親愛度+6000   作:名無しの権左衛門

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メジロマックイーン

 うぃ~っす、どうも~去年新人だった新入社員のトレーナーです。

今日というか今週はだいぶ忙しいっすね。

そう、今週の目玉はこれだぁ。

 

 メジロマックイーンの天皇賞・春の三連覇に向けた最終追い切り!

いや~うちのチーフがスカウトした子なんだけど、彼女の走りは強い。

まさしくスタミナの塊だ。

まあ強すぎてつまらないと言われているけど。

 そんな彼女も自分が入ってくる前は、オグリキャップにボロ負けしてんだけど。

そういうわけなんで、今日もマックイーンさんのメンタルケア含めてやってやるぞい。

 

「トレーナーさん」

「なんですか、マックイーンさん?」

 

 今日の練習もあがりで、数日後に控えた天皇賞・春のために自主練禁止かつ、

カーボローディングのためにレース直前の早上がりをキメられたマックイーンさん。

チーフと会話するのは不自然じゃないのに、まだ入団して一年で草葉の陰やってる自分に

近づくのは不自然じゃないかい?

 

「あなた、アグネスデジタルさんをご存知ですよね」

「はい。彼女がどうしました?」

「このところ、部屋の外に出ていないと寮長が心配されてます。

どうか外へ連れ出すのを手伝っていただけませんか?」

「たぶん適任は自分じゃないですね。例の新人トレーナーでいいでしょう?」

「どなたか存じ上げませんが、三週間で決まるような関係性は信頼できません」

 

 男友達は趣味より考え方が合えば、男子3日合わざれば刮目してみよみたいなことになる。

あんがい侮れないと思うけど。

 

「そもそも、私はあなたのいう新人トレーナーを存じ上げません。

お願いいたします」

「……わかりました。案内をお願いします」

「ありがとうございます!」

 

 しっかしマックイーンさんが、いつもの口調じゃないのは違和感でしかないなあ。

事実として先輩でありG1を取っているすごいウマ娘なのに、それを鼻につく態度として

表に出さない。謙虚というか、それこそメジロたるものの使命、驕るものではないとか思ってそう。

 

 用具や洗濯物も片付けたし、早速案内されよう。

なんせウマ娘の寮は近づけても絶対不可侵の聖域、いや領域だ。

彼女たちの異様な剛力をあびれば、全身がひもQ(悲報:2019年生産終了)になってしまう。

 おっと、この時間帯のこっちのルートは、あのトレーナーがいる。

進路変更をしないとな。

 

「マックイーンさん、こっちですよ」

「……」

 

 無言でついてきてくれた。

よかったぁ。今までチームに所属していないウマ娘だったから、まあ致命傷で済んだ。

けれどもしもチームやどこかのトレーナーに所属しているウマ娘が、

彼と出会って移籍したらウマ娘や学園の不評につながる。

 一応そういうウマ娘もいたけど、ウマが合わなかったとか成績を自分のものにする

トレーナーでそんな人とは思わなかったとか。

だいたいコミュニケーションの齟齬だったりする。

 

 が、あの新人トレーナーの場合、ろくでもない理由が裏について回るから非常によろしくない。

精神状態も変わってしまうだろうし、この大事な時期に調子を崩させてたまるか!

 

「到着ですわ。さあ、これを」

「あ、やっぱ、これはつけるんすね」

 

 入場許可証。無断ではないという証だ。

 

「デジタルさんの部屋はこちらです」

 

 案内されたので、数回ノックして入室許可をもらおうとする。

 

「デジタルさん? 最近外にでていないって聞いたよ?

健康にもよくないし、少しでもいいから外の空気を吸わないかい?」

 

 反応はない。後ろを振り向いてマックイーンさんを見ると、

心配の表情が強く見えた。

諦めるという気持ちより、この手応えのあるドアノブを回しても良いのかなという

気持ちがある。

 ま、まあ優秀なトレセン学園の生徒だから、そこらへんの力加減もあるだろう。

さっさと部屋に入る。

 

「失礼するよ。おや?」

 

 件のデジタルさんは、薄暗い部屋の中で唯一の光源を眼の前に漫画を作成している。

ペンタブを流れるようにシャカシャカと線を入れたり、パソコンの画面上

で一気にイラストが描かれていっている。

 

