おっす、おら去年入社したばかりの新人トレーナーだ!
最近はすっげえ楽しいぞ! なんてったって、今年入社したばかりの新人トレーナーに
担当ができたんだからな!
くくく、これで……これであいつの色目が終わる!
やっとこさ正門前でのたちんぼがなくなる。
それに彼も徐々に、どこからどこまで立ち入って良いのかとか、だんだんと理解してきているようだ。
おかげさまでこちらの肩の荷も降りそうだねえ!
「そこのお兄さん、何してるの?」
「何してるのって、監視を……」
そこにいたのは、怪訝な表情をしたマヤノトップガンさんだった。
なんだろう、その目。すごく、よろしくない意味を込められてらっしゃる?
「へーふーん」
マヤノトップガンさんは、じぶんの隣に来て今まで見ていたであろう
視線の先を確認した。
そして再度蔑視を加えてくる。
な、なんだよ。今まで通り、温かい目で先輩面してるだけじゃないか。
「男の人が好きなの?」
「違う違う。ただ、粗相をおこさないか監視してるだけだよ」
「男色?」
「違うよ」
「……デジちゃんに報告するね!」
「なんでそこでデジタルさんの名前が出てくるんだい!?」
お、おかしい。最初はきらきらわくわく、あそこで一気に突っ走ればとか
レース構築や戦略など、天性の才能を持ったウマ娘だったはずだ。
「マヤ知ってるよ~?
いろんなウマ娘を、あの新人トレーナーに紹介してるんでしょ?」
「してないが?」
「うっそだー。だって、マヤ、タキオンさんとマンハッタンカフェさんとデジちゃん。
そしてマックちゃんが、ご執心なのしってるんだよ?」
「待ってほしいマヤノトップガンさん。何を取引したいんだい?」
これは確実に脅されてる。何を要求されるんだ?
そもそもマヤノトップガンさんに何をした?
夜の帰らないウマ娘を帰るように指導したくらいしか思い出せないんだけど。
「マヤもね。大人みたいなドキドキを味わいたいんだ!」
「ドキドキ? じゃあ、彼に話しかければ良いんじゃない?」
「それがそうでもないみたい」
「なんだって?」
聞くところによると、マヤノトップガンさんは新人トレーナーに3回ほど話しかけたみたいだ。
だがしかし、今までの5人……ああいや、ナリタブライアンさんと加えて6人か。
彼女らのような情熱的アプローチができないんだという。
そこでそのアプローチをした要因を探して、タキオンさんやカフェさんに話しかけて
馴れ初めを聞いたんだと。
で、行き着いた先が自分とのことだ。
「やめといたほうがいいよ。冗談じゃなくて、ほんと、まじで」
「でもでも! 大人のみんながやってる情熱的な恋をしてみたいの!」
「そっかぁ。じゃあ、覚悟してね」
「やったあ! マヤ、楽しみ!」
ああ、胃がキリキリする。きっと純愛ストーリーばっかりみたんだろうな。
でも、この先はきっと地獄だと思うんだ。
トレーナーとして、やめておくべきというんだが、オレは止まらねえ!って
覚悟をキメたマヤノトップガンさんに言う言葉はなにもない。
マヤノトップガンさんにカモンと身体をよせてもらって、
視界の先にいるトレーナーを確認する。
「いつも会ってるんだったら、きっと耐性ができたんだろうね」
こちらを見やがらないトレーナー。
しかし、どっちみちこっちを見るだろう。
諦観の念ついでに、マヤノトップガンさんにハンカチを渡しておく。
血が制服についたら大変だからなぁ。
広範囲にわたって血を受け止められるように、鼻も押さえられる大きく長いものを用意している。
これなら、少し軽減できるだろうか。
<来るぞ
聞いたことのない声が耳をうつ。
「ケフッ」
「ふん!」
すぐに視界を遮るように、トップガンさんの身体を掴んで体投げの要領で移動させる。
建物の影へ移すことができたが、問題は本人だ。
鼻血と喀血、額の血管が少し切れたのか少々出血していた。
すぐに止血作業とともに、保健室へ連行するぞ。
一時的に空中に浮かせたので、浮遊感と喀血に戸惑っている彼女をさっさと
お姫様抱っこをして保健室へぶち込んだ。
「さて、患者さん。お加減はいかがかな?」
「すごい……すごい、スゴイ! あれが恋なんだね! 大人のみんながやってる、
心臓がはち切れそうな気持ち! 恋の強さと愛の深さは比例するんだね!」
「うん!?」
よくわからないことを言い出して、止血作業も済んで安静にせよと言われたのに
すぐに飛び起きて駆けようとした。
しかし、そんなことはさせ……あ、無理だ。
自分も保険の先生も、完全な人間だ。
筋肉を育てまくってウマ娘に対峙している筋肉マシーンもいるが、そこまで限界突破ができていない。
人外の領域へ片足を浸すことなんて、中々できることじゃないんだよ。
「まっててね~! マヤに夢中にさせちゃうよ!」
「ちょっ、トップガンさん!?」
「トレーナーさん、追ってください。そして、保健室へ」
「わかりました。早急に捕まえてきます」
今日は当直の保険の先生。外部へウマ娘のための医療に関する勉強をしてきたみたいだけど、ウマ娘の鎮圧方法は習えなかったようだ。
トップガンさんを追おうとしたけれど、そこはさすがのウマ娘。
足が速い。どこに行ったかわからない。
だがしかし。この4週間であの新人トレーナーの動向は、
すでに概ね把握している。
先回りだ。
新人トレーナーのあいつは、この時間帯は担当になったナリタブライアンさん
の訓練を行ったり、ご執心になったウマ娘たちの相手をしていることがある。
流石に今まで落とされたウマ娘全員を相手にすることはないようだ。
ウマ娘たちも暇じゃないので、時間が空き次第って感じ。
本日あいつと逢瀬を繰り返しているのは、タキオンさんとカフェさんか。
今は二人だけ。担当とトップガンさんは来ていないようだ。
<あと1分で到着する
まただ。再度光と闇の境界線で、あなたの走りを見せてもらおうかな。
今までもそうやって判断してきたし。
とまあ、ここ、カフェテラスへの入口はオープンなので、
あまり目立たないように自然体で待機しておくんだ。
「ラブミーダーリン!」
「はい、確保」
「え、ちょ!? なんで邪魔するの!」
「けが人だからだよ」
担ぎ上げようとすると急に力がかかって、前のめりに倒れそうになった!
危ねえ!
拘束から飛び退いたトップガンさんは、目に血を溜めて瞳孔がん開きになって
カフェテラスへ入っていった。
「は?」
担ぎ上げた時に、視線を遮るようにした。
けれど、強制的に見たのか? カフェテラスの中にいる新人トレーナーは、
なにやらこちらをみている。
すぐに視線をそらして、脱兎で逃げた。
心臓が破裂しそうになるほど、動悸が収まらない。
あの目はなんだ!?
……自分は気持ちが悪いと思った。が、あの新人トレーナーも人である以上
誰かと常に交流している。
あのトレーナーは、その目で誰を標的にしているのか見極めないといけない。
次は交友関係を調べないとな。