ショーツの感じもバッチリであることを姉達に確認、摩耶は、ホッと息をつく……
寄せて上げるだの、見せるだの、試着一つでこんなに苦戦するとは思わなかった。
(ま、まぁ……なんとか終わったな……)
そんなことを思いながら、鏡に映る自分の姿を改めて確認する。
さっきまでの自分とはどこか違う。ほんの少しだけ、自信が芽生えた気がした。
しかし、ホッとした瞬間が一番危険であるのが世の常——
「はい、摩耶♪ 次はこれよ〜♡」
「……へ?」
愛宕が、にこにこしながら何かを差し出してきた。
それは——再び、白のランジェリーセットだった。
「……なぁ、白はもう終わっただろ……?」
摩耶は小声でぼそっとつぶやく。
「お願い♡ お姉ちゃんたちのためにね♪ 摩耶ちゃん」
「……っ!?」
愛宕の笑顔が、ほんの少しだけ 悪魔 のような気配を帯びる。
相変わらずの無邪気な雰囲気だが、その瞳には狙った獲物を逃さない絶対的な圧があった。
(や、やべぇ……! これ、逃げられねぇやつ……!!)
摩耶は、思わず視線を逸らし、高雄に助けを求めるようにちらりと目を向けた。
しかし——
「摩耶、とても素敵でしたわ♪ だからもう一つ、ぜひ試してみて♡」
高雄も満面の笑み。
(うわぁぁ……姉二人が完全に連携してる……!!)
摩耶は逃げ道を完全に封じられた。
「……しょうがねぇな……」
摩耶は、姉たちの期待に抗えず、差し出されたセットを受け取る。
いや、完全に押し切られた形ではあるが——
(……まぁ、ちょっとだけ……嬉しかったりもする……)
心の中で少しだけそう思いながら、再び試着室のカーテンを閉めた。
◇◆ 摩耶、次なる白へ ◆◇
試着室に戻り、摩耶は改めてセットを広げる。
(……これは……?)
最初に試着したセットと同じ白色だが、デザインはまるで違う。
シンプルでありながら、より繊細なレースがあしらわれ、透け感のある部分が絶妙に配置されている。
(……さっきのより、ちょっと……大人っぽい……?)
派手ではない。
しかし、上品な中に 官能的 な魅力が隠されている。
レースの配置が計算され尽くされており、過度な露出はないのに妙に艶っぽい。
肌の色と白い生地が交わることで生まれる陰影が、"見えそうで見えない" 絶妙なバランスを作り出している。
(……なんか、すごいな……)
手に取ったブラのストラップ部分には、ほんの少しだけ光沢のある刺繍が施されている。
前面はシンプルながら、バックデザインは繊細なレースが組み合わされ、背中に美しい模様を描く仕様になっていた。
(こ、これ……アタシが着けて大丈夫なやつなのか……?)
摩耶は手の中でブラを見つめ、少しだけためらった。
しかし——
(……まぁ、せっかく渡されたんだし……試すだけ試すか……)
ゆっくりと、試着の準備を始める。
◇◆ 摩耶、くるりんマスターへの道 ◆◇
最初に試着したブラを外し,カゴに入れる。
試着用のパッドを胸にセットし、新しいランジェリーを手に取った。
(さて……背中でホックを……)
摩耶は背中へ手を回し、ホックを留めようとする——
が。
(……ん? ……あれ……?)
何かがおかしい。
普段なら簡単に手が届くはずのホックが、微妙に指先から逃げる。
無理に指を伸ばそうとすればするほど、ホックがどこにあるのかわからなくなっていく。
(お、おっかしいな……? さっきは普通にできたのに……!)
摩耶は焦り始める。
何度かチャレンジするが、なぜかホックが指先からすり抜ける。
指が空を切り、なぜかストラップの位置すら見失う。
(あ、あれ!? なんか……ホックが消えた……!?)
手探りでホックを探すものの、緊張と焦りで指の感覚が鈍くなっていく。
気づけば、無駄に腕を動かして背中をさまよう状態になっていた。
「摩耶、大丈夫?」
外から愛宕の優しい声。
摩耶は試着室のカーテンに頭を寄せ、泣きそうな声でつぶやいた。
「……ホックが留まらねぇ……いつもはできてるのに……」
「ふふっ♪ そういうときは、くるりん方式 よ♪」
「……くるりん方式……?」
「そうよ〜♪ ブラのホックを前で留めて、それから くるりんっ って後ろに回すの!」
(くるりん……?)
摩耶の脳内に、ホックを前で止めて、くるりんと後ろに回すイメージが浮かぶ。
(……あ、確かに……! こっちのほうが楽かも……!?)
「でしょ〜? これは くるりん方式 よ♪」
愛宕が得意げに言う。
とはいえ、背中でホックを留めるのに苦戦していた摩耶にとって、このアドバイスは神の啓示に等しかった。
素直に試してみることにする。
(よし……まずは前でホックを留めて……)
ぱちんっ。
(それから……くるりんっと……)
「くるりんっと……」
心のつぶやきが声に出ていることに気付かない摩耶
スルッ。
驚くほどスムーズにブラが後ろへ回った。
「出来た……」
(……!! ……めっちゃ簡単にできた!?)
「うふふっ、よかったわね♪ これで摩耶も くるりんマスター ね♡」
「……なっ……!? やめろ!! その呼び方やめろぉ!!!」
「でも、今度からずっとこれを使うんでしょ?」
「ぐっ……!! そ、それは……」
(……めっちゃ使う……!!!)
こうして、摩耶は 「くるりんマスター」 の称号を得たのであった——。