親愛度+6000   作:名無しの権左衛門

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カレンチャン

 へーい、同期が後輩で所属ウマ娘が怪異にさらわれた入社二年目の新人トレーナーだ。

冒頭がから少々つかれた感じに見えるあなた、そう、間違っていないぞ。

なぜなら、ヴィブロスがどこに行ってしまったのか、捜索しなければならないからだ。

 本来なら警察案件なんだが、全く取り合ってくれない。

エアメサイアにも昨日のことを聞いたが、明々後日の方向を向いて

独り言をぶつくさ言うだけだった。

 

「くそっ、どうすればいいんだ」

「あれー? 貴方はあのときのトレーナーさんですよね?」

「ん?」

 

 妙に耳に触る鬱陶しさのある声が、鼓膜を揺らしてくる。

ヴィブロスとは少々気色が違うが、ベクトルが同じなので少々鼻につく。

ちょっとイライラしているので、今は話しかけてほしくなかった。

 

「おお、カレンチャンか」

「おやおや? 目を逸らしましたね。恥ずかしいんですか?」

「からかうのは、よしてくれよ」

 

 カレンチャンと知り合ったのは、電気量販店のドライヤーのところで出会ったときのことだ。最新のドライヤーや最新テクノロジーが使われたヘアアイロンとか、

そういうヤツを仕入れて訪れていたところ、在庫関係で少し交渉を行った。

結局こっちが折れて、仕入れ待ちを選択したんだっけか。

 

「で、なんのようだ。ネイルの実験か、カラコンの試用か?」

「んもぉ、かわいいカレンチャンがまいどまいどインフルエンサーしてる

訳じゃないんですよ?」

 

 ぱかチューブかウマチューブかPakPok(パカポコ)かしらないが、

ネットの動画配信サービスでカレンチャンネルを運営している。

そして登録者数は50万人いるんだとさ。俺らにゃ関係ないプライベートだ。

 しかしネットリテラシーのため、そういうものすら管理したがるトレーナーが多いと

ここ最近よく聞くな。

 

「で、トレーナーさんが気になってる子なんだけど~」

「気になってねぇよ。トレーナーの本分だ」

「またまたあ、承認欲求膨らませてるの知ってるんですよ?

このエアギターマンって、あなたですよね?」

「これは俺じゃなくて、違うやつのだ」

 

 軽くあしらおうとするが、今現在チームルームの共用スペースにある椅子に座っている

俺を、後ろから腕を回して強制的に見せつけてきているのだ。

 うごけ、動けってんだよお!

だーめだこりゃ。ウマ娘の強靭さに、人間は太刀打ちできないって、

ちゃんと証明されてんだよな。

 

「じゃーあ」

「耳に息を吹きかけるな」

「意識を向けるのはこっちじゃないですか?」

「は? あ、ちょっとまて、これはどこの」

「今朝の話ですよ?」

 

 俺が立ち上がるとカレンチャンは、俺の拘束をほどいた。

彼女が見せてきたのは、ヴィブロスが映っている映像。

どこで撮影されたのか、そもそもどこにいるのか知りたい。

 それを独占するように、妖艶な笑みを浮かべるカレンチャンはもったいぶって

情報を開示しようとしなかった。

 

「何が望みだ」

「カレンとデートしてください」

「却下だ」

 

 俺は自分の携帯電話から、盗み見た情報で検索する。

場所は東京タワーの展望台。夜の閉店作業に入った職員が、偶然トレセン学園の服を着た

ヴィブロスを発見した。

妙にやつれていているが、精神状態に異常が視られたので入院措置だという。

 やはり情報はネットサーフィンに限るな。

警察24時でも、足で稼ぐことはもう時代錯誤として、

ネットサーフィンと監視カメラでやるって言っていた。

 

「おいゴルァ!!」

「うわああ!?」

「きゃあ!?」

「トレーニング補助2番、さっさと表に来やがれ! 新人共の選別式始めるぞ!」

「了解っす! カレンチャン!」

「え、はい?」

「デートはまた来週でいいか?」

「! 言質取りましたからね!」

「はよこい!」

「今行きます!」

 

 基本的にウマ娘のデートっていうのは、付き添いという意味合いが強い。

そもそも男女のような関係性になることは、ほとんど存在しない。

たまに覚悟が一般人を超越しているヤツもいる。

 だが、そういうやつは、パートナーが入学したら即刻専属契約して、

レース寿命が終わったらさっさとやめていくってのが多い。

 

 

 

