親愛度+6000   作:名無しの権左衛門

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ミホノブルボン

 やあやあやあ、我こそは去年入社したばかりの新人トレーナーだ。

最近新人トレーナー関連で中々忙しくしていたんだけど、

チームの方でちょっとした騒動があったんだ。

 

 その騒動というのが、メジロマックイーンさんの離脱だ。

 

 第三者視点から見ると、別に不自然ではないと思う。

メジロ家がスカウトの公約に掲げていた天皇賞を勝利し、

三連覇という偉業を完遂できなかったのだ。

そりゃあメジロの本家から文句の一つや2つ来るだろうさ。 

 

 とまあ、外部視点でお送りしたぞ。 

 

 では関係者目線から行こうか。

 

 うちのチームを率いるチーフに今月を目処に、契約の打ち切りをメジロマックイーンさんが申し入れたんだ。突拍子のない提案に、チーフともどもてんやわんやだ。

いろんなところへの遠征プランの打ち消しとか、次のレースを見据えた戦略的なトレーニング調整など、ありとあらゆるものが破綻した。

 

 そしてメジロマックイーンさんが去ってどこに行ったのか。

まだ発表されていないし、本家のほうも把握できていないという。

どういうことなんだ、何が起こっている?

 

 聞くところによると、マックイーンさんは例の新人トレーナーのところに入り浸っているという。なるほどねー。以前自分のにおいを指摘した時があったんだけど、その時から随分と汚染されたようだ。

 

「ぼけっとするんじゃない! その資料は推定封印だ」

「はい!」

 

 チーフはマックイーンさんが離脱したことにより、

あらゆる情報を再整理から一部を封印措置するみたいだ。

まあ処分はできんよな。

 それにまだマックイーンさんは現役だ。

敵対している現役ウマ娘の情報を手に入れているんだから、

その情報こそが十分なアドバンテージになる。

 このチームで数年ぶりのG1ウマ娘が出た。その思い出が気持ちに重くのしかかるが、流石はプロのトレーナーたちだ。

 表向きであれば開き直ったふうに見せかけて、他の陣営に脆さをみせつけない。

また、マックイーンさんが出ていった穴を、他のウマ娘を中途採用することで補ったと聞いた。

 

 次のミーティングで、その情報を耳にいれることができるだろう。

 

「少々よろしいでしょうか」

「おや、ミホノブルボンさん。どうしたのかな?」

 

 菊花賞敗退後、自身の怪我を理由に無期限出走取消をした子だ。

今ではリハビリも終わって、学生としての本分に取り組んでいる真面目な生徒だと

聞いている。自分が夜の声掛けをしている時間帯にいることは少なく、

何かと同期の子と並走したりと面倒見が良い。

 

 大企業の自動音声みたいな抑揚で喋っているが、

表情よりも身振り手振りで表現する普通のウマ娘だ。

 

 そういえば坂路の鬼みたいな異名があったはず。

 

「はい。ライス……ライスシャワーさんの相談にのっていただけませんか?」

「わかった。どこにいるかわからないから、連れて行ってほしいな」

「ありがとうございます。こちらです」

 

 さてさて、どんな悩みを抱えているのかな?

 

 簡単な悩みではないだろうが、応えられるなら応えたい。

 

 あれ、そもそもライスシャワーさんって、チームか個人の所属になっていたかな?

そこら辺の記憶がまったくない。

なにせ今までのライスシャワーに関する情報って、レース上のものばかり。

個人の情報は扱っていなかったな。

 まあ、土壇場で判断すればいいか。

 

「こちらです」

 

 連れてこられたのは、山の中腹にある簡単なトラックがある広場だ。

一周200Mあるかないか。

 流石にウマ娘全員に、コースを走らせることはどだい無理なわけで、

こうした野良トラックや低い背丈の草が生える草原を使って、

自身を高めるしかなくなる。

 

 トレーナーの管理下であれば問題ないんだけど、ライスシャワーさんは

どこにも所属していないようだ。

 

 きっとレースは名義なんだろう。

 

「やあ、ライスシャワーさん。どうかしたのかな?」

「あ、トレーナーさん」

 

 先週マックイーンさんの三連覇を防いだ次世代だ。

ウマ娘のレース世界は流動的で、栄枯盛衰が基本。

むしろ三連覇するというのがおかしな話だ。

 二連覇までならまだ理解できる。

なんせ、ウマ娘の全盛期はメイクデビューから数えて、ジュニア・クラシック・シニア・

シニア二期の4年。

 各世代専用のレースがあり、シニアも一部クラシックの子が参加することもあるが、

人気投票で上位にならないといけないし、基本的にシニアが優先になるんだ。

それらを加味すると、二連覇までは現実的なんだよ。

 

