◇◆ 状況終了……??? ◆◇
摩耶は提督を優しくベッドに寝かせた。
(……よし、大丈夫そうだ)
深く息をつく。
が、そこで摩耶は、ようやく ある事実 に気づいた。
(……あ、アタシ……まだ、黒のブラとショーツだけじゃん!!!!)
――一瞬で、全身が真っ赤に染まる。
しかも、Tバック。
(いや、これ……どう考えてもアウトだろ!!)
背後の鏡をチラッと見る。そこには、ヒップラインを強調するTバック姿の自分が映っていた。
(提督……こんなの見たら、そりゃ鼻血出して倒れるわ……)
摩耶は猛ダッシュで白の下着を取りに戻った後,クローゼットから部屋着を取り出し、慌てて身につけた。
白の下着も丁寧にチェストに収める。
(よし……白の方はちゃんと仕舞った……提督に見つからないように……)
(流石だぜ、アタシ!!)
満足げにクローゼットを閉める摩耶。しかし、黒の下着を身につけたままであることは、完全に頭から抜けている。
これが後の悲劇に繋がる……
落ち着いた頃、摩耶はふと、ベッドで寝ている提督の顔を見つめる。
無防備で、どこか幸せそうな寝顔。
摩耶の胸の奥が、ふわりと温かくなる。
(……ほんと、アタシのこと好きすぎじゃね?)
そう呟くと、摩耶はそっと寝室のドアを閉め、キッチンへと向かった。
頬が緩んでいるのを、どうにも止められなかった。
◇◆ 摩耶、キッチンに立つ ◆◇
摩耶は台所に立ち、エプロンをつけながら夕食の準備を進めていた。
「さて……あいつの好きなハンバーグをメインにするか」
ふっと笑みがこぼれる。
(ったく……子供みたいにハンバーグ好きとか……)
摩耶は、ひき肉が入ったボウルを前にしながら、左手の薬指をじっと見つめた。
そこには、"ケッコンカッコガチ"の証が輝いている。
(……こねる前に外さねぇとな……)
それは当然のこと。分かってる。
だけど――
(……なんか、やだ……)
ほんの少しだけ、躊躇う。
指輪にそっと触れてみる。
(アタシ、何やってんだよ……///)
小さくかぶりを振って、ようやく決心。
そっと、指輪を外し、専用小皿に置く。
カチリ。
金属が小皿に当たる音が、妙に響く。
たったそれだけなのに、左手の薬指が急に軽くなった気がする。
(……たった数分だけ……すぐ戻すし……)
そう自分に言い聞かせるけど、胸の奥がほんのりと寂しい。
無意識に左手を握る。
(……やっぱ、ないと落ち着かねぇ……)
それでも、気持ちを振り切るように、摩耶はボウルに向き直った。
「……よしっ!」
声に出して気合を入れ、ハンバーグ作りを開始した。
◇◆ 摩耶、指輪が気になる ◆◇
手を動かす。
グッ、グッ、とひき肉をこねる。
ねっとりとした感触が、指の間に広がる。
(……牛乳入れて……パン粉も混ぜて……)
目の前の作業に集中しようとする。
けれど――
(……指輪、気になる……)
手元じゃなく、左手の薬指が妙に落ち着かない。
指輪がない感覚が、頭の片隅にずっとこびりついてる。
(なんで……いつも意識なんてしてねぇのに……)
「つけてるのが当たり前」だからこそ、ないと余計に気になる。
(くっそ、集中できねぇ……)
小皿に視線を向けそうになるのを、グッと堪える。
必死にこねる手に力を込める。
(……終わったら、すぐ戻す!!)
◇◆ 摩耶、指輪を戻す ◆◇
(……終わった!!!)
摩耶は急いでボウルを横に置く。
流しで水を勢いよく出し、タネがついた手をゴシゴシ洗う。
(……はやく……)
ぬるま湯で流しながら、左手の薬指を何度も擦る。
そして、待ちきれずに、小皿へと目を向けた。
そこには、いつもの場所に、指輪が静かに待っている。
指先でつまみ、そっと薬指に戻す。
スルッ――
金属が指に馴染む。
ほんの少しだけ冷たかった指輪が、すぐに体温で温まっていく。
(……やっぱ、こうじゃねぇとな……)
左手を、右手でギュッと握りしめる。
◇◆ 寝室の扉が開く ◆◇
しばらくすると、寝室の扉が開く音がした。
「……ん……なんか寝ちゃってたみたい……」
頭をかきながら、提督がふらりと現れる。
「疲れてたのかな……」
摩耶はチラッと提督を見やる。
(……そりゃそうだろ。アタシの下着姿みて即堕ちしたんだからな……)
自分が黒のTバックショーツとブラ姿で全身鏡の前に立っていたのを思い出し、摩耶は一瞬で顔が熱くなる。
(……って、違ぇよ!! そうじゃねぇ!!)
