摩耶、帰港
◇◆ 帰還、そして静寂 ◆◇
摩耶は帰路を歩きながら、どこか足取りが軽いことに気づいていた。
(……ん? なんか、アタシ、ちょっと急いでねぇか?)
別に、提督が帰ってくる前に戻らなきゃいけない理由があるわけじゃない。
だけど、なんとなく胸がそわそわしている気がする。
視線は、腕にかけたランジェリーショップの紙袋へと自然に落ちる。
(……まあ、せっかく買ったんだし、早めに新しい装備を確認するのは当然、だよな?)
「艤装のチェックは大事」——艦娘として染みついた習慣だ。
今回も、それとまったく同じことをしようとしているだけ。
(そう、そういうことだ……!)
摩耶はほんの少しだけ早足になる。
しかし、脳裏には 「提督に見せてあげなさいね♪」 という姉たちの言葉が浮かぶが、
「ぐっ……!」 と頭を振って、強引にかき消す。
(あの二人の言葉を思い出すと、余計なことまで考えちまう……!)
そうこうしているうちに、マンションへ到着。
ドアを開けると、静寂が迎えてくれる。提督はまだ帰ってきていない。
(……まずはシャワーだ……)
摩耶は、手に持ったランジェリーショップの紙袋をベッドの端に置く。
そして、ふぅっと息を吐いた。まるで戦闘前の深呼吸のようだ。
「……汗を流して……」
◇◆ ワンピースを脱ぐ、その前に ◆◇
摩耶はクローゼットの前で立ち止まり、少し迷うように視線を下げた。
(……このワンピースも、大事にしねぇとな……)
白のワンピース。
提督と一緒に選んだもの。
最初は「自分らしくない」と感じていたけれど、今ではすっかりお気に入りになっている。
摩耶は、ゆっくりとワンピースを脱ぎ、丁寧にハンガーにかける。
シワにならないように形を整え、それをクローゼットにしまう。
(よし……これでOKっと。)
ワンピースの襟元を軽く撫でて、少しだけ気持ちを落ち着かせる。
今のアタシは、これを着て出かけて、ちゃんと姉たちと肩を並べられたんだ。
それを思い出すと、少し誇らしくなる。
(……さて、シャワー浴びるか。)
◇◆ 戦闘装備、更新の時 ◆◇
脱衣所に向かい、摩耶は洗濯かごの前で、いつものブラとショーツを脱いだ。
セール品で買ったショーツは、先ほどまでの激戦で、一層くたびれて見える。
ブラも、何度も洗濯を繰り返したせいか、ゴムの部分が少し伸びていた。
「……長い間、お疲れさん。」
心の中でそう呟いて、それらを洗濯かごに入れる。
高雄姉や愛宕姉みたいに、もっと素敵なランジェリーを身につける。
それが、今日学んだこと だ。
バスルームに入り、熱めのシャワーを浴びる。
まるで「清める」ような感覚だった。
気合いを入れ直すため、最後に冷水を浴びてシャキッとする。
体をバスタオルでさっと拭ったあと、そのバスタオルを巻く。
「バスタオル……上手く巻けるようになったじゃん。」
提督とのお風呂タイムで特訓を続けた成果か、以前よりもずっとスムーズに巻けるようになっていた。
鏡の前に立つと、バスタオルをきっちりと巻いた自分が映っている。
「ふふっ、アタシ、ちょっとは成長したか?」
少し誇らしげに胸を張る。
◇◆ 新装備、試着開始 ◆◇
摩耶は、ドレッサーの横に置かれた全身鏡の前へ移動する。
そして、意を決してバスタオルを解いた。
ふわりと落ちたバスタオルが足元に沈む。
鏡に映る自分の裸を、まじまじと見る。
今までは、必要以上に気にすることはなかった。
戦闘の準備で体を整えることはあったが、「自分の体がどう見えるか」 に真剣に向き合ったことはなかった。
姉たちの言葉が脳裏をよぎる。
鏡に映る自分は、高雄姉や愛宕姉と同じ重巡洋艦の体だった。
柔らかな曲線を描くライン、しなやかに引き締まったウエスト、そして母性を感じさせる豊かなバスト……。
(……提督、アタシの体、好きって言ってたな……)
ふと、以前言われた言葉を思い出す。
摩耶は、頬が熱を帯びるのを感じた。
「な、何だよそれ……今さら意識しちまったじゃねえか……!」
無意識に胸元を隠しかけたが、すぐに手を下ろす。
いや、今さら恥ずかしがる必要はない。
姉たちだって堂々としていた。自分だけ気恥ずかしがるのは、何だか負けた気がする。
「……よし」
摩耶は、ランジェリーショップの袋から、まず白い方を取り出した。
純白のブラとショーツ。
愛宕姉が試着していたとき、綺麗だと思ったものだ。
◇◆ 新装備、装着 ◆◇
まずはショーツから。
足を通し、ゆっくりと腰まで引き上げる。
今までのショーツとは明らかに違う、なめらかでヒンヤリとした感触。
次に、ブラ。
くるりん方式 でホックを留め、ストラップを肩にかける。
鏡の中の自分がブラを身につける姿に、何とも言えない不思議な気持ちになる。
「……寄せて、上げる……」
思わず口に出してしまい、「うわっ!」 と顔を赤くする。
ゆっくりと胸を整えると、ふんわりとしたシルエットが浮かび上がる。
鏡に映る自分の姿は、まるで姉たちのように洗練されて見えた。
気恥ずかしさと誇らしさが混ざった、不思議な気持ちになる。
「……アタシ、こういうのも合うんだ……」
鏡の中の自分を、見つめる。
清潔感のある白。姉たちと一緒に選んだランジェリーが、たしかに自分に馴染んでいる。
(……変じゃない、よな……)
摩耶は、ほんの少し背筋を伸ばしてみる。戦闘のために鍛えた体のはずなのに、こうして見ると、確かに「女性」としての美しさがあるように感じる。
(姉さんたちも、こういう気持ちで選んでたのかな……)
新しい装備を試すような緊張感とは違う。自分を知るための、新しい感覚。
もう一度、鏡の中の自分を見つめたあと、摩耶は無意識に、紙袋の中の黒いランジェリーに目を向けていた——。
「……黒も、試してみるか。」
摩耶の小さな冒険は続く。