◇◆ 試着室からの視線 ◆◇
店内の奥、試着室のほうからカーテンの揺れる音が聞こえた。
ふとそちらを見ると、愛宕がカーテンの隙間から顔を出し、明るく微笑んでいる。
「ブラのサイズ、ちょっと確認してもらおうかしら♪」
店員が笑顔でうなずきながら、ブラのストラップやアンダーバストのフィット感を軽くチェックする。
「問題なくフィットしていますね。しっかりフィットしているかの目安として、アンダーバストは指が2本ほど入るくらいが理想です」
愛宕は「なるほど~」と相槌を打ちながら、ちらりと摩耶の方を見た。
もちろん、彼女に向けた意図的な行動だった。
摩耶はその視線を受けて、思わず身をこわばらせる。
(な、なんか……すげぇ本格的……)
今まで自分が買ってきたものとは、全く違うプロセスで選ばれている。
高雄も店員の言葉に頷きながら、さらりと補足を入れる。
「ブラはフィット感が大切よ!」
摩耶は思わず、「へぇ~」と感心しながら、今更ながら下着選びの奥深さを知った。
◇◆ 愛宕、ショーツの確認へ ◆◇
「じゃあ、ショーツのほうも確認してみようかしら♪」
愛宕は楽しげに言いながら、試着室の中でショーツのウエストやヒップラインを鏡で確かめているようだった。
摩耶は「えっ、ショーツも確認するのか……?」と驚いたが、店員が自然に説明を続ける。
「ショーツは基本的には試着はできませんが、ウエストやヒップラインのフィット感を鏡で確認していただくのがポイントですね。あと、動いたときにずれないかも大切ですよ」
少し時間が経った後、愛宕が試着室のカーテンを少し開き、摩耶を手招きした。
「摩耶、ちょっとこっちに来て♪」
摩耶は「えっ?」と驚きつつも、試着室の前に近づく。
愛宕は自分の選んだランジェリーを鏡で確認しながら、嬉しそうに微笑んでいた。
◇◆ 愛宕、二つ目の試着へ ◆◇
「うーん……せっかくだし、もうひとつのほうも試してみようかしら♪」
愛宕は試着室のカーテンを閉め、もう一枚のランジェリーセットに着替え始めた。
摩耶はなんとなく落ち着かない気持ちのまま、その場で待っていた。
(こうやって、実際に比べて選ぶんだな……)
しばらくして、カーテンが少し開く。
「摩耶、こっちも見てみて♪」
愛宕が、先ほどと違うランジェリーを身につけた姿で摩耶を呼び寄せる。
さっきよりもさらに洗練された雰囲気をまとっていて、より愛宕らしい華やかさと上品さが際立っている。
◇◆ 摩耶、初めての"選ぶ"経験 ◆◇
愛宕は二つのランジェリーセットを試し、摩耶に意見を求める。
「ねえ、摩耶? どっちがいいと思う?」
摩耶は二つのセットを見比べる。
(どっちも似合うけど……二つ目のほうが、愛宕姉っぽいっていうか……)
摩耶は、少しだけ迷いながら口を開いた。
「んー……二つ目のほうが、愛宕姉っぽいっていうか……上品だけど華やかで、似合ってると思う」
愛宕は満足げに微笑みながら、店員に「これにします♪」と楽しそうに告げた。
「摩耶も気に入ってくれてるし、これに決めるわ♪」
「……お、おう」
摩耶はまだ緊張したままだったが、自分の意見を姉が嬉しそうに受け入れてくれたことに、ほんの少し誇らしさを感じた。
その気持ちを察した高雄が、優しく微笑みながら言葉を添える。
「摩耶のチョイス、素敵ですわ」
「……そ、そっか?」
高雄に褒められ、摩耶は少し気恥ずかしそうに目を逸らした。
しかし、心の奥で少しずつ、何かが変わり始めていた。
愛宕の選ぶ姿を見て、店員のアドバイスを聞いて、そして姉二人の温かい言葉を受けて——
(……アタシも、選んでみようかな……)
艤装を整えるように、戦闘前に装備を入念にチェックするように——
フィットするランジェリーを選ぶという行為も、ただ可愛いものを買うだけじゃない。
自分の身体に合うものを選び、自分自身を大切にすること——
(……なんか、艤装みたいだな……)
摩耶の心に、小さな灯がともる。
そっと店内を見渡し、自分に似合いそうなものを探し始める摩耶に、高雄と愛宕はそっと微笑んだ。
「摩耶、何か気になるものがあったら、言ってね」
「うん……」
摩耶は小さく息を吐きながら、意を決してランジェリーの棚へと歩みを進めた——。