく、そして表情ひとつ変えずに答える。
「私、まだあなたの顔も知らないのに」
「……?顔ならほら、今見てるだろう?」
「それも幻術でしょ、花火は知ってるよ。性別も顔も、ホンモノじゃない」
「おや、それも気がついていたのか」
驚いたフリすらせずに、私は彼女に返答した。
彼女も私の仕草に驚くことはない。
そうだろう、お互い嘘塗れだとは初めから知っていたのだ。
知っていても、楽しい日々だった。
私は振り返らず、宇宙船に乗り込んだ。
動力をオンにして、少し角度の調整だけしてやればこの宇宙船はすぐさま大気圏を突破する。
少しの間に、花火の姿も見えなくなったことを少し寂しく思いながらも、私は宇宙へと旅立ち、エンジンの噴射を止めた。
このまま漂うに任せて彷徨う、それが私の旅だった。
???日後
何日間旅をしただろう?
こうしている時間は私にとっては苦痛ではない。
これは過去を思い出す時間なのだ。
こうして、センサーに見つからないように反射を止め、小惑星帯を旅した我らが一族のことを思い出す。
そして、復讐の念を再び抱く。
そうして漂っていたその時、強烈な衝撃が私の宇宙船を揺らした。
別の宇宙船にぶつかったらしい、驚いて外を見ると、そこには列車の形をした宇宙船があった。私は謝罪のためにドッキングを申し入れ、中に入った。
「ちょっと!私たちの列車にぶつかるなんて────」
桃色の髪の少女が閉口する。
私は今、幻術によって自らを男に見せているが、もしかしたらそれが彼女のタイプだったのかもしれない。
「…この度は誠に申し訳ない、お嬢さん。僕はこの通り渡せるものなど何もない身分だが、どうか許してはくれないだろうか?」
「いや、そういうことを言いたかったわけじゃなくて、後ろ後ろ!」
背後を見ると、私の宇宙船が煙を上げている。
私は咄嗟に宇宙船を列車から切り離した。
閉じるドアの向こうで、列車から離れた宇宙船が小規模な爆発を起こしてバラバラに、宇宙の藻屑となって流れていった。
「……その、えーっと〜、ご愁傷様…?」
「おや、どうやら状況はあまり良くないらしいな?なのか」
「あっ、ヨウおじちゃん!あの宇宙船、なんとか回収して直せない?」
背後から茶髪の男性が歩いてくる。
彼はどうやら只者では無いようだが、もう少ししたらここからも去るつもりなのだから、あまり気にせずとも良いだろう。
「難しいな。遠目で見た時も思ったが、相当年季が入ったものだった。あれをどこで?」
「カンパニーの職員が数百人突然死した事件を知っていますか?あの時、ちょうど近くの惑星にいて乗組員が死んだあの宇宙船を見つけたのです。誰も回収に来ないものですから、利用させてもらってたんですよ」
「……ふむ、穏やかじゃないな」
「……ははは、確かに不道徳に見えるかもしれませんが、少しだけ訳があってそうしたんです。お気になさらず」
「じゃあ本題ね、これからどうするつもり?」
赤髪の女性がこちらにやって来る。
やはり見た目に違わずそれなりの人数がこの列車で生活しているらしい。
「この列車はこの後どこへ?」
「宇宙ステーション「ヘルタ」よ」
宇宙ステーション「ヘルタ」。
その名を聞いて、私はようやく三年前の約束を思い出した。
「……僕も、そこでおろしていただけますか?」
「どうしたの?顔色が悪いわよ」
「ほったらかしにしていた約束を思い出したのです」
「……そう、詳しくは聞かないことにするわ。宇宙ステーションに着くまで、変なことはしないで頂戴ね」
「もちろん」
こうして私は宇宙ステーション「ヘルタ」へ戻ることになったのだった。