 ただ、様子がおかしい。

デジタルさんを現実に引き戻すために近づこうとすると、足元に何か……

B5用紙が当たる。

なんだろうと思って手に取ると、色やトーンが設定されていない下絵の状態の漫画未満のイラストがたくさんあった。

 薄暗く光源が一つなのでよくわからなかったが、よく目を凝らしてみるとイラストにあるのはデジタルさんが好きなウマ娘たちの掛け合いだ。

喜怒哀楽だけでなく、表面以外に見える隠れた意図を読み取りそれを漫画として昇華する

妄想、想像力をこれでもかと発揮している。

 

 しかし、なんだろうな、此の違和感。下絵でも随分とシャープだ。

状況がよく分かる。枠取りもいいし、構図も一点ものでもない。

プロかな? と思うほど。

 そしてデジタルさんが今描いているのは、色鮮やかになっていくソレ。

構築されていくデジタルさんの思い。

それは、あの新人トレーナーとの逢瀬だ。

 

「デジタルさん、調子はどうかな?」

 

 彼女らしくない作風だ。まさか、男が出てくるなんて。

今までもトレーナーが出てくることはあったが、それはたずなさんや

理事長・退役したベテラントレーナーばかりだった。

 

「トレーナーさん」

「なんだい?」

 

 ようやく自分を認識してくれた。

締め切り間近のときも同じような対応をされたことがあるが、あれは鬼気迫る

表情で中々迫力があったもんだ。

 しかしなんだろうな。ウマ娘ちゃんラブ❤のオーラがない。

 しぼんでしまった闘志。

あのトレーナーとなにかあったんだろうな。

 

「怖いんです」

「何が?」

 

 ペンを持つデジタルさんの手が震える。

折りそうなくらい力が入っているようだ。入力状態だからか、設定されている絵に

大きな線がぐちゃっと入ってしまう。

 

「わたし……ウマ娘ちゃんたちが織りなす尊みを、影から見守る推し活をしています」

「うん」

「でも、あのトレーナーに会ってから、知らない記憶が流れ込んできて……。

わたしがわたしでなくなっていくんです! 推せない! 昂らない! 

どこか、作り物めいた感じで見てしまって」

 

 デジタルさんは慟哭している。

今までを同じように過ごせなくなったということだろうな。

まああのトレーナーに、色々破壊されたんだろう。

 で、その影響が脳に達したんだな。価値観の崩壊か。

成長させられたというより、一種の洗脳かな?

 

「今まで会ったことないのに、知ってるんです。愛してくれたことを。

知らないのにっ、あの人が流れ込んできて、もうおかしくなりそうなんです!

助けてください、トレーナーさん!!!」

 

 実際、あのトレーナーは今のところ、状況証拠でけりをつけられない。

手を出したわけじゃないし、眼の前に鼻血ブシャーされた生徒を病院に連れて行っただけだろう。

ここの学園も例に漏れず、保険の先生は非常勤だし。

 ならばどうするか。まあ、一つしかないな。

 

「わかった。デジタルさん、一時的にうちのチームで過ごそう」

「いいんですか……?」

「もちろん。そして、マックイーンさんの天皇賞・春を応援しよう!」

「おおっ! 我が世の春っ、至近距離であのマックイーンさんを近くで見られる!」

「実物はここにいますわ」

「ひょえっ!?」

 

 暗い部屋に明かりをともして中に入ってくる。

此の時全体を見渡したんだが、タキオンさんは生活痕がない。

いったいどこへ行ったのやら。

 デジタルさんは今、あのトレーナーに植え付けられた記憶に苦しんでいるが、

少しでも前に進もうとあがいている。

トレーナーとして、大人として子どもの不安を取り除けるよう努力するぞ。

 

 

 そんなこんなで、デジタルさんをチーフトレーナーに許可をとって体験入部してもらうことにした。またマックイーンさんと並走したり、一緒に雑用をこなしてあのトレーナーに会わないよう頑張った!

