◇◆ 湯けむりの中、揺れる気持ち ◆◇
シャワーの音が、浴室にやわらかく響く。
熱めの湯が肌を滑り、昨夜の名残をゆっくりと洗い流していく。
摩耶は、湯気に包まれる。
目を閉じると、心地よい温もりが全身を包み込む。
(……はぁ。)
思わず、小さな溜め息。
頭も体も、まだどこかふわふわしてる。
(いや、昨夜のことを思い出すと ふわふわどころか、とろとろになりそう なんだけど……)
体の芯に灯ったままの甘いとろ火。
(……って、バカ! なに考えてんだよアタシ!)
ブンブン! と頭を振る。
気を取り直し、シャンプーを手に取る。
泡をたっぷり立てながら、指先に力を込めて頭皮を揉む。
(……さっぱりするなぁ……)
少しずつ、頭の中がクリアになっていく。
◇◆ ぶっきらぼうな自分 ◆◇
(……そういや、シャワー行くとき……)
「先にシャワー? それとも朝ごはん?」
「シャワー……」←ぶっきらぼう、でも甘くすねた感じ
(……そん時は、それでいいと思ったんだけど……)
「髪乾かしてあげるから、上がったら呼んでね!」
「今日はいい……」←またぶっきらぼう。でも超嬉しい
(………………)
(………………いや、なんで!?!?!?)
思わず自分の頭をガシガシと掻きむしる。
(なんで「今日はいい」なんて言っちゃったんだよ!!)
(アタシ、アイツに髪乾かしてもらうの……めちゃくちゃ好きなのに!!!)
ドライヤーの温かい風。
優しく髪を梳く指先の感触。
ゆっくりと乾かしながら交わす、たわいのない会話。
(……あれ、なんか、心があったかくなるんだよなぁ……)
シャンプーを流しながら、また溜め息をつく。
(素直に「乾かして」って言えばよかった……)
言えなかった自分を思い出すと、また頭をガシガシしたくなる。
◇◆ 昨夜の記憶、甘い囁き ◆◇
泡を流し終え、トリートメントを髪に馴染ませる。
(……アイツ……)
指先で髪をゆっくりとすくいながら、昨夜の記憶がフラッシュバックする。
あの、やわらかな声。
低く、優しく、でも迷いのない、あの言葉。
(「行くよ……摩耶」)
(……っ!!!)
一瞬で、体が熱を持つ。
(や、やばい! なんで今それ思い出すんだよ!!!)
耳まで赤くなっているのを自覚しながら、慌ててトリートメントを流し始める。
でも――
あの時、自分も応えた。
震えるくらいの甘い期待を、言葉にして。
(「うん……来て……」)
(……バカアタシ!! ほんとバカ!!!//////)
蛇口を全開にして、熱いシャワーを浴びる。
頭からざばーっと湯をかぶり、火照った顔を誤魔化すように。
(……でも……)
あの瞬間――
(アタシ、めっちゃ幸せだった……)
ぎゅっと目を閉じる。
(……アイツ、ほんと……アタシのこと、好きすぎる……)
(アタシも……あいつのこと……)
言葉にはしない。
でも、胸の奥がじんわりと甘くなっていく。
◇◆ 摩耶の匂いって……? ◆◇
ふと、今朝の出来事が浮かんでくる。
(そういや、アイツ……言ってたな……)
(「摩耶、いつもよりもっと良い匂いがする……」)
(……は!?)
アイツ、何言ってんだよ!!!???
(アタシの匂いって何!?)
シャンプーの香り?
トリートメントの香り?
ボディーシャンプーの香り?
柔軟剤の香り…………?
(それとも……体臭!?!?)
(うわああああああ!!!!)
頭を抱える。
(ま、待て待て!! でも、今朝は髪も体も洗ってなかったよな!?)
(それなのに、『今朝は摩耶の匂いが超濃厚になっててウルトラハッピー!』 みたいな顔してたぞ、あいつ!!??)
(……もしかして……)
(アイツ、アタシの体臭が好きってことか……!?!?!?)
ぶわっ!!! と顔が真っ赤になる。
(いやいやいや、落ち着けアタシ!!)
蛇口をひねり、勢いよくシャワーを浴びる。
火照った体ごと、熱い湯を浴びて流す。
(……でも……)
あの時の提督の顔を思い出す。
なんというか、すっごく幸せそうな顔だった。
(「昨日の摩耶のまま、って感じ?」)
(……っ!!!)
頭の中で何かが爆発する。
(アイツ……ほんと、何考えてんだよ!!!!//////)
(でも……アタシも……提督の匂い……安心する……)
(濃いのも……好き……かも……あと、アレの匂いも……) ←全身、真っ赤。
(……って、なに考えてんだよ、アタシ!!!)
(それに「アレ」ってなんだよ「アレ」って!!!)
(……やっぱり、この後アイツを殺してアタシも死ぬ!!!)
バシャアッ!!!
シャワーで全力で顔を洗う摩耶。
でも、熱くなった心と体は、なかなか冷めそうにない。