◇◆ 摩耶、注文の壁にぶち当たる ◆◇
三人は、テーブルに着いた。
窓の外では、お昼前の柔らかな陽光が心地よく街並みを照らしている。
摩耶は メニューを睨みつけるように見つめていた。
(ヤバい、頭が回らねぇ……何頼んでたっけ、アタシ……?)
提督と来たとき、アタシは何を注文していた?
……えーっと……えーっと……。
だが、頭が真っ白で まるで思い出せない。
脳の処理能力が限界を迎え、 記憶の回路がショートしている。
(おい!! しっかりしろアタシ!! こんなことで動揺してどうする!!)
しかし、脳は応えてくれなかった。
記憶の扉は固く閉ざされたままだった——。
◇◆ 突然の愛宕砲! 摩耶、突破口を開く ◆◇
「摩耶、食前酒のお薦めってある?」
愛宕が、眩しい笑顔で尋ねてくる。
(きた! これだ!!! ここから突破口を開くんだアタシ!!!)
摩耶は 脳内で必死にデータを検索する。
全力で記憶を引っ張り出しにかかる。
(……たしか……あの時……食前酒……何飲んでたっけ……?)
ようやく、記憶の片隅から答えを引きずり出す。
それは、提督と初めてこの店に来たとき——
「き、キールとか……?」
声が少し裏返った。
愛宕は 微笑みながら軽く頷く。
高雄も 「良いですわね、食前酒はそれにしましょう」 と、落ち着いた声で店員を呼ぶ。
(セーフ!!! なんとか乗り切った!!!)
——と、思ったのも束の間。
(アタシ、まだ前菜とメインが決まってねぇ!!!!)
摩耶の思考は再び 混乱の渦 へと突入する。
しかし、 姉たちは全てを見抜いていた。
◇◆ 高雄のエレガントな采配、愛宕の無邪気なフォロー ◆◇
「そうしたら、食前酒はキールでお願いしますわ」
「前菜は……今日のお薦めを適当に見繕っていただけますこと?」
高雄は 滑らかな流れで店員に注文を告げる。
摩耶は呆然と見つめるだけ。
(……え、まじで完璧な流れじゃね?)
「メインは……摩耶は何が一番食べたいのかしら?」
高雄のつぶやきに,愛宕がすかさず
「ピザ? ピザね。摩耶、マルゲリータ好きだったわね……」
(あれっ!? 何も言ってないのに、バレてる!?!?)
「じゃあ、マルゲリータと……愛宕は?」
「パスタなら、カルボナーラね♪」
「そうしましたら、摩耶が好きだったカルボナーラと……」
(え、アタシの好み、全部把握されてる……?)
「それと、本日のお薦めのレモンとエビのリゾットをお願いするわ。全部三人で取り分けるましょう……、そんな感じでお願いね♪」
高雄の 流れるような注文。
そして、愛宕の 優しい微笑み。
摩耶—— ただただ呆然。
(あ、これ……アタシの出番、なくね……???)
◇◆ 摩耶、姉の壁の高さを痛感 ◆◇
(やっぱり……姉さんたちにはまだまだ敵わねぇな……)
摩耶は、そう 心の奥底で実感する。
でも——
不意に、小さい頃の記憶が蘇ってきた。
姉たちと一緒に行ったレストランのこと。
高雄が 手際よく注文してくれて、
愛宕が 楽しそうに選んでいて、
アタシは ただ「美味しそう!」って言いながら食べていた。
(そうか……あの頃と、変わってねぇのかもな……)
ほんの少しだけ、心が温かくなるのを感じた。
◇◆ 店員さん、圧倒される ◆◇
「食べ終わった辺りで次をお持ちできるように、タイミング調整しますね!」
店員さんが元気に答える。
しかし——
その表情には、明らかに「すごいものを見た!」という感嘆の色があった。
(……いや、そりゃそうだろ。あんな流れるような注文……)
(アタシですら圧倒されたんだ……プロの店員さんだってビビるわ……)
摩耶は ぼーっとしたまま、注文が終わったテーブルを見つめる。
(姉さん二人、強すぎるんだが……)
◇◆ 姉たちの余裕、摩耶の敗北 ◆◇
「ふふっ、摩耶、もうちょっとリラックスしてもいいのよ?」
愛宕が 優しく笑いかける。
「そうですわね、今日は私たちに甘えても良いのよ」
高雄も 落ち着いた微笑みを浮かべる。
(……くそっ、なんか……)
(やっぱ姉さんたち、大好きだな……!)
摩耶、何とも言えない気持ちになりながら、温かいランチの時間に突入するのだった——。