 一応行動パターンを把握しているし、やべえところに行こうとしたら

大声で本人ではなく誰かと日常会話するように注意を促す。

 色々と工夫してあいつの行動を制御できるようにした。

まあ、予測できない部分が大半だけどねー。

 

 

「やってきたぞ、京都レース場!」

「はい! 全力で応援いたしましょう!」

 

 週末に行われるから多くの社会人が訪れ、大盛況となっているレース場。

マックイーンの応援券が大量に発行されては売れていった。

そしてその中でもっとも大きな資金を投入したものは、一等観覧席でみることもできる。

 だがしかし、トレーナー陣営は違う。

もっともウマ娘の精神性を維持することができるので、特別な許可でゲート近くの

最前列に陣取ることができるのだ。

 

「「マックイーンさん!」」

「トレーナーさん、デジタルさん。私の天を駆ける姿、ご覧に入れますわ」

「全力で応援するよ!」

「再び優勝するところを見せてください!」

「ええ」

「それと、マックイーンさん」

「はい?」

「ライスシャワーに怖気づくんじゃないぞ」

「ありがとうございます、チーフのデータ通りですので」

 

 さすがチーフトレーナーだな。

全ては計算ずくって? 痺れるなあ。自分もいつか、そう言って信頼してもらえるトレーナーになるぞ!

 

 

 さて、レースなんだけど、応援はブーイングに取って代わられてしまった。

 

「おめでとう、ライスシャワー!

お前の走り、最高にいかすぜえええええ!!!」

「ライスさあああああん!!」

 

 自分とデジタルさんは、手でメガホンの形を作って叫ぶ。

トレーナーとして、ウマ娘のダンスを見ることもあるからなぁ。

肺活量だけは自信があるんだなこれが。まあ、ブーイングでかき消されたんだけど。

 

「ライスシャワー! いい走りだったぞおおおお!!!」

 

 マックイーンさんへのねぎらいの言葉も考えないとなあと思っていると、

身の毛がよだつ恐ろしい声が聞こえた。

もちろん、デジタルさんも身体を震わせて、自分の腕に抱きついてくる。

 此の声、妙に通る柔らかな聲。性別さえ知らなければ、誰しもが振り返る蠱惑に戀う音。それは自分の周囲につきまとう、恐怖の大王だ。

 

 ライスシャワーさんや周辺のウマ娘の様子を見るが、掲示板に入れなかった子は撤退し

ライスシャワーさんはブーイングで顔を青に染めて俯いている。

しかしウマ娘特有の耳の良さで、その甘い声を聞いてしまったのだろう。

マックイーンが、自分らの方向を向く。

 ダメだ、こっちを見た――――あ。

まずい、マックイーンさんが鼻血をぼたぼたを落とし始めた。

これにはブーイングも鳴りを潜め、すぐにレースの関係者がかけよって選手全員を退出させた。

 

 この後にライブがあるんだけど。

だいじょうぶか、これ。もしも、心配してあのトレーナーが近寄ってきたら。

 

 

<おい、あいつが近づいてきてるぞ。その娘をだいて逃げろ

 

<早く逃げろ! 目標はデジタルだ!

 

 最近聞こえなかったお友達の声!

恩に着る! 

 

「デジタルさん、失礼っ!」

「えっ、ひゃあ!?」

 

 来ているスーツの上着を脱いで、デジタルさんを包むようにして抱っこする。

そのまま熱中症ということで、一気に運び出すんだ。

トレーナーバッヂをこの紋所が目に入らぬか!、と御用だ御用と駆け抜けることに成功。

あのトレーナーの気配は遠くなったが、ライブまでの待機時間をどう過ごしたもんか。

 しばらくしてチーフと出会ったが、あのマックイーンが魂抜けた表情で

控室にいるようで、ライブは致命的だそうだ。

 

 ということは、あのライスシャワーと三着の子でデュエットすんの?

会場の空気ヒエッヒエじゃない?

大事を取ってとかいうけど……まじかー。

 

「ところで、トレーナーさん?」

「どうしたんだい?」

「いつまでこれを」

「帰るまでが戦争だから」

「はい」

 

 スーツの上着はデジタルさんにかぶせて、明るい髪の毛を視認されないようにしている。このコンクリートビルディングは、寒色のオンパレード。

暖色の塊であるデジタルさんなんて、遠目でもわかるんだから。

目立っても溶け込めれば勝ちなのだ!

 

 




固定シンボルじゃないので、被害者がピンポイントで増えます。

再調査しました。
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タイトルは+6000ですが、実際は+6408ですね。
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