 で、先程全盛期が4年と言ったが、これは平均であって大まかに見ると

早熟な子は2年だったり、長距離を走れる晩生な子は5年も走ることがある。

そのなかで更に怪我や骨折もあって、出走期間が変化する。

そう、連覇というのは不安定な要素満載なんだ。

 まあそういった要素のおかげで、連覇という事柄に夢を見る人が多いんだけど。

かくいう、自分も連覇したことを大いに悦んだし、三連覇阻止をされたことも

あのマックイーンに勝ちやがったと思った。

 

 一応マックイーンを担当しているチームの一員だから、

負の感情を持つこともあるだろうさ。

世代は移り変わっていくと理解をしている。

 

 それでも三連覇は見たかったよなあ。

 

 

「お願いがあります」

 

 トラックの外側に簡単な木製の椅子があり、そこへ座っているライスシャワーさん。

水分補給のためのボトルが、何本も空になり靴も数個使い潰しているのがわかる。

これって……身体に悪いな。トレーナーの調整能力案件だけど、ライスシャワーさんが

自身をプロデュースしているから口を挟むことができない。

 

「未来を変えるお手伝いをしてほしいんです」

「いいよ」

「……法螺かもしれませんが、将来、私は大怪我をするらしいです」

「わかった。対策をしよう。その予知夢はどんな内容かな?

詳しく教えてほしい」

「場所はわかりません。お客さんがたくさんいるので、G1のレースだと思います。

そこで、最終直線に入るところで大転倒し、脚がぐにゃぐにゃになるんです」

「それは……、非常によろしくないね」

 

 

 ウマ娘っていうのは不思議だよなあ。

お友達やシラオキ様といった超常の存在が実在し、現実へ影響を与える事がある。

そしてそれらを知覚して、競走に生かすんだから。

 

「ところで、その夢はいつからかな? 先週の天皇賞・春から見始めたと

見ているんだけど」

「! そう、そうなんです! なんでわかったんですか?」

 

 当てずっぽうだったんだけどなあ!

あの新人トレーナーが意識して見たウマ娘は、精神的に弄られるんだろう。

やっぱ新人トレーナーは、隔離するべきだ!

こんなにも公害を撒き散らしやがって、巫山戯るな大概にしやがれと思ってる。

 

「とある状況証拠があってね。まあ、それは問題じゃない。

きみの未来を潰すその夢を、どうにかしたいんだ」

「でも……誰も本気にしてくれないんです」

 

 それはまあ、そう。カフェさんやマチカネフクキタルなど、少々タガが外れた子を

メイクデビュー前からスカウトしようとした同期がいた。

しかしあまりの浮世離れに、頭を抱えてしまったという。

だからスカウトもやめたし、他のトレーナーにも言いふらしてしまっていた。

 何が気持ち悪いだ。トレーナーをやっているんなら、自分の目と耳と勘で選択するのが

君等のやっている職業の本分だろうに!

 

 さて、ちょっくら周囲を……あ、いた。

 

「なあ、ブライアンズタイム。ライスシャワーさんの夢に対してどう思う?」

 

<いや、なんで今話しかけた? 彼女たち、ドン引きだぞ?

 

「理性的だからいいじゃないか。で?」

 

<仕方ない。その夢はあの男によって活性化された魂の残滓が、

 活性化した結果のものだ。信憑性は大いにあるだろう

 

「ありがとう」

 

<はぁ……

 

「と、トレーナーさん?」

「虚空に話しかけてる……」

 

 おお、仏頂面で有名なミホノブルボンも、眉毛が下がってらっしゃる。

普通の人なら驚愕の領域だろうな。

だけど、普通じゃないトレーナーなんてごまんといるんだから、

別に驚くことでもないだろうに。

 例えば捜索願を出されていたトレーナーが、ウマ娘に助けられて

今まで無人島で暮らしていたみたいなやべえことがあったとか。

あとはトレーナー担ったかと思えば、すでに婚約相手がいるので他の子はみないとか。

 

 今思えば、あの新人トレーナー並におかしいんだよなぁ。

 

「よし。とりあえず、うちに来ない?」

「来るっていうのは?」

「マックイーンが他のトレーナーに寝取られたから、席が空いているんだ」

「ねとられ!?」

「トレーナーさん、ライスさんに過激な発言をしないでください」

「すみません。ですが、事実なんで。来ていただけますか?」

「ライスでよければ」

 

 名義貸し無所属G1ウマ娘、ゲットだぜ!

この子のメイントレーナーは、チーフに任せて精神面を自分が担当できるように

お願いしよう。世間様はド素人がG1ウマ娘を、御しきれるとは思っていないし快く

思っていない。

 だからこそ、経験豊富なチーフに任せることが安牌なんですね!