慌てて思考を切り替え、冷静を装う。
「んー……高雄姉と愛宕姉とデートして帰ったら、提督がベッドで寝てたんだよ」
「えっ! 愛宕も来たの???」
提督が反応すると、摩耶の眉がピクッと動いた。
(おい、なんでそこに食いつくんだよ!!)
「な、なんでだよ!?」
「いや、愛宕って……その……」
「あーもう! 寝起きで何言ってんだお前!!」
摩耶は深くため息をつき、強引に話を終わらせる。
「幸せそうな寝顔してたから、そのまま寝かせておいたんだよ!」
――可愛い嘘をつく。
提督は、軽く首をかしげながら「そっか……」と微笑んだ。
◇◆ 摩耶の妄想、暴走 ◆◇
「なんか、すごく幸せな夢を見てたような気がする……」
提督がぽつりと呟く。摩耶の心臓が跳ねる。
(……素敵な夢って、まさか……アタシのこと……?)
「夢の内容、覚えてんのか?」
「んー、なんとなく……摩耶の素敵な夢だったかも?」
提督は頬をポリポリと掻きながら、どこか恥ずかしそうに言った。
「起きたら私の提督も元気になってたし…… テヘペロ(・ω<)」
摩耶は、提督の “テヘペロ(・ω<)” というワードを脳内でリピートする。
(……“テヘペロ(・ω<)”!? 何だよ、その女子力高めの言葉は!?)
そして 「私の提督も元気になってたし」 という言葉の意味を脳が理解した瞬間、摩耶の顔は一気に真っ赤に染まる。
(えっ、えっ、ま、待て……元気って何が元気なんだ!?)
摩耶の目が、無意識に提督の腰元をチラッと見てしまう。
――うん。元気だった。
(元気って事は……今日の夜は……)
一気に妄想が爆発する。
(いつもより熱く抱かれちゃう……の?)
(……アタシ、明日朝一で演習なのに……今夜は寝せて貰えない……の!?)
摩耶の脳はショートしかける。
(ちょっ、アタシ何考えてんだよ!?)
思わず自分の頬をぺちんと叩く。
しかし、胸の奥にこみ上げる甘い期待を、どうしても押さえられなかった。
提督はそんな摩耶の動揺を見つめながら、微笑む。まるで、全てを覚えているかのように。
しかし、何も言わない。
(……ああもう!! やっぱり、アタシも提督のこと、好きすぎじゃね!?)
自分で言った瞬間、その言葉の破壊力にやられる。
(……な、何言ってんだよアタシ!! 誰も聞いてないけど恥ずかしすぎる!!)
摩耶は両手で顔を覆い、その場でジタバタするのだった。
「お前の好きなハンバーグ、もう出来たからさっさと座ってろ!!」
少しぶっきらぼうに言うが、表情は完全に幸せそうな新妻だった。
◇◆ 夕食タイム ◆◇
摩耶は冷蔵庫から赤ワインを取り出し、二人分のグラスに注ぐ。
提督は嬉しそうに微笑んでグラスを受け取る。
「摩耶と飲むお酒、美味しいね……」
(……ったく、お前は本当に……)
摩耶はグラスを傾け、赤ワインの風味を楽しむ。
「摩耶のハンバーグ、人生で一番好きかも」
(――はい、出た。)
摩耶の心臓が跳ねる。
(――何その天然の破壊力高すぎるセリフ!!)
(――何気なく言ってるのがまたヤバい!!)
摩耶はもう何度も経験しているが、未だにこの提督の天然な破壊力には慣れない。
二人は穏やかなディナータイムを過ごした。
摩耶はふと、自分の頬が自然と緩んでいることに気づく。
(……ほんと、アタシも提督のこと好きすぎじゃね?)