親愛度+6000   作:名無しの権左衛門

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退職

 やあやあ、一年と半年前に入社した新人トレーナーだよーん。

いやあ。あれからだいぶ経過したね。

あの事件から二ヶ月かぁ。長いようで短かったねー。

 今自分は決闘罪・傷害罪・名誉毀損・不純異性交遊等、

いろんな罪を被ったけど色々あって懲戒免職扱いになってる。

 

 トレーナーバッジと免許を剥奪されてる状態で、

教員免許すら取得することができない。

だから今はスーパーで、長期パートで働いているぞ。

 今まで独身寮にいて、なおかつチーフがG1をマックイーンさんたちで取っていたから、

その優勝賞金の一部が入ってきたんだ。

おかげで今、あまり食生活を崩さず、すこしだけいいアパートに住めてる。

 

 安すぎると築年数やモラルの低い住人がいて、盗みとかスゴイらしいからさ。

 

「やあ、サンデーサイレンス。あの子達はどうだい?」

 

<げっ、なんでわかったし。あー、バブルガムフェローは、無事じゃなかったな

 案の定、鼻血ダラダラだ

 

 あー、やっぱりダメだったかあ。

デジタルさんを保健室へ運んだと思うと、そのまま救急車で搬送されて

自分は警察に拘束。そのまま拘留されて不起訴処分後に出所。

トレセン学園のメンツとトレーナー責務の放棄ということで、会社都合の退社だ。

あの新人トレーナーがどうなったか、全く情報がないのがつらい。

 

「結局マックイーンさんはどこ行ってたんだい?」

 

<マックちゃんは、あいつを慕っているきりゅういん?とかいうトレーナーに、

 面倒を見てもらってた

 

「そっか。なんにせよ、アレの毒牙にかかってなくてよかった。

そうだ。マチカネタンホイザさんは、今回の件で体調を崩してないかな?」

 

<あーすくなくとも、トレセン学園の方からお前への悪感情は感じないな

 

「そうなのか?」

 

 なんとも信じられないなぁ。

自分は案外直情的で、敵を作りやすい性格をしているんだ。

だから+-0みたいなもんだろう。

 さて、資格の書物をしまって、仕事のために出発の準備をしないとな。

まずはトレーナーという聴く仕事を活かすため、

ファイナンシャルプランナーや宅建を取ろうと思っている。

 自分の市場価値は、あの野郎のせいで地に落ちているからここで巻き返さないと後がない。

ったく、一年ちょっとで、会社都合の退職とか人生ハードすぎるぜ。

 

 

 

 

 

 

 ああ、疲れた。肉屋のスライサーは中々怖いなあ。

段ボールを作成する工房でも、簡単に指を飛ばすと聞いたことがある。

こっちも飛ばさないように、ちゃんと待っておかないとな。

 こういうスライサーは、ちゃんと電源を切ってから各種確認と調整を行って、

再度電源を入れたら足元にあるペダルを踏んで肉側を動かす。

 

 そして、回転する刃にあたった肉がスライスされて飛んでくるのを、

青いゴム手袋を着用した手で受け止めてトレイへ並べていく。

 

 ミンチは鳥・豚などのいろんな混ぜ込まれたものを、機械の中へ入れて押し込んでもらう。すでにミンチ状なんだよなあ。

 

 で、トレイへ入れたら包装機へ向かって、誰でもわかる表を見て品番を打ち込み、

単価や売価を設定。そのまま、測りのくしへ置いて包装してもらう。

このとき手袋は商品を掴む方だけ残して、包装後の商品とラベラーを取る手は手袋を外すんだ。

こうしないと包装した意味がない。

 

 さて、油や肉で汚れた機械を、お湯と洗剤で洗っていく。

鋭いもんがいっぱいで怖いなあ。

 

「今日の研ぎは……」

「じどうけんまき~」

「パートリーダーさん、ドラえもんはのぶよさん時代にみてましたか?」

「あたしゃ、わさドラだよ」

「失礼しました」

 

 

 

 はあ、今日は何にしようかな。テキトーに豚の生姜焼きでいっか。

あまったのは豚汁にして、こっちは野菜炒めに使って。

よし、エバラ様々なんじゃ。

 

 

 

 鍛えているおかげか、身体はつかれていない。

今日も走って自室まで帰ろう。

何、体力があればあるほど、毎日の気力が衰えることはないんだ。

それに地理を把握するのも、大事なことだと思っている。

 周辺の交通に気をつけて走っていくと、

嗅いだことがあるにおいが鼻腔へ広がる。

 

 ソレと同時に広がる食欲を沸き立たせる香り。

 

 

 まったく、豪勢だねえと感心していたんだが、

自室の玄関前にたどり着くとニオイの発生源が自分の居住スペースから

漂ってきていることが判明した。

誰だろうと思ったが、みたことがあるお友達集団。

 ああうん、なるほど?