そういうわけで、チーフのもとへ向かいました。

 

「チーフ! 新しいウマ娘を見つけてきました!」

「おう、若輩! こんどは誰を見つけてきたんだ!?」

「ら、ライスです。よろしくお願いします!」

「ぶっふう!? ら、ら、ライスシャワー!?」

「諸事情がありまして、双方合意のもと連れてきました」

「どうやって口説いたんだ!?」

「今精神面が不安定なので、そこを担当させていただければ。

あとは世間様が煩わしいので、ちゃんとしたトレーナーとは誰かと思えば

チーフしかいません! お願いします!」

「しゃーねーな! 頼られちまったらそれを無碍にはできん!

よし、ライスシャワー。お前さんを歓迎するぞ」

「は、はい!」

 

 というわけで、移籍……あれは、移籍っていうのか?

とにかく入部したので、ライスシャワーさんへの緻密な身体計測から始まる。

その間先輩の女性トレーナーが、男禁制あっちいった!とされたので

今現在ミホノブルボンさんと一緒にいる。

 

「トレーナーさん、ありがとうございました」

「いいってことよ。トレーナーはウマ娘たちを、世間の荒波に直面させるんだ。

ならば、あらゆることを想定するため、トレーナーが仲介役となる。

むしろ、頼られない方が辛いんだよ。

だから、こちらこそありがとうな、ミホノブルボンさん」

「……いえ」

 

 ミホノブルボンさんは今までの仏頂面をくずし、頬を赤らめてこちらへ微笑んでくれた。信頼されるっていうのは、トレーナー冥利に尽きることだと思う。

さー、彼女を寮まで送り届けないと。

 

「やあ」

 

 身体が動かなくなる。

いや、自分だけじゃない、空気が止まったかのような感覚がした。

 

 この他人の理性を崩壊させ、すべてを我が物にする高圧的ながらも慈悲を含有しつつ

上から目線なのにどこか理性を破壊される、天性の声。

あまりのことに後ろを振り向けない。

 

「最近、俺のことを嗅ぎ回ってるようだけど」

「どなたか存じませんが、トレーナーさんに悪意を含む言い方はやめてください」

 

 まずい、驚愕に身を染めて硬直していると、ミホノブルボンさんが振り返って反論してしまった。

ダメだ。見ては!

 

「おや? また俺の魅力にイチコロみたいだな?」

「ブルボンさん! 今日は調子がわるいみたいなので、これにて失礼する!」

 

 自分は頭から蒸気を発生させたミホノブルボンさんを、抱きかかえてこの場から去る。

つっても、くっそ重いな!? やはり筋肉の塊は違うぜ。

引退しても身体をいじめ抜くことは止めてなかったんだな!

そもそもライスシャワーさんと一緒にいることから、並走することなんて日常茶飯事だろう。

 この状態で全盛期よりも筋肉が落ちていると考えたら、どんだけ重かったんだとおもう。

 

 

「ミホノブルボンさん、大丈夫かい?」

 

 完全なショート状態で、宇宙猫のような呆ける表情をしている。

今日一日は完全にいかれてしまったようなので、寮へ返して翌日再起動するのを願うしかないようだ。

 肩を軽く叩いたり、声をかけるが全く反応がない。

鼻血など見当たる症状や外傷はないので、寮長へ預けるしかないかなあ。

 

 そういうわけで、寮の前にきたんだがあいにく寮長の携帯電話番号をしらない。

どうすればいいんだ、と途方に暮れていると自分に声をかけてくれるウマ娘がいた。

 

「おやおや? そこにいるのは、親切なトレーナーさんではありませんか!」

 

 おっと。この独特な発音。最近G1を取れずにいる、ライスシャワーさんの同期である

マチカネタンホイザだ。先月と合わせて、有名どころのG1をとれず、

成績が低迷している。なんとかしたいともがいているんだ。

しかし、体調不良や運悪く怪我をすることが多い。

 去年もだいぶでかいのを発症していて、入院していたことを口伝てで聞いているぞ。

 

「お、天皇賞・春ぶりだね」

「はい! 天皇賞・春は、そのぉマックイーンさんのことは残念でしたね」

「これも時流だ。しょうがないよ。そうだ、かわいいかわいいマチちゃんに、

このミホノブルボンさんを届けてほしいんだ」

「か、かわいいなんてぇ、お世辞上手ですねえ! 

いいでしょう、このマチカネタンホイザが責任をもって、

ブルボンさんを自室へ送り届けます!」

「ありがとう。お礼に明日、何か食べ物をプレゼントするよ」

「お願いします!」

 

 よーし、関係者への引き継ぎは完璧だ。

 

 明日、ミホノブルボンさんに会いに来て、どんな調子か聞かないといけないな。

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