◇◆ 摩耶、一人ファッションショー ◆◇
摩耶は、全身鏡の前でポーズを決めていた。
黒のブラとショーツだけを身につけた姿。
いつもなら絶対にしないような仕草――背筋を伸ばし、軽く腰をひねり、片手は腰に、もう片手は髪を整えるように顔の横へ。
(……おお? 結構いい感じじゃね?)
くるっと回って後ろ姿も確認。
黒のショーツは、ウエストのレースが繊細で、ヒップラインにぴったりと沿うデザイン。
――しかも、Tバック。
(……いや、待て……これ、ちょっと……)
摩耶は腰をひねりながら、もう一度、鏡を覗き込む。
(……想像以上に布、少ねえ……!!)
背後を映す鏡の中で、ヒップの丸みをしっかりと強調しながら、申し訳程度に布が細く伸びている。
(こ、これ……本当に普通に履くやつなのか……!?)
だが――妙に大人っぽく、艶やかに見える。
ショーツが作る細いラインが、普段は意識しない自分のシルエットを際立たせている。
(……うわ、なんか色っぽくね……?)
思わず両手を腰に当て、もう一度ゆっくりとポーズを取る。
Tバックの感触にも、ようやく慣れてきた。
最初はあまりにも布が少なくて落ち着かなかったが、不思議としっくりきている。
(こ、これ……提督、見たらびっくりすんじゃねーの……?)
ふと、摩耶の脳裏に、ある光景が浮かぶ。
――お姫様抱っこ。
(……提督に「摩耶、素敵だよ……」って抱き上げられて、そのままベッドに運ばれたりして……)
(……うわ、やっべ、何考えてんだアタシ!!!!!)
摩耶は慌てて顔を両手で覆い、頭をぶんぶんと振る。
(……まあでも……これも姉さんたちが選んでくれたやつだしな……!)
もう一度鏡を覗き込み、満足げに微笑んだ瞬間――
「摩耶〜,もう帰ってたんだ」
提督の声と同時に、
ガチャッ……。
ドアが開く音がした。
◇◆ 摩耶、即死 ◆◇
「――っ!!?」
ドアに背を向けた状態で、摩耶の身体は、一瞬で硬直する。
(ま、待て!! 待て待て待て!! 誰!? いや、提督だろ!! でもなんで!?)
頭の中は大パニック。
だが、驚きすぎて身体は全く動かない。
唯一、動いたのは――
首だけ。
摩耶はゆっくりと、ぎぎぎぎ……と、まるでロボットのように首だけをひねり、開きかけたドアの方を見る。
――提督と目が合った。
「……」
「……」
二人とも、完全に静止する。
(……えっ? えっ?? えっ!?)
時間が止まったかのようだった。
摩耶の脳が、一瞬でフリーズ。
身体は動かない。
呼吸も止まっているような気がする。
提督もまた、ドアの向こうで微動だにしない。
「……」
「……」
(……た、たしかに、あたしは今、黒のランジェリーだけを身につけた状態だ……よな?)
摩耶は、全身鏡に映る自分の姿を横目で確認する。
(……うん。間違いなく、ブラとショーツだけだ。)
(……っていうか、めっちゃポーズ決めてるじゃんアタシ!?)
(……しかもTバックじゃん……それも、提督に背中向けて……)
ガクガクと崩れ落ちたくなるが、まだ動けない。
提督の視線が、摩耶の顔から下へとゆっくり移動していく。
ショーツ、ブラ、顔へと、視線が戻る。
その瞬間――
提督の鼻から、赤い筋がスーッ……と流れ落ちる。
提督の体が、前にふらっと傾く。
「ちょ、ちょっと!? 提督!?」
摩耶は反射的に動いた。
◇◆ 摩耶、提督をキャッチ ◆◇
風を切る音がするほどの速さで飛び込み、提督を受け止める体勢を取る。
(あぶねぇ!!!)
ガシッ!!
摩耶は提督の体をしっかりと抱きとめる。
――そして鏡に映る二人の姿。
黒のランジェリー姿の摩耶が、意識を失った提督をがっちりホールドしている。
(……これ、なんかめっちゃ恥ずかしくねぇか!?)
摩耶は素早く提督を床に寝かせ、呼吸を確認する。
◇◆ そして、気道封鎖事件 ◆◇
提督が何かを呟いている。
摩耶は、ゆっくりと提督の口元に耳を寄せた。
「……摩耶……」
「……?」
摩耶の胸が、じんわりと温かくなる。
愛おしさがこみ上げ、無意識に、提督の頭をそっと胸に抱き寄せる。
(……提督、アタシのこと……)
……少しして、提督の呼吸が苦しそうになってきたことに気づく。
(……えっ?)
視線を下げる。
(……やべぇ!! アタシ、胸の谷間で提督の気道塞いでる!!!!)
慌てて胸を離す。
提督は深く息を吸い込み、呼吸が安定する。
摩耶は呆然としながら、ぽつりと呟いた。
「……提督,アタシのこと好きすぎじゃん……?」
言ったあとに声に出していたことに気付き、今まで以上に顔が赤らむ。
(……ったく、仕方ねえな……)
艤装を取り回すように提督を軽やかにお姫様抱っこ、ベッドへと向かう。
そして、鏡に映る二人の姿に気付き――
(……あれ? これ、逆じゃね???)
黒のランジェリー姿(シースルー&ショーツはTバック)の摩耶が、意識を失った提督をお姫様抱っこで、ベッドに運んでる……。
「……何やってんだアタシ……」