ちーっす、去年入社したばかりのまだまだ若輩の新人トレーナーっす。
先週カフェさんが例のトレーナーといっしょに、外へ歩みだしたのを
見届けた魅力なしの男でーす。
妙に投げやりなのは少しだけ堪忍してほしい。
あれから2日後、サンデーサイレンスどころかカフェさんがいうアレとか
お友達全員が、ポルターガイストを使ってカフェさんの恋路を応援している
ということが判明した。
つまり、絆されたか認めたということだ。
自分は最初に彼らを知って会話できるようになるまで、だいぶかかった。
それをたった数日でやりやがった。
事の始まりは学園最後の戸締まりをしていて、その帰りにまだ走っている
ウマ娘に声をかけて帰らせていた。
トレーナーにやらせることじゃないだろうって思うかもしれない。
実際に先生方の仕事。
だが若い内に仕事は買ってでもやれと言われていたので、
サブトレーナーの仕事が終わってから戸締まりをしてほしいと
依頼してくれた。
そこで信頼に応えるべくやり始めて一週間。
だいたい残って練習をしているウマ娘と顔見知りになったというわけである。
で、ウマ娘の中に、マンハッタンカフェがいたのだ。
最初はおともだちどうのといわれてびびっていたけれど、
影と光の境界線に立つと結構見えた。
そこからカフェさんのおともだちや周囲のアレと言われる存在を、
色々と探った結果サンデーサイレンス・イージーゴア・アンブライドルド・
ゴーアンドゴー・サマースコール・ミスターフリスキーまで判明。
そこまでカフェさんを介せず感じ取れるようになると、
日常生活で彼らと会話することができるようになったのだ!
ウマ娘たちが過ごしている現代と彼らのいう現代の認識というか、
言葉の端に妙な齟齬がある。
気にしすぎると、よろしくないんだろうなと聞き逃しているところはある。
が、結構感情豊かなので、一人で任されたウマ娘全員のタオルを
洗っている時とか話し相手になってくれるので助かっている。
そんなおともだちの縁で、カフェさん以外にも顔見知りになったり、
ロジスティクスじゃねえとか非科学的というウマ娘にも出会っていく。
最初はポルターガイストでカフェさんに近づくやつは、
全員排除ムーブだった。
決して順風満帆ではなかったのにな。一瞬だよ。まったく。
「あっ! いたいた! 探しましたよおおお~!」
今日も鍵を締めて自主練しているウマ娘たちに声をかけていると、
後ろから聞き覚えのあるウマ娘の声が聞こえる。
「どうしたんだい、デジタルさん」
「お願いします! 助けてください!」
「助けよう」
「流石です、トレーナーさん!」
中身も聞かずにほいほい応える。デジタルさん関連なら、
あんまり面倒なことを任せてこないという実績があるんでね。
「タキオンさんがおかしいんです!」
「タキオンさんがおかしいのは、いつものことでしょ?」
「そういうおかしさじゃないんですよ! 2週間前からもうずぅっとおかしいんです」
デジタルさんは、タキオンさんが実験を放って手編みのナニカを作っているのを
目撃したらしい。その時誰かにあげるのかというと、愛しのダーリンに
プレゼントするんだとか。
そのときの恍惚っぷりは、さすがのデジタルさんでも気味が悪かったという。
「うん、随分とご執心だね」
「ご執心って……何が原因か知ってるんですか!?」
「知ってるも何も……デジタルさんも、味わってく?」
「ほぇ?」
そういうわけで後日。いつもの時間帯、いつもの建物の影。
約束の時間がやってくる。
「来ましたよ、トレーナーさん」
後ろから四つ足ついてこそっとやってくる。
デジタルさんも自分みたいなことをしなくてもいいのに、と思う。
現在匍匐状態で影から見ているから、デジタルさんも真似をしたんだろうな。
彼女の声を聞いて、手で招く。
デジタルさんはのそりのそりとやってきて、同じように相手を覗くんだ。
「あの人がどうしたんですか?」
「あのトレーナーこそ、タキオンがゾッコンな男性だよ」
「ええっ!? 軽薄そぉ……」
「そうかな?」
「え?」
「まあ、目を合わせてみなよ」
今回は前回と前々回の反省を活かして、すぐに目を閉じたり耳を塞げるように
デジタルさんの近くに陣取る。
そしてついにその時が来た。
あの新人トレーナーが、こちらを見る。
すぐ隣りにいるデジタルさんは、それを直視したようだ。
つまり目があった。
「カフッ」
「デジタルさん!?」
すぐに持っていたハンカチ2枚を使って、喀血と鼻血を拭き取ろうとするが――――。
彼女はすぐに自分の手を振り払い、睨みつけてくる。
今まで誰にもしたことがないような、負の感情を目の当たりにして身体が動かなくなった。
デジタルさんは立ち上がり、あのトレーナーのところへ向かい止血作業を行う。
そして、泣き出したデジタルさんの背中をさすって、学園外へと連れて行ってしまうのだ。
間髪入れずに視界を遮ろうとしたけれど、すぐに喀血してしまって
視界を遮れなかったことを悔いた。
三人目になると慣れるのか、反応が薄いなこのトレーナーさん。