◇◆ 摩耶、再び黒を装着 ◆◇
(……いや、もうここまで来たら慣れたもんだぜ……!)
試着用パッドをセットし——
華麗にホックを前で留め——
「くるりんっ!」
回転させて——
ストラップを調整し——
(よせて……あげる!)
\ どやぁ! /
完璧な流れで黒のブラを装着完了!!
(よし、バッチリ! これなら問題な——)
摩耶は、試着室の鏡を見た。
(……あれ……? なんか……違和感……)
よく見ると——
(……透けてる……!?)
黒のレースが繊細すぎて、ほんのり肌が透けている。
下品な感じはまったくない。
むしろ、エレガントで上品なデザイン。
(……な、なんか……すげぇ……)
これまで試着した白のランジェリーとは、また違う「大人の女」の雰囲気があふれ出している。
(こ、こんなのアタシが身につけていいもんなのか!?)
——そんな摩耶の混乱をよそに、試着室の外から姉たちの声が飛んできた。
◇◆ 店員 vs. 姉たちのキャッキャッ会議 ◆◇
「摩耶、どんな感じ?」
「……透けてる……」
摩耶の声は、かすれた。
「透け感、素敵でしょ!」(超笑顔)
店員さんが、うれしそうに聞き返す。
「黒のシースルー……摩耶の大人の魅力、溢れちゃうかも♡」
愛宕は興奮気味。
「今季の一押しなんです♡」(ウフフ)
店員さんが、どこかウフフな感じで囁く。
「摩耶にぴったりね♪」
高雄もノリノリだ。
(いやいやいや!! どういうこと!? 今、試着室の中にいるのはアタシなんですけど!!)
——そして、次の一言が摩耶の逃げ道を完全に塞ぐ。
「摩耶、見せてみて♪」
(えっ!? いやいやいやいや!! ちょっと待て!! これは!!)
(これは絶対に本当にダメなやつ!!)
しかし、姉たちの「見せてね♡」オーラが外から滲み出てくる。
(……うぅ……)
摩耶は、ありったけの勇気を振り絞り——
試着室のカーテンを開けた。
◇◆ 摩耶、最強の賛辞を受ける ◆◇
「素敵!!!」
「可愛い!!!」
「大人の色気ね!!!」
(……は?)
摩耶の顔が、一気に真っ赤になる。
高雄は頬に手を添え、うっとりした表情で摩耶を見つめる。
「やっぱり私の妹ですわ……」
愛宕はキラキラした目で摩耶を見て、満面の笑みを浮かべる。
「摩耶、すごく素敵よ!」
店員さんは、嬉しそうに頷いている。
「摩耶さん、とてもお似合いですよ……」
(う、うそだろ……?)
摩耶はパニックになりながら、鏡を見た。
そこには、大人の色気を纏った自分がいた。
(……えっ……これ、アタシ……?)
赤みがかった頬、シースルーの繊細なレースがほどよく肌を透かし、艶やかな黒が美しく映える。
(……高雄姉や愛宕姉が着けてたのと同じくらい……いや、それ以上に……大人っぽい……!?)
そして——
「黒も決まりね♪」
愛宕が、キラッと眩しい笑顔を浮かべながら宣言する。
「ええ、間違いありませんわ」
高雄が深く頷く。
店員さんも満面の笑顔で摩耶を見つめる。
摩耶は再び鏡を見つめた。
(……決まり……?)
摩耶の脳内で、思考がぐるぐると回る。
(アタシの選択する権利は……?)
(ないの……?)
(……う〜ん、ないんだろうな……)
(……ん〜ない。)
摩耶は、ここに至り、自分の意思とは関係なく「黒のランジェリー」も決まってしまったことを理解した。
◇◆ なぜ、ここで紅茶が? ◆◇
「ショーツはTバックタイプね♪」
高雄の突然の一言に、摩耶の思考が危機レベルに低下する。
(は? てぃーばっぐ…… ティーバッグ!? なんで紅茶が出てくんの?)
この勘違いが、数時間後の悲劇に繋がることを、摩耶はまだ知らない——。
「す・て・き……♡」
(えっ? えっ? えっ!?)
愛宕と高雄の「うふふきゃっきゃ」な会話が摩耶の脳内に飛び込んでくる。
摩耶の心は急激に現実逃避モードに突入する。
(……姉さん達は何を言ってるんだ……!?)
摩耶の視界に、高雄が店員さんに向かって言葉を発している姿が映る。
「摩耶が最初に選んだ白と、この黒……ふふっ、どちらも素晴らしいわね♪」
高雄はまるで獲物を仕留めた名ハンターのように満足げに頷くと、店員さんに向き直り——
「この二つ、頂きますわ」
高雄がさらりと決断し、颯爽とレジへ向かう。
(えっ!? もう決まったの!?)
愛宕が摩耶の方を振り向く。
「良いのを選んだわね、摩耶♪」
(アタシ,選んでないけど...)
愛宕は、自慢げに微笑む。
「さすが私の妹だわ!」
その誇らしげな表情に、摩耶の脳が処理落ちする。
(いや……アタシの意思……どこ……?)
愛宕が、レジへ向かう高雄を見て、ニコッと微笑む。
「摩耶、着替え終わったらレジに来てね♪」
摩耶はほぼ轟沈状態で、力なく頷く。
(……えっ……終わり……?)
完全に姉たちのペースに巻き込まれた摩耶は、呆然としたまま、試着室のカーテンを閉め、ハンガーにかけたワンピに手を伸ばした。