今年入ってきたトレーナーがすごすぎる。
どうも、去年の新卒入社で経験1年目の新人っす。今年は念願の新入社員が入ってくる年なんだけど、ちょっと様子がおかしい。自分が初めてウマ娘を担当しようとしたとき、誰も相手にしてくれないからとあるチームのサブトレーナーとして活動をしたんだ。
トレーナーとして才能がないやつの苦々しいスタートかと思いきや、
学園やウマ娘を間近で確認するためにチームに入ってノウハウを会得するのが普通なんだとか。
むしろ新人なのに、先輩を頼らずに成長するのは、それはそれで嬉しいが所属するまで知らなかった小物の場所とか裏技とか教えて貰えるから入ったほうが懸命という。
自分もここに入るまで、予約とか優先順位とか、チーム間のちから関係が明確で成績が良いチームが優先されるなんて思っても見なかった。
機会は平等と思ってたのだ。
いやー、世知辛いね。
さて、例の新人がすごいところがなんなのか。それを教えていなかった。
つまるところ、他のチームにサブトレーナーとして所属せず、しかもチームを立ち上げず個人でウマ娘を担当するというのだ。
自分はサブトレーナーとして働きながら、そのトレーナーの動向を見守るように指示されたんだ。
何も知らないのはまずいので、何かあれば助け舟を出してやってくれとチーフトレーナーからお願いされた。合点承知! 先輩として、後輩を助けるぞい!
なんて気合を入れていたのに、なんだかおかしいぞ?
新人トレーナーなんて、名門とか世襲でなければウマ娘はよってこない。
よっぽど今年出走のウマ娘があぶれてしまった場合とか、名義貸しなどがなければならないほど他のトレーナーに見初められなかったウマ娘が多いとか。
本当に限定した状況じゃなければ、声をかけることすらしない。
だというのに、彼……後輩くんは男で聞いたことがない名字であるのにも関わらず、
いろんなウマ娘の中で才能がある子に声をかけるんだ。
まあ、ちょっと独白するけれど、自分も他の大多数のウマ娘にちょっとした特徴を探り当てているんだ。
そのウマ娘たちは、全員重賞を取得している。選別の目を鍛えているんだけど、ネームバリューがね。
「というわけで、タキオンさんよろしくお願いします」
「というわけでってなんだい」
「あのトレーナーが、あんな対応をされているのか」
「あんな対応?」
「ぶっちゃけ怖い」
「まあ、君がいうんなら相当なんだろう。連れていきたまえ」
いつも旧理科室の一室を占領しているアグネスタキオンに、そのトレーナーの不思議を少し暴いてもらいたかったので
連れてきた。
彼はいつも正門前の広場で、一定のウマ娘に声をかけている。
その声をかけたウマ娘の一部の反応がおかしいのだ。
「へえ、これは面白いね」
「いや、面白いって……鼻血出てるけど?」
「おっと失敬。いや……」
建物の一角から覗き見ているが、タキオンが彼を目にした瞬間鼻血をぼたぼたと落とし始めた。
え、なに? カフェイン中毒かなにかで、鼻腔の毛細血管が破れたのか!?
と勘ぐったんだけど、そうではないらしい。
「原因不明の体温上昇。動悸と目を離したくなくなる興味とこの一瞬全てを脳裏に焼き付けたくなる衝動。なるほど確かに。とてもきょうみをそそられるね」
明らかに目がおかしい。焦点があってない。とにかく、タキオンの鼻血を止めることにした。けれど、その手を払われる。
必要ないのかと思ったんだけど、こっちを一瞥してそのトレーナーのところへ向かう。
すると彼は驚きつつも、自身のハンカチでタキオンの鼻血を止血する作業を行う。
あれ、なんかおかしいな。初対面のハズでは?
いきなりタキオンは彼に体重をかけるように身を寄せると、彼もそれに応えるように腰に手を回すんだ。
そういう関係だったのか!? いや、不思議な感覚と言っていたから、それを精査するためあえてやりにいったんじゃ?
そう思って再度表情を見る。彼を会話しているとタキオンの顔が隠れるから、あんまり視認できない。
だけど、最後に正門から一緒に出ていく時に表情を見たが、完全に好きな人に対する表情に変わっていたんだ。
突っ込みたいところしかないけど、第一印象として怖いんだけど。
あの変人タキオンがなつくとか。
いやまあ、最近どころかウマ娘も子どもだし、変な承認欲求はある。
だけどそこをうまく突くとか。あまりにもおしゃべり上手というか、核心を突くのがうまいというか。
ちくはぐだけど、ウマ娘との意思疎通が何よりも大事だからなぁ。
一概にダメなんていえない。
でも、何より奇怪なのは、あのタキオンがなついたことだ。
変人へのパーフェクトコミュニケーションは、後々面倒になるぞお?
ゴレムさん、誤字訂正をしていただき誠にありがとうございます。