ある程度わかってしまうんだから、自分も慣れたもんだよなって思う。

 

 ガチャリとドアノブをひねって入ると、

知っている雰囲気を感じ取った。

 

「よお、トレーナー。お邪魔してるぜ」

「おかえりなさい、トレーナーさん……」

「お、お邪魔してます……」

「押しかけてしまい、申し訳ございません」

 

 ゴールドシップさん、マンハッタンカフェさん、アグネスデジタルさん、メジロマックイーンさん。

元気なのはゴルシさんだけで、他のみんなはバツが悪そうな感じだ。

そんなに負い目を感じているなら、もっと元気だしてから来てほしかったな

まあいいや、なんの準備をしているんだろうか。

 

「今夜は、マックイーンのところのチーフがもってくれたんだぜ?」

「え、チーフが!?」

「おうよ。だから、豪勢にすき焼きだ!」

「牛か?」

「ったりめえよお」

「しゃあ! 牛!」

 

 収益があろうと、こういう貯蓄はあまり手を出さないようにしている。

もしもがあったとき、なかったら困るからだ。

なにせ書物とか国保とか、結構食らうから貯蓄を切り崩さないと払えないんだよな。

 

「カフェさん、久しぶり」

「お久しぶりです。前よりもやつれましたね……」

「まあね。カフェさんも、だいぶ目の下のくまがひどいと思う。

ちゃんと寝なよ?」

「はい……」

 

 お友達の一部も少々くらい雰囲気だ。

これは何かあったな?

 考えればわかることだ。なんせ、複数でありながら、中央トレセン学園のウマ娘が、

独身の男のところに押しかけているんだ。

これで何かなければ、怪しすぎてびっくりする。

 

「デジタルさん、やっと退院したんだね」

「……あの、お願いがあります」

「何かな?」

「帰ってきてください。わたし、男性が怖いんです。あなたじゃないと……」

「自分はきみの風評被害を含めて、退職でなんとか抑えてもらったんだ。

今更戻ろうとしたって、許されるわけがないよ」

「だ、だったら、わたしと婚姻してくださいっ。

社会の責任をとったのでしたら、わたしの人生の責任も一緒に取ってください!」

「それはダメだ。デジタルさんがよくても、あなたのご両親は?

デジタルさんにつながる多くの家系、人々が被る悪意ある噂が立つよ。

あの凶悪犯罪に手を染めた元トレーナーと籍を入れたって。

それで会社を含めて信頼が落ちるんだ。中央トレセン学園所属のウマ娘ということと、

社会的地位を持つご両親を持つ子として、ちゃんと考えてほしい」

「あたしはッ! トレーナーさんじゃないと、嫌なんです……」

 

 自分はただ等身大の少女の背中を撫でることしかできない。

それ以上は重いんだ。せめて、時の流れで思い出を風化させて、いい男性と

いい出会いをしてほしい。

自分勝手だが、ソレが一番いいんだ。

 

「あの……」

「やあマックイーンさん、お久しぶりです」

「はい、お久しぶりです。その……ご迷惑をおかけしました」

「別にいいよ。それよりも、チーフやみんなには謝った?」

「はい。ちゃんと誠心誠意謝罪しました。それと、例のトレーナーの解雇とともに、

復帰することにしました」

「よし! マックイーンさん、あなたが戻ってきてくれて嬉しいよ。

彼らと一緒に、再び歩んでいってほしい」

「……トレーナーさんは……」

「帰らないよ」

「そうですよね……」

 

 この子も嗚咽混じりになり始めたので、頭を撫でて慰めることにした。

その間にも、カフェさんがゴルシさんの手伝いをして、すきやきの準備ができた。

 

「そんじゃあ、暗い雰囲気はほどほどに、同じ釜の飯くらおうぜ!」

「っしゃあ、待ってました」

「ええ、話したいことはたくさんあります」

「トレーナーさん……」

「泣かないの。ほら、食べよう。お腹が空いているからぐうぐう泣くんだ。

お腹がいっぱいになれば、笑顔になるよ。ほれほれ」

「う~」

「マックイーンさん、過食は厳禁で」

「しませんわ!」

 

 箸で鍋をつついていくと、ゴルシさんが話し始める。

なんでも今回のトレーナーを解雇すると、今まであのトレーナーの毒牙にかかっていた

ウマ娘の洗脳を解く事ができたそうな。

 なるほどな、と思う前に洗脳ってわかったんだ、

そこのほうがびっくり。

 

 で、例のトレーナーに関する記憶が、洗脳を受けたり話しかけられたウマ娘以外から

記憶が消し飛んだ。そして、このことを理事長やたずなさんは知らない。

そもそも、そんな存在がいなかったかのように振る舞った。

 最後に今回の事件の顛末は、不可解な事件として処理されている。

世間がいうには、よくわからない理由で解雇されたトレーナーがいるという噂話になっていた。

 

 つまり、あの解雇が決定した瞬間、ぽっかりと穴が開くように情報が一気に抜け落ちたらしい。

 

「それと、お友達が調べたらしいんですが、彼に実体はないそうです」

「はい?」

 

 ミスターフリスキーたちがうんうん頷いているが、まさか新人トレーナーは

概念そのものだった!?

 話によるとなんらかの意識の結合であって、それがウマ娘と人の思いが結晶と同時に融合。

結果、あんな洗脳マシーンになったという。

もっとマシな嘘をついてほしいな。

 

「明日、ちょっくら理事長に掛け合ってくっからよ。

今のうちに身だしなみを整えておくようにな!」

「わかった。もし何かあったら早めに頼むよ。辞めるにも手順を踏まないといけないからね」

「っしゃ、任せな」

 

「シメはご飯にしますか? うどんにしますか?」

「うどん! うどん!」

「では、うどんを投下しますね。えいっ」

 

 しらたきとか結構投入されていたが、だいたいマックイーンのお腹に入っていった。

それでも全員食べられたようだし、鍋が一番多人数で食べるのに効率がいい食事方法だと思い知らされた。

なお、この部屋は冷房が効いた部屋だったりする。

 すでに10月であるというのに、まだまだ真夏の気温だ。

ヒートアイランド現象で有名な関東圏だが、10月でこれとか地球温暖化が進んでいるなあと感じるよ。

 

「この後みんな帰るのか?」

「いんや?」

 

 ゴルシさんに尋ねると、首を横に振ってくる。

あん? ちょっとまて、まさかこれ。

 

 と思ったら案の定だ。

 

「トレーナーさん、外泊届です。同じ屋根の下ですね。

既成事実作ります!」

「お願いだからやめて!?」

 

 デジタルさんが積極的な態度で迫ってきた。

少々破滅願望が見え隠れしてきているので、

長く根気よく付き合うことで、徐々に自己の崩壊した記憶を取り戻していこうと思っている。

 あいつに記憶領域を破壊されたんだ。解放の旅はまだ終わらない。

 

「風呂わいたぞ~」

「トレーナーさん、一緒に入りましょう」

「……カフェさんも、既成事実狙い?」

「ち、違います。そんな、殿方に恥ずかしいことできません。ただ、霊障がないか確認するだけです」

 

 ごはんを食べて元気になったのか、テレビを視始めたマックイーンさんとデジタルさん。

御風呂に入るとき、一緒に入ろうかと悩んでいたのだろうか。

先着1名様に、自分のとなりが奪われたからかすぐに身を引いている。

 潔いな!

その謙虚さをもっと見せてほしい。

 

「最初に身体を洗ってから湯船につかるんだけど、いいかな?」

「はい、私もそうしております」

 

 タオルを1枚巻いたカフェさんが、お友達と一緒に入浴する。

普通の男性ならば動揺したりするんだろうけれど、

すでにそれを超越している関係性だからなんとも思わない。

 おともだちというカフェさんのアイデンティティを共有しているんだ。

誰でも扱えないんだから、必然的に共通の友ができる。

 

<よお。カフェはどうだ?

 

「サンデーサイレンス、どうだって何が?」

 

<あいつに汚されたわけだが

 

「まだ大丈夫でしょ。これで穢されたとか、不倫の場合どうなるんだい」

 

<呪い殺す

 

「冗談に聞こえねえ」

 

 カフェさんへの反応を隠しつつ、背中を流しあった。

自分はカフェさんと同じく柔らかいものを使って、

身体を洗う。

 だがしかし、そこにかける意味が違うはずだ。

自分は古くなった角質だけを細かい目で、確実に擦りとっていくことに重点を置いている。

カフェさんたちウマ娘は、肌をきれいに保つために使っていると思われる。

 

 そもそも固いのは痛いから。ヘチマスポンジ使ってみ?

肌が弱い人は、全身血だらけになるから。

 

「あの……前も洗ってくれますか?」

「ご自分で洗ってどうぞ」

「意気地なし」

「言ってろ」

 

 精神的に疲れているのはわかるけれど、妙に荒くないか?

自制しているし、ウマ娘の膂力でマンホールになりたくないから、

理性を律している。

 そもそも教え子に興味がわかない。枯れているとかじゃなくて、

守るべき存在だからだ。

 

 一枚隔てただけの理性のベールを脱ぎ捨てたカフェさん。

裸の付き合いをしたかったら、20ないし18の選挙権取得してから来なさいな。

 

 

 

 風呂から上がって、ゴルシさんが作ってくれていたジンジャーエールを飲んで

ゆったりとしていた。

格安の1ルームではないから、全員が寝れる場所があるな。

布団の都合だが、いつのまにか増えていた。

 誰が買ってきたのか。眠気でそれどころではなかった自分は、

まどろみに意識が溶けていってしまう。

 

 

 

「寝ました?」

「ぐっすりです」

「寝ましたわ」

「あのビタミン剤、ジフェンヒドラミン塩酸塩が入ってんのか?」

「いえ、ただの睡眠薬ですわ」

「は? いや、おいまて、何を」

「既成事実です」

 

 

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