ハローエブリワン! 二年前に入社したばかりの新人トレーナーだよお!
えー、なんと戻ってきました。
ゴルシさんが色々と働いてくださって、自分も便乗して
この退職……なんかおかしいよなあ?と詰め寄りました。
そうしたら、再度面接と適性試験を受けさせてもらったので、
晴れて中途採用になりました!
ぶっちゃけ、第二新卒だから新卒採用でよくない?
「というわけで、入部許可のための面接をお願いします」
「ダメだ」
「なぜ!?」
「いやおめぇ、肩書は違えど長期休暇なだけだったろ。
だからこうだ。よく、戻ってきたな」
「チーフ……」
再度古巣に戻ろうと、面接を頼みに行ったら染み入る対応をしてくれた。
しかもウマ娘や他のトレーナーがいないところで、この会話をしたんだ。
誰にも聞かれていないっていうのは、噂を流される心配もないから安心できる。
また先輩になってしまった同期のトレーナーたちは、
なにがどうして退社になったのかわかっておらず今までと対応が変わってなかった。
「なんで退社になったんだ?」
「責任を取ったんだ」
「なんか複雑なんだな」
職を追われたら二度と戻ってこれないのが、この教育関係の仕事である。
基本的に豚箱行きだ。次にやらかしたら、完全に逮捕されてしまうから気をつけよう。
……
よお、同期が何故か退社したと思ったら入社して後輩になって、複雑な気持ちになってる新進気鋭のトレーナーだ。
7ヶ月前、あいつはなんらかの罪に問われて、責任を負う形で退社した。
たしかあれは……ああ、手帳に書いてあるな。乱痴気騒ぎだ。
その乱痴気騒ぎが、いろんな人やウマ娘を巻き込んだ騒動へ発展。
そこからあれよこれよと色々あったんだが、詳しいことは知らされていない。
あいつが同期である俺達に、少しでも情報を開示してくれたらなと思うんだが……。
まあ、無理か。
久々にあいつに出会った同期の俺と眼鏡をかけたこいつ。
相談とかしてくれなかったし、放浪グセがあるんだろう。
いつもどこかへ行っていたから、後足を掴めなかった。
「そういや明日、新入社員の入社式だぞ」
「おー新入社員か。でも、今年の中途入社だから、実質同期だな!」
「システムで言えば、おめぇにとって後輩だよ」
「そうかな? そうかも?」
「汝にとっては同期かもしれんが、残念ながら後輩だ―――!」
「なん……だと……?」
眼鏡をきらりと光らせるインテリっぽいが、じつは結構面白いぼっちゃんトレーナー。
ウマ娘第一を掲げていて、モラルあるヤツの割にはやらかしがでかい普通のトレーナー。
そして、外見がどう視てもコミュ強=陽キャ=チャラ男と思って、
見た目がちょっとだけチャラいと思わせといて、そこまでコミュ力がない俺。
凸凹なんだけど、意外と気が合うんだぜ?
「この後の集会でるのか?」
「え、あー。あれだろ? 新入社員歓迎のデコレーション」
「デモンストレーションな」
「ワタシは当然出ますよ! キミとは違う純正の後輩なんですからッ!」
「まつりごととか好きだよな、オメー」
「政治はスキじゃありまセーン」
「なんで妙にカタコトなんだよ」
とまあ、わちゃわちゃしてた。
こいつらと別れて、俺が所属するチームにやってくる。
このチームは最近あまり成績を伸ばせていないんだが、
その代わりとG2やG3をたくさんとっているんだ。
「チーフ」
「ああ、帰ってきたか。ほれ、雑用」
「了解です」
下積みはサブトレーナーとしての本分だ。
あいつに関して言えば、マックイーンのメンタルヘルスを担っていたようだ。
しかしそんな信頼、どこで手に入れる事ができたんだろうな。
運もそうだが、めぐり合わせが良くないと、本当にダメな業界だ。
トレーニング用具を洗っていると、ちょっとした香水が鼻腔をくすぐる。
ったく。誰だ、このにおい。ウマ娘の嗅覚は敏感だから、
濃いめの香水をつけるなと言われているだろうに。
あーくそ、イライラする。
注意するのも面倒だし、さっさとどっか行ってくれねぇかな。
「トレっち~」
「くっさ」
「ひどい!?」
なんか知らんが、香水をそのままバケツごと浴びたようなウマ娘がやってきた。
そのウマ娘こそ、まだデビューしていない中等部のヴィブロスだ。
誰が引き入れたのか知らないが、この子の甘えっぷりをなんとかしてほしい。
「ねーねー、この後時間ある~?」
「明日の訓練のミーティングだっつーの」
「またまたぁ、トレっちは照れ屋さんなんだからあ」
「照れてないが?」
手を止めずに泥を落とし垢を落とし、洗濯機に放り込んだり、
ほつれた部分を直したり。あとは在庫管理と補充と交換時期のやつを、
機械保全のチェックシートに記述して……。
忙しいってのに、さっさとどっか行ってくれ。
姉であるヴィルシーナやシュヴァルグランのところへ、
甘えに行ってくれないか?
とまあ、邪険に思っていたら、ヴィブロスはにやにやしてこっちによってくる。
それ以上近づいたら、一緒にこの地獄みたいな整理整頓を手伝わせてやる。
「トレーナーさん、このあと夕方に出現する幽霊を見に行かない?」
「は? やめろよ。あいつのでもう十分だ」
「トレっちのお友達とカフェさんが、よく虚空にお話してるよね!
それとは別件なんだ♪」
いったいどういう風の吹き回しだ?
他のひましてそうな奴らに頼んでくれないか。
こちとらアップデートとドライブインストールに時間を取られてんだ。
まだやんなくちゃならねぇ、いろんなモンがあるんだわ。
と拒否していたんだが、結局ウマ娘パワーで連れてこられてしまう。
くそう。また帰って仕事しなきゃ(絶望)。
「黄昏どきにね、この正面玄関に幽霊が出現して、目を合わせると恋に落ちるんだって」
「なんつー時代錯誤な」
そういえば去年の今頃、鼻血を出したウマ娘が多数出現したとか言ってたな。
そしてあいつの姿を見かけたと、うちの所属ウマ娘が言っていたのを
聞いたことがある。
まさかと思うが、あいつ……幽霊を呼び寄せやがったか?
「こんな茂みに隠れて、何をやっていらっしゃるのですか?」
「あ、メサっち!」
あ、うちの頑張りや1号のエアメサイアだ。
この子は真面目だけど頑固とは違う。けれど、どこか変なところへ
飛んでいってしまう面白いウマ娘だ。
そして、エアメサイアは俺の隣に屈んで陣取る。
同じ方向を向いているが、まさかと思うがお前も同じ興味を?
「本当に現れるのでしょうか、宵の明星」
「なんで金星なんだ?」
「禁制でご法度ですから」
「も~メサっちは真面目なんだからぁ」
ま……じめ……?
あ、うん、感性豊かで素晴らしいと思うよ。
「あ、来ましたよ」
エアメサイアがそういうと、いつのまにかソレがいた。
顔は夕焼けに染まって表情が見えない。
しかし、パリっとしたスーツを着たソレは、少々身長が高く見える。
肉付きからして男だ。
新入社員は明日から。こいつのようなトレーナーは、今まで見たことがない。
外部顧問や派遣教員は、基本的にこんなインテリ然な人物はいない。
「わ~セレブが似合う、かっこいい人だな~」
「確実に堅実がふさわしい。頑ななでありながら、柔軟さを備える。
私にぴったりです」
「は? お、おい。ヴィブロス、エアメサイア、何を!?」
二人は立ち上がって例の存在へ、足取りゾンビで向かっていく。
が、残念! ウマ娘のゾンビは人間の駆け足だ!
すぐにその不審者に抱きつく二人。
俺はすぐに茂みから脱出し、謎の存在にしがみつくゾンビどもを引き剥がすため
駆け出した。
「あ、そこの人! うちのウマ娘がすみません」
「繧ヲ繝槫ィ倥?遘√?繧翫◎縺」
「私、この人のパートナーになる!」
「譲りませんよ、ヴィブロスさん!」
なんかまずいことを言い始めたので、二人を引き剥がそうとした。
しかし一番最初に抱きつかれたであろうヴィブロスを、
その存在が拘束する。
これ、あかんやつや、と思って全力で引き剥がそうとするが、びくともしない。
かってえ! しかたがない、エアメサイアを正気に戻す!
彼女の方は簡単に引き剥がせたので、なんとかなった。
だが引き剥がす勢いで倒れ込んでしまって、
その存在とヴィブロスをフリーにした。
「じゃあ、一緒に行こう! "繝弱い"君!」
ダメだ。そんな怪異と共に行ってはいけない!
校門から、出すものか!
と、起き上がろうとしたが、エアメサイアが邪魔してくる。
目は虚ろなのに、身体が俺を拘束して行かせはしないと確たる意志を持って
動くんだ。まずいまずいまずい!
校門から出るな!
って、嘘だろ!? 声すら出ない!
声を失うって小説表現じゃなかったのかよ!
そして、ついに。
ヴィブロスは、その怪異におしりを触られながらも、愛する人かのような
その逆上せた頬と蕩けた顔を見せながら、その怪異とともにどこかへ消えていった。
今回の怪異は、強化版フワンテです。
人の心を操れるなら、記憶をいじることだってできます。