◇◆ 摩耶、黒の衝撃 ◆◇
摩耶は震える手で、黒のブラを手に取る。
(……く、黒か……)
白のランジェリーの試着を終えたばかりだというのに、またもや胸の鼓動が速くなる。
白はまだ「清楚」とか「可愛い」とかいうカテゴリに何とか収めることで、自分自身を納得させられた。
だが、黒は……
(お、大人の色……ッ!)
摩耶の脳裏に、共用入浴区画の脱衣所で見た高雄の姿が浮かぶ。
しっとりとした大人の色気をまとい、余裕のある微笑みを浮かべていた姉の姿。
(いやいやいや、でもアタシはアタシだから! つけたところで何も変わら——)
摩耶は自分に言い聞かせながら、手を伸ばす。
それは、まるで禁断の果実に手を伸ばすかのような心境だった——。
◇◆ 摩耶、黒の試着 ◆◇
摩耶は慎重にブラを広げる。
先ほどの白いものとは違い、黒はより洗練された大人のデザインだった。
繊細なレースの装飾が絶妙なバランスで配置され、シンプルながらも圧倒的な存在感を放っている。
(……え、これ……すごくないか……?)
上品な艶感、洗練されたシルエット。
どこか「隙のない」美しさを感じさせるランジェリー。
(なんか……高雄姉っぽいな……)
摩耶は一瞬、少し着けるのをためらう。
しかし、ここで躊躇しても仕方がない。
(……よし、行くぞ!)
脳内で「くるりんマスター・愛宕」の指導を思い出しながら、慎重に試着を始めた。
(まずは……くるりん!)
愛宕に教わった「くるりん方式」を実行。
ブラのホックを前で留めたら——
(次は……くるりんッ!!)
手際よく背中側に回す。
だが、黒いブラは生地の質感がしっとりしていて、白よりも少しだけスムーズに回しにくい。
(くっ、手強いな……!! だが、くるりんマスターの弟子として負けるわけにはいかねぇ……!)
なんとか正しい位置に収めた後、ストラップを肩に通す。
そして最後に——
(……寄せて……上げる……!)
教えを思い出しながら、恐る恐るブラの中に胸を収める。
すると——
(……!?)
鏡の前に立った摩耶は、一瞬、息を呑んだ。
◇◆ 摩耶、鏡の中の自分 ◆◇
(……向こうに……高雄姉がいる……?)
一瞬、そう錯覚した。
けれど、それは違った。
鏡の中に映っていたのは——
まぎれもなく摩耶自身だった。
黒のランジェリーに包まれた自分の姿。
それは今まで見たことのない、大人の雰囲気を纏った摩耶だった。
(これ……アタシ……?)
思考が停止する摩耶。
自分ではないような自分。
でも、間違いなく自分。
摩耶は無意識のまま、試着室のカーテンを開けた。
◇◆ 摩耶、姉たちのリアクション ◆◇
「…………っ」
高雄も愛宕も、店員さんも、一瞬息を呑んだまま動かない。
まるで時間が止まったかのような静寂。
「……摩耶……」
最初に声を出したのは高雄だった。
驚きと感慨が混じったような表情で、ぽつりと呟く。
「……大人になったのね……」
(え……?)
摩耶はきょとんとする。
「小さかった摩耶が……こんなに素敵な大人の女性になってたなんて……」
愛宕が、どこか感動したような声で呟く。
その瞳が、ほんのり潤んでいるように見えた。
「それに……」
高雄がふわりと微笑みながら、摩耶を見つめる。
「黒を着ると……摩耶の肌の白さが、より際立ちますわね……」
「ほんとねぇ♪」
愛宕も感心したように頷く。
「摩耶、普段は元気いっぱいだけど、こうしてみると本当に透き通るような綺麗な肌してるのねぇ♡」
「え、あ、いや……」
摩耶は急に恥ずかしくなり、思わず目をそらす。
(な、なんだこれ……アタシ、なんか褒められすぎじゃね……!?)
そんなことを考え始めた、その時——
◇◆ 摩耶、撃沈 ◆◇
「……じゃあ、次は黒の二つ目、試してみましょうか!」
店員さんの元気な声が響いた。
(……)
(…………)
(………………)
摩耶、撃沈。
(お、おい!! なんでそんなテンション爆上がりしてんだよ!!!)
姉たちの感動の余韻、しっとりした空気——すべてを吹き飛ばすほどの明るい声。
「……え?」
摩耶はゆっくりと店員さんを見つめる。
店員さんは、先ほどの感動モードとは一転、プロの販売員としてノリノリだった。
「白は、より大人っぽいタイプも摩耶様にしっくりきましたよね。ですので、黒も二種類試して、感じを見てみましょう!」
(や、やっぱそうなる!? これ、そういう流れ!?)
摩耶の脳内で、高雄の「白いのは……」のセリフが再び反響し始める。
「黒いのは……黒いのは……」
(黒いの……黒いの……)
「摩耶?」
愛宕が楽しげな笑顔で、摩耶の手に黒の二つ目をそっと乗せる。
「ほら、試してみましょ♪」
(無駄な抵抗は……無意味か……)
摩耶は震える手で、差し出された二つ目の黒を掴んだ。
もう、こうなったらやるしかない——!!