◇◆ 気まずい ◆◇
とにかく気まずい。
摩耶(誰か助けてくれええええ!!!)
高雄はしばらくじっと摩耶を見つめ――
「摩耶ちゃん……。」(怒)
摩耶(あっ……やべぇ……まだ“ちゃん”がついてる……)
摩耶の顔から血の気が引く。
(この声色……笑顔だけど、怒ってる!! 間違いなく怒ってる!!!)
摩耶(なんでこんなことになっちまったんだよおおおお!!!)
牛乳瓶を持つ手が、微かに震えた。
摩耶、絶体絶命の危機――!!
◇◆ 逃れられぬ運命 ◆◇
「明日お休みだったわよね?」
シャワールームに響く、高雄の優雅な声。
でも――
(な、なんか目が笑ってねぇぇぇ!!!!)
「え、あ、う、うん……(な、なんだこの圧……!?)」
心臓がバクつく。
演習で敵戦艦の主砲がこちらを捉えた時よりも、よっぽど強烈なプレッシャーを感じる。
「今日秘書官だった愛宕が、提督、明日は通常勤務だって言ってたから、……」
「明日時間空いてるわよね、摩耶?」
(えっ!? 提督の予定まで把握されてるの!?)
「明日、一緒にお出かけするわよ(ニコッ)」
「ええぇぇっ!?!?」
◇◆ 摩耶の焦燥、極限へ ◆◇
(ちょ、ちょっと待て、どこに!? どこに連れて行かれるの!?)
(ま、まさか……デパート……??)
(いや、でもデパートって何!? もしかして――いや、もしかしなくても!?)
恐る恐る聞く。
「あ、あの……行くって、どこに……?」
「デパートよ!(キラキラした笑顔)」
「あっ……ああ、デパートね……(デパート、デパートね……)」
(待て、やっぱりデパート!? もしかして――いや、もしかしなくても!?)
摩耶、最後の希望を握りしめる。
「も、もしかして、デパートの……下着売り場?」
「ええ!(満面の笑顔)」
「…………………………。」
(詰んだ……。)
「待ち合わせは10時半、デパートの前ね!(ルンルン♪)」
(そんな明るい声で恐ろしいことを言わないでくれぇぇぇ!!!)
◇◆ 高雄姉、下着を纏う ◆◇
摩耶の心の混乱とは裏腹に、高雄は着替えを始めた。
まずは手に取ったのは――お洒落で繊細なレースがあしらわれた、上品なブラとショーツ。色は高雄の髪と同じ黒。
摩耶の目が、思わず釘付けになる。
(な、なんかすげぇ……!?)
ただの下着じゃない。
明らかに高級ブランドのやつだ。
官能的な雰囲気を漂わせつつも品が感じられる。
それを身に着けると――
抜群のスタイルが、さらに際立った。
完璧なボディライン。
しなやかな曲線美。
背筋をすっと伸ばし、髪をかき上げるその仕草すら、まるでモデルのようだ。
(や、やべぇ……高雄姉、超美人じゃん……!!!)
思わず状況を忘れ、心の底から姉を誇らしく思う。
(アタシの姉さん、やっぱすげぇ……!! こんな姉がいて誇らしいぜ……!!)
しかし――
脳内のツッコミが炸裂する。
(今考えるのはそこじゃねぇだろアタシ!!!)
◇◆ 摩耶、終焉の刻 ◆◇
摩耶の経験則が囁く。
「ここで拒否は不可能」
(頷く以外の選択肢がない……!!)
(この場で『いや、高雄姉、それはちょっと……』とか言ったら……?)
(この笑顔が、一瞬で冷たく凍りつきそう……!!!)
「……は、はい……。」(頷くしかない)
高雄は、美しく整えられた下着の上から上品な部屋着を羽織る。
それすらもまた、洗練されたオシャレさに溢れていた。
(なんだこの差は!?)
摩耶がヨレヨレのパンツ一丁で立ち尽くしているというのに、高雄は優雅に微笑んでいる。
「明日、楽しみにしてるわね(ニコッ)」
(目がまだ怒ってる!!!!!!!)
(やっぱ怒ってんじゃねぇかぁぁぁ!!!)
「それと、冷えるといけないから髪は早く乾かしなさいね?」
「は、はいっ!!!」(反射的に敬礼)
「……アナタの髪、素敵なんだから、ちゃんと丁寧に乾かしなさいよ(ニコっ)」
その言葉は、優しくて――
だけど、その背後にある「可愛い妹にはしっかりした下着を着せなきゃ!」という意志が感じられる。
高雄はそのまま、涼やかに浴室を出ていった。
◇◆ 摩耶、完全に茫然自失 ◆◇
摩耶、風呂場に取り残される。
首からバスタオル。
パンツ一丁。
手には空になった牛乳瓶。
髪は半乾き。
「…………………………。」
(え、アタシ……何この状況……??)
(たった今、アタシの明日、決められた??)
(拒否権、無かった??)
「…………………………。」
(なんか、今から髪乾かす気力すらねぇ……。)
摩耶は、しばらくその場で呆然と立ち尽くしていた。