 さて、チーフのお使いにされた先輩に呼ばれて、採用する側として横に並ぶ。

圧迫面接っぽいよなあ。

一応過去の栄光を使って、狭き門をくぐってきた猛者を更に選別していく権利を、

うちのチームは有している。

 大昔、トウショウボーイが所属していて、その縁でいろんな重賞ウマ娘が

良い結果も悪い結果も出して卒業していった。

 

 そうして、今のこのチームは、G1を取れていないが重賞は確実に取得できている、

謎の実力者集団だったりするんだ。

 

 まあ、こんなところによく入れたよな。

最初も集団圧迫面接されて、そこでふるいにかけられた。

次にウマ娘数人をスカウトして、入りたいチームに横流しした。

 幸い俺の実力じゃ見られなかったから、俺にとっても相手にとっても渡りに船だったんだ。

こうして、俺はこのチームに入れた。

 なお、連れてきたウマ娘は、俺が面倒を見ることなくチーフや先輩たちに

囲まれている。

 

 

「次だ」

「はい!」

 

 次々と呼ばれて決意表明を行っていく。

ぼけーっと見ていると、今回入団する新人トレーナーの中に、見たことがあるソレに

目を移す。

 

「次! 名前と志望動機を言いなさい」

「”繝弱い”です。蜈ィ縺ヲ縺ョ繧ヲ繝槫ィ倥↓螳ソ繧矩ュゅr蝗槫庶縺励?∵?縺悟セゥ豢サ縺ョ縺溘a縺ォ蛻ゥ逕ィ縺励∪縺吶?」

 

 ぐ!? 耳じゃない。頭がひび割れるような何かと吐き気をもたらす

気持ち悪さに、胃が沸き立った。

なんだこれは、と思って顔をあげると。

ソレがいた。

 

「は?」

「次だ!」

 

 チーフの声にかき消されたが、あまりにもおかしな存在に気づかない。

アレを聞いて誰も意に介していない。

調子が悪いのは俺だけなのか!?

 顔をよく見ようとするが……モヤに隠されたように、

しっかりと見えない。見えるようで、意識が霧散するんだ。

 

 印象が薄いってそういう意味じゃねえだろ!?

 

 

 

 さて、まじでどうしよう。

あの怪異をどのようにして排除すべきか。

周囲の他のトレーナーは気づいていないし、ウマ娘も気づく子もいるが

はっきりと知覚していない。

 百害あって一利なしな存在を野放しにできないのに、

物理的に排除が難しいとか無理だろ。

 

「トレーナーさん!」

「ああ、カレンチャン。どうしたんだ?」

「トレーナーさんが所属しているチームって、すっごくかっこいい人が

入ってきたんですね!」

「ん? なんとなくわかったが、誰を指しているんだ?」

「誰って、後ろにいるひとですけド」

 

 俺は思案のためにトレセン学園にあるレース上の観覧席にいた。

今までここに人はいなかった。先程話しかけてきたカレンチャンくらいしかいなかった。

だというのに、いつの間にかそこに、ソレが存在しているんだ。

 

「てめえ!」

「先輩、今からもこれからも、僕をよろしくね」

 

 顔が掠れて見えない。顔が見えないならば、と一箇所だけ集中的にみようとすると

頭に靄がかかる。あまりのおぼろげな浮遊感が、最終的に三半規管を乱して

酔いに変化される。

 

「うっぷ」

「行こうよ、カレンちゃん」

 

 俺の後ろにいるカレンチャンに手を伸ばした。

それを弾いてやろうとしたが、その腕では固くびくともしない。

不動明王かってくらい、泰然とした動き。

ゆっくりと動かないカレンチャンの手を取る。

 俺はと言うと、あまりの苦しさと吐き気を抑えるためにうずくまってしまったんだ。

こいつは俺を意に介さない。

そしてカレンチャンはというと、雰囲気がおかしくなる。

 

 カレンチャンは愛の伝道師というか、相手をふんわりと包み込む

慈母のような雰囲気を持つ。だが、こいつに触れられると、ふっと消えるのだ。

 

 そして、あのときのヴィブロスやエアメサイアみたいなことを言い出す。

 

「お願いダーリン、カレンをおとぎの世界へ連れてって❤」

「勿論だよ、僕のプリンセス。夢の国へだって連れて行くよ」

 

 印象がつかない。良い悪いとかじゃない。残らない。

声で何を言ったかわかる。だというのに、こいつは本当に無機質だ。

 

 大事なウマ娘であるカレンチャンを抱き上げ、幸福そうな接吻を交わすと

夕焼けに溶けて消えた。

